設備保全の基本手法であるTBM(時間基準保全)は、多くの現場で長く使われてきました。しかし、その設定や見直しを属人的な判断に任せてしまうと、長期的な設備の信頼性確保には大きなリスクが生じます。
本記事では、単純な周期変更がなぜ問題なのか、設備の履歴や運転条件、系統全体の視点を含めた多角的な考え方がなぜ必要かを解説します。保全のプロとして信頼されるためのポイントもご紹介します。
ここまでできるようになれば、保全のエースと呼んでも過言ではないでしょう。弊部では1人いるかどうかの世界です。
この記事は、TBMシリーズの一部です。
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TBMの良くない変更パターン
今回は、以下の設備保全を対象とします。
TBM4年の減速機
TBM4年なので、4年に1回はメンテナンスをします。
例えばオイルの入れ替えやギアの交換など、消耗品の交換をします。
いつもは4年で運用していて問題なかった(オーバーメンテかも知れないけどそれは知らない)のに、3年目で壊れて交換せざるを得なかった。
こういう時に、メンテナンスをした後でこんな結論になったりします。
3年で壊れたから、TBM4年をTBM3年に変更する。ヨシ!
これで保全周期を見直して、運用していくというパターンです。
弊社で非常によく見かけます。
けど、こんな単調なロジックで変更していいものではありません。
変更するために抜けていること
では、どんなふうに変更しないといけないのか、抜けている部分を解説しましょう。
設備によって多少のアプローチは異なるかも知れませんが、この基本を守るとかなりカバーできると思います。
過去の履歴を考えない
4年で駄目だったから3年にする。
一見良さそうに思えますよね。
保全エンジニアとしては、これではNGです。
まず最初に考えるのは過去の履歴。
- 設置後3年で壊れたなら、初期不良
- 設置後23年(4年点検5回+3年目)で壊れたら、何か理由がある
- 設置後43年(4年点検10回+3年目)で壊れたら、寿命
こんな比較が、設置年数と点検年数だけからでも類推できます。
最低でも、設備のこれまでの履歴は保全担当者としてチェックしましょう。
信頼性の高い保全をするために、必須の情報です。
こうするとちょっと良くなります。
設置後23年目の減速機で、前回点検後3年で壊れたから、TBM4年をTBM3年に変更する。ヨシ!
類似設備と比較しない
TBM4年の減速機を想定していますが、そもそも他の減速機は何年でTBMしているでしょうか?
全部4年に決まっていると思ってチェックしませんか?
チェックしてみると意外と抜けていることに気が付くはずですよ。
例えばTBM1年とか5年になっている減速機があるはずです。
ここで、そのTBM周期を決めた根拠が残っていて、説明可能ならOKでしょう。
大抵は残っていません。
今回は一応TBM4年の減速機が主流という前提で行きましょう。
情報が増えていきますね。
設置後23年目の減速機で、減速機は通常TBM4年で管理していたけど、前回点検後3年で壊れたから、TBM4年をTBM3年に変更する。ヨシ!
運転条件と比較しない
設備保全者は設備にだけ目を向けてしまい、運転条件に目を向けようとしません。
運転経験者が保全担当者に異動したら、両方の目で見られるはず。
そう思っていた時期が私にもありました。
たいていの人は、これができません。
運転担当者は運転担当者の目でしか見ず、保全担当者は保全担当者の目でしか見ない。
不思議とこうなります。
運転条件が違うだけでも、寿命って変わるはずですよね。
例えば、こんな感じです。
設置後23年目の減速機で、減速機は通常TBM4年で管理していました。20年目までは生産Aにだけ使っていて運転回転数は50rpm、21年目から生産Bの運転を行うようになって運転回転数は100rpmでした。生産Bの運転後3年で壊れたから、TBM4年をTBM3年に変更します。ヨシ!
極端な例ですけど、こんな感じで理由が見つかると信頼感が増します。
この場合のように、回転数だけで周期を変更できるとは限りませんが、生産品目が変わるなどの大きなタイミングでは、運転条件の変化を¥が保全方式に影響を与えるかどうかはチェックしましょう。
実際に、これができている保全担当者はそんなに多くは無いと思います。
系統全体を俯瞰しない
運転条件に近いのですが、その運転を行う系列という視点で見ておくことは必要です。
例えば、こんな感じでしょう。
設置後23年目の減速機で、減速機は通常TBM4年で管理していました。20年目までは生産Aにだけ使っていて運転回転数は50rpm温度は30℃、21年目から生産Bの運転を行うようになって運転回転数は100rpm温度は120℃で強酸を扱っている設備になりました。生産Bの運転後3年で壊れたから、TBM4年をTBM3年に変更します。
温度と酸の影響が考えられるかもしれませんので、少なくとも同じ系統の設備は減速機以外も含めて周期の見直しをします。ヨシ!
系統とは反応という表現をしても良いでしょう。
生産Bで反応B1,B2,B3,B4という4つの反応を行うとして、B2の工程で今回の減速機が該当していたとしましょう。
B2反応では他にも減速機やポンプがあります。どれも120℃の強酸です。
この場合、減速機だけを見て判定見直しをしても意味がありません。ポンプが怪しいですよね。
見落としが無いようにしましょう。
こういうときに保全台帳に、設備の情報だけが乗っているパターンだと対応できません。
工程情報とリンクしていないと、チェックがほぼ無理です。
参考
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最後に
TBMの設定や見直しは単なる数字の変更ではありません。過去履歴の確認、類似設備との比較、運転条件の分析、そして系統全体の俯瞰という多視点で考えることが不可欠です。属人的で短絡的な判断は長期的な信頼性低下につながります。
保全エンジニアとして「考えて動く」姿勢を持つことで、設備の安定稼働を支えるエースとなれるでしょう。
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