保全に関する打合せや会議で、「TBM」「CBM」「BM」といった言葉が飛び交うことがあります。ですが、これらの言葉を本当に正しく理解している人は意外と少ないと感じます。
私自身も「なんとなく」で会話に参加していた時期があり、後で「やっぱり意味がずれていた」と気づいた経験が何度もあります。
この記事では、保全方式に関する基本的な用語について整理してみたいと思います。
この3つを業界用語的に当たり前に使えるようになれば、保全担当者として1歩前進した感があります。この人知っているな・・・感が出ます。
他の略語は、「そんなものもあるのだ~」くらいの気軽な気分で見ていっていただければOKです。
この記事は、TBMシリーズの一部です。
TBMとCBMのどちらを選びますか?|化学プラントの場合
TBMの設定周期を変更するときに考えるべきこと
TBMとCBM|設備保全のベテランでも悩む問題
私が困った事例
最初に戸惑ったのが、この「予防保全」。ある人はPMという広義の意味で使い、別の人はTBMやCBMの狭義の意味で使っていました。
たとえば、
- 「予防保全でやってるよ」→ 実際にはCBMだったり
- 「事後保全にならないように予防してる」→ 具体的にはTBMだったり
「予防保全」と言っても、人によって意味が違っていました。困りました。
他にも、TBMとCBMを良く考えずに使っていて、
- タンクは1年に1回見ているからTBM → 中を見るだけで補修は何もせずコストは掛かっていない
- ポンプは壊れそうになったら検査をするからCBM → 検査をするのでコストは掛かる
- 減速機は一定期間で点検交換 → TBMであるが、交換部品数が大小合って変動する
というように単純なTBMやCBMという単語では表しきれない問題があります。これを放置していると、せっかくの補修費解析が無意味になりかねません。工場の実態を示せなくなります。
予防保全(PM:Preventive Maintenance)
保全においてPM(予防保全)という考え方があります。
PMというのは、昨今の保全の基本となる概念です。PMは予知保全の略です。
簡単に言うと壊れる前に保全しましょうという考えです。シンプルですよね。
この概念がなかった時って、酷かったみたいです。

壊れてから直す。壊れても仕方がない。
1年365日の運転に対して、生産停止の日数が多かったみたいです。
PMには以下の3つの保全方式から成り立っています。
- TBM
- CBM
- BM
バッチプラントでは実務上はこのTBM・CBM・BMを知っているだけで、TPMとしては合格ラインに到達します。
定期保全(TBM:Time Based Maintenance)
TBMは定期保全の略です。
設備ごとに周期を決めて点検したり、部品を交換したりする方式です。
人間でいうと、健康診断を毎年受けている状態
健康だろうが不健康だろうがとにかく毎年受ける、周期を決めるという点だけが似ています。
さすがに、人間の場合は定期的に部品を交換するわけにはいきません・・・。
壊れるまで使い続けるのではなく、ちゃんと定期的に設備を見て交換しましょう。
当たり前のように見えますが、設備数が多いとそうも言っていられません。
保全をしていると言い張れますが、オーバーメンテナンスとなる可能性があります。
今年メンテナンスをしなくても、1年以上壊れなかった可能性があるのに、4年経ったから問答無用で交換するという可能性があります。
TBMはバッチ系化学プラントの設備の20~30%が該当します。
予知保全(CBM:Condition Based Maintenance)
CBMは予知保全です。状態保全とも言います。
設備の状態を診断して、適切な保全タイミングを見極める方式です。
運転データ、日常点検・定期点検などの定期記録を基に判断します。
人間でいうと毎日体温測定をして、体温が高いと休む。
定期的にデータを採取するという意味でTBMと誤解が起こりそうな用語です。
- TBMは定期的に部品を交換
- CBMは定期的にデータを取りその状態に応じて部品を交換
これがTBMとCBMの使い分けです。
CBM]では、オーバーメンテナンスを防ぐメリットはありますが、データ採取の工数が掛かるデメリットがあります。
CBMは特に重要に限定して行います。数基~10基程度です。
プラントの日常点検について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
事後保全(BM:Breakdown Maintenance)
BMでは事後保全と言います。
壊れたら交換します。
人間でいうと、髪の毛とか爪とか伸びたら捨てるでしょうか。たとえが少し難しいですね。
人間の場合で、壊れるまで放置しておくというケースがほとんどありません。
設備でBMというのはかなり重要な考え方です。
というのもメンテナンスにおいて、全ての設備を限られた戦力でカバーすることはできません。
壊れても大きな影響のない設備は見るのを諦めて、壊れてから対応する。という方法を取ります。
どの設備までをBMとするかは工場のメンテナンス思想に重要な思考です。
重要でない設備だからBM、という思考ではありません。
その他の用語
TPMの用語は、実務上はTBM・CBM・BMの3つで十分だと思います。
他にも用語がありますが、参考までに紹介します。
改良保全(CM:Corrective Maintenance)
壊れたら直す、ではなく少しでも機能を良くしようという思想です。
昔の日本では流行りましたが、今では化学設備では難しくなっています。
協力してくれる化学設備メーカーが激減しているからです。
保全予防(MP:Maintenance Prevention)
保全というよりは保全活動という方が良いでしょうか。
保全という括りで議論すべきではありません。
生産保全(PM:Productive Maintenance)
設備購入費+設備運転費+設備補修費を最小化するような保全です。
この思想を取るには、BMの思考が重要であったりします。
TBMで4年周期で40年使うのが良いのか、BMで平均10年ごとに4回買い替える方が良いのか。
BMではどれくらいの頻度で壊れるかが読めないため、結果論になりがちです。
でも思想としてBMでできる設備構成にするという手もあります。
分かりやすい例が据付予備ですね。
MP≠PM
単語を何となくでしか見ていない人の中には、MPとPMを同一視している人がいます。

単に、記載間違いでしょ?
という安易な思想です。
この2つは明確に違います。
- MPはMaintenance Prevention、保全予防
- PMはProductive maintenance、生産保全
PMは保全そのもの
PMとはTPMの原型、つまり保全活動そのものと考えればいいです。
いわゆる保全業務の概念であり、TBM・CBM・BMなどの区分はPMの具体的な手法です。
その意味で、TPM・PMとTBM・CBM・BMを並列で考えることそのものが、ずれています。
横文字だから同じような意味でしょ?と考えることがおかしいです。
MPは改良設計保全
MPは保全活動という意味では少し外れた場所にあります。
MPは改良設計保全という位置づけです。
- 壊れた設備を単に直すだけでは何も進歩しない。
- 原因を調べて、対策を取り、同じ設備トラブルを起こさない。
その活動をMPと言います。
昨今の保全では、緊急的に部品交換をすることで対応するケースが多いので、改良がなかなか進まなくなっています。
メーカーの改良設計がもう限界だからですね。
ユーザー側もメーカーの改良設計任せで、自分たちで何も責任を取れない。
この関係性が問題を悪化させていっています。
TPMはTotalのPM
TPMとはTotal Preventive maintenanceの略です。
PMをTotal版です。
PMを全体に発展させましょう。システムと考えて取り組みましょうという思考です。
TPMは製造業に勤める社員なら誰でも知っています。
でも、TPMの略語の意味を知っている人は少ないでしょう。
保全というPMの位置づけの一部ということを理解している人は多くはありません。
参考
関連記事
TPMに関して詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
PMという単語以上にTPMというワードが知れ渡っているでしょう。
設備保全エンジニアにとってはTBM・CBM・BMという単語も日常的に使います。
保全方式に関する言葉は、定義があるようで実はあいまいに使われていることが多いです。
「言葉の正しさ」だけで判断せず、その人が何を指して話しているのかを汲み取る姿勢が大切です。
あなたの現場では、「予防保全」や「CBM」などの言葉がどんな意味で使われているでしょうか?
一度立ち止まって考えてみると、保全の本質が見えてくるかもしれません。
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