化学プラントのオーナーエンジニア(plant engineer) は自社の現場に詳しくあるべきです。
オーナーエンジニアの存在価値は、ここにあります。
現場に最適化されたエンジニアを常時確保しておきたいと会社が考えるから、オーナーエンジニアが存在します。
汎用的なエンジニアだけで工場運営ができそうなら、エンジニアを外に出せばそれで終わりです。
そんなオーナーエンジニアの4部門である機械・電気・計装。土建についてザックリ解説します。
4部門の特徴
機械・電気・計装・土建の4部門の役割について解説します。
機械
化学プラントの機電系エンジニアというと機械が花形です。そのはずです。
機械とは化学プラントでは、タンク・ポンプ・熱交換器などの機械設備やその接続配管を指します。
プロセスや運転管理に直結する要素ばかりなので、4部門の中では生産現場のことを一番理解できるポジションにあります。
エンジニアリングという意味でも投資予算の主要部門を閉めるのが機械設備です。
現場でのトラブルも機械設備が最も多く、保全というと一般に機械設備を対象にするでしょう。
圧倒的な数が課題になる化学プラントの中でも、相当の数が機械関係です。
エンジニアの人数も機械関係が最も多いです。
人間に例えた時に機械は血管や臓器に位置づけられるでしょう。
電気
電気は言葉どおり電気関係を対象にしたエンジニアです。
電気というと基本的には電気エンジニアの仕事です。
人間に例えた時に電気は心臓に位置付けられるでしょう。
計装
計装は制御関係を扱うエンジニアです。
電気と境目が分かりにくい部署ですね。
実際には機械と電気を混ぜたような位置づけですが計装と電気の親和性が高くて、そうは感じない人もいるでしょう。
という系統を担当します。
DCSが計装のメイン仕事と言っても良いと思います。
人間に例えた時に計装は脳に位置付けられるでしょう。
土建
土建とは言葉どおり土木建築、つまり建物に関するエンジニアです。
建築業界では土建が圧倒的なポジションを占めていて設備や電機というと日陰の存在ですよね。
化学プラントでは土建がそういう場所にあります。
とはいえプロジェクトの優先度も工期も土建が締める部分が多く、ボトルネックとして扱われがちなポジションです。
人間に例えた時に土建は筋肉・骨などに位置付けられるでしょう。
現場の習熟度
まずは定性的な表現として、化学プラント現場の習熟度と理想を比較してみましょう。
機械 | 計装 | 電気 | 土建 | |
習熟度 | C | C | D | E |
理想 | A | A | C | D |
機械・計装・電気・土建という4つの組織に分割しています。
これを文章で表現すると以下のようになります。
- 機械・電気・計装・土建いずれも現場の習熟度が低い
- 機械と計装は現場に詳しくあるべき
- 電気や土建は現場に詳しくなくてもOK
現場の習熟度が低い理由
機電系エンジニアが現場に詳しくない理由を解説します。
最近の若者は~というつもりはありません。
昔のベテラン層の機電系エンジニアも現場には詳しくありません。
仮にそれっぽい発言をしている場合は、詳しいフリをしているだけです。
もっと構造的な問題があります。
- 化学工学を理解していない
- 運転操業や運転管理を経験していない
- 運転に関する情報が機電系エンジニアに入ってこない
勉強しない機電系エンジニア自体の問題もあり、組織として経験を積む場もなく、情報の分断も行われている。
この状況で、機電系エンジニアが現場に詳しいレベルに行くためには、個々人の膨大な努力を要求されます。
逆に言うと、環境のせいにして習熟度が低いのは仕方がないと割り切るのも会社の判断としてはありえるでしょう。
機械と計装が現場に詳しくあるべき理由
機械と計装が現場に詳しくあるべき理由はプロセスに最適な設備を導入するという一言に尽きます。
プロセスに最適なという表現にはいろいろな意味が含まれます。
- 化学工学的に適した設備
- エンジニアリング的に適した設備
- メンテナンス的に適した設備
大きくこの3つの目線で考えないといけません。
設計初心者は1の化学工学の面だけを考えがちです。
プロセス条件としての流量・圧力・温度や流体の腐食性・スラリー濃度などに着目するのはごく当たり前のこと。
これ以外にもエンジニアリング的には初期コスト・納期・メーカーの対応などを考えないといけません。
行き当たりばったりエンジニアリングをしていると、なし崩し的になって意識できないかも。
保全者なら痛いほど感じているメンテナンスの目線。
これは設計者ではベテランクラスでないと考えが至らない思想でしょう。
仕様の統一化・簡略化・部品の調達性などの発想です。
電気と土建が現場に詳しくなくて良い理由
電気と土建は現場に詳しくなくても良いと記載しました。
これは機械と計装の逆として考えればいいでしょう。
電気と土建はプロセスに無関係
だからこそ、電気と土建は工場現場に特有の条件があまり多くはなく、電気設備・土建設備という自部門の範囲で完結しやすいです。
もちろん現場が使うので現場とのコミュニケーションは必要ですが、役割が明確化されています。
電気と土建のエンジニアはどこに行っても似たような仕事ができて、ローテーションがしやすい環境。
逆に機械と計装は別の事業所に異動したら、最初の数か月は相当大変です。
機械と制御の比較
現場に詳しいのは、機械系なのか計装系なのかという比較をします。
ここは完全に機械系エンジニア向けの内容です。
機械系は現場に顔を出す頻度が徐々に下がっていく一方で、計装系は常にトラブルに対応しているから頻度は変わりません。
この辺のことをまとめて、「機械は現場を知らない、計装の方が詳しい」なんて皮肉を上司から言われたことも度々あります。
機械と制御のそれぞれのエンジニアで現場に関連しそうなことを比較してみました。
現場で知っておくべきことのうち、一部を抽出しているにすぎません。
逆に言うとここに書いたこと以外の現場で知っておくべきことは、
機械も制御もどちらも等しく知らない、という意味ですね。
項目 | 機械 | 制御 |
プロセス | △△△ | × |
工程 | △ | × |
現場 | △ | × |
計器室 | × | ○ |
ハンドリング | △ | × |
シーケンス | × | △ |
材質 | ○ | △ |
個々に解説します。
プロセス
プロセスについては機械の方がやや有利です。
「やや」であって、ほとんど差はありません。
大学で機械を学び、化学プラントでも機械を専門にしている人でも、
入社してから化学工学を学び、化学工学を駆使した設計をちゃんと行っていれば、それなりに評価されます。
ほとんどの機械屋は化学工学の学習自体はしますが、実践する段階で止まってしまいます。
だからこそ、プロセスを知るということに敬遠しようとしがちな機械エンジニアは制御エンジニアと大差がないと考えています。
連続プラントのように反応系が割とシンプルで設備構成が複雑という場合は、プロセスを知ることもできるでしょう。
同じプロセスの現場に携わっていると、何となく身近に感じていって知る努力ができます。
設備構成がシンプルだけど。プロセスが多種多様なバッチ系化学プラントではプロセスを敬遠する機電系エンジニアだらけですね^^
まぁ、仕方ないのといえば、それまでですけど・・・。
工程
工程については機械屋の方が若干優れているという程度です。
これはP&IDを作成・チェックする立場だからという意味が強いです。
設備設計でも工程全体を俯瞰した設計が必要であることも、理由の1つ。
バッチプラントの場合は、制御は単体で組むことが多くて、設備全体を俯瞰した制御設計をすることはありません。
流量計は流量計・温度計は温度計・液面計は液面計、と単体で考えれてしまいます。
P&IDを作成する機械屋は、運転方法を知ったうえで設備や配管構成を考えるために、工程にやや明るくなります。
それでも、プロセスエンジニアや製造部に比べれば、足元にも及びませんけどね^^
現場
機械エンジニアは計装エンジニアに比べれば現場に明るいです。
これは対象範囲が広いから当然です。
現場の設備の90%以上は機械エンジニアに関連するもの。
機械エンジニアの方が計装エンジニアより詳しいのは当然です。
機械屋の担当範囲はフィールド100%計器室0%ですが、計装はフィールド50%計器室50%というように
フィールド外の担当を持っているがゆえに、現場を知る機会が少ないのは当然です。
その結果、フィールドでは機械屋から電気・制御屋へのクレームが頻発しています。
こんな例は一昔前なら計装エンジニアの中で自主的に修正されていますが、現在はフィールドに詳しいエンジニアが絶滅して工事会社任せになってしまっています。
計器室
計器室内は計装エンジニアが圧倒的に詳しいです。
機械エンジニアはそもそも参加すらしていないレベル。
製造部の人間よりも計装エンジニアの方が詳しいくらいです。
DCSとか盤とか製造部の人間は基本的に中身を知る機会はありませんからね。
ハンドリング
ハンドリングは機械エンジニアの方が計装エンジニアよりも詳しいです。
というより計装エンジニアがハンドリングに関わることがないからですね。
とはいえ、ハンドリングは実際に作業をする製造部の方が詳しいです。
ここまでまとめると、機械エンジニアが計装エンジニアより詳しい部分は、製造部の人間の方が詳しい部分ばかりです。
これが、化学プラントの機械エンジニアとしてプライドや自尊心を保てない最大の理由だと思っています。
どの分野でも専門的でないと感じるからですよね。
現場・フィールドは目で見て分かるので、誰でも参加しやすい領域です。
実際に体を動かす現場の人間が詳しいのは仕方がありません。
だからこそ、機械エンジニアはそこで専門性を見出すために大変な努力をしないといけません。
プロセスや工程はその1つの答えです。
シーケンス
シーケンスは計装エンジニアの方が機械エンジニアより詳しいです。
これはシーケンスのプログラム自体を作成するのが計装だからでしょう。
とはいえ、製造部の人間に比べれば計装エンジニアも劣るのは当然です。
実際に使う人間の方が詳しくなりますからね。
でも、機械エンジニアが過剰におびえる必要はありません。
設備の構成や動かすうえでの注意点という、設備そのものを知っていれば
動かし方はある程度想像できます。
シーケンスが手動操作を自動操作に変換しているだけ、ということに気が付けば
少し勉強するだけである程度は使えますよ。
問題は、機械エンジニアにはシーケンスは不要と考える計装エンジニアが、その設計情報を積極的には提示しないことですね。
シーケンスは、P&IDのようにプロジェクトで関連するエンジニア全員が共通して知っておくべき情報とは違います。
機械エンジニアがシーケンスから遠ざかる理由はこの辺りにあります。
材質
材質は当然ながら機械エンジニアの方が詳しいです。
ここは製造部よりも詳しくて当然。
計装エンジニアも計器の選定上は必要になるので、ある程度は知っています。
SUS系とPTFE・グラスライニング系というように選択肢が狭いので、
化学プラントで使用する材質のうちの一部を知っているという程度ですけどね。
部門を分けることの弊害
エンジニアリングを4つの部門に分けることは世間の常識であって、疑わない人もいるでしょう。
ところがここに弊害があります。
縦割り組織のエンジニアのデメリットをまとめました。
設備の全容が分からない
縦割り組織のエンジニアだと、担当する設備の全容がなかなか分かりません。
あえて言うと機械エンジニアが最も有利なポジションにありますが、それでも限界はあります。
機械エンジニアから見ると、土建の強度計算は分からない・電気回路やDCSのシーケンスなんて分からない、なんて思いがち。
機械設備を知っているだけで、エンジニアとして必要な知識全体のうち60%以上は把握できるはずなのに、
4分の1である25%くらいしか理解していないのでは?と自己否定をしがちです。
実際には電気・計装・土建は実態はもっとひどいでしょう。
これは自己肯定感を低くすることに繋がります。
対策はローテーションですが、タイミングがとても大事です。
成長が止まる
縦割り組織のエンジニアだと、どこかで成長が止まります。
機械・電気・計装・土建どの分野でも10年もすればほぼ一人前になります。
最近は学ぶべきことが増えていって、プロジェクトの量・質の問題などの背景から、1つの分野をマスターするために必要な時間が延びていっている方向ですが。
人間が社会で通用するために学習にかける時間と社会でその力を発揮する時間のバランスがどんどん崩れていきますよね。
その分を定年の延長でカバーしようという発想になりがちですが。
人を減らせない
縦割り組織のエンジニアだと、エンジニアの人数を削減することができません。
組織が増えることで余剰人員が必ず発生します。
限られた人をどこに投入するかというときに、本当は余っているけど分割した組織のどこかに配属されていて見えていない戦力に気が付かなくなります。
参考
最後に
機械・電気・計装・土建の4部門と化学プラントの現場習熟度について解説しました。
どの部門の現場の習熟度は理想に対して低い位置にあります。
機械と計装はプロセスに関連するので現場に詳しくあるべきで、電気と土建は現場に詳しくなくても何とかなります。
機械と計装それぞれで現場のどこに詳しいかという細かい分類もしてみました。
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