流量計(Flowmeter)について化学プラントで使う範囲で解説します。
流量計というと、どういうイメージがあるでしょうか?
- 種類が多い
- 特徴が多すぎる
- どの計器を何に使えばいいか分からない
そんなイメージが多いのではないでしょうか?私もそうでした。
計装屋の守備範囲にあって、機械屋は詳しくない分野でしょう。
とはいえ機械屋としてもプロセスに関する理解として必要になってきます。
ここだけは理解すべき!というポイントに絞って解説します。

電磁・渦・コリオリの使い分けが分かります
差圧式流量計
差圧式流量計は古式ゆかしい流量計です。
差圧式流量計はオリフィスを通る流体のオリフィス前後に発生する差圧を測定するものです。

圧力損失は速度の2乗に効いてくるという基本原理を使っています。
- 原理がかんたん
- 安い
- 圧力損失が高い
- 導圧管が必要
- 直管長が必要
- ガスケットが特殊
- 現地取付の精度が必要
パッと見ただけでも、デメリットの方が大きいですね。
圧力損失が高い
差圧式流量計は圧力損失が高いという大きなデメリットがあります。
これはポンプ動力を高くするという意味でよくありません。
意図的に差圧を大きくするために、オリフィスという絞りを作るからですね。
導圧管が必要
導圧管はオリフィス前後の圧力を計器の検出部に導出すための配管です。
この導圧管は小さな配管です。
だからこそ、詰まったら終わり・蒸気のドレンなどが誤差になるという課題があります。

直管長が必要
導圧管はオリフィス前後から取り付けますが、この前後導圧管には一定の長さが必要です。
直管長と言います。
流量計のさまざまな種類に対して直管長が求められますが、直管長が長いほど機械屋としては困ります。
安定して流量を測定するためには、導圧管の取付部では流体の流れは安定しているべきです。
オリフィスで意図的に流体の流れを乱しているため、必要な直管長が長くなります。
ガスケットが特殊
ガスケット内径が配管内径より小さいと、流体の流れの障害になります。
ガスケットの寸法に制約があり、かつ、ガスケットの取付時に精度を要求されます。
工事手配や現地工事でも制約があるのは、設計・工事のいずれの立場からも敬遠されます。
現地取付の精度が必要
オリフィスの取付水平度や導圧管の勾配など、流量計取付には精度が求められます。
1つ1つの配管はそれなりに精度を出していても、複数の配管が組み合わさるとズレが出てきます。
これが致命的になる差圧式流量計は、よりシビアな精度が必要で嫌がられます。
面積式流量計
面積式流量計は原理がかんたんですが、現在でも比較的使用頻度が高いです。
テーパ内を自由落下するフロートを流体が押し上げることで、フロートがどこかの位置で止まります。
フロートの自重=フロートが流体から受ける抗力
という物理的な原理を利用したものです。

圧力損失は速度の2乗に効いてくるという基本原理を使っています。
- 原理がかんたん
- 直管長が不要
- 垂直取付に限定
- 詰まる
垂直取付に限定
面積式流量計はフロートの自由落下を利用するので、垂直取付に限定されます。
これが配管設計上の制約となります。
配管設計において水平方向の制約は厳しいですが、垂直方向の制約も問題です。
装置の設置高さ・プラントの高さに至るまで影響が発生します。
その一条件になりえるという意味で面積式流量計は大きなマイナス要因。
詰まる
フロートの通り道にゴミがあると、閉塞する恐れがあります。
ゴミがフロートの抵抗や、圧力損失の抵抗になりえますので、誤差を生む要因となります。
差圧式流量計に限らず、ゴミや異物の影響を受ける流量計は非常に多いです。
スラリー系が多いバッチ系化学プラントでは、ゴミの影響が出るということ自体がマイナス要因
渦式流量計
渦式流量計とはカルマン渦を利用した流量計です。
カルマン渦とは流体中に置かれた固形部の裏側にできる周期的な渦です。
固形部を渦発生体と言います。

渦ができることで、渦発生体周りの圧力変動が起き、圧力によるひずみを圧電素子などを使って電気信号として取り出します。
ストローハル数という無次元数が関連しています。
- 気体も測定可能
- 直管長が長い
- 詰まる
気体の測定が可能
流量計で気体を測定できるというのは意外と珍しいです。
化学プラントのスチーム用に渦式流量計が標準的に使われるのは、こういう背景があるからですね。
直管長が長い
流体の流れを意図的に壊して渦を発生する渦式流量計。
このためには渦発生体より前に十分な直管長が必要です。乱れがない流れを作るため。
さらに渦発生体の後ろも一定の直管長が必要。渦を適切に生成するため。
直管長の長さはデメリットですね。
容積式流量計
容積式流量計は、化学プラントのようなプロセス用の計器としては唯一といいっていい、直接式です。
オーバル・ルーツなど歯車の形はいくつかありますが、原理は同じ。

歯車とケーシングに囲まれた空間である「ます」を流体が通り、
歯車が回った回数×「ます」の容積
を流量として計測します。
発想は極めてシンプル。
- 精度が高い
- 詰まる
精度が高い
容積式流量計は直接式と呼ばれるもので最も信頼性があります。
蛇口から出る水の流量を測定するのに、バケツとストップウォッチを使えば最も信頼性がありますよね。
これは実物を目で見て測ることができるから。
マスを動かした分だけ流量として検出できる容積式流量計は信頼感が抜群です。
化学プラントで使うその他の計器は間接式に該当し、何らかの変換係数を挟みます。
この瞬間に信頼性が1段階落ちます。
信頼性のある容積式流量計は以下の目的で使います。
- 積算流量を測る
- 反応物の滴下流量を測る
- 他の間接式流量計の校正に使う
詰まる
容積式の最大のデメリットが、詰まりです。
少しイメージすると分かることですが、厄介な問題です。
容積式では2枚の歯車が噛み合っていて、その噛み合い部が流体の流れで回転する機構です。
歯車が噛み合う → 歯車にゴミが入る → 歯車が回らない
この問題が非常に多いです。
プロセス中で完全に綺麗な液体はなかなか存在しません。
容積式流量計の手間には必ずストレーナーを付けますが、
完全にゴミを防ぐという手段ではなく、所詮は延命措置。
ストレーナーの点検を怠ると、詰まってしまいます。
この理由で、プロセス中で容積式流量計はあまり使われません。
コリオリ式流量計
コリオリ式流量計は言葉どおりコリオリ力を利用した流量計です。
- 耐食性が高い
- 直管長が不要
- 密度が測れる
- 振動に弱い
コリオリ力を原理としている
コリオリ力とは慣性力の1つです。
電車が発進や加速をすると、中の人は手すりにつかまらないと体が動きますよね。
あれが慣性力。
加速度の方向と対象物体の速度の方向が同一方向の力を慣性力と呼んでいます。
これは、高校物理の話。
大学物理で出てくる話がコリオリ力。
加速度の方向と対象物体の速度の方向が90°ずれていると、その物体が別の方向に力を受けているように見え、これをコリオリ力と言います。
トイレで水を流すときに渦ができますが、ここれで働いているように見える力がコリオリ力。
地球の回転方向と、液体が下に動こうとする方向が90°ずれているので、コリオリ力が働きます。
これは地球の回転方向と関係するので、北半球なら時計回りの渦ができます。
・・・
・・・
という知識は全く使いませんからね(笑)
振動の方向が縦横という直線方向で考えるのではなく回転方向で考えることと、異なる2軸の加速度運動が起こると別の3軸目に慣性力としてコリオリ力が加わるように見えることがポイント。
という感じですけど・・・。
まぁ省略しましょう(笑)

コリオリ型流量計の原理をまとめると、このような表現になります。
- 流体がU字のパイプ内を通る
- U字のパイプが振動している
- コリオリ力が発生
- ひずみが発生
- ひずみを電気信号として検出
もっと簡単に言うと、特殊なパイプ形状に流体を流すと、パイプが変形し、その信号を検出という表現になります。
プロセス測定用
コリオリ流量計は数少ないプロセス測定用の流量計です。
- 直管長が不要!
- 腐食性のある液体にも、パイプの金属材料を考えることで対応可能!
- スラリー系の流体にも、パイプのサイズを設計することで対応可能!
- 電磁式のような、水だけに使用可能というような制約条件はなし!
他の流量計ではデメリットとして上がっていた要素のほとんどが、コリオリ式流量計には存在しません。
これは大きなメリット!
プロセス流量計として好まれる場面は多いと思います。
何かあったらコリオリ式!と考える人も多いです。
振動に弱い
コリオリ式流量計の最大のデメリットは、振動に弱いということです。
コリオリ式ではU字型のパイプを振動させているので、周りの振動があれば影響が当然出ます。
ところで、日本の工場で振動を気にしないで済む工場は存在するでしょうか?
私はほぼ存在しないと思います。
バッチ系化学プラントの場合は、プラントのほぼ大半に大量の危険物を保有するタンクが並んでいます。
この危険物が時々刻々移送されたり、撹拌されたりします。
そこで当然ながら、攪拌機やポンプを使います。
これはプラントを振動させる要因になります。
微量ながら絶対に揺れます。
そこにコリオリ式流量計を含む配管系を設置しても、振動は必ず伝わります。
これが非常に厄介な問題になります。
万能なコリオリ式のように見えますが、その信頼感を台無しにするような振動問題。
思ったよりも精度が出ていない・・・?という感覚を抱いてしまいます。
電磁式流量計
電磁式流量計の原理は、起電力を利用した流量計です。
起電力とは、磁界がある場所に電流が流れた時に発生する力です。

この関係を、流量計に応用しています。
- 電気を通す流体を、磁界のある場所に流す
- 流量計のケーシングに力が発生
- ケーシングがひずむ
- ひずみを電荷などの形で検出
- 耐食性が高い
- 詰まらない
- 油はダメ
- ガスもダメ
- 直管長が必要
詰まらない
電磁式流量計の最大のメリットは、詰まりが無いということ。
配管と同じで内部に遮蔽部がありません。
流量計は詰まりとの戦いなので、詰まりがないというのはそれだけでもメリットです。
油はダメ
電磁式流量計は電気を通す流体でないと測定できません。
電気を通さない油系は測れません。
プロセス系にはほぼ使えないですね。
退職材料が使えるので、腐食性が高い酸・アルカリ系の水に使うのが良いでしょう。
ガスもダメ
液体しか測定できないので、ガスには使えません。
ガスに使える流量計の方が少ないですけど・・・
直管長が必要
電磁流量計はファラデーの法則とかフレミングの右手の法則とかその辺の法則を使用します。
これは流量計と流体の流れが垂直になるように、流量計が綺麗に取付されていることが要求されます。
さらに、流体の流れを均一にするために直管長が必要です。
使い分け
数多くある流量計ですが、数が多いだけに何をどこに使えば良いか悩むもの。
バッチ系化学プラントで大事となる要素を、まとめました。
種類 | 用途 | 直管長 | 圧力損失 | 価格 |
電磁式 | 水 | 要(短) | 0 | 高 |
渦式 | スチーム | 要(中) | 小 | 中 |
コリオリ式 | 油 | 不要 | 中 | 高 |
面積式 | 油・ガス | 不要 | 小 | 安 |
容積式 | 校正 | 不要 | 大 | 高 |
これが記憶できて使えるレベルになると、機械屋としては流量計については合格です!
参考
流量計の知識はプロセス設計でも大事になります。
配管設計にも関係するので、機械系の設計者も知っておくべきでしょう。
以下の本があれば十分です。(逆に私はこの本で、流量計のところしか見ていないくらい・・・)
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さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
バッチ系化学プラントの機械屋でも知っておきたい流量計の内容をまとめました。
差圧式・電磁式・渦式・コリオリ式・面積式・容積式それぞれについて、特徴と使い分けを紹介しています。
電磁・渦・コリオリを知っていればかなりの範囲で使えます。
このレベルが使えるようになると、機械屋としては十分合格範囲ですよ!
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