化学プラントのオーナーエンジニアが設備投資を判断するときに行う予算見積(Budget estimate)についてまとめました。
オーナーエンジニアの最大の腕の見せどころです。
エンジニアリングの技術的能力の1つです。
習得までに時間が掛かりますが、身に着けておきたいスキルです。
ラング係数という概算見積と積上法という詳細見積がありますが、詳細見積が今回の話題です。
化学プラントでの予算見積(Budget estimate)の位置づけ
まずは化学プラントで予算見積がどんな位置づけにあるか紹介しましょう。
定期的な設備補修
設備を扱う以上は定期的な補修は絶対に必要です。
TBMで点検年数を決めて、1回のメンテナンスに掛かる費用を算出すれば、とりあえずの中長期的な見積が可能です。
10年20年先の計画を立ててしまうと、それっぽく見えます。
そしてそれを死守しようという勢力が出てきます。
でも実際はそんなに簡単には行きませんよね。
- 製品供給が止まってきて単価が上がる
- 施工会社の人数が少なくなって単価が上がる
- 部品の質が下がり、点検周期を短くしないといけない
- 運転条件が厳しくなり、点検周期を短くしないといけない
対象としている設備に関わる環境が変わることで、単価アップ・短周期化などのコスト上昇要因があります。
そういう環境要因を常にチェックしつつ、金額変動のフォローができるような予算見積が求められます。
新規製品導入
化学プラントに新製品を導入するときに予算見積をします。
一般に予算見積というとこちらのケースを想像するでしょう。
この金額次第で投資をするかどうか変わるケースもあります。
金額が高い場合、少なくとも投資内容は変わります。
例えば工程の一部を外部会社に依頼しますね。
自社に新製品を導入できるように、適正な見積をするのが機電系エンジニアの重要な仕事です。
予算見積(Budget estimate)で行うべきこと
予算見積では一般に以下の情報を含めます。
機械・電気・計装・土建という4部門に対して、設備・工事という仕分け方法があり必ずしも4部門に分けた見積をするわけではありません。
とはいえ機械分野に関していうと、見積内容は以下のような形に仕分けができるでしょう。
設備
設備そのものの見積額が化学プラントの投資としては最も重要です。
ラング係数が投資額/設備額で決まる係数であることからも、設備金額の重要性は分かるでしょう。
設備額は実際にメーカーに見積依頼をしないと正確な数字は分かりません。
材質・形状・容量などの数値がちょっと違うだけで金額は変わってきます。
しかし、多数の購入実績があればある程度は類推可能。
そんな適当な感覚で大丈夫?
そう思うかもしれませんね。
大丈夫ですよ。
予算見積上の設備額はメーカー見積額から水増しした金額にするのが普通だから、ある程度の類推数値で十分に対応可能です。
設計
設計とは配管図の作成などの設計費のことを言います。
機器設計・P&IDの作成から始まって、配管図の作成・現地工事のラインチェックなど多くの外部設計費が発生します。
工場内のプロジェクト経験を積めば、設備額から外部設計に掛かる日数を算出できて設計費を導き出すことができます。
投資額全体から見ると小さなものですが、漏れなく含めたいです。
工事
工事の費用とは、ここでは機械工事を指すことが一般的です。
足場工事を含めるかどうかは会社に依るでしょう。
機械工事としては以下のような費用があります。
これらの費用を地道に積み上げていくことが予算見積に必要です。
据付工事は重機のレンタル費や人の労務費がベースとなります。
配管工事は配管資材・内作・取り付けなどの費用を含みます。
断熱工事は断熱材費用・断熱材取付などの費用です。
それぞれユーザーにカスタマイズされた見積方法があるでしょう。
日々の工事の実績データをもとに、時間を掛けずにそれなりの精度の見積をするための手法の開発は、機電系エンジニアのスキルの1つです。
検査
検査費とは設備の受入検査や配管の気密検査などの費用です。
費用としては高くありませんが、漏れなく積算したいですね。
予算見積(Budget estimate)の金額の考え方
予算見積の金額の考え方も機電系エンジニアは持っておきたいです。
単に見積内容に対して積み上げ作業をして金額を機械的に算出するだけでは、エンジニアとは言えません。
徹底した合理化
機電系エンジニアが見積をするとき、コストダウンを求められがちです。
外部のプラントエンジニアは特にこの傾向が強いでしょう。
安い金額でないと注文が取れないという危機感があるからですね。
ユーザーも複数の工場でコンペをする場合には、こういう危機感が出てきます。
不確定要素の積み込み
化学プラントで見積をする場合には、コストダウンを過度にせず余裕を持とうとします。
化学プラントではコンペ相手がそこまで多くはありません。
経営企画を担う部門からみたら、ねらい目の工場が1つであることが普通です。
対抗馬に別の工場にも見積を取るということもあるでしょうが、無駄な見積を避ける傾向にあります。
さて余裕を持つメリットについていくつか紹介しましょう。
- 着工前には未確定のプロセスがあっても変更が効く
- 市況環境の変化で資材費・労務費が上がっても対応できる
- スピード重視で作った設備を、試製造後に改造できる
コンカレントエンジニアリングやスピード重視の設計をする場合には、予算に余裕を持っておきたいと思います。
予算申請者が財布を握る経理に話をするときに、1度なら承諾してくれても2度3度と申請をしていたら嫌がられます。
子供がお小遣いを要求して来る時を考えれば分かりやすいでしょう。
ラング係数
予算見積をする場合、ラング係数の考え方は必須です。
概算見積としてのラング係数を使った方法も大事ですが、詳細見積でもラング係数は使えます。
というのも詳細見積の結果に対して、ラング係数を算出して大きな差があるかどうかを検証材料に使えるからです。
ラング係数は自社の多くの見積データをもとに積み上げていくもの。
ラング係数のデータ精度をあげるためにも、詳細見積に対して検証としてラング係数を使っていきましょう。
投資効率を判断できない
残念ながら機電系エンジニアは投資効率を判断できません。
できるのは設備投資の金額のみです。
その金額が妥当かどうかを判断できないのは辛いですよね。
投資の良否を判断するには以下のような情報が必要です。
- 生産量
- 予想売上
- 投資に伴う費用
生産量などは営業部がデータを持っていますし、費用については人件費・原料用役費・環境処理費などさまざまな項目があります。
母体が大きくなればなるほど、特定の部門だけで算出できるものではありませんね。
投資判断において設備投資額は大事な要素ですが、それが全部ではないということは認識しておきましょう。
予算見積(Budget estimate)のスケジュールの考え方
予算見積上はスケジュールの考え方も大事です。
予算見積を作成する段階で、着工から現地工事完成までの工程表を作ります。
「着工から」というのは杓子定規であって、実際には着工前に設計を進めています。
エンジニア用語ではFEEDと呼んだりしますが、オーナーエンジニアレベルでも先行設計というような表現で前倒ししているでしょう。
これは会社が経営判断を極力遅くしたいと思っているから。
経営判断を先延ばしにしつつ商業生産までの期限は決まっているので、設計や工事の期間がどんどん短くなっていきます。
それでも、プロジェクト開始後にP&IDが何度も変わって追加要求が出ることは多いです。
身内としてオーナーエンジニアを抱えている工場ほどこういう甘えが起きます。
こんな風潮なら、費用の発生時期に対して設備案の確定時期を明確に決めましょう。
オーナーエンジニアが自社に存在価値を認めてもらうために、過度な要求に答えている時代は終わりました。
多少断っても大丈夫です。
外部プラントエンジニアに依頼するよりはよっぽど信頼感があり、安上がりなのがオーナーエンジニアなので、信頼感はそう簡単にはなくならないでしょう。
参考
最後に
化学プラントの設備投資に対する予算見積について解説しました。
ラング係数法に対して積上法としての詳細見積も機電系エンジニアのスキルの1つです。
自社の見積をこなしていく上でデータベースの構築をしていきましょう。
金額やスケジュールに対する考え方は、ユーザー独自の色がでやすいですね。
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