バッチ運転の場合、撹拌機1つあれば色々なことができて助かるという場面があります。特に切替生産の場合には、既存製品とは別の製品の導入を検討することが多く、既存の撹拌機を使えるかどうかは投資の面でも重要な要素となります。
その撹拌機が使えるかどうかをチェックするには数多くの項目がありますが、最低限ここを抑えておけば致命傷にはならないだろうという点をまとめました。いざ生産を初めて実は動きませんでした、という残念な結果だけは避けたいものです。
安全性
撹拌機で扱う液体(もしくは固体)の安全性データは必須です。示差走査熱量測定(DSC)が有名です。もともと使っている条件と並べて比較すると良いでしょう。既存よりも安全性に疑わしい情報があれば、前もって検討が必要です。本当に危ないものは化学式(構造式)を見れば、ある程度察することができるようです。
撹拌機は液を溜めて撹拌するという機械ですが、本当に危ない物性を扱う場合には「溜める」ことそのものが危険なので、撹拌機は使えないと判断します。いざ運転を開始しようとしたときに、この情報が分かって中止となるようでは、エンジニアとしては失格と言われるくらい大事なことです。
容量
取扱容量は撹拌機を使う上でも非常に大事です。
一般に注目しやすいのは大きい側。つまりどれだけ多くの量を撹拌機に溜め込むことができるか、です。生産能力に直結する数字なので大事であることは確かです。
見通しがちなのは小さい側。液量が少ない場合に、その撹拌機が使えるかどうかを意外と見落とします。大は小を兼ねると思うかも知れません。ところが、液量が少ないと例えば以下のような問題があります。
- 撹拌羽根に液が漬からず撹拌できない
- 温度計が感知しない液面で運転上問題がある
- バッフルに液面が漬からずに、撹拌効果が低い
- 撹拌機の共振が起こる液面で、回転数を落とさないといけない
図面に液量を落とし込んでみればすぐイメージできる話ですが、検討初期はPFDやQC工程表を見ながら考えるので意外とイメージできない場合があります。要注意です。
密度・粘度
密度や粘度は撹拌にとって非常に大事で、それなりに注目する部分なのでおそらく問題ないでしょう。
密度は取り扱い液体や温度を考えると、ある程度類推できます。既存の使い方と大きく変わるかどうかを比較すれば、大抵の場合は上手くいくと思います。
問題は粘度。このデータは意外と少ないはずです。想定する粘度と撹拌羽根の構造から使えるかどうかを判定する程度で、ちゃんとデータを取らないこともあるでしょう。それでも小実験で問題なければ良いと思います。機電系エンジニアとしては撹拌動力が計算できずに困るかも知れませんが・・・。
圧力
圧力は大雑把に見る形になるでしょう。常圧・加圧・減圧のどれかを判定します。
通常は常圧(大気圧)で使用します。ガスラインが大気に開放されていて、圧力損失が少ないなら常圧と見なせます。
加圧の場合は危険な方向になるので、容器の構造計算などクリティカルな問題になります。加圧条件で必要だということを後で気が付くケースは、基本的にあってはいけないと思います。
私が担当していて見落としがちなのは、窒素ブロー。タンク内液を窒素で押し出すときには、容器は加圧条件になります。タンクを鏡で作成していれば、問題に案ることは少ないですが、窒素圧力に耐えることができるかは確認しておかないといけません。常圧タンクなら低い圧力でも変形するので、これを見落とす人は少ないと思います。
減圧も加圧と同じように強度上の問題があるので、機電系エンジニアであれば見落とさないはずです。減圧度が高くなって真空に近づく場合は、板厚が足りるかどうか一応のチェックは必要ですが、簡単な計算で判定できるでしょう。
温度
温度はユーティリティが必要になるかどうかを確認することになります。
例えば100℃以上に加熱する必要があるのにスチームがジャケットに通っていなかったり、0℃以下に冷却する必要があるのにブラインが通っていなかったり。
低温側では圧力容器として使える材質に限りがあるので、SS400なのかSM400Bなのかをチェックすることになるでしょう。ここも見落としがちです。
腐食性
温度と関連して腐食性の情報はもちろん必要です。高い温度の場合が要注意ですね。グラスライニングの場合だとpHも影響します。ステンレスの場合は、もう少し細かく見る必要が出てくるでしょう。
とはいえ、ここは最重要項目として最初にチェックされます。
スラリー性
内容物がスラリーであるかどうかは重要なことです。
沈降しやすい・固まりやすい・固いなどスラリーといっても性状は様々。撹拌機の動力が不足していた李、回転数が不足していたり、問題になりやすいです。
スラリーかどうか、どういうスラリーかは、検討初期にチェックが入ります。小実験でちゃんと検討していても実運転で失敗するかもしれないものなので、しっかりチェックしましょう。それくらい重要だからこそ、忘れていたという可能性は低いはずです。
参考
関連記事
最後に
既存の撹拌機を別用途に使うケースはバッチ運転の場合は多いです。後になって気が付いたとならないようにいろいろチェックしましょう。
特に忘れやすいのは、取扱数量が少ない側の液量だと思います。後は既存の運転条件や物性と比較して大きな問題があるかどうかを
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)
*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。
コメント