化学プラントの建屋設計では、2階建てにするか1階建てにするかで悩むことがよくあります。限られた敷地やプロセスの要件、安全性やコストなど、さまざまな要素を総合的に考慮して最適な構造を選ぶ必要があります。
今回は、2階建てと1階建てのそれぞれの特徴とメリット・デメリットを詳しく比較し、設計のポイントを解説します。
オーナーズエンジニアの仕事でも、特にやりがいのある部分です。家などの生活空間とは違って、作業や執務をする場所の場合には、考えることがいろいろあります。
2階建てと1階建て
2階建てと1階建ての比較として、以下の例を考えましょう。

□に相当するものは設備です。
2階建ての場合も1階建ての場合も、建物の外形は同じです。
1階には雨に濡れてはいけない設備や作業空間があると考えましょう。
逆に、2階部分は部屋ではなく1階の天井を活用しています。
1階建ての場合には、2階部分に設置しているものを地面に置いたイメージです。
この条件で、何が変わるのかを比較しましょう。
2階建ての特徴
まずは2階建ての特徴を考えましょう。
2階建ては面積最小
2階建ての最大のメリットは敷地面積を最小化できるということです。
狭い日本で、設置できる土地が少ない場所では、敷地面積を下げる工夫はとても重要です。
コスト度外視で2階建てのように上に延ばす建屋構造にせざるをえなかったりします。
特にプラント建設ではコストの話が問題になりますし、最近は建築費用が高騰しているので、2階立てにするべきかどうか経営問題になりかねません。
2階建てはプロセス上のメリットがある
2階建てはプロセス上のメリットがあります。
- 自然流下で流量調整がしやすい
- 粉体など自重で投入が可能
- オーバーフローラインやガスラインなど配管を高い位置に施工させやすい
プロセス面では高さがある方が有利に働くことが多いです。
反応器や塔のように大型の装置なら2階建てでも高さが足りず、3階建て以上が要求される場合もあります。
むしろ装置の都合で階高さが決まってしまって、1階建て(平屋建て)にするという思考が抜けてしまいがちですね。
2階建ては拡張できる可能性がある
2階建てだと拡張可能性が広がります。
装置を乗せる2階部分は、人がアクセス可能な鉄板などで作り上げます。
2階部分で装置の無い場所に、物を置いたり作業をする場所にしたり、屋根を付けたりとできることは増えていきます。
化学プラントのように改造が多いが一度立てると修正が難しい場合には、拡張可能性が高いことは1つのメリットになります。
1階建ての特徴
1階立ても同じように考えましょう。
1階建ては建屋部材を細くできる
1階建ては建屋部材を細くできます。
天井は折板など部材を安価な物に可能。
2階部分の荷重がないために、柱・梁・基礎などの強度を下げることが可能です。
一方で、地上に置く装置のための基礎は追加で必要になります。
どちらの方が金額的にメリットがあるのかは、検討項目となりえます。
一般にイニシャルコストは1階建ての方が安いですね。
1階建ては安全側
1階建ては2階建てよりも安全側です。
- 設備が高い位置になく転落のリスクがない
- 人が2階に上がることがなく、転倒転落のリスクがない
- 危険な液など取り扱い物質を、高い位置に持ち運ぶ必要がない
できることなら1階建ての方が安心ですね。
あまり変わらないもの
2階建てでも1階建てでもあまり変わらない要素もあります。
ランニングコスト
ランニングコストとしては大きな差は一般には認められません。
2階の設備に液を送るためにはポンプが必要だから、ランニングコストが上がりそうな気もしますが、そうでもありません。
1階の設備の間で液をやり取りする場合にも、ポンプは必要になります。
揚程が少し変わるくらいですが、自然流下が動力を下げる効果もあるので、ランニングコストに影響が出る可能性やあまり高くないでしょう。
配管・配線などの費用
建物建築の費用は、面積や部材に応じて変わりますが、付帯設備としての配管や配線の費用はあまり変わりません。
m数という長さの単価で決まる工事で、2階建てでも1階建てでも施工距離があまり変わらないからです。
2階建ての方が足場が必要になったりスタンドが追加で必要になって高くなる可能性はありますが、建物を活用したら解決したりします。
参考
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最後に
化学プラントの建屋設計において、2階建てと1階建てのどちらが良いかは一概には言えません。
2階建ては敷地節約やプロセス上の利点、拡張性に優れる一方で、コストや安全面で課題があります。
1階建ては建設コストや安全性で優れる反面、敷地面積が大きくなりやすいのが特徴です。
設計の際はこれらのメリット・デメリットを踏まえ、敷地条件や運用面の要求を総合的に判断することが重要です。
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