材質と伝熱性(heat transfer)の関係をまとめました。
伝熱性つまり熱の伝えやすさは、膨大なエネルギーを使う化学プラントではとても大事な考え方です。
省エネから始まって今ではカーボンニュートラル。
化学プラントでは多くの材質を取り扱います。
バッチ系化学プラントで使う材質を中心にまとめました。
熱に関する一般的な知識があれば、何となく優劣を判断できるでしょう。
高伝熱(heat transfer)
高伝熱つまり伝熱性が良いグループは特殊な材質だと認識して良いでしょう。
材質 | 熱伝導率(W/m・K) |
銅 | 403 |
アルミニウム | 236 |
カーボン | 100 |
化学プラントで使う範囲では銅がやはりダントツですね。
スチームトレースに使いたくなるのは伝熱性の点からも納得がいくでしょう。
対抗馬の鉄とは5倍以上の差がありますからね。
トレース管の板厚も銅は鉄の0.5倍程度の厚みなので、伝熱性は10倍(5/0.5)という圧倒的な差!
金属系が伝熱性が高そうに見えて、化学プラントレベルでは実はカーボンの方が高いというのは地味なポイントです。
中伝熱(heat transfer)
中伝熱グループは一般的な金属系です。
材質 | 熱伝導率(W/m・K) |
鉄 | 83 |
タンタル | 58 |
ステンレス | 16 |
中くらいのグループと言いつつ、圧倒的多数の設備に使われています。
意外かもしれませんが、ステンレスって熱伝達率が結構低いです。
タンタルの値は趣味の世界で良いです。
グラスライニングの補修や温度計で使うくらいだから、それなりの値だろうという推定ができていればOKです。
低伝熱(heat transfer)
低伝熱つまり熱を通さないグループは非金属です。
材質 | 熱伝導率(W/m・K) |
磁器 | 1.50 |
ガラス | 1.40 |
水 | 0.60 |
PTFE | 0.25 |
トルエン | 0.15 |
グラスウール | 0.03 |
空気 | 0.02 |
無機物・樹脂やゴム・水・溶媒・空気などさまざまなものが該当します。
金属以外は熱を通さないと分かりやすく理解していても十分です。
空気が熱を遮断する最強の物質ということは理解しておきたいですね。
断熱材であるグラスウールよりも優れています。
魔法瓶の原理はここから来ています。
熱伝達率
伝熱を学んだ人なら、熱通過率やU値という視点からの議論も欲しくなってくると思います。
熱伝達率についてもまとめてみました。
物質 | 熱伝達率(W/m2・K) |
静止した空気 | 4.7 |
流れている空気 | 11.7 |
流れている油 | 58.3 |
流れている水 | 291.7 |
境界層厚さ
空気の熱伝導率が0.02W/m・Kで静止した空気の熱伝達率が4.7W/m2・Kなので、熱対流の境界層厚さは
0.02/4.7 = 0.0045m → 5mm
と考えておきましょう。
流れている空気の場合は境界層厚さが減って、11.7W/m2・Kとなります。
11.7/4.7 = 2.5
程度なので、
5mm / 2.5 = 2mm
と境界層厚さを下げる効果が流れによって発生します。
熱伝導率と熱伝達率の比較
例えばステンレスのジャケット付き容器で水を温水で温める場合を考えましょう。
ステンレスタンクの板厚は10mmで考えます。
ステンレスの熱伝導部と境界の熱伝達部の伝熱性を同じ指標で比較します。
熱伝達率の次元で統一するのが一般的。
熱伝導率の分かっているステンレスの材質と板厚から、熱伝達率相当の次元合わせを行います。
ステンレスの板厚が10mm、熱伝導率が16W/m・Kなので、
16/(10/1000) = 1,600W/m2・K
となります。
比較してみましょう。
物質 | W/m2・K |
ステンレス | 1,600.0 |
流れている水 | 291.7 |
熱伝達率の数字を見てみると値が大きいから混乱してしまうかもしれませんが、そんなことはありません。
金属の伝導伝熱部の伝熱性の方が、境界の対流伝熱の伝熱性よりも高いです。
流れの速度を上げれば相当高いレベルまで熱伝達率は上がりますが、そんなに高速で運転する機会は化学プラントではありえません。
魔法瓶の比較
空気の対流伝熱の話をしているので、魔法瓶の比較も簡単にしてみましょう。
ジャケット「なし」と「あり」の比較をしてみます。
ジャケットなしの場合は板厚を20mm、ジャケットありの場合は本体10mmジャケット10mmで考えます。
ジャケット「なし」は流れている空気の対流伝熱とステンレスの伝導伝熱で評価します。
(20/1000)/16 + 1/11.7 = 0.001250 + 0.08547 = 0.08672 → 0.0867
1/0.0867 = 11.5W/m2・K
ジャケット「あり」は流れている空気の対流伝熱とステンレスの伝導伝熱と静止した空気の対流伝熱で評価します。
(10/1000)/16 + 1/4.7 + (10/1000)/16 + 1/11.7= 0.000625 + 0.212 + 0.000625 + 0.08547 = 0.298
1/0.298 = 3.4W/m2・K
物質 | W/m2・K |
ジャケットなし | 11.5 |
ジャケットあり | 3.4 |
外気の風の影響を低めに見ているので極端な値になっています。
ジャケット「なし」の場合は流れている空気の熱伝達率でほぼ支配されていて、ジャケット「あり」の場合は静止している空気の熱伝達率に支配されていることが分かればOKです。
断熱材
断熱材そのものも熱伝達率相当の次元で比較してみましょう。
グラスウールの熱伝導率0.03W/m・Kでグラスウール厚み30mmで考えます。
0.03/(30/1000) = 1W/m2・K
静止している空気の4.7W/m2・Kよりも低い値ですね。素晴らしい!
断熱材が断熱の性能を機能するのは、厚みがあるからということが分かるでしょう。
空気の対流伝熱境界層が2.5~5mmに対して、5~10倍の厚みでカバーしていると考えましょう。
ジャケット付き反応器レベルで見ると、ジャケットから本体への伝熱は100W/m2・K程度でジャケットから外気への放熱が1W/m2・K程度と無視可能だということが分かるでしょう。
グラスライニング反応器
バッチ系化学プラントではグラスライニング設備を良く使用します。
この熱伝達率も計算してみましょう。
SS400の板厚10mm、ガラスの板厚1mmで計算します。
SS400の熱伝導率が83W/m・K、ガラスの熱伝導率が1.4W/m・Kなので、
(10/1000)/83 + (1/1000)/1.4 = 0.00012 + 0.00071 = 0.00083
1/0.00083 = 1,204W/m2・K
比較してみましょう。
物質 | W/m2・K |
鉄 | 8,333 |
ステンレス | 1,600 |
グラスライニング | 1,204 |
1204W/m2・Kという数字だけを見たら高そうに見えてしまいますし、ステンレスと比較しても大差ないから問題ないだろうと考えがちですよね。
単純に鉄と比較してみたらその差は歴然!
上の式の「0.00012 + 0.00071」の「0.00071」部分がガラスの項で、ここが伝熱を阻害している要素なので当たり前の結果と言えばそれまで。
熱通過率・U値の視点で見ると、液体の対流伝熱の方が影響が大きいです。
物質 | W/m2・K |
グラスライニング | 1,204.0 |
流れている水 | 291.7 |
1/1204 + 1/291.7 = 0.00083 + 0.00342 = 0.00425
1/0.00425 = 235W/m2・K
グラスライニングだから伝熱性が極端に悪い・ステンレスだから伝熱性が極端に良い、というわけではありませんね。
カーボン熱交換器
カーボン熱交換器も比較をしてみましょう。
対抗馬はグラスライニングです。
カーボンは板厚5mm、グラスライニングは鉄の板厚2mm・ガラスの板厚が1mmで考えます。
カーボンは
100/(5/1000) = 20,000W/m2・K
グラスライニングは
(2/1000)/83 + (1/1000)/1.4 = 0.00002 + 0.00071 = 0.00073
1/0.00073 = 1,369W/m2・K
という結果です。
物質 | W/m2・K |
カーボン | 20,000 |
グラスライニング | 1,369 |
凝縮ガス | 50,000 |
カーボンの方がグラスライニングよりも伝熱性が高いことは分かるでしょう。
材質だけを見ていてはダメなのは上の議論でも紹介した通りで、支配的なのはプロセス側。
バッチ系化学プラントではコンデンサー目的で使います。
ガスの凝縮を伴う熱伝達率は計算だけで求めるのが難しいですが、5,000W/m2・K以上と言われたりします。
そうすろと、カーボンだと問題にはなりませんが、ガラスラインニングだとプロセス側よりもグラスライニング側が支配的になるという結果が得られます。
カーボンは近年高くなっているので、グラスライニングに交換しようとするときは1サイズ上げた方が無難と言われるのは、この辺の発想ですね。
参考
最後に
バッチ系化学プラントの範囲で材質と伝熱性について解説しました。
金属が伝熱性が良く、非金属は悪いです。
伝導伝熱と対流伝熱の比較を装置レベルで行ったり、断熱性の比較も行いました。
グラスライニング反応器やカーボン熱交などの設備例でかんたんな計算も行っています。
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