槽のマンホール(tank manhole)を設計するときに、考えておいた方が良いことをまとめました。
マンホールの開閉は3K作業に該当します。
1年に1回くらいの頻度しかなくても、軽量化・省力化などの安全対策は今の時代では必須でしょう。
作業員の力試しの場として問題を放置していると、どこかのタイミングで怪我を引き起こすかもしれません。
初心者エンジニアなら無配慮な設計をしがちですが、作業者にやさしい設計をするために考えたいこととして設計全般にも当てはまりそうな思考です。
マンホールは重たくて危険!
マンホール(tank manhole)の役割
マンホールの役割をまずは確認しましょう。
人が入る
マンホールはタンク内に人が入るための場所です。
マン(man)、ホール(hole)だから当然ですよね。
人が入るためにはマンホールは大きい方が好ましいですが、耐圧や重さという点で大きくし過ぎると問題が起きます。
人が入るのは、設備洗浄のためです。
機会は少ないですけど、とても危険な作業なのでちゃんと考えましょう。
のぞき窓代わり
マンホールはのぞき窓の代わりとして使えます。
マンホールという大きな蓋には、配管や計器のような物を固定することはできません。
こんな場所にはガラスを付けていれば、のぞき窓としての機能を持たせることができます。
点検時の人が出入りするための場所でありつつ、運転時の内部確認にも使えます。
だからこそ、タンクのレイアウトやノズルオリエンテーションを決めるときに、マンホールを起点にすることもあるくらいです。
意外と大事ですよ。
大口径配管の接続
マンホールは大口径配管の接続口として使うことがあります。
タンクのサイズにも寄りますが、150Aや200Aというノズルを付けるのは意外と難しいです。
バッチ系化学プラントではノズル数は多ければ多いほど好ましく、製品切替や混色危険などの防止に役立ちます。
ところが数を増やすほど1つのノズル当たりのサイズを大きくすることはできません。
バッチ系化学プラントでは粉体の投入や減圧蒸留などの大口径が必要となるノズルがありますが、そういうノズルを設置できないケースがあります。
ここで、マンホールの出番。
止む無く使うという否定的なニュアンスですが、仕方ない場面はあります。
液をフィードするときにのぞき窓から目視確認を行うことが普通の化学プラントで、マンホールを別の配管と接続してしまうことは目視確認を否定することになります。
慎重に設計したいところです。
マンホール(tank manhole)の縦横の大きさ
マンホールの大きさでも縦横について解説しましょう。
縦横の大きさとしては以下の例が一般的です。
- 300×400の半楕円
- 400A
- 450A
ざっくりした感度ですが、私は以下のように考えています。
300×400 | 採用したくない |
400A | 妥協して大抵はこれ |
450A | できれば採用したい |
思想が偏っている気もしますが・・・
日本人の平均サイズ
「設計のための人体寸法データ集」(通商産業省生命工学工業技術研究所)というデータがあります。
これによると、以下のデータが面白いです。
- 95%の女性の臀部の長さは39.9cm以内
- 男性の肩幅の平均は45.6㎝
これらは椅子の設計などに使えるデータです。
さてマンホールのサイズを決めるときに重要なのは、肩幅です。
人間の幅方向の大きさの中でも最も大きいのが肩幅です。
単純な設計という意味では、肩幅 < マンホールサイズとすることが基本原則となります。
男性の平均が45.6cmだそうなので、45㎝つまり450Aでないという意味ですね。
実際には、「ゆったりと出入りできる」「姿勢を変えながら出入りしない」という前提条件が隠れていますので、ちゃんと見抜けるようになりたいです。
300×400
古いタンクのマンホールでは300×400の半楕円形を見ることがあります。
今でもタンクの気密性を重視する場合にも使うかもしれませんが、例外中の例外でしょう。
日本人の体格が小さかった頃の名残です。
私も若い時は300×400のサイズに何とか出入りできましたが、今ではできません(笑)
400A
400Aの円形のマンホールは現在は標準的に見かけることができるでしょう。
たいていの人は出入りに苦痛を感じない広さであり、部品の調達・製作も楽というメリットがあります。
私も何とか出入りできますが・・・。
450A
400Aよりも1サイズ上げた450Aのマンホールも見かけます。
私としては是非とも450Aを採用して欲しい!(笑)
450Aを選ぼうとしたときは、ノズルオリエンテーションやタンク強度に問題がないかのチェックが入ってきます。
マンホール(tank manhole)の厚み
マンホールの設計では厚みの考え方が大事になります。
というのもマンホールの重量に直結するから。
開閉作業の安全性という意味で大事な設計要素です。
フランジの重量についてを以下の表にまとめました。
JIS10k | JIS5k | JIS2k | |
400A | 52.1kg | 41.7kg | – |
450A | 68.4kg | 52.7kg | 48.8kg |
JIS10kは過剰
マンホールの厚みを決めるときに、JIS10kフランジは避けたいです。
フランジ規格で決まっている盲フランジ(ブラインドフランジ)を採用するのが調達の意味で楽ですが、無条件にJIS10kを選定することは非常に酷です。
バッチ系化学プラントの場合、設計圧力は以下のケースが多いです。
- タンクはFV(Full Vacuum)~大気圧
- 配管はJIS10k
配管側がJIS10kなので、ノズルもJIS10kになり、マンホールもついでにJIS10k
こんな設計をしがちです。
JIS10kフランジなら400Aで52.1kgもあり、450Aならなんと68.4kgもあります。
タンクのマンホールは、道路など街中で見かけるマンホールのように低い位置に設置されているわけでなく、人が重量物を持ち上げるという意味ではかなり不安定な位置の場合が多いです。
タンクのマンホールは、作業員が目視確認しやすいように腰の位置くらいに設置されていることが多いですからね。
最低でもJIS5k
上記の表を見る限り、JIS5kが最も軽く現実的な案だと思います。
これは否定できません。
でも実際にJIS5kの400Aの開け閉めをしたことがある人が、心を痛めずにJIS5kの選定をできるものでしょうか?
とても重そうに開け閉めする姿を見るたびに、私は「もっと楽にできないか・・・」と自分の設計能力の無さを反省してしまいます。
これ以上軽くできないから仕方ない!
なんて突き放した設計者は本当に多いですが、私はこうはなりたくないです。
JIS2kは?
JIS5kフランジで止まらずに、JIS2kフランジという選択肢も世の中には残っています。
ただし、既製品では450A以上という制約があります。
JIS5kの400Aのフランジが41.7kgでJIS2kの450Aのフランジが48.8kgなので
JIS2kフランジの方が重たいから意味がないなんて結論を出しがちです。
個人的には、400AでJIS2k相当の厚みのマンホールにしたいところ。
少しでも軽い方が安全性が高くなりますので。
軽開閉装置
マンホールには軽開閉装置を付けることが一般的です。
ダビットタイプとヒンジタイプがあります。
大同工機のサイトなどが参考になるでしょう。
- タンク天板 ヒンジ
- タンク側板 ダビット
と使い分けるくらいで良いでしょう。
というのもタンク天板にダビットを付けるには、化学プラントはあまりにも狭すぎます。
ダビットの方が安全性が高いので、なるべくダビットにしたいところですけど・・・。
ヒンジは指を詰めやすかったり1人では危なかったりと、とにかく不安。
マンホール(tank manhole)の材質
タンクマンホールの材質についても解説しましょう。
ステンレスタンクをイメージしています。
主にコストの話です。
無垢のステンレスは高い?
マンホールという重たい物体を無垢のステンレスで作るというのは高く感じるでしょう。
少しでも安くしたいというユーザーは無垢のステンレスを避ける方向にあります。
SS400にステンレスライニング
コスト削減を目的としてSS400にSUS304などのライニングをすることがあります。
4mm程度のSUS304の板をSS400にライニングすればいいから、概念としては理解できますね。
でもこのライニングは結構面倒です。
- 周囲溶接
- 中央部の点付け溶接
- 知らせ穴
周囲溶接
SS400にSUS304のライニングをする場合、真っ先に思いつく方法が溶接。
少なくとも端面の外周部分は溶接が必要です。
ここは問題ないでしょう。
中央部の点付け溶接
外周方向に溶接をしたときに400A程度の大きさでは、非常に弱いです。
中央部は何もくっついていない状態だからライニング部が容易に変形します。
プロセス反応などの影響を受けて問題ないとは言い難いです。
長期的に使っているうちにライニングが振動を繰り返して割れる可能性もあります。
知らせ穴
ライニングをしたとき知らせ穴を付けるのが一般的です。
これは溶接時の空気の抜け穴を付ける目的と、腐食の早期発見の目的があります。
空気の抜け穴は当て板溶接などでも起こりえる問題ですね。
腐食の早期発見はライニングの割れなどを気にしたものです。
ライニングが割れた時に内容物が母材のSS400とライニングのSUS304の間に滞留していて、気が付かないうちに腐食が進行していたという可能性があります。
これを早期発見するために、母材のSS400に穴を開けておきます。これが知らせ穴。
プラグで止めているパターンが多いですね。
金額の比較
SS400にSUS304をライニングするための費用と、SUS304単体の費用をどうやって比較しましょうか。
私はタンク制作会社で務めた経験がありませんので、概算金額を記載しているだけであり、信頼性は高くはありません。
SS400+SUS304 | SUS304 | |
材料費 | 40,000 | 100,000 |
加工費 | 30,000 | 0 |
合計 | 70,000 | 100,000 |
材料費は、インターネットで調べた一般的な額を選んでいます。
加工費は、1日でSUS304の板張りが製作可能だという前提で記載しています。
これだけを見ても、金額差はたったの3万円。
タンク本体の額は200万円を越える世界になるので、そこで3万円にこだわるほどの価値があるでしょうか?
ということを常に問い詰める姿勢が必要だというのが私の考えです。
昔からSS400+SUS304にしている理由は金額だ。だからこれをずっと続けていればいいのだ!
というのは危険であり、本当にSS400+SUS304にメリットがあるのか、SUS304でも駄目なのか?ということを見直せる柔軟性が必要だと思っています。
これは、製作メーカーからの生の声を聴かないと分からない話です。
SUS304単体の方が、材料管理・工程管理も楽ですから、リソースを下げる意味でも効果があると思います。
参考
マンホール設計で重量を調べるためには、フランジの情報が欠かせません。
設計者にとっては必携の以下のポケットブックは是非とも活用しましょう。
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さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントのタンク用のマンホールを設計するときに考えることを解説しました。
マンホールの機能・大きさ・厚み・材質についてまとめています。
安全性に大きく関係しますので、杓子定規な設計は避けたいところです。
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