配管設計をしているエンジニアならフランジ(Flange)という単語は聞いたことがあると思います。
配管部品の1つですが、単なる1部品とは言えないくらい重要な役割を持っています。
特にバッチ系化学プラントではフランジに対して多くの機能を持たせます。
一般的な配管設計とは明らかに違う部分で、初めて設計した人は必ずと言っていいほど戸惑います。
主な特徴を紹介したいと思います。
フランジ(Flange)接続のメリット
配管接続は3つの方法があります。
フランジ接続・ねじ込み接続・溶接接続です。
フランジ接続とは、下のようなフランジを使って繋げる方法です。
ねじ込み接続は、フランジの代わりにねじで配管を締め付けます。
下のようなイメージですね。
溶接接続はその名の通り、溶接で物理的につなげる方法です。
この3つの方法の中で、バッチ系化学プラントでは「フランジ接続」が多いです。
バッチ系化学プラントで配管のフランジ接続が多い理由を紹介します。
漏れにくい
フランジ接続アh漏れにくいのが最大のメリット。
ねじ込み接続は地震等で漏れます。
化学プラントでねじ込み接続を極力使用しないのは、これが理由です。
大口径はねじ込み接続ができない
ねじ込み接続はそもそも小口径にしか対応できません。
人間が作業できる「ねじのサイズ」に限界があるからです。
フランジ接続なら同じサイズのボルトを複数使えば済みますが、
ねじ込み接続ならその口径のねじを使わないといけません。
切替が多い
バッチ系化学プラントでは切替生産がデフォルトです。
各プラントの平均をとると1年に3~4回は切替をしているでしょう。
この切替作業は非常に面倒です。
こういう作業を安全・確実に行うためにフランジ接続は適しています。
トラブルが多い
化学プラントではトラブルが多いです。
トラブルとは例えば配管の閉塞をイメージすればいいです。
配管が詰まったときは、配管を開放して閉塞を解消しないといけません。
配管を外すためには、フランジ接続やねじ込み接続が適しています。
溶接接続をしてしまうと、取り外しができませんので…。
設備を急遽取り外さないといけないこともあります。
このようなスピード重視の場合は、溶接接続の切断は速度が遅く、デメリットにしかなりません。
改造が多い
バッチ系化学プラントでは設備改造が非常に多いです。
一度プラントを建設しても、その製品を20年~30年使い続けるわけではありません。
1年後には別の製品が導入されることは普通にあります。
1年ごとに設備改造をするというケースもあります。
これだけ改造頻度が大きいと、配管を簡単に取り外せることが必要です。
改造には配管の延長だけでなく、撤去も含まれます。
現地生火工事が難しい
化学プラントで現地生火工事を行うのは、かなりの度胸が試されます。
- 設備を完全に洗浄し
- 生火作業をする前に環境測定をし
- 生火作業中も消火作業を続ける
かなりの労力を使います。
鉄の配管ならまだいいのですが、ステンレスの配管は切断がかなり大変です。
一度付けたら、20年~30年と使い続ける覚悟で溶接をすることになります。
特殊配管はフランジ(Flange)接続
特殊配管は基本的にフランジ接続です。
グラスライニングやふっ素樹脂ライニングの配管が該当します。
これらがフランジ接続である以上、鉄やステンレスの配管を溶接接続にする理由はあまりありません。
フランジ(Flange)接続のデメリット
フランジ接続のデメリットをまとめました。
工事コストが高い
配管工事単体を見た場合、フランジ接続の工事コストは高いです。
フランジ金額自体が高いから、溶接工数も多いからというのが背景です。
プラントのメンテナンス性としてはフランジの方がメリットがあるので、工事コストは犠牲にしてもフランジを選びたいのが化学プラントです。
重たい
フランジ接続は重たくなる方向です。
フランジそのものが重たいから。
作業工数が高くなる方向です。
フランジ(Flange)接続を考えるべき場所
切替配管が多いバッチ系化学プラントではフランジ接続のニーズが高いことは上で述べました。
実際に機電系エンジニアが設計をするうえで配管設計を考えるべき場所をピックアップして解説します。
機器との取り合い
機器のノズルは基本的にフランジ接続にすべきです。
例外的にねじ込み接続しかできない場合もあるでしょうが、これもタップ溶接くらいはしておいた方が良いです。
それくらいねじ込み接続はリスクが高いです。
ねじ込み接続にタップ溶接をしたとしても、隙間腐食の懸念は消え去りません。程度問題ですが。
安心感としてはフランジ接続の方がねじ込み接続よりも圧倒的に上なので、フランジ接続を基本としましょう。
バッチプラントではFF/RFについてはあまり気にしないので、楽ですね。
配管の切替を行う場所
配管の切替を行う場所は当然のようにフランジ接続をすべきです。
ねじ込み接続は口径が大きいと作業性が極端に悪くなるのでフランジ接続の方が良いですね。
遮断板を付ける場所
配管の切替と同じように運転段階で遮断板を付ける場合にもフランジ接続は大活躍します。
そもそも遮断板を付ける場所はバルブの前後でしょうから、バルブ自体をフランジ接続にしていれば意識することは少ないかもしれませんね。
フランジ接続で統一していると遮断板の作業性を意識することがないという意味でも、メリットがあります。
詰まりやすい場所
フランジ接続は詰まりやすい場所にも効力を発揮します。
- スラリー配管
- 自重落下配管
- 粉体配管
バッチ系化学プラントで詰まりが起きる最大の要因は粉体です。
粘度は低い薬液が多いので、粉体だけにケアしていれば良いくらいです。
いろいろなケアをしないといけません。
- 保温が正確に効いていないと結晶が析出して詰まるためにフランジを付け、
- フランジを付けた瞬間に保温がしにくくなる
特に近年は反応プロセスとして難しいものが多く、配管の保温など厳しい方向にあります。
というジレンマを抱えます。
段階的に更新する場所
既設の配管の老朽更新などで、部分的に配管を変える場合はフランジ接続を意識しましょう。
特に更新配管と既設配管の間には適当な面間の単管をフランジ接続すべきです。
これは新設配管側のインラインの気密テストと、将来の更新計画を意識したものです。
現地火気工事が難しい化学プラントでは、フランジを適切に使うことで更新範囲を最小化することが可能です。
フランジを使った知恵という世界。
高所配管のフランジ(Flange)
配管は作業性を考えるときに高所に取りつけしがちです。
これはやむを得ませんが、無条件にフランジを切り込んでいいわけではありません、
機器周りの配管フランジ(Flange)はなるべく近い位置に
設備周りのフランジはなるべく近い位置に取りつけるべきです。
これは機器を取り外す時のことを考えています。
いったん施工された配管は普通は改造しません。
設備の取り外し・取り付けする機会がある時に改造するくらいです。
設備には複数の配管が接続されています。
これらの配管を取り外す時に取り外し配管の数量を極小化するために、フランジは設備に近い位置に付けるべきです。
設備を取り外すために床や屋根などの土建部分を取り外さないといけませんが、その直近にフランジを切り込むのが理想です。
フランジ(Flange)位置を揃える
高所配管のフランジはなるべく位置を揃える方が良いです。
これは足場の施工性を考えてのこと。
ビディ足場で施工できるのが理想ですがそれが難しかったとしても、フランジ位置は合わせた方が良いです。
サポートを意識してフランジ(Flange)を決める
配管を取り外して、工場に残った配管にはサポートを取るべきです。
良くあるのが取り外した配管のサポートが無いために、宙ぶらりんになっているケース。
これは配管を損傷される危険性があり、さすがに良くありません。
番線で止めるにしても、近くに配管があるとその配管を利用できます。
未確定の場所のフランジ(Flange)
機器の取合い寸法が分かっていない場合には、機器と取合う配管の直近にフランジを切り込むべきです。
これは機器図が未確定の状態で配管設計をしないといけないケースを想定しています。
一部の業界では正確な機器図が出てこないという場合もあります。
機器図が出てこないと配管設計が出てこないと思考停止をするエンジニアは多いです。
ここは被害最小化の考えて臨みたいところ。
近くでフランジを切り込んでおくと最小限の被害で済みます。
フレキシブルチューブなどでズレを矯正することも可能です。
配管設計やエンジニアリングではこういった思い切りも大事。
機器納期が長納期化している現在こそ、コンカレントエンジニアリングが大事になります。
これと同じように計器など寸法未確定の場所の面間調整にフランジは使えます。
参考
最後に
バッチ系化学プラントでのフランジ設計に対する考え方を解説しました。
ねじ込み接続や溶接接続が一般的ですが、化学プラントではフランジ接続が大事です。
閉塞の懸念・切替配管・段階的な更新などの要望に対して現地火気工事が使えない場合にフランジは絶大な効力を発揮します。
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