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JIS A 9501|最適保温厚みを計算しました

最適保温 工事
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JIS A 9501 保温保冷工事施工標準の計算表を使って、最適保温厚み(Insulation thickness)を試しに計算してみました。

保温厚みの計算をして自社に最適な設計をしている会社は、おそらく相当少ないと思います。

JISの基準通りの値を採用していることでしょう。弊社も同じです。

仮に設計条件を変えたいという場合でも、多くの計算ソフトがすでに出回っています。

その意味で、本記事の内容を使う機会はほぼありません。

JISの基準を見ながら自分で計算して答え合わせをすることで、基準に対する理解を深めたり他のエンジニアリング計算に活用するための参考になればと思います。

ずっとエンジニアリングの担当者として業務をするならば、こういう計算に慣れていた方がいいです。

一定年数を超えてマネージャー管理業務に移行すると、計算する機会が少なくなって技術的に劣化してしまうでしょう。

最適保温厚み(Insulation thickness)の前提条件

計算対象の条件を整理します。

  • JIS G 3452 SGP配管の外径
  • 周囲温度 20℃
  • 表面熱伝達率 12W/(m2・K)
  • 年利率 5%
  • 使用年数 15年
  • 熱量価格 5円/(kWh)
  • 年間使用時間 4000時間

この辺のパラメータは日本ではほとんど同じ条件で使えるでしょう。

あえて変えるとすれば、寒冷地に対して周囲温度を変えるという程度。

年利率・使用年数・熱量価格を変えるというのは、海外など日本とは条件が違う場合にほぼ限られるでしょう。

この影響範囲を気にしていたら、いつまで経っても厚みを決定できません。

計算式も整理しましょう。

保温材工事費

$$ a=10^3×(12×d^{-k}+300) $$

k=1.00~1.30で口径に依存します。

けい酸カルシウム保温筒を想定しています。

熱伝達率

$$ λ=0.0407+1.28×10^{-4}×Θ $$

年間の償却率

$$ N=\frac{n×{(1+n)}^y}{{(1+n)}^y-1} $$

最適保温厚み(Insulation thickness)の計算例

最適保温厚みの計算は、放熱量計算とコスト計算の2つからなります。

最適保温厚みの決定プロセス
  • ステップ1
    放熱量計算
  • ステップ2
    コスト計算
  • ステップ3
    最適厚みの選定

今回はシンプルな例として、配管の保温を取り上げます。

保温と保冷、平面と配管でちょっとずつ計算式は違ってきますが、基本的な考え方は同じです。

放熱量

まずはメインの放熱量計算を行います。

放熱量の計算は熱伝達率×温度差で決まります。

表面熱伝達率と保温材の熱伝達率の合成熱伝達率(熱通過率・熱貫流)を考えます。

放熱量計算

$$ q=\frac{1}{R_t}(Θ_{si}-Θ_a) $$

熱抵抗計算

$$ R_t=\frac{1}{2πλ}ln\frac{D_e}{D_i}+\frac{1}{h_{se}πD_e} $$

ここで保温材外形Deに仮定が入ってしまいます。

仮定した保温厚みに対して経済性計算をして、最適な保温厚みを計算するというプロセスになります。

保温厚みの計算プロセス
  • ステップ1
    保温材厚みの仮定
  • ステップ2
    経済性評価
  • ステップ3
    最適厚みの選定

周囲温度20℃・保温材内温度100℃・15Aの保温厚み20mmという条件で計算してみましょう。

外気20℃に対して配管を100℃に保ちたいという条件でまずは保温厚み20mmで計算しよう、という意味ですね。

温度勾配(Insulation thickness)

保温材平均温度

保温材平均温度Θを最初に求めます。

これは保温材の内側と外側の温度の平均をとります。

内側100℃・外側20℃なので、(100+20)/2 = 60℃

厳密には周囲温度と保温材外側温度は同じではなく、保温材外側温度のほうがやや高いはずですが、ここは無視します。

計算がややこしくなります。

保温材熱伝達率

次に保温材の熱伝達率を計算します。

保温材の熱伝達率は、保温材の温度に依存します。

ここで先に求めた保温材の平均温度Θを使います。

0.0407+1.28×10-4×60 = 0.0484 W/(m・K)となります。

熱伝達率への温度の影響はあまりありません。

全体熱抵抗

全体熱抵抗の計算をしましょう。

まずは保温材の熱伝達率から。

1/(2×π×0.0484)×ln(61.7/21.7) = 3.4 (m・K)/W

ここで

  • 15AのSGPの外径は21.7mm
  • 保温厚み20mmなので、保温材外径は21.7+20×2=61.7mm

となります。

繰り返しますが、保温材の厚みが変わるとここの計算結果が変わります。

同じように表面の熱伝達率も計算しましょう。

1/(12×π×0.0617) = 0.5 (m・K)/W

保温材外径の単位をmにするのを忘れないようにしましょう。

最後に、全体熱抵抗を計算します。

Rt=3.4+0.5 = 3.9 (m・K)/W

となります。

放熱量

ここまでくれば放熱量の計算は簡単です。

1/3.9×(100-20) = 20.7 W/m

です。

この数字だけでは何のことかちょっとわかりませんね。

コスト

保温材のコスト計算を見ていきましょう。

償却率

償却率の計算をそのまま当てはめます。

{0.05×(1+0.05)15}/{(1+0.05)15-1} = 0.096

保温材施工単価

保温材の施工単価も計算式そのままです。

12×0.020-1.3+300=2,240 千円/m3

経済保温厚さ(Insulation thickness)算出

経済保温厚さの計算は以下の2つを足し合わせます。

  • 保温材施工価格
  • 放熱量単価

保温材施工価格は

π/4*(0.06172-0.02172)×2240×0.096 = 563

となります。

保温材の重量を同心円の円柱として計算して、償却率を掛けています。

単位は千円にまとめています。

放熱量単価は

5×4000×20.7/1000 = 414

となります。

熱量単価に放熱量と時間をかけたものです。

なお、計算は単位mで考えています。

2つのコストを足し合わせると

563+414=977円/m

となります。

周囲温度と最適保温厚み(Insulation thickness)の比較

この計算は、周囲温度20℃で20Aの配管内を100℃に維持するための保温厚みを計算するためのものです。

これまでの計算では、保温厚み20mmだとコストが979千円/mだということを示しました。

同じように保温厚み30mmや40mmも計算していきます。

データだけ載せましょう。

  • 保温厚み20mm 977円
  • 保温厚み25mm 1160円
  • 保温厚み30mm 1389円

この結果からは20mmが最適だとなります。

JISの表と照らし合わせると25mmです。

ちょっと違いますね。

でもこの差は気にしない方が健全です。

JIS上にもコメントがありますが、プログラムの端数処理によって差が出てきます。

おおよそOKなら良いでしょう。

参考

JISのように広く知れ渡っている基準は、その根拠を知らずに使ってしまいがちです。

考え方は伝熱学の基本を使っているだけですので、以下の本で勉強すれば理解が深まると思います。

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断熱について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

断熱は伝熱計算がメインになります。詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

最後に

JISの最適保温厚みの計算例を紹介しました。

この計算をエクセルなどで作ってみて、結果を比べてみるとほぼ同一であることが分かり、エンジニアとして自信がつきます。

例えば周囲温度を0℃にしたらどうなるだろう・・・と自由に計算することが可能です。

化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)

*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。

  1. より:

    教えて下さい。
    コスト計算の保温材施工単価のところですが、冒頭の計算式では初めに10の三乗をするようになっています。JIS規格でも同式となっていました。実際に計算するページでは、この10の3乗が省略されていますが、この理由を教えて頂けませんでしょうか?

    • ねおにーーと より:

      ありがとうございます。
      千円単位でまとめたかったのですが、計算間違いをしていました。