設計圧力(design pressure)は設備の設計で大事な要素ですが、意識することは意外と少ないです。
第一種圧力容器や高圧ガスのクラスになって、ようやく考えようという気になります。
それ以外の一般的な仕様なら、標準化された寸法で仕様を決めてしまうので、設計圧力を意識せずともエンジニアリングはできてしまいます。
だからと言って、設計圧力を疎かにして良いわけではなく、初心者エンジニアが陥りやすいポイントに絞って概念を解説します。
条件
今回考える対象は、タンクです。
「ジャケットなし」か「ジャケットあり」で条件が変わってきます。
ジャケットなし | ジャケットあり | |
---|---|---|
本体 | FV~99kPaG | FV~99kPa |
ジャケット | – | FV~299kPa |
本体は真空から若干の加圧まで耐える容器を考えます。
ジャケットは一定圧力のスチームを入れることを考えます。
ジャケットなしタンクの設計圧力(design pressure)
設計圧力とは強度計算をする上で使用する圧力を考えて良いです。
実際の運転で使用する圧力が使用圧力です。
当然ながら使用圧力よりも設計圧力と同じか高くなければいけません。
この設計圧力考える上でどういうことを考えないといけないでしょうか?
ヒントは大気圧です。
Full Vacuum~100kPaG という設計圧力をここでは考えます。
図面上は相対圧力(ゲージ圧)で取り扱うことが多いですが、ここでは絶対圧力で考える方が都合が良いです。
Full Vacuum~100kPaG → 0kPaA~200kPaA
外圧に対する設計圧力
タンクは負圧・加圧どちらの条件で使うかで考え方が分かれます。
特にバッチ系化学プラントでは、同じタンクなのにある生産では負圧・別の生産では加圧で使うというケースも存在します。
どちらの条件にも耐えれるように設計しないといけません。
まずは外圧側から考えましょう。
タンク内が負圧の場合、大気圧という外圧をタンクは受けます。
完全負圧(Full Vacuum)の条件では、タンクは大気圧の力そのものを受けます。
- タンク圧:0kPaA
- 大気圧:101kPaA
- 差圧:-101kPa(設計圧力)
このとおり、101kPaの外圧を受けるタンクという設計圧力を考えることになります。
内圧に対する設計圧力(design pressure)
同じようにタンク内が99kPaGの圧力を保持している場合の設計圧力を考えましょう。
外圧の時と同じ発想です。
- タンク圧:200kPaA
- 大気圧:101kPaA
- 差圧:99kPa(設計圧力)
このとおり、99kPaの内圧を受けるタンクという設計圧力を考えることになります。
相対圧力は絶対圧力から大気圧を引いたものなので、違和感はとくにないでしょう。
ジャケットありの設計圧力(design pressure)
ジャケットなしの設計圧力はごく当たり前の結果ですが、ジャケットありの場合は少し勝手が違います。
本体の外圧に対する設計圧力
ジャケットなしと同じようにジャケットありの場合でも本体の外圧に対する設計圧力から見ていきましょう。
上鏡部はジャケットが付いていません。
ジャケットなしと同じ発想で、101kPaの外圧を受けます。
胴部や下鏡部はジャケットが付いています。
タンク内が完全負圧でジャケット圧力が400kPaAの条件が、ジャケットから本体が受ける最大外圧となります。
- タンク圧:0kPaA
- ジャケット圧:400kPaA
- 差圧:400kPaA(設計圧力)
このとおり、400kPaの外圧を受けるタンクという設計圧力を考えることになります。
大気圧を400kPaAに読み替えるだけなので、大きな混乱はしないでしょう。
本体の内圧に対する設計圧力(design pressure)
本体の内圧に対する設計圧力はジャケットが完全真空のケースを考えます。
こちらは本体圧力が200kPaでジャケット圧力が0kPaの時が、最大内圧となります。
- 本体圧:200kPaA
- ジャケット圧:0kPaA
- 差圧:200kPa(設計圧力)
200kPaの内圧を受けるタンクという設計圧力を考えることになります。
ジャケットが真空なんてありえないと思うでしょう。
ありえます。
スチームを張った状態でジャケットを締めきれば起こりえます。
スチームの温度が大気で冷やされていくと凝縮していきます。
完全真空とまではいかないかも知れませんが、負圧にはなります。
ジャケットの外圧に対する設計圧力(design pressure)
本体と同じようにジャケットも見てきましょう。
ジャケットの外圧は、ジャケットなし本体の外圧と同じ発想です。
- ジャケット圧:0kPaA
- 大気圧:101kPaA
- 差圧:-101kPa(設計圧力)
このとおり、101kPaの外圧を受けるジャケットという設計圧力を考えることになります。
ジャケットの内圧に対する設計圧力(design pressure)
ジャケットの内圧に対する設計圧力は、ジャケットが400kPaAで大気圧が掛かる条件を考えます。
- ジャケット圧:400kPaA
- 大気圧:101kPaA
- 差圧:299kPa(設計圧力)
このとおり、299kPaの内圧を受けるタンクという設計圧力を考えることになります。
まとめ
ジャケットなしとジャケットありの設計圧力の比較をしてみましょう。
差圧ベースで考えます。
ジャケットなし | ジャケットあり | ||
---|---|---|---|
本体 | 内圧 | 99kPa | 200kPa |
外圧 | -101kPa | -400kPa | |
ジャケット | 内圧 | – | 299kPa |
外圧 | – | -101kPa |
外圧には「-」の符号をつけています。
ジャケットの圧力が加わるとちょっとややこしくなりますよね。
落ち着いて場所ごとに分ければ難しくはありません。
最終的な設計圧力としては以下の表記になります。
ジャケットなし | ジャケットあり | |
---|---|---|
本体 | FV~99kPaG | FV~99kPa |
ジャケット | – | FV~299kPa |
設計条件をもとに、最も厳しい圧力条件として、以下の計算を考えることになります。
ジャケットなし | ジャケットあり | |
---|---|---|
本体 | 101kPaの外圧 | 400kPaの外圧 |
ジャケット | – | 100kPaの外圧 |
かんたんにいうと、タンクは外圧に弱く、外圧として最も高い条件を探す感じになります。
タンクの内圧外圧以外は考慮しなくて良いか?
タンクの強度計算をするときにプロセスの内圧外圧の議論はよくしますが、それ以外の要素は考えなくて良いでしょうか?
現実的には無視可能です。
タンクの自重
タンクの脚に掛かる自重圧力が一番影響が大きそうです。これを調べましょう。
タンクの脚にはタンクの空重量+液重量が加わります。
タンクの胴や鏡にも当然ながら作用します。
(タンクの空重量+液重量)/(脚の断面積)を自重圧力として計算してみました。
これを引張強さという指標で見ていきましょう。
- タンクの強度計算:引張強さの10%程度
- タンクの自重圧力:引張強さの3%程度
強度計算上の暗黙のルールとしてこの程度の圧力で設計するように決まっているようです。
自重圧力の影響は強度計算上は30%程度効いてくることになります。
これは当て板を付けたり脚の大きさを変えたりして圧力を分散させることで無視可能となります。
人・原料荷重
人や原料は一時的に発生する荷重です。
これは建物や作業架台に対する荷重として考えます。
一般には100kgf/m2などのオーダーで考えます。
圧力の単位では1kPa
設備に、こういう荷重がかかったとしてもほぼ無視可能です。
100kPa規模の圧力に耐える設備に対して1kPa程度の圧力とは1%の影響度しかないので無視可能という意味ですね。
配管荷重
配管荷重は、1m2あたり1kPa程度です。
1m2あたり50Aの配管が10本として考えます。
配管の重さ50A1本で1mあたり5kg、満水状態で8kg程度なので10本で80㎏
フランジや断熱の重さを考えても10本で100㎏程度
1m2あたり50A10本で100㎏なので、100kgf/m2
圧力の単位では1kPa
人・原料の荷重とほぼ同じで寄与度が1%程度です。
圧力容器設計の基礎図書
圧力容器の考え方を勉強するとき、まずは圧力容器の設計の基礎から勉強しましょう。
この本が有用です。
座右の銘としたいですね。
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圧力容器の計算について知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
最後に
化学プラントの圧力容器計算上必要な設計圧力について解説しました。
本体・ジャケットそれぞれに負圧・加圧の条件を考えて大気圧の影響も考慮します。
プロセス圧力以外の影響は自重・配管・人や原料がありますが、強度計算上は無視可能です。
負圧の影響を忘れがちなので注意しましょう。
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