化学プラントの機電系エンジニアのバイブルである”P&ID“について解説します。
P&IDが「読める」・「書ける」・「説明できる」というスキルは機電系エンジニアに必須です。
ルールは自由度があって会社によって多少違います。
例えばP&ID記号一覧としてまとめているサイトもあります。
私がよく使う内容をまとめてみました。
“P&ID”
P&IDとは、 Piping & Instrumentation Flow Diagramの略です。
設備・配管・制御などの情報が網羅的に記載されてものです。
現場の重要情報が記載されている、重要資料です。
P&IDはいろいろな用途に使います。
- 現場での特殊な作業
- 非常時の状況確認
- 設備の増改築の検討
- 技術的な検討
10年以上この仕事をしていますが、「記載ルール」が十分でないことに悩んでいます。
マイナスイメージに捉える人が多いですが、発想を逆転させましょう。
ルールがないのだから、自分たちでルールを作れるということです。
自由に記載しましょう!
プラントの特性に応じて、設備的に注意すべきことを記載することが可能です。
- ガスケットペーストの範囲
- 切替配管の箇所
- 遮断板の箇所
- 設備洗浄のルート
- 各製品で使う配管
いろいろな情報をP&IDに盛り込むことが可能です。
化学プラントの生産プロセスはど1つとっても同じものはなく、それぞれに特性があります。
統一ルールがなく自由自在に記載できるP&IDの方が、都合がいい面があります。
略フローと”P&ID”
化学プラントの略フローとP&IDは初めての人が見ると、混乱するくらい共通点があります。
他の設計図書は、見ただけで中身が違うことが分かります。
ところが、略フローとP&IDは一見すると似ている部分が多いです。
- プロセスに関係する流体の流れ
- 機器略図
- 機器番号・名称
- 制御計器
この辺りの情報は、共通しています。
図で記載すると以下のとおりです。

ここまでは略フローとP&IDで共通しています。
略フロー
略フローはプロセス全体の概略を示す資料です。
下の略フローを見てみましょう。

これはT-001にある原料を、X-001~003という3つの熱交換器で熱交換をして、
T-002とT-003に液を分離するという仮想プロセスです。
これを1枚~数枚の紙に収めた資料が略フローです。
主要設備としてのタンク3基、熱交換器3基がどういう位置関係にあるかを示しています。
タンク3基は仕様である「容量」も記載していますね。
“P&ID”
P&IDは個々の設備の詳細を記載した資料です。
下の資料を見てみましょう。

1枚の紙に装置1つを記載した資料です。
上の略フローの例では10枚程度のP&IDが書けるでしょう。
1つ1つの設備に対して詳細情報を付与しています。
- 計器の番号
- 機器の形状
- 内部の構造物
- 機器の付属品
- 断熱の有無
- 配管の流れ
- バルブ類
本来は以下の情報も記載していますが、今回は省略しています。
- 機器の材質
- 機器の保温
- 配管の材質
- 配管の流体名
- 配管の保温
- バルブ類詳細
- 流体の送り先
1枚1枚にプラントを実際に構成する要素を記載していきます。
このP&IDが具体的な工事である配管図などの工事資料に発展します。
略フロー → P&ID → 配管図
このような流れで工事設計が進んでいきます。
バッチと連続の”P&ID”
P&IDは化学プロセスでもバッチと連続で違います。
それぞれの典型例を紹介します。
バッチプロセスの”P&ID”
バッチプロセスのP&IDについて紹介します。

反応器単位
バッチプロセスのP&IDは反応器を単位としています。
1枚のページの1つの反応器。
反応器は10基~20基は配置されているので、少なくとも20ページは必要となります。
P&IDは左から右に向かって流れるように記載するのが普通です。
左から原料が反応器に入ります。
ジャケットで温度調整
バッチプロセスでは反応器にジャケットを付けて温度調整をするのが普通です。
反応器内で何かしらの反応をしたとして、「温めっぱなし」・「冷やしっぱなし」ということはありません。
多いのは一度温めて反応をさせて、反応後に冷やすというタイプ。
温める → 冷やすの順番です。逆はほとんどありません。
上の例ではSがスチーム、CWが冷却水を示しています。
ガスは熱交換器で冷やす
反応器で蒸発したガスは熱いガスは、ガスラインを通じて熱交換器で冷やします。
冷やしたガスは元の反応器に戻せば還流、別の反応器に移せば蒸留となります。
熱交換器で完全に冷えないガスは、別の場所に移送して処理します。
反応器は大気圧下か負圧下のどちらかが多く、加圧下での運転はほぼありません。
液はポンプで送る
反応プロセスで生じた液は、反応器底からポンプで移送します。
反応器には底抜きノズルが必ずといって良いほど設置されています。
バッチプロセスではポンプでの移送先が複数あるのが普通です。
反応で発生した水層と油層を分離する分液操作をするためですね。
連続プロセスの”P&ID”
連続プロセスのP&IDについて紹介します。

塔が多い
連続プロセスでは塔が多いです。
バッチプロセスのように大きな容器で液を溜める場所が少ないです。
というのも液が連続的に流れていくからです。
温調の切り替えが少ない
連続プロセスはバッチのように温度調整をしません。
温めたら温めっぱなし、冷やしたら冷やしっぱなし。
上部のガス側はクーラー、下部の液側はリボイラーと区別して呼ぶこともあります。
バッチな私からすると、どちらも熱交換器
バッチのようにスチームと冷却水を同じ容器に入れる必要がなく、
配管本数が少ない傾向にあります。
計器が多い
連続プロセスは計器が多いです。
フロー図の×を○で囲ったものが計器です。
温度計・流量計・圧力計など様々な計器を付けます。
連続プロセスは安定した運転を行うために監視計器や調整計器が多いです。
今で言うと「自動化」されています。
バッチのように人が介入する部分は少なく、コスト面で有利です。
その代わり、製品の切り替えは難しいですけどね^^
移送先が固定
連続プラントは移送先が固定化されているのが普通です。
バッチのように水層と油層を人が切り替えるということはしません。
これは温調と同じく配管本数が少なくなる方向です。
“P&ID”の一般的な記載ルール
P&IDのルールは会社や事業所によって変わりますが、ある程度の共通ルールが存在します。
記入内容
P&IDには一般に以下の内容を記載します。
- 機器番号
- 運転条件
- 計装機器
フロー図としては以下のような表記をします。

この形が一応のスタンダードと言われています。
機器番号
機器仕様はP&IDに必ず記載します。
- 機器番号
- 主要仕様
- 材質
- 補足仕様
- 運転条件
これらを図面上に記載します。

一般的にはP&IDは横書きです。
機器仕様はこの左下に表形式で記載することが多いです。
主要仕様としては、次の内容が一般的です。
種類 | 仕様 |
槽 | kL |
熱交換器 | m2 |
ポンプ | m3/h×m |
単位は工場の規模によってまちまちです。
槽の容量だけでもkL,m3,L・・・いろいろあります。kLとm3は同じですけどね^^
ポンプならm3/h,m3/min,L/min,kg/h・・・こちらもいろいろ。
取り扱っている範囲内で、桁数が低くなるような単位にすることが多いです。
連続系なら圧力はMPa単位ですが、バッチだとkPa単位を好むのが分かりやすいでしょう。
バッチなら1.0MPaを越えることはないので、MPaで表記するとすべての圧力が
「0.」で始まる表現になります。0.100MPa,0.450MPa,0.700MPa
MPaを使うと「0.」の分だけ桁が大きくなりますよね。
運転条件
運転条件としては以下のようなものを記載します。
- 圧力
- 温度
- 流量
- 組成
組成が変わる場合は以下のように図面上に記載するでしょう。

でも、これは連続プロセスの場合に限定されます。
バッチプラントでは記載しません。
記載できるだけのスペースがないという方が正しいです。
連続プラントなら運転条件はほぼ1つに決まり、スタートアップ・スローダウンの条件を追加するくらいでしょう。
でもバッチプラントなら少なくとも4~5個、多いと20個程度の運転条件があります。
これをP&IDの形で記載するのはほぼ無理です。
計装機器
計装機器としては以下を記載します。
計装機器は自動弁とセットになることが多いです。
この主従関係が分かるように、プロセスとは違う線種で表現することが多いです。
例えば以下のような例です。

線種って何?って思った方はこちらを見てください。
流れ方向
P&IDはプロセスの流れを示すもの。
流れは左から右に向かって書きます。
現場での左右を意識した表現ではありません。
左右は意識しませんが、上下は意識しています。
階高さをP&IDに無理して表記する例もあります。
「無理して」というのは、P&IDに書く項目の大小差が大きくて、
階高さを完全にきれいに区分するのが難しいからです。この辺は図面屋が苦労する部分。
図面の接続
図面は一枚の紙で書くことは不可能です。
ということは、図面どうしの接続が必要です。
例えば以下の例。

右下にPage.1と書いています。
右端に「T-002 Page.2」と書いています。
これはPage.2にあるT-002に接続することを意味しています。

こちらがPage.2。
左上に「P-001 Page.1」という表現があります。
これは「Page.1」の「「P-001」から接続されることを意味しています。
2枚の図面の接続なので、2枚それぞれから参照できるような表現にします。
設備シンボル
P&IDの設備シンボルを解説します。
シンボルとは絵と言っても良いでしょう。
一般的なP&IDに使用するシンボルはいっぱいありますが、バッチ系化学プラントに限定して解説します。
タンク
タンク類のシンボルを解説します。
バッチ系化学プラントで使うシンボルは以下の5つくらいでしょう。

ちょっと知っている方なら、右の方に変なシンボルが見えますよね。
この辺りもバッチ系化学プラントの特徴です。
個別に解説します。
コーンルーフ
コーンルーフタンクのシンボルは次のとおりです。

コーンルーフってコーン上の屋根という意味ですよね。
コーンだから三角錐。
円筒形のタンクの天板が三角錐になっています。
これはシンプルに液を溜める貯槽として使います。
天板をコーン上にしているのは強度を確保するため。
容量が小さいタンクなら、平天板つまり円盤状になっているものもあります。
10m3~20m3くらいまでは平天板のものもあります。
ホッパー
ホッパーのシンボルは次のとおりです。

ホッパーは粉を貯めるタンクです。
コーンルーフが液を溜めるタンクなら、ホッパーは粉を貯めるタンク。
粉は自重落下させて排出するために、底がコーン上になっています。
コーンルーフでなくてコーンボトムですね。
耐圧槽
耐圧槽のシンボルは次のとおりです。

耐圧槽は言葉通り圧力に耐える槽です。
バッチ系化学プラントでは加圧側で使うことはなく、負圧側で使うばかり。
コーンルーフやホッパーが大気圧下で使うのに対して、
耐圧槽はFV~大気圧下での使用を考えています。
FV下でもタンクが変形しないようにするために、タンクの構造を強化しています。
撹拌槽
撹拌槽のシンボルは次のとおりです。

撹拌槽をタンクと表現するのは若干の抵抗があります。
ただし、バッチ系化学プラントでは撹拌槽がメジャーな設備なので、
化学プラント3大設備であるタンク・ポンプ・熱交換器というグループの中では
タンクに分類した方が良いという判断をしています。
撹拌槽は耐圧槽に攪拌機を付けて、ジャケットを付けたもの。
攪拌機を付けて各種の化学反応をさせます。
化学反応で発生する温度変化を制御するために、タンクの外側にジャケットを付けて冷却水やスチームを通します。
化学反応は大気圧下だけでなくて負圧下でも取り扱いますので、タンク形状は耐圧槽と同じ構造にします。
塔
塔のシンボルは次のとおりです。

塔も連続プラントなら別のカテゴリーに当てはめるでしょう。
バッチ系化学プラントでは塔の種類が極めて少ないので、タンクに分類しても良いと思っています。
塔も専門的には色々な分類がありますが、バッチ系化学プラントでは
規則充填物・不規則充填物
の違いがある程度です。
シンボルとしても単純な形状でほぼOK
ポンプ
ポンプ類のシンボルを解説します。
バッチ系化学プラントで使うシンボルは以下の3つくらいでしょう。

渦巻ポンプ
渦巻ポンプのシンボルは次のとおりです。

汎用的な液移送ポンプのシンボルとして使います。
渦巻ポンプだけでなくキャンドポンプやマグネットポンプなども使います。
円と台形だけで書けるので、簡単に書けますよね。
横型ポンプをイメージしていますが、竪型ポンプならシンボルを変える時もあります。
真空ポンプ
真空ポンプのシンボルは次のとおりです。

水封式真空ポンプをイメージしています。
水封を意識してインペラの形状をシンボルに表しています。
系内を真空にするための装置として各種設備がありますが、水封式真空ポンプが圧倒的です。
シンボルもほぼ水封式だけを使います。
エゼクタ
エゼクタのシンボルは次のとおりです。

エゼクタをポンプのカテゴリーにするのはあまりにも横暴ですね。
水封式真空ポンプに対して、別の真空源としてエゼクタがあるという程度の理解でOKです。
水封式真空ポンプでも前段にエアーエゼクターやスチームエゼクターを使いますし、
微負圧を発生させるための水エゼクターなどもあります。
いずれも同じシンボルを使います。
熱交換器
熱交換器のシンボルは次のとおりです。

熱交換器もバッチ系化学プラントでは極めてシンプル。
多管式熱交換器の標準形のみを使用します。
管内・管外の差がある程度でしょう。
連続プラントなら色々なシンボルを使いますよね。
熱交換器の数自体はバッチ系化学プラントでもそれなりにあるのですが、
そのほぼ全ては、このシンプルな形状です。
配管付属品シンボル
P&IDのルールはJISでも一応決まっています。
JIS Z 8209 化学プラント用配管図記号
P&IDのツールは世の中にいろいろあります。
この図を使っても良いのですが、社内の独自ルールだけでもかなり仕事ができます。
ルールが各社で違い過ぎるので、LEGENDというシンボルの意味を示す説明書きが必要になるくらいです。
この辺は、ラインスペックなどと同じです。
シンボルはツールを使っても良いですが、CADで自作しても良いですし、何ならExcelなどでも容易に作れます。
付属品シンボルのリストを数が多いので、見る気になりません。
これを頻度の高い順に適当に並べてみました。
ボール弁
一番初めはボール弁です。手動です。

ボール弁はバッチ系化学プラントに限らず使用頻度が極めて高いですよね。
真ん中の〇の部分がボールを表しています。
〇の左右には△を横に並べています。
○が付いていない形状がゲート弁を表します。
というより、ゲート弁がシンボルの基本でしょう。
△を2つ並べるのはゲートで仕切る部分を細くしたケーシングをイメージするからでしょう。
なお、自動弁は以下のようなシンボルが一般的です。

シリンダをイメージした長方形を付けます。
ボールに相当する〇はありませんね。面倒だからです。
〇を書かないと自動弁の型式が分からなくなるので、意図的に書いている会社もあるでしょう。
この辺は本当にバラバラです。
逆止弁
次は逆止弁です。

逆止弁は使う場所は限定的です。
逆止弁は△を1つだけ使います。△の相手方には|を付けます。
これで片側にしか流れないというイメージを示します。
逆止弁は他にもN形に記載するルールもあります。
N型の方がExcelで書きにくいですよね。
ダイヤフラム弁
バッチ系化学プラントで大活躍のダイヤフラム弁。
シンボルは以下のような感じです。

上にある円弧状の形状。何でしょうか?
多分、ダイヤフラム膜をそれっぽく表現しているのだと思います。
厳密には違いますよね。
でもシンボル上はそんなことはどうでもいいのです。
膜っぽく見えればそれでOKです。
グローブ弁
グローブ弁のシンボルは以下のとおり。

ボール弁の〇を●に中塗りしただけ。
ボール弁と区別をつけるためですね。
グローブ弁の弁体を意識して□にしてもいいですが、P&ID上では判別がしにくいです。
ここは、判別のしやすさを重視した方がいいです。
グローブ弁の方がボール弁よりマイナーなので、中塗りをする。
そんな感覚でいいのではないでしょうか。
安全弁・減圧弁
化学プラントの安全装置である安全弁。シンボルは以下のとおり。

バネをイメージした三本線が特徴的。
安全弁は吹き出し先が90度変わるため、△の形状を90度傾けています。
減圧弁は同じようなノリで以下のように書きます。

減圧弁もバネがあるので三本線。
流れ方向が変わらないので、△は180度方向に2つ付けます。
フラッシュ弁
釜底弁として使用するフラッシュ弁。シンボルは以下のとおり。

△を45度ずらしています。
フラッシュ弁の構造上、45度ずらして排出するからですね。
最近は自動弁が一般的なので、シリンダ付きのシンボルにしてみました。
レデューサ
配管の口径を変化させるレデューサ。どこでも使用します。
シンボルは以下のとおり。

台形を付けるだけ。シンプルですね。
これは同芯レデューサの例です。
偏芯レデューサは以下のとおり書きます。

これP&ID上では非常に見にくいです。誤解を招きます。
そこで、水平側を強調するために直線を脇にそっと添えます。
左側が下水平、右側が上水平です。
フレキシブルチューブ
配管の振動やずれを吸収するためのフレキシブルチューブ。
シンボルは結構バラバラでしょう。

今回は長方形に何となくグラデーションを掛けてみました。
これでもOKです。
一般的には長方形に蛇腹形状の模様を付けるでしょうか。
何でも良いと思いますけどね^^
フレームアレスタ
逆火防止装置として化学プラントでも重要なフレームアレスタ。
シンボルは以下のとおり。

・・・
あれ?
フレキシブルチューブと同じと思いませんでしたか?
そうです。
違いは長方形の長さ。
区別はほとんどできません。
フレームアレスタはガスラインに付いているので、そこで使い分けるしかないでしょう。
バッチ系化学プラントの場合、フレームアレスタの直近に窒素ラインを接続することが多く、
窒素ラインにはフレキシブルチューブを付けることが多いので、本当に区別が難しいです。
- ガスライン本体に付いているのがフレームアレスタ。
- 支流である窒素ラインに付いているのがフレキシブルチューブ。
こうやって区別するのが現実的でしょう。
ストレーナ
異物除去としてバッチ系化学プラントでも多く使うストレーナ。
シンボルは以下のとおり。

Sを□で囲うだけ!
これはバケットストレーナをイメージしています。
Y型ストレーナならYの形をしたシンボルにすることもあるでしょう。
トラップ
スチームの省エネ目的で使用するスチームトラップ。
シンボルは以下のとおり。

Tを〇で囲うだけ!
ストレーナに続いて簡単すぎませんかね。
〇にしているのはディスク型なのかフロート型なのか、どちらをイメージしているのでしょうか?
私も分かりません。
ラインスペック記載例
P&IDはラインスペック記載例について解説します。
ラインスペックとは以下のようにP&IDの配管ラインに記載しているスペックのことです。

明確な共通ルールが存在するわけではありませんが、記載すべき内容はほぼ決まっています。
ラインスペックに記載すべきこと
ラインスペックに記載すべきことを整理します。
以下の項目が一般的でしょう。

口径-内容物-材質-保温-ライン番号の順番に書くことが多いと思います。
ライン番号を一番初めに書く主義もあるでしょうけど・・・。
口径
口径はバッチ系化学プラントではA単位で記載します。
A単位はmmとほぼ同じ感覚で使えて直感的です。
A単位は配管の直径そのものをほぼ示しています。
25A→25mm 40A→40mm 50A→50mm
実際の配管直径はA単位の数字より若干大きい値ですが、誤差の範囲。
連続プラントならB単位であることが多いです。これは口径が大きいからですね。
100A→4B 200A→8B 400A→16B
数字の桁が大きくなるのを防ぐための工夫です。
圧力の単位をkPaにするかMPaにするかと同じですね。
配管トレースや二重管の場合もここに書くことが多いでしょう。
Φ12の銅管トレースを50A配管に付けるなら50A/Φ12というような表現をします。
内容物
内容物は会社によって本当に違います。
というのもここには機密情報を含むからです。
内容物が容易に分かった場合、P&IDだけで製品を作ることすら可能です。
情報露営を防ぐためにも略記号で書くことが多いでしょう。
P | プロセス液 |
W | 水 |
CW | 冷却水 |
BW | ブライン |
HW | 温水 |
FW | 消火水 |
N | 窒素 |
A | 空気 |
G | ガス |
この辺りが一般的です。
Pのプロセス液は、会社によってはもう少し細かく書くでしょうか。
材質
材質も会社によって書き方がまちまち。
一般的な配管材質ならそのまま記載するでしょう。
この辺りはごく普通。
配管のスペックが複数ある場合は特に独自記号を使います。
SGPならSGP1、SGP2などと書くでしょう。
同じ配管材質なのに何を分ける必要があるのでしょうか。
多いのはガスケットが違うという例です。
配管材質が同じでもガスケットを使い分ける場合、ラインスペックで明確に使い分けないとミスが起こります。
使い分ける物の種類が多いと、材質記号も多くなり管理が大変になります。
できるだけ極小化したいところ。
保温
保温もしくは保冷は厚みを記載します。
厚みだけでは指定ができないので、温度も記載します。
t30(80)なら30mmの保温厚みで、内容物の温度が80℃であることを意味します。
ライン番号
ライン番号はP&IDよりも配管図の管理のために記載します。
番号の付け方は割と適当。
少なくともバッチ系化学プラントではP&IDに記載する意味は全くありません。
というのも配管の切り替えや改造が異常に多いから。
ライン番号を順番にとって管理しようとしても、削除追加が多くなって訳が分からないくなります。
連続プラントなら切替配管もないので、ライン番号を付ける意味はあるでしょう。
変量文字記号
P&IDには計器用の記号を書くのが普通です。
計器用の記号をJIS Z 8204計装用記号において変量として定義しています。
化学プラントでの計装用記号の使い方を紹介します。
JIS Z 8204 計装用記号
まずはJIS規格を確認しましょう。
計装用記号は変量記号・変量修飾記号・機能記号の3文字から成り立つます。
変量記号
第一文字目である変量記号について、JIS規格内から化学プラントで使いものをピックアップしました。
D | 密度 | Density |
E | 電流 | Electricity |
F | 流量 | Flow |
H | 手動 | Hand |
L | 液面 | Level |
P | 圧力 | Pressure |
Q | 導電率 | Quality |
T | 温度 | Temperature |
U | その他 | |
W | 重量 | Weight |
ほとんどの文字は英語とリンクしていることが分かるでしょう。
例外はQ:導電率と、U:その他くらいでしょう。
Qは品質というカテゴリー内に導電率が定められていて、Uは多量の変数というカテゴリーに位置付けられています。
Uはon-off自動弁に使うことが多いでしょう。
P&ID上でこれらの変量記号を見るだけで、どの計装機器であるかが一目で分かります。
変量修飾記号
二文字目である変量修飾記号を紹介します。
I | 指示 | Identify |
J | 自動走査 | JIdou? |
Q | 積算 | Quantity |
これは数が少なく、例外も多いです。
IはJIS上は二文字目に定めていません。
Jはなぜ自動走査なのか、良く分かりません。
Qは積算ですが、別にIntegralでよかったのでは?
疑問は残りますが、いずれにしろ「そんなものだ」という理解で十分です。
ほとんどすべての計器はIかQを使います。
Iが瞬時値、Qが積算値のイメージです。これだけで十分。
機能記号
三文字目である機能記号を紹介します。
A | 警報 | Alarm |
C | 調節 | Control |
I | 指示 | Identify |
Q | 積算 | Quantity |
V | バルブ | valve |
Z | 安全緊急 | – |
二文字目の変量修飾記号と同じくIやQが出ています。
他にはいくつか文字がありますね。
これらをまとめると、
- 一文字目の変量記号はかなり厳格
- 二文字目・三文字目は割とフレキシブル
であることが分かるでしょう。
組み合わせ例
変量記号の組み合わせ例を見ていきましょう。
PIA
PIAだと圧力(P)を指示(I)して警報(A)を出す計器だという意味です。
Aを付けるかどうかは、工場の思想によるところでしょう。
というのも圧力の指示計を付けるということは、圧力の大小がプロセスに影響がでるから。
それなら警報を出した方が良いでしょうという意味ですね。
ただでさえ、DCSではHH,H,L,LLのアラーム設定をすることができますからね。
FQC
FQCは流量(F)の積算(Q)を調整(C)する計器です。
一般的な積算流量計ですね。
FIC
積算流量は分かりやすいけど、瞬時流量はどうすればいいでしょうか?
瞬時流量のIは三文字目です。調整のCも三文字目。
私ならIは二文字目にします。積算のQに対する瞬時のIとして二文字目に退避させる方が良いでしょう。
UJV
UJVはon-off弁のイメージです。
その他多数のU、自動走査のJ,バルブのVを組み合わせています。
その他をZで代用するケースもあるでしょう。
P&IDの細目ルール
P&IDの細目ルールを解説します。
これは会社や事業所によってかなりルール違う「ローカルルール」です。
とはいえこの細目ルールがないと、人に依存したP&IDになります。
これは同じ事業所内でもルールが変わることを意味します。
絶対に見にくいです。
細目ルールとして定めるべきことと、その具体例を紹介しましょう。
P&IDの一般的な記載ルールについてはこちらを参考にしてください。
ユーティリティとプロセスは同じページ
ユーティリティ配管とプロセス配管は同じページに書きます。
ユーティリティ配管をプロセスページに書くということは以下のようなことを意味します。

逆にユーティリティ配管を書かないとこうなります。

略フローならこれでもいいですが、P&IDレベルの詳細図面になるとこれは許されません。
ユーティリティ配管にも制御や操作が含まれていて、プロセスと直結するからです。
ユーティリティ配管として熱交換器のような、明らかにプロセスに直結するものは必須です。
ポンプや攪拌機のシール水のようなプロセスには直結しないが、機器の運転に必要なものは書かない例もあるでしょう。
こういう場合はユーティリティフロー図を別に作成して、ユーティリティ系統が管理できるようにします。
スペックブレイクを書く
スペックブレイクとはスペックの境目を示すものです。
例えば以下のような例です。

バルブの前後で配管材質が分かれることを意味します。
バルブがSUS304でバルブと接続する配管のフランジがSGPという意味です。
材質以外にも保温も同じような書き方をします。
配管の傾斜を指示する
配管の傾斜を指示するルールがあります。
例えば以下のとおり。

左から順番に以下の意味を持ちます。
- 逆勾配にしない
- 1/10の傾きを付ける
- 45度の傾きを付ける
逆勾配や1/10というのは金属配管に限定されます。
45度は金属配管以外に、ガラスライニング配管やフッ素樹脂ライニング配管にも適用されます。
- 逆勾配は水準器を当てて極端に勾配が付かなければOK
- 1/10という傾きを付けるなら、傾く配管の始点と終点の高さを配管図に明確に指示する
- 45度の傾きを付けるなら、45度のエルボを付ける
45度の傾きはどんな材質でもほぼ対応可能ですが、微妙な傾きは金属配管にしかできない。
こう思っていた方が良いです。
ガラスライニング配管でも特殊角度のエルボを作ることは不可能ではありません。
その代わり、イニシャルコストが高くなり納期も延び、メンテナンス面で劣ります。
必要な寸法を書く
P&IDには必要な寸法を書きます。
例えば以下のとおり。

逆Uシールと呼ばれる構造の高さを指示しています。
高さそのものにあまり大きな意味はありませんが、高さが少なすぎると運転ができません。
そのために一定の高さということで、300mmは確保してください。
というのがこの例です。
逆Uシール以外にも、配管高さを指示しないといけない例はいくつもあります。
還流ラインに多いでしょう。
保温を書く
P&IDの設備には保温を書きます。
例えば以下のとおり。

設備の保温を付ける箇所に適当なハッチングを入れて、厚みを記載します。
この例だと熱交換器のシェルに保温を付けて、チャンネルカバーには保温を付けません。
バッチ系化学プラントでは管内凝縮のコンデンサーが多いので、シェルには保温を付けずにチャンネルカバー側に保温を付ける例の方が多いですけどね^^
厚みだけで指示ができない保温・保冷の区分は会社によって大きく変わるでしょう。
保温・保冷が必要なのはバッチ系化学プラント独特ですよね。
攪拌機で反応をするときに加熱・冷却をするなら保温・保冷が必要となるケースがあります。
最後に
バッチ系化学プラントのP&IDの基本ルールについて解説しました。
略フローとP&ID、バッチと連続、反応釜単位、シンボル、ラインスペック、変量文字記号
自由度があって種類も多いですが、使うものは限定されていますので少しずつマスターしていきましょう。
この記事が皆さんのお役に立てれば嬉しいです。
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