実務の熱交換器の伝面計算では、練習問題にあるような標準的な計算をすることはあまり多くはありません。
目標である温度範囲に結構な幅があったり、成り行きであったりします。
こういう中で、ある程度の仮定を置いて熱計算を置いて設計しても、余裕率という考えの中で結果が変わってきます。
この件を、伝熱面積が変わった時の影響というテーマで、解説します。
実務的には、余裕がある方が良いので詳細計算に踏み切らなくても良いでしょう。
学問的・計算テクニック的にどういう扱いをすればいいのか気になる方向けの内容です。
基礎的な熱交換量の計算
まずは一般的な熱交換の計算方法を見てみましょう。
プロセス液を冷却液で冷やす場合を考えます。
ここで、一般にはプロセス条件が与えられて、それに適用できる熱交換器と冷却水の設計を行います。
計算の流れは以下のようになります。
- ステップ1プロセス液の交換熱量を計算
プロセス液の流量×比熱×温度差
- ステップ2冷却液の流量を決める
配管口径の選定
- ステップ3冷却液の温度差を決める
冷却液の流量×比熱
$$ Q_1 = mCΔt_1 $$
で交換熱量を計算します。
mC=2,000kcal/h/Kとしたとき、Δt1=10℃とするためには、Q1=20,000kcal/hとなります。
これに合わせるように、冷却水の流量も決めます。
今回は、簡単に計算できるように、Δt2=10℃となるような流量を考えて、C=1kcal/kg/K(水)、m=2000kg/hとします。
プロセス温度と冷却温度は以下の通りに決めます。
ここで、プロセス液と冷却液の温度差はΔT1=20℃と決まるため、
$$ Q_1 = UAΔT_1 $$
U=100kcal/(h・m2・k)、A=10m2としたときに、
Q1=100*10*20=20,000kcal/hとなります。
これで、おしまい。
熱交換器の仕様書を書いてメーカーに設計製作してもらう、という流れでしょう。
伝面が微妙に変わる場合は?
熱交換器の設計をしたときに、一般には余裕率を含みます。
上で計算した値よりも伝面が大きいものを選定して運転するでしょう。
この時の予想される運転温度が、どういう考え方で計算されるかを見ていきましょう。
例えば、伝熱面積を10m2から11m2にアップします。
この場合でもUは変わらないとします。(流量は変わらず、温度も微妙な変化で物性が変わるほどではないから)
得られる結果の方向は以下の通りになるはずです。
- ΔTは微妙に変わる
- プロセス出口温度は低くなり、冷却液出口温度は高くなる
簡易計算としては以下のように行います。
UとΔTが変わらずにAが11m2に変わるだけと考えて、Q1=20,000×1.1=22,000kcal/h
mとCも変わらないので、Δt1=11℃。
40-11=29℃
微妙に温度差が変わりますよね。
ΔT1は20℃ではなく、19℃くらいが正しそうです。
Q1の計算の修正を行いましょう。
Q1=100×1.1×19=20,900kcal/h
交換熱量が思ったよりも下がります。プロセス液の温度変化は、10.45℃となります。
繰り返していきましょう。
Q | ΔT1 | Δt1 | |
1回目 | 22,000 | 20.0℃ | 11.0℃ |
2回目 | 20.900 | 19.0℃ | 10.4℃ |
3回目 | 21,505 | 19.5℃ | 09.7℃ |
4回目 | 22,247 | 20.2℃ | 10.1℃ |
5回目 | 21,876 | 19.9℃ | 09.9℃ |
何となく、ある値に収束していきそうな気がしますね。
化学工学の分野では、こういう繰り返し計算は頻繁になされます。
実務的には、余裕があるからOK、詳細計算は不要!となりますね。私もこういう計算を実務でしたことはほとんどありません。
伝面が大きく変わる場合は?
伝面の多少の変化量であれば、もともとの結果をそのまま使ったり、簡易の繰り返し計算で補正すればいいでしょう。
伝面がもっと大きく変わった場合に、計算しようとすればどうしましょうか?
この場合は、微分で計算することになります。
伝面を微小区間ΔAに分割して、それぞれで熱計算を行います。
Uは一定であるとします。
- ステップ1冷却液の出口温度を仮定
変更可能なパラメータとします。
- ステップ2微小区間中のプロセス液入口の伝熱量を計算
微小区間中のΔTは一定(プロセス液入口温度-冷却液出口温度)。UとΔAが分かるので微小区間中の伝熱量ΔQが計算できる
- ステップ3微小区間中のプロセス液出口温度と、冷却液の入口温度を計算する
ΔQ=mCΔtから計算
- ステップ4次の微小区間の、プロセス液入口と冷却液出口温度を決定。
ステップ3の計算結果そのまま
- ステップ5ステップ2~4を繰り返す
- ステップ6冷却水入口温度が10℃(元の条件)と合っているか確認。
ズレていたら、ステップ1の温度パラメータを変更
この計算をしていきます。複雑に書いていますが、Excelで一行計算すれば、後はコピーペーストでできる内容です。
何か1つのパラメータを振って、微小区間の計算をして積算し、与えられた条件にマッチするように修正していきます。
伝熱量は微小区間の伝熱量の合計値になります。
こういう計算をすることも滅多にありませんが、アナログな計算方法でもある程度の根拠を見つけることは可能です。
実際には、運転条件を完全に再現した計算ができるわけではないので、どれだけの違いがあるかを相対比較するくらいの材料にしかならず、現場と計算を一致させることを目標にしない方が賢明です。
参考
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最後に
熱交換器の伝面計算で、伝面が変わった時の考え方を解説しました。
ちょっとした変更なら、多少の繰り返し計算でも良いでしょうし、余裕率と割り切っても良いでしょう。
大きく変わるなら、微小区間に区切った計算をすることもあります。
計算自体は簡単ですが、何度も行うためスプレッドシートの作り込みをしましょう。
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