私は化学プラントの機電系エンジニアの仕事を20年近く経験して、今は少し離れた仕事をしています。異動したばかりのときは、「20年の経験を忘れないように」と心に誓いますが、気が付いたら忘れ去っていくものです。
そのまま忘れ去ってはいけない気もしますが、逆に当時は何でこんなことを思っていたのだろう、と今になって不思議になることもあります。
日記的な意味を込めて、その辺を言語化しておこうと思います。
会社の文化や考え方でかなり違う部分もあり、時代によっても違う部分もありますが、内と外のどちらにいるかだけでも結構違うと思います。
少しでも製造が楽になるように
化学プラントの機電系エンジニアは、オーナーズエンジニアとして自社工場のための設計をすることが仕事です。
プラントエンジニアリング会社とは違い、自社にとって有利になる設計をします。例えば、製造がとにかく使いやすいような設備を設計するというのは代表例。一般機械だと、技術者の設計の自由度が高いのですが、化学プラントのような装置では限界があります。それでも、製造が少しでも使いやすいような設備にすることを、要求されます。
私が入社して団塊の世代が定年するまでの間は、この教えを強く受けました。
何とか頑張って設計して完成した設備でも、使ってすぐにこういうコメントが出ます。

あの設備使いにくいわ。ダメ!
この後は地獄のコースになり、毎日のように現場に張り付き、作業員の実際の様子を見て、改善案を考え、運転中に最速で出来る改善案を考え、最速で製造課に交渉する仕事が始まります。
どうでもいいことですが、私の時代ではこれが当たり前でしたが、今では激減しましたね。。。
さてこの「少しでも製造が楽になるように」という意気込み。少し視点を変えるとどう見られているでしょうか。
頑張っている
製造課に居る人、特に管理職はエンジニアが頑張っている姿をしっかり見ています。本人に直接コメントすることが無くても、周りの人にはしっかりと高評価として伝わります。
製造課長は製造業では出世しやすい立場で(あるべきで)、その人の評価が昇進や異動などに影響を与えたりします。1人では難しくても複数の課長からこういう声が上がれば、確実にプラスに働きます。
頑張っているエンジニアは、こういう評価をもらっていることを考える余裕すらないですけどね。
著しく問題でなければ興味なし
製造から少し離れた立場から見たら、ほぼ興味なしの状態です。同じ工場内に居ても、同じ技術系の職場でも、興味なしです。
大きな問題の設計であれば工場内で問題になるでしょう。この場合に、機電系エンジニアが矢面に立たされることも無くは無いですが、大抵の場合は回避できます。製造課に守られているからです。責められるのは製造課。
逆に言えば、よほどのことをしない限り話題に上がることは無いので、少しでも製造が楽になるようにというこだわりは、マイナスに働くかもしれません。
例えば、会社でみんなが使っているパソコンやシステムは、とてもユーザーのことを考えているとは思えない仕様だったりしませんか?それでも使わざるを得ないですよね。製造にとって設備は同じことといえます。(個人的にはパソコンやシステムも機電系エンジニアと同じ「徹底したこだわり」を持ってほしいですが、かなり甘い気がしています。ああ、そうそう。この場合でも、パソコンでも何でもエンジニアが設計段階でこだわりを持っていたかどうかを、使う側が知る機会って無いですよね。)
少しでもコストを安く
少しでもコストを安くしようというのは、機電系エンジニアが本来取り組まないといけない話です。
これはこれで色々と課題が隠れています。
汎用性が無くなる
コストを安くしようとしたら、そのプラントの汎用性を損なう可能性が出てきます。
例えばある工場ではJIS10kフランジで統一できていたとして、特定のプロジェクトでJIS5kがたまたま安かったので採用したとしましょう。
建設コストは下がるかも知れません。しかし、後々のメンテナンスが確実に高くなります。部品も共有化できません。
フランジのようなクリティカルな物でなくても、タンクや反応器でも同じことが考えられます。コスト削減とその影響度のバランスを評価することが大事です。1度だけ私も、当時の上司の教えで徹底したコストダウンをして、後々迷惑をかけることになりました。
余っても別の用途に使う
コストダウンをして、予算が余ったとしましょう。
これを会社に返却するというのは、かなりの根性が必要とされます。それくらいであれば、類似用途に何とかして使おうとするでしょう。
そうするとプラントに追加される設備の金額はコストダウンしようがしまいが変わらず、固定費は増えることになるでしょう。変わるのは、余った額でできた改善部分のみです。これがプラント全体にとって大きな効果であれば良いのですが、バケツからいくつも穴が開いて水が漏れているのに、その1つだけを止めるという結果にしかならなかったりします。それでも場つなぎできれば良いという判断をするかどうか・・・ですね。
予算が越えてなければOK
製造以外の人間から見ると、プロジェクトに割り当てられた予算をオーバーしなければ、基本的には話題になることがありません。
これは、企画部目線での話ですが、プラントではプロジェクトは様々な物が同時並行的に処理され複数のWBSを設定することになります。個々のプロジェクトの予算を精緻に見る余裕はなく、越えてなければOKという目で見ていないとキリがありません。
そうすると、少しでもコストを安くというこだわりは、製造課だけにメリットがある話となりえます。
製造の言うことに従うだけでいい
機電系エンジニアは製造の言うことに従いさえすればいい、という教えを受けてきました。
実際に製造課以外の人と関わることは、通常はほとんどありません。製造課の一員的な立場で、課長に守られると気持ち的には楽です。
ところが、これは製造以外から見ると結構考えモノ。
ずっと機電系エンジの仕事をし続けるなら構いませんが、少しでも飽きたりして別の部署に異動しようものなら、製造の言うことを盲目的に従って自分で考えない癖を修正するのに時間がかかります。結果、使えない認定をされて元の機電系に戻ったり、窓際になったりしえます。それでもいい気もしますが・・・。
製造以外にも議論や相談ができるようになると、製造の考え方が見えるようになってきて、製造との調整もしやすくなりますよ。
資料をとりあえず送れば良い
機電系エンジニアは製造に資料を送って終わり、という仕事の仕方をしがちです。これは設備メーカーも同じですね。
言語化するわけでもなく、資料を一から全部について製造にチェックしてもらい、その判断の責任まで追ってもらおうとします。繰り返しますが、機電系エンジをずっと続けるなら構わないと思います。
言語化しようとしなければ、機電系以外の仕事をする場合には確実に障害になります。
何でも製造に判断を委ねて、自分で考えなかったり製造がどう考えるだろうと予想しなかったりしていると、危険とも言えますね。
メールで資料を送って聞かずに直接会って話をする、というだけでも違いが出てきます。(その場で議論が始まって答えられないのが嫌、という気持ちは分かります)
できるだけじっくり時間をかけて検討
機電系エンジニアは時間をかけて検討して精度を出そうというこだわりを見せる場面があります。
これは百害あって一利なし。
なぜこんな文化になったのか私も良く分かっていませんが、自職場では確かにそうでした。しっかり検討してなければ、「これくらいの雑な精度で持ってくるの?」って製造に言われていた気もしますね。私は別の部署に異動して、この速度感の違いにショックを受け、以降は速度に拘りを持つようになりました。
そうすると評価が確かに上がって、1つのスキルのように見られている気がしています。
原因解析を徹底して行う
現場でトラブルが起きたときに、原因解析を求められます。これを時間をかけてゆっくり取り組もうと見られてしまうのが、機電系エンジニア。
自身で判断できるわけではないので、メーカーなど専門家に聞くことになりますが、この瞬間に数カ月単位の時間になります。
遅くても1週間程度で何かしらの答えを欲しいと思っている製造課から見たら、困りますよね。
- メーカーは専門家だからしっかりした解析ができるはずだ
- 中を見ずに外を見ただけで判断できるはずだ
- メーカーの回答が遅いのは、機電系エンジニアが管理してないからだ
機電系エンジニアはこんな風に見られてしまいます。これと同じことを工場幹部から製造は見られていて困っていますが、負の連鎖ですね。
- 推定原因で良いからすぐに回答する
- しっかりした報告書は要らないから、この推定原因でメーカーにメールを出してもらう。報告書まで出してもらえれば完璧
こんな器用なことができれば、重宝されるのは間違いないですね。
製造課が原因解析を求められるのですが、それは工場幹部などからですよね。工場幹部はなぜそれを求めるかというと、本社から求められるから。では、本社が詳細の技術的な話を知っているかというとそうとも限りません。
この関係性の中で求められるのは、「技術的にそれっぽい理由を作り上げること」かも知れません。技術者っぽくなくて好きではありませんが、処世術としては大事です。余計なことに時間を掛けずに、早く完了状態に持っていきましょう。
参考
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最後に
機電系エンジニアとしてこだわりを持って仕事をしていましたが、実はそれはあまり周りには響いておらず製造の一部の人にしか評価されていませんでした。
それが上手くいくこともありますが、意味がない場合も多いので、変なこだわりを持たなくても良いと思います。こだわりを持ってしまったら、解放されるためにはその環境から離れるのが最も早いでしょう。
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