タンクのトレース(trace)の付け方を考えます。
屋外タンクで冬季に凍結するような内容物に対して、トレースを付けることは一般的です。
外コイル方式・内コイル方式の2パターンがあり、その特徴を比較していきます。
この辺りの違いがさっと答えられるようになれば、機械屋としては初心者を脱したと言っても良いかもしれませんね。
外コイル式トレース(trace)
最初に外コイル方式を紹介します。
言葉通り、タンクの外側にコイルを巻く方法です。
タンク胴板とコイルを繋ぐためには、挟み込みの方式が良く使われます。
胴板にナットを溶接しておき、コイルを胴板と抑え板で挟み込んでボルトで締めます。
胴板側を貫通させると内容物が漏れる恐れがあるので、胴板を傷つけないようにボルトで止めようとするとナット溶接という方法が良く使われます。
タンクを新たに作る場合には問題なくこの方法で可能。
コイル材質もSGPなど一般的な物で作れる可能性が高いです。
一方で難しいのは後で外コイルを付けるパターン。
危険物を扱ったタンクに、後で溶接をするというのは相当の覚悟が必要です。
この場合には、コイルを銅などの変形しやすい材質で作って、バンドで止めるという方法を考えると良いかもしれません。
ちょっとした工夫です。
内コイル式トレース(trace)
外コイルがあれば、その逆の内コイルもあります。
内コイルは外コイルのようにタンク胴板には密接させずに、少し内側に巻くと良いでしょう。
タンク胴板と接する形でコイルを取り付けてしまうと、液の流れが悪くなってしまい、熱源の影響を受けて局所的な加熱や冷却が起こってしまいます。
局所加熱の場合だと暴走反応などの異常現象を起こすことがあったり、局所冷却だと凍結などの変性を起こすことに繋がったりします。
想定している運転条件外の状態を作ってしまうと嫌ですね。
コイルを胴板よりも内側にすることは、液の均一温度調整という意味でも効果的です。
外コイルで胴板とコイルを接触させるのは、コイルの熱を一番効果的に伝えられるのがタンク板と最も近い場所であるから。
内コイルの場合は、タンク中心に近い方が伝熱という意味では効果的です。
外側からどれだけ加熱や冷却をしても中心まで熱が伝わるには時間が掛かりますからね。
撹拌槽では強制的な流れを作ることで解決させていますが、撹拌がないタンクではコイルの位置が伝熱性に直接影響します。
外コイルが無難
外コイルと内コイルではどちらを選ぶ方が良いでしょうか?
取り扱い物質などによって変わる部分がありますが、外コイルの方が無難と考えます。
内コイルの場合は点検が難しいことが、最大の課題になります。
液の流れが悪い状態で気が付かないうちに腐食が進んでいき、漏れが起きたら大変。
そのために、定期的に内部点検をするのも大変。
伝熱という意味では内コイルの方が勝ちますが、メンテナンスを考えると外コイルの方が安心ですね。
外コイルは断熱との相性や、断熱内部への雨水の侵入などの問題はありますが、それでも内コイルよりはリスクは低いでしょう。
内コイルの意外な利点
内コイルは否定的な私ですが、実はメリットがあります。
それが、凍結を解除するとき。
例えばトレースを活かしていない状態で、冬を迎えタンク内の液が完全に凍結している状態を考えましょう。
ここでトレースを急に使った場合には、コイル周辺の液が溶解を始めます。
一般的な液は溶解すると体積が膨張します。
ここで外コイルの場合だと、コイルがある近くの液から溶解を始めますが、液面近くにコイルが無くて液面が固化したままという可能性があります。
溶解して膨張しようとしているのに、液面が固化していて膨張代が無い。
そうすると、タンクは結構簡単に変形破裂します。
タンク内液が全量漏れてしまって、大変大変。
内コイルの場合は、コイルをタンク天板から内部に入れる方法を取ると解決できます。
液面よりも高い位置でトレースが効いているから、液面全面が固化している状態にならないですね。
かなりアナログな話ですが、液やトレースのイメージができていないと起こりえるトラブルで、その被害は大きいので、しっかり考えたい問題です。
参考
関連記事
トレースはアナログな加温方法で、絶大な効果を発揮します。
さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
タンクへの温度調整用トレースの付け方と注意点を解説しました。
外コイルと内コイルの2パターンがあります。
危険物に対しては外コイルの方が無難です。
内コイルの方が伝熱性は優れています。
凍結を気にする物質なら内コイルで確実に対処する場合もあります。
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