化学プラントの機電系エンジニアは、社内では視野が狭い(viewpoint)という烙印を押されます。
これは相当努力しても変えることは難しいでしょう。
そんな視野の狭さについて思うところをまとめました。
解決や対策法は組織レベルで変えるしかないので、個人ではどうしようもありません。
そういう環境にあるのだということを知ったうえで、自分がどう振る舞えば良いかの参考となれば幸いです。
視野(viewpoint)が広い人と狭い人の違い
まずは視野の狭さという定義をある程度はっきりさせておきましょう。
社内で打ち合わせや議論をしている場合、こんな状況をよく見ます。
- 「良く分からないけど、多分こうだろう」と希望的観測に縋る
- 「即答できないので、後で確認しよう」とその場を逃げる
- 「皆で話し合えば、何かいい案が出るだろう」と思考放棄
仕事において、上記のようなやり取りが横行しているので、物事がなかなか進みませんよね。
こんな状況になったときに、視野の狭さが浮き彫りになります。
視野の狭い人は、ここで何の疑いも持たずに、流れに任せます。
視野の広い人は、問題に直面した段階で何かしらの解決の方向をつけます。
正解であるかどうかはあまり重要でありません。
アタリを付けるということを日常的に行って、結果を振り返ることでアタリの精度をあげていきます。
アタリをつけるためには、その課題の背景・基本的な考え方などを見抜かないといけません。
そのためには視野ができるだけ広い方がヒット率は高くなります。
問題の複雑さはあまり関係ありません。
むしろ複雑な事象であるほど、本質を知ろうとする努力が結果的に解決を早くしてくれます。
機電系エンジニアに関連した例を紹介しましょう。
具体例1
6m3/hのポンプがあって、その吐出配管口径が50Aでいいかどうか?という議論があったとします。
視野の狭い人は、「配管摩擦損失計算をしなければ分かりません。あとで確認します。」と答えます。
視野の広い人は、ポンプ能力に対する適正な配管口径を数種類記憶しているため、即座に「問題ありなし」を回答できます。
ここでの視野の広さは、摩擦損失計算だけでなく他の簡易手段を思いつくか・知っているか・知ろうとしているかという点にあります。
具体例2
書類を頭から順番に時間を掛けて読む人は、視野が狭いです。
書類をさっと眺めて時間を見るべき箇所を把握してからそこに集中する人は、視野が広いです。
これって読書そのもの。
その書類の全体像を把握して、どこに何の情報があるのか?自分はこの資料から何を知りたいのか?答えはどこにあるのか?という見方をしたいものです。
機電系エンジニアは比較的多い資料や図面を眺めないといけないので、視野の広さが出てきやすい場面です。
「比較的多い」というのは、機電系エンジニアが特別に資料を多く扱っているわけではないから。
自分たちは特に多い資料を扱っている!
と鼻息を荒くするそこのあなた、視野が狭いかも知れませんよ。
視野(viewpoint)が狭い背景
化学プラントの機電系エンジニアが視野が狭いと言われる背景を考察しました。
間接部門
機電系エンジニアは間接部門であるがゆえに、視野は狭くなります。
これはどこの会社・組織でも同じ問題を持っています。
間接部門はどこも似たいような傾向になるでしょう。
他の間接部門の実態を知らないと、機電系エンジニアだけが視野が狭いと落ち込みがちですがそうとも限りませんよ。
化学を知らない
化学プラントに勤める機電系エンジニアは普通は化学を知りません。
知っていても高校卒業程度の化学でしょう。
化学プラントで化学を知らないと議論に参加できません。
機電系エンジニアが誰かの言いなりになってしまいやすいのは、このコンプレックスが強いでしょう。
- 化学のことを知らない
- 化学屋から言われたことだけをこなす。
- 相談される機会が減っていく
- ますます化学のことをしらないまま
こういうループを繰り返すことになります。
化学のことは良く分かりません
学歴コンプレックス
機電系エンジニアは学歴コンプレックスを持ちやすいです。
というのも、化学プラントで化学系の仕事をしている人は、機電系の仕事をしている人よりも高学歴である確率が高いです。
高学歴の機電系学生が化学会社を志望しない、競争率の問題です。
化学のことを知らず学歴コンプレックスも持ちやすい機電系エンジニアは、化学系エンジニアから化学に関する依頼を受けて良く分からないまま対応していく。
「良く分からない」ということが続いていくと「自分ではどうしようもない・自分の頭が悪い」というように自分を責める方向に動きやすいです。
これが続くと、相談を避けようとしがちです。
こんなことも知らないの?
って言われることを恐れるからですね。
「聞くは一時の恥・聞かぬは一生の恥」を普通に行いやすいのが機電系エンジニアです。
どうせ自分は・・・
突発対応が多い
化学プラントでは仕事は山のようにあり、土砂降りの雨のように仕事が降ってきます。
仕事管理をしないとなると、目の前の仕事に追われることになります。
- 「今日中にこれをやって」
- 「今週末までにこれを完成させて」
こんな緊急の仕事ばかり行うことになります。これはなぜでしょうか?
- 設備トラブルが多く、運転継続のために労力を割いている。
- 個々の仕事を処理する能力が低く、処理が遅い。
- しなくてもいい会議などに時間を取られ、本来業務に手を出せない。
これって、一言でいうと計画を立てる能力がない結果という言い方ができます。
機電系エンジニアが目の前の仕事に追われるというのは、仕事の計画を立てる能力がないという言い方もできます。
設備トラブルが多い
仕事管理というとき、自身でコントロールできる範囲とそうではない範囲のうち、自身でコントロールできる範囲を最大化する取り組みを指します。
設備トラブルが多く、目の前の仕事に必死。
この場合、自身でコントロールできる範囲とは何でしょうか?
設備トラブルを起こさないような設備構成にするというのがエンジニアがコントロールできる範囲です。
- 長寿命・高耐食性の設備をどれだけ導入できるか
- 安価な設備を計画的に交換していくか
- あるトラブルが起こったときに、関連部署に水平展開しているか
こういう取り組みをしていない人は、同じ対応を繰り返すことになり、仕事管理ができないという言い方ができます。
処理速度が遅い
処理速度が遅いと仕事は溜まっていきます。当然ですよね。
周囲の人が10の速度で動いている中、1人だけ1の速度で動くと、仕事は溜まっていきます。
溜まっている仕事をこなすので精一杯になり、視野を広く持つ余裕がでません。
プラントエンジニアが処理速度が遅いという時、以下のようなパターンが多いです。
- 上流工程からの仕事の依頼を正しく理解できない
- 仕事をするうえで必要な情報収集、解析ができない
- 仕事の成果を適切に表現できずに、やり直し作業が多い
会議が多い
会議など自身でコントロールできない業務時間が多いと、仕事が溜まっていく方向になります。
ところが、これは言い訳にしているエンジニアが居るのも事実。
会議を減らして、仕事に取り組む時間を作るのが好ましいのは言うまでもありませんが、本人の努力不足があるのも確かです。
昔の会議スタイルならどうしようもありませんが、今ならskype等の会議ツールを使えますし、パソコンや携帯電話を使った仕事もできるようになっています。
何でも対面で突発の打合せをすることを絶対正義としているエンジニアは、この辺の感覚が乏しいです。
疑問に思ったことをすぐに解決したいという自己中心的な発想が、結果として多くの人の足を引っ張っていることに気が付かないのは、機電系エンジニアに限らず多く存在します。
視野(viewpoint)が狭いことで起こる結果
視野が狭い機電系エンジニアが起こしがちな結果を紹介しましょう。
スケジュール管理ができずに苦労
プロジェクト管理における納期管理は、あらゆる仕事で重要なことです。
化学プラントの機械屋の仕事では、
- 機器が主体になり
- 納期のかかる機器から手を付ける
- 機器を確定させれば、配置を確定させる
- その後に配管を決める
こういう標準的な設計手法が確立されています。
昨今話題のIT関係でプロジェクトという名前が流行り、プロジェクトの失敗例もよく聞くようになっています。
ところが、化学プラントでプロジェクトの失敗は基本的にあり得ません。
どれだけトラブルがあっても1か月の遅延すら許さずに完成させてしまいます。
そこが実は恐ろしいのですが・・・
これは多少の失敗は底力でカバーしてしまおうという推力が働くからです。
でも、これを繰り返しているといつまで経っても苦労し続けるだけです。
最近では、プロジェクト後半でバタバタするのは当然だ・どうしようもない、と諦める設計者もいるくらいです。
苦労するのが仕事だ!苦労の後のビールがおいしい!
こんな考え方でしょうか。
その発想なら、プロジェクトとしての長い期間を準備すること自体が不要になったり、設計者の存在自体が不要になったりするということになります。
内部の情報を活用できない
歴史のある会社なら、各エンジニアが作成した数十年にわたる膨大なデータがあります。
情報共有ができないと、新たな人が入社したり異動があるたびに、過去の情報を有効活用できなくなります。
当然ながら成長速度は遅い。
数年たってようやく自分の色を出せるタイミングになれば、別の場所に異動。
組織全体で、足の引っ張り合いをしているといっても否定できません。
内部情報の具体例をいくつか紹介しましょう。
予算見積に時間が掛かる
情報共有がされていないと、予算見積に時間が掛かります。
予算見積は機械エンジニアにとって、その存在価値をアピールする数少ない場面。
このアピールとして精度はもちろんのこと、スピードもアピールになります。
タンク・熱交換器の導入を検討していて、1年2年前に同じような仕様で導入した実績があるのに、その情報を知らないという場合が結構あります。
情報を持っていないエンジニアは、大過去の設備の実績から金額を推算したりメーカーにヒアリングしたりします。
これはどちらも、一定の時間が掛かります。
早くても1週間くらいは掛かるでしょう。
仮に1年2年前の情報が一瞬で手に入ったら、それで見積は完結しますよね。
1週間以上かかる見積が1日で完結すると、周囲からの評判はぐっと上がりますよ。
緊急時に部品の貸し借りができない
機械エンジニア間で情報の共有がされていないと、緊急時に困ります。
設備が壊れて、代替部品を探すという時です。
これは1日2日でプランニングを終えないといけない緊急事態。
ここで、部品が見つからないと工場全体を右往左往したり、メーカーに突発依頼を掛けないといけません。
メーカーに依頼しても、1週間~2週間の納期が掛かる。
その間、生産を止めないといけない。
リスクが高すぎますよね。
設備保全エンジニアとして非常に強いプレッシャーを受ける瞬間です。
そんな時に、機械エンジニア間で情報共有されているとどうなるでしょうか?
部品がない!生産再開できない!
その部品、私が持っています。
こんな神の一声がとっさに出てくることはよくあります。
部品を探す時間やプレッシャーから一瞬で解放されます。
情報共有が大事と思う瞬間ですね。
標準仕様が作れない
機械エンジニアの間で情報共有がされていないと、標準仕様が作れません。
標準仕様はいろいろなメリットがあります。
- ユーザー・ベンダー両方とも設計期間を短縮できる
- ユーザー・ベンダー両方とも見積期間を短縮できる
- 据付予備としての潜在的効果がある
- 配管設計も楽になる
- 据付計画も簡素化できる
標準化のメリットはいくらでも挙げることが可能。
それなのに、組織が大きくなればなるほど「ウチはウチ。ヨソはヨソ」の思想を持つ人がいます。
これは学歴・経歴問いません。
みんながみんな、残業時間を減らしたいって思いつつ、実態としては業務効率化を妨げるような動きをしている。
そんな視点が持てないと、組織としてプラスになることは無いでしょう。
外部の情報を活用できない
内部の情報すら活用できないのであれば、外部の情報も活用できません。
取引の多い外部装置メーカーの情報が集まらず、常に影響担当者にヒアリング。
営業担当者は同じ説明を何回も同じ会社に対してしなければいけない。
説明の書いた文書を渡しても、資料の質が基本的に良くないので、その時共有化するだけで後に残らない。
取引のない会社を調べる、という余裕なんて全くなくなります。
これは日本が成長しないとの同じで、会社として成長する機会を失っている。
失われた20年・30年を会社の中でも起こす格好になります。
機電系エンジニアは信頼されていない
化学プラントでの機電系エンジニアの立場は、実はそんなによくありません。
というより信頼されていないエンジニアが多いです。
機電系エンジニアから見ると必死に頑張っているつもりでも、外から見ると不器用にしか見えていません。
だからこそ、自社で機電系エンジニアを抱える必要性を感じずに、外出しするという発想が昔は流行ったのでしょう。
- 視野が狭い
- メーカーのような専門知識を持っているわけでない
- 給料は同じ
この辺の実態に対して不公平感を持つプロセスエンジニアは多いです。
化学会社において機電系エンジニアは競争相手もいなく安泰と思われがちですが、自身の立場がもろい橋の上にあるという意味では決して安泰ではありません。
参考
視野を広げるために最も有効な方法は、視野の広い人の考え方を知ることです。
上司は一般的にはあなたより視野が広いです。
報連相を通じて上司の考えを知ることは、視点を広げる上で役に立つでしょう。
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最後に
化学プラントの機電系エンジニアの視野が狭い理由やその結果について解説しました。
視野の狭さと広さの違いの例を紹介して、機電系エンジニアの視野が狭くなる背景と仕事の結果を紹介しました。
悪循環が続いて視野を広く持とうとするまでに時間が掛かり、化学エンジニアに比べて成長速度に差が出ます。
ユーザーの機電系エンジニアの立場ってかなり危ういものです。
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