化学プラントを安全安定に運転するためには、日常点検(OSI)は欠かせません。
製造設備管理者は、このために存在していると言っても良いくらい。
生産技術の保全担当者が定期点検側をフォローして、製造設備管理者は日常点検をフォローする体制であるとして、日常点検でできることをまとめてみました。
当然ながら、定期点検よりもできることは限られています。
それでも現場で日常的に管理することで、トラブルを未然に防いだり定期点検でカバーできたりと、貢献度はとても大きいです。
検査器具
まずは検査器具について解説します。
定期点検ができない以上は設備を開放して目視検査などができません。
そのために各種の検査器具が開発されていますが、残念ながら費用対効果で疑問がでるものばかりです。
赤外線カメラ △
赤外線カメラを使って、断熱の良否を測定しようという狙いです。
バッチ系化学プラントで適正に検査する場所はほとんどありません。
運転温度が高くても120℃前後ですから。
連続工場などのもっと高温設備向けに対して活用できるでしょう。
カメラという意味では、近年は防爆カメラや高感度カメラなどが開発されてプロセス用に使っています。
赤外線カメラは古き良き技術でしょう。
SCCチェッカー ×
SCCチェッカーはステンレス鋼の応力腐食割れを測定するものです。
ステンレスで応力腐食割れが怖いのは確か。
でも、バッチ系化学プラントではステンレス鋼にそんなに寿命を求めません。
耐食性を求めるなら、材質をもっと上げます。
UT割れ進行チェック ×
UT割れ進行チェックは、球形タンクの割れ等をチェックするらしいです。
私はこの器具を知りません。
使ったことは当然ありません。
球形タンク自身がほとんどないので、そもそも使わないという状況。
チューブ探傷 △
チューブ探勝は熱交換器のチューブのシール溶接部を確認する方法です。
一応使います。
他にもマイクロスコープを使ったりします。
でも、これをOSIで行うことはしません。
並列で据付予備を持っている機器について、片側を開放して検査しながら、盲片側で運転するということなら行います。
並列予備の設備を運転中に開放して使うという意味でしょうか。
OSIとしては疑問です。
詰まりチェッカー ×
詰まりチェッカーはX線やγ線を使って、配管外面から詰まりを調べる方法です。
まず使いません。
X線やγ線を使う測定機自体が危ない。
詰まりが分かったところで対策が取りにくいし、外して洗浄することになるからです。
漏れチェッカー △
漏れチェッカーも一時期流行りましたが機能していません。
空気配管の漏れ音を検知して調べる方法がメジャーですが、そもそも空気漏れがあっても費用が安かったりするので効果が低いです。
スチームの漏れも測定できそうで、スチームは単価が高いですが、そもそも漏れたら目で見て分かるので器具は別に要りません。
フロンの漏れを検出すr装置があり、フロンの漏れを気にするユーザーが徐々に使用しています。
残留応力 ×
装置の残留応力をX線などを使って調べる方法です。
バッチでは運転中の検査として行う意義がかなり低いです。
連続でも超大型機器などに限るのではないでしょうか?
とにかく使いません。
肉厚測定器 ○
肉厚測定器はどちらかというと定期検査時のアイテムです。
タンクの肉厚は運転中でも検査できますが、機会はあまりありません。
プロジェクトで今使っているタンクを転用できるか早く調べたいときに使うでしょう。
マイクロスコープ △
マイクロスコープも熱交換器のチューブ探傷と同じく日常検査としては使えません。
開放しなければ検査できない以上、OSIとしては機能しません。
電流計 ○
電流計は日常点検でも使えます。
でも、電流が劇的に変化することはほとんどないので、電流計を使って原因を特定できた例を私はあまり知りません。
データとしては使えるので、保全活動上は重宝します。
タンクの日常点検(OSI)
タンクの日常点検について解説します。
外面
外観検査はタンクの日常検査の基本です。
漏えいや保温保冷の劣化はチェックできます。
化学プラントのタンク内に保有している流体の大部分は可燃性物質です。
漏れると火災爆発の原因になります。腐食が進行する要素ともなります。
タンクの場合はマンホールが最も漏れやすいでしょう。
というのも口径が大きいからです。
口径が大きい方が
- シール面積が大きい
- 必要な締付力が大きい
- 必要なボルト数が大きい
などの問題で漏れる要素が高くなります。
振動
タンク自体に振動という単語は結び付かないかもしれません。
ですが、液の受け入れ・払い出しの時に振動する可能性があります。
流体が流れると配管が振動し、その配管の振動がタンクに伝わるからです。
普通のタンクなら配管と直結するから、その振動が直接伝わります。
タンクの温度と温度差が大きい液体を受け入れると、配管が伸び縮みして、タンクノズルのガスケットを損傷させる可能性があります。
タンク上部にあるノズルよりも下部にあるノズルの方がダメージを受けやすいです。
差圧式液面計などタンク下部に付けるノズルでは、液の払い出し時の振動で、漏れのリスクが高まります。
熱交換器の日常点検(OSI)
熱交換器の日常点検について解説します。
プロセス計器
熱交換器周りの液面計や温度計を監視する方法です。
熱交換器は伝熱管が腐食して液が漏れてきた場合に検知できます。
チューブが割れることでユーティリティの液面が下がったり、温度が上がったり、ポンプの圧力が下がったり・・・
現場パトロールをしなくてもDCSでも分かる検査方法です。
異音
熱交換器で異音を測定するということは不可能ではありませんが。普通はしません。
伝熱管取り付け部のゆるみや伝熱管と邪魔板の間の衝突で伝熱管が振動することを異音として検知しようというもの。
マイクなどを使わずパトロール時に人間の耳で検知するくらいなので、気休めです。
ユーティリティ配管の流速を聴診棒で聞くこともできますが、ほぼ意味はないでしょう。
外面
保温保冷が適切にできているかどうかを外面を見て判断します。
保温保冷中に水分が浸透することによる腐食は起こりえます。
日常点検のパトロールで目視確認するしかありません。
ポンプの日常点検(OSI)
ポンプの日常点検について解説します。
外観
ポンプの外観検査といえば漏えい。
特にメカニカルシールが大事。
グランドシールを使う工場はほぼないはずですし、グランドシールなら多少の漏れは許容されます。
メカニカルシールも完全に漏れないかというとそうではありません。
内容物が外部と接触しているという意味で、漏れのリスクはあります。
キャンドポンプやマグネットポンプのようなシールレスポンプなら、ガスケットやOリングからの漏れしか起こらないので、漏れのリスクが少ないと言えます。
メカニカルシールはいったん漏れ出すと、増し締めも何も効かなくなるのが普通なので、漏れたらすぐに止める必要があります。
一般に、起動停止時に発生しやすいので、起動停止が頻繁に起こる系にはメカニカルシールは極力使わない方が良いと思っています。
起動停止を1日に数回以上の頻繁に行う箇所に、メカニカルシールを使うとすれば、スラリー系に限定した方が良いと思います。
圧力
ポンプには現地圧力計を付けると思います。
圧力計を見るのはポンプの日常点検の基本でしょう。
この指示値が極端にずれているかどうかを見ることは、起動停止時に行うと思います。
これが最も現実的な、傾向監視方法でしょう。
圧力計のゲージに赤線を付けて、運転適性範囲を示しているケースも多いと思います。
温度
温度としては軸封の温度が最優先でしょう。
メカニカルシールもグランドシールも冷却液不足で、温度上昇するために壊れますから。
とはいえ、この温度を普通は日常点検では測定しないでしょう。
軸封の温度上昇するとすぐ壊れます。ポンプ内溶液の温度上昇も起こりえます。特に危険なのがスラリー系。
吐出口が詰まってしまい、ポンプで強引に回そうとすると温度が上がります。
これも温度が上がる前に、電流が落ちてポンプが停止する方が先でしょう。
ポンプの力を加えて内容物の温度が上がると危険な液であれば、ポンプに温度計を付けて温度指示値が一定値になるとポンプを強制的に止めるといいでしょう。
潤滑油の温度やモータの温度も測定するのは大型の連続ポンプ等レアケースです。
間欠運転なら、温度が上がる前に空気で冷やされます。
異音・振動
異音・振動もポンプとしては測定可能ですが、バッチ系化学プラントではタイミングが難しいです。
ポンプは起動・停止時に大きな異音が無いかどうかを聞くくらいです。
異音は耳でも十分わかるので日常点検の範囲。
振動は目で見えるほどの変化は普通はありません。
参考
日常点検や設備保全に関する情報は、近年できることが急速に増えています。
一足飛びに成果を求めがちですが、何ができるかを考えるときには設備の基礎知識は欠かせません。
以下の本で一通り学習してから、実務に当たりたいですね。
関連記事
さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントで使う運転時の検査方法について解説しました。
いくつかの検査器具が使えますが、費用対効果の面で問題だらけ。
外観・異音・圧力などの分かりやすい指標を見る程度しか日常点検ではできないでしょう。
DXが進んだ10年以上先にならないと、工場内全データの可視化は難しいですね。
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)
*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。