化学プラントの装置の設計条件内での使用限界(Usage limit)をまとめてみました。
装置を新設するときは、特定の運転条件に合わせた設計をして使用するでしょう。
ところが長年同じ設備を使っているうちに、使用条件を変更したり新製品が入ったりします。
既存の設備を転用するときに、意外と使用限界を考えずに使うケースが見られます。
どの設備にもどの運転にも、最大と最小の間の運転管理範囲があるという当たり前の話ですが、なぜか見過ごされがちです。
バッチ系化学プラントの範囲で設備の使用限界を一通り紹介します。
材料の限界や設計圧力・設計温度という分かりやすい限界ではない、見えにくい限界に注目しています。
反応器
反応器は槽型反応器を想定します。
この場合の、使用限界として以下を考えましょう。
機電系エンジニアにとっては、反応器は上限側が特にイメージがしやすいです。
撹拌機という分かりやすい機械の限界が、撹拌動力やモーターという分かりやすい形で見えるからです。
ボルテックス効果は現物を見ていないと気が付かないかもしれません。
撹拌機を回したとき、槽内では外周側ほど液が盛り上がる現象が起きます。
これは撹拌による遠心力の影響があるからです。
この分だけ液面指示値が増えることが多いでしょう。
頂部のマンホールやノズルに液が付着したり、外部に漏れたりするリスクがありえます。
撹拌をしても液が溢れてこない液面が、運転限界と考えましょう。
反応器の下限側は見落としやすい罠だらけです。
液量が低すぎて、撹拌機に液面が漬かるか漬からないかの微妙な場合が特に注意です。
ここで、撹拌速度が速いと撹拌機が共振して故障することもあります。
インバータ(VVVF)で撹拌速度を落とす減液運転をすることになるでしょう。
液量が低いと、ジャケットと接触する部分の面積(伝熱面積)が低くなります。
伝熱面積が低いと伝熱量が下がるので、反応などに時間がかかります。
液量が低い場合は、温度計がそもそも液面に当たらずに計測できないというアナログな問題も起こります。
タンク底弁に温度計を付けてミスを防ぎたいですね。
標準化をしようとしても、古いタンクでは意外とついていなかったりします。
ポンプ
ポンプは化学プラントでは非常によく使い、特にバッチ生産では問題になりやすいです。
使用限界として以下を考えましょう。
上限側は割とわかりやすいでしょう。
反応器と同じでモーターを使う機械は、上限が決めやすいです。
キャビテーションは流量が多くて圧力損失が発生するという条件として考えています。
高温で使わないという条件は、ポンプの入熱と合わせて過剰な温度になるというケースです。
プロセスの熱安定性なども考えて決めることになるでしょう。
100℃が一つの判断基準です。
空運転はキャンドポンプやマグネットポンプに典型的な問題です。
軸受け周りの冷却源としてのプロセス液がない空運転は故障の原因となります。
流量が少ないという意味で空運転のほかに締切運転も厳禁です。
こちらはポンプ入熱でプロセス液の温度が上がるという方向で効いてきます。
ブロアー
ブロアーはポンプとほぼ同じ扱いで考えられますが、多少異なります。
その違いを見ていきましょう。
オーバーロードはモーターである限り常に付いてくる問題ですね。
ブロアーは振動騒音が大きい機械なので、これが上限として効いてくる場合があります。
流量を上げると起こりやすいです。
ブロアーの場合は下限側はサージングとして問題になります。
流量が低くなると異常な振動や騒音が出る問題と思っていると良いでしょう。
この意味では締切運転をしないという意味にも取れます。
ポンプでもブロアーでも運転する場合は、流体の流れ道を必ず確保してあげる必要があります。
熱交換器
熱交換器で上限下限を意識することは少ないと思います。
念のため確認しましょう。
熱交換器の伝熱面積よりも過剰な運転条件となることが上限側です。
とはいえ熱交換器前後でプロセス情報を得ているケースが少なく、いわゆる成り行きで済ませてしまっている場合が多いです。
なんとなく足りないな・・・くらいの感度として上限を感じることでしょう。
液封は熱交換器も典型的に現れる現象です。
特に自動化をすればするほど発生しやすいです。
液が流れずに気が付いたら温度が上がっていたという意味で、下限側の条件として考えます。
対策の1つが小流量で常時どこかに流し続けるということになるので、流量の下限ですね。
液封を起こすと、熱交換器の耐圧を軽く超えて破壊されるでしょう。
凝固は冷却熱交で起こりえます。
冷却能力が強すぎる場合、プロセス熱量が少なすぎる場合のどちらでも考えられます。
低い温度という意味での使用限界です。
凝固は水なら液封と同じ設備の破壊、プロセス液なら閉塞という形で現れます。
遠心分離機
遠心分離機は特殊な設備なので、上限も下限も意識しやすいです。
モーターを使うのでオーバーロードは問題となります。
特に取り扱い液量が多かったり、回転数が高い時に発生します。
オーバーフローはフィード流量がろ過流量に比べて多すぎる場合に起こります。
計器での対策が基本です。
下限側としてメジャーなのが回転数。
インバータの設定回転数よりも低くすることはできません。
当たり前のように思うでしょうか。
ケーキ掻取工程では主軸の最低回転数以下での運転が求められます。
この場合のために、別に減速モーターを準備していないといけません。
ケーキが硬すぎる場合になどには減速モーターの下限ギリギリで運転しようとすることもあるでしょう。
フィード液量は少なすぎると、運転できません。
バスケットに液が張り付かないからです。
乾燥機
乾燥機は遠心分離機と同じく特殊な機会なので、意識しやすいでしょう。
オーバーロードはモーターに固有。
ケーキが溢れないという問題は反応器の液面と同じ。
振動騒音はブロアーと同じ。
温度が高いと、乾燥機でも特にシール部が問題となりかねません。
これはOリングなどの耐食性の問題です。
真空下で使う乾燥機で、常圧で沸騰させようとして温度が高くてシールが壊れたなんて例も・・・。
真空の乾燥機では真空に引きすぎることも限界があります。
高温と同じでシール性を損なうからです。
Oリングの強度の問題ですね。
参考
最後に
バッチ系化学設備の使用限界についてまとめました。
反応器・ポンプ・ブロアー・熱交換器・遠心分離機・乾燥機と分けていますが、機械的には共通的な弱点があることに気が付くでしょう。
設備は0~100%のどの範囲でも使えるわけでないという、改めて考えると当たり前のことですが意外と忘れがちです。
エンジニアとしてしっかり胸に刻んでおきたいですね。
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