化学プラントや製造設備で使用される脚付きタンクは、設置時の安定性や脚部の強度が安全運転に直結します。しかし、脚付きタンクの強度計算や転倒リスクの評価は、意外と知られていない分野です。
本記事では、材料力学の基本を使いながら、脚付きタンクの転倒計算や脚・プレートの強度計算の考え方を解説します。設計や保全、運転に関わる方にとって、実務で役立つ知識が得られる内容です。
細かな計算は省略しますが計算に関与する考え方を知っていることは、ユーザーにとっても重要でしょう。
この記事は、タンク構造シリーズの一部です。
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脚付きタンクの転倒計算
脚付きタンクの強度計算を行うためには、転倒計算を最初に行います。耐震耐風の計算と全く同じです。
地震荷重
地震荷重の計算を脚付きの場合を見てみましょう。脚なしモデルでは以下のようなイメージですよね。


脚付きだと以下のようなイメージになります。

脚が付く分だけ重心が上がります。抵抗モーメントはタンク径が変わらない以上、同じです。転倒モーメントは重心が変わる分だけ大きくなります。
風荷重
同じように風荷重も考えましょう。脚なしの場合には以下のイメージですね。


脚付きの場合には以下の通りになります。

同じように、抵抗モーメントは変わらず転倒モーメントだけが脚高さ分だけ変わります。重心が高い方が転倒しやすいので、頭の中でイメージするのと同じ計算の考え方ですね。
脚の強度計算
さて、脚の強度計算について考えていきましょう。材料力学の基礎的な部分だけでイメージをつかむことが大事です。
概略
計算に考えるモデルです。

タンクがプレートを介して脚と繋がっています。このプレートはタンクの補強を意味します。脚は基礎とプレート介して繋がっています。このプレートはボルトを取り付けるためのフランジ部の役割ですね。
タンクに掛かる力
タンクには脚の力として垂直方向の力と水平方向の力を受けます。垂直方向は自重ですよね。この力は強度計算的には考慮しません。
というのもタンクのような円筒構造は、垂直方向に働く力の方に耐える力が強いからです。水平方向の力に対してタンクが耐えれば、自ずと垂直方向も耐えると考えます。
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、タンクを90度回転させましょう。考えるべき力は水平方向(タンクに直角方向)ですので、下のようなイメージになります。

タンクそのものは円筒形ですが、これを単なる梁としてみなして計算します。
材料力学で簡易計算というと、とにかく梁として計算します。梁が材料力学のすべて、かもしれません。脚が4本ついている場合は、タンクを断面方向に1/4に分割して、1本の脚からタンクが力を受けている状態を考えましょう。
集中荷重が1点だけ作用しているような系です。境界条件は自由支持など分かりやすい条件で良いでしょう。
脚に掛かる力
脚に掛かる力は、タンク側と同じで梁と見なして計算します。梁は材料力学のすべて、ですね。

片持ち梁で先端に力が掛かっていると考えるのは、分かりやすいでしょう。力はタンク側が受ける力と同じで、タンクの水平方向に働く力です。曲げ応力が許容応力以下となるような断面2次モーメントを選定して、脚部材を選定します。
プレートに掛かる力
プレートに掛かる力は、曲げモーメントが掛かっていると考えると良いです。この曲げモーメントは転倒モーメントと抵抗モーメントの差として効いています。

脚と基礎の間のプレートは、ボルトの締付力と考えると分かりやすいでしょう。
ボルトの引き抜き力×タンク径=転倒モーメント-抵抗モーメント
ですからね。その力でプレートがせん断しないような板厚を選定します。タンクと脚の間のプレートも、考え方は同じです。モーメントの釣り合いが取れているはずですからね。
接続部
タンクと脚の接続部は実はいくつかのパターンがあります。塔などの長物のスカート部の固定方法として有名です。

左のものはアングルで代用するもの、中のものはガセットプレートで補強したもの、右のものは上側にさらに補強板を足したものです(絵の都合上ガセットプレートを書いていませんが、あるものとして見てください)
どのタイプにするかは細かな計算をするというよりは、実績から選ぶことが多いです。ボルト本数が多くなるような転倒が気になる系ほど、補強を付けていきましょう。側面の補強板が必須かと思う人も居ますが、これのケースバイケース。
タンクの板厚が多い場合は、プレート補強なし
タンクの板厚が薄い場合は、タンク板厚相当の補強をする
こんな感覚で私は捉えています。とはいえ、一番左のパターンは不安でしかたがありません。ガセットプレート付けるなど、ひと工夫がほしいです。
参考
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最後に
脚付きタンクの強度設計は、転倒計算と脚・プレートの強度評価が基本です。材料力学の基礎を応用し、タンクを梁として考えることで、必要な脚や補強の仕様を決定できます。地震や風荷重、転倒モーメントを把握し、安全で実務に即した設計を心がけましょう。
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