水素というと、水素自動車や燃料電池を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、化学プラント、特にバッチ系の製造現場でも水素は重要な原料として使われます。
中でも「水素添加反応」は非常に便利な反応である一方、高圧・高温・発熱反応という特徴から、多くのリスクを伴います。
本記事では、水素添加反応の危険性と、それに対応する設備・運転・安全対策について実務目線で解説します。現場で即断・即応できるよう、ぜひご一読ください。
水素の特徴
まずは水素の特徴をかんたんにまとめました。
- 最も軽い気体
- 爆発範囲が広い
- 拡散しやすい
- 還元材としてはたらく
化学の周期表を見たことある人なら、すいへーりーべ…と暗記したことを思いだすかもしれません。
最初の「すい」は水素の「すい」です。
原子番号1番で周期表の最初に目にする原子・元素です。
水はH2Oという化学式ですが、このHは水素のH。
とても身近にある物質です。
水素(hydrogen)添加反応
化学プラントでは水素添加反応という反応として水素を使います。
有機化合物の還元反応に水素を使います。
反応では特に以下の点に注意しましょう。
- 圧力
- 温度
- 発熱量
低圧で反応するのが基本のバッチ系化学プラントでも、水素添加反応だけは1MPaを越える圧力で行います。
数少ない高圧装置だからこそ、設備としても注意したい点がいっぱいあります。
水素(hydrogen)添加設備
水素添加反応を行う設備はいくつかの要求事項があります。
- 熱伝導率が良い材質(ステンレス系)
- 高圧にも耐える軸封(ダブルメカニカルシール)
- JIS10Kを越えるフランジ
- 高圧用のガスケット(渦巻ガスケット)
- コイルを使った冷却システム
- 自動化
- インターロック・安全弁
- ガス検知器
- 非常用発電機
- 部屋で囲う
- 放射線透過検査(RT)
- 認定弁
個別に解説します。
熱伝導率が良い材質
水素添加設備は熱伝導率が良い材質が求められます。
一般に発熱量が高い反応が多く、冷却速度がとても重要になります。
バッチ系化学プラントでよくあるグラスライニング設備やフッ素樹脂ライニング設備だと熱伝導率が低いのです。
SUS316Lなどステンレス系の材質を選ぶことになるでしょう。
高圧にも耐える軸封
水素添加設備は高圧で反応を行います。
反応器レベルでは高圧に耐える軸封が必要です。
自ずとダブルメカニカルシールを選ぶことになるでしょう。
中間液もそれなりに高圧が求められるので、油圧でシールするということも珍しくありません。
単に圧力が高いという数字だけの問題ではなく、耐圧には余裕を十分に持たせましょう。
窒素で100kPa耐えるからと言って、水素でも100kPaまで耐えるとは言えません。
透過拡散しやすいので、漏れる可能性は十分にあります。
JIS10Kを越えるフランジ
水素添加設備は1MPaを越える圧力で反応を行う場合もあります。
この場合はJIS10KフランジではなくJIS20KフランジやJIS30Kフランジを選定します。
バッチ系化学プラントではとても珍しいです。
高圧用のガスケット
高圧のフランジでシールするためには専門のガスケットが必要です。
渦巻ガスケットとTG-G(溝型)のフランジを使う場合も多いでしょう。
コイルを使った冷却システム
水素添加設備は内コイルを付けることもあります。

槽型反応器の場合は、ジャケットで冷却するのが普通です。
水素添加反応は発熱量が高く、冷却能力を少しでも上げるために内側にコイルを付けるという思想です。
流速が速い内コイルの方が、流速が遅いジャケットよりも冷却能力が高いです。
自動化
水素添加設備になると可能な限り自動化しましょう。
特に冷却設備や圧力開放設備は自動化しておくべきです。
オペレータが現場に常時張り付いて監視操作するというのは危なすぎます。
インターロック・安全弁
水素添加設備はインターロックを付けましょう。
- 温度や圧力が一定値を超えると反応を止める
- それよりも上がると圧力開放ラインを開く
- 電気が止まっても撹拌機は回し続け、反応は止めて、冷却し続ける
- 原料供給ラインは自動弁の開閉状況がDCSでも監視できるようにする
水素添加設備回りだけは頑丈に固めておいた方が良いです。
安全弁も高圧ガスなど法規的に必須の場合があります。
検査・点検等の法的要求事項を適切なタイミングで行いましょう。
ガス検知器
万が一の漏洩に備えてガス検知器を設置しましょう。
水素を検出できるタイプが良いです。
最後の頼みの綱的な役割であることは注意しましょう。
ガス検知器が鳴っていないから大丈夫!という訳ではありませんので・・・。
非常用発電機
停電時に動力が止まっても反応が進んでしまう場合があります。
水素添加設備では特に大事。
非常用発電機に組み込んで、最低限の状態まで冷却できるようにしておきましょう。
部屋で囲う
水素添加設備の周囲は部屋で囲いましょう。
万が一、ガスを大気中に放散させたり、暴走反応が起こって設備が破壊しても、被害を少しでも抑えるためです。
ストリップ工場が多い化学プラントでも、水素添加設備だけは部屋で囲いたいです。
だからこそ、ガス検知器が機能しやすいとも言えます。
放射線透過検査(RT)
水素添加設備は非常に高圧の状態で使うことがあり、溶接もしっかり行う必要があります。
それを検知する仕組みとして放射線透過検査(RT)を行いましょう。
設備だけでなく配管も行う方が良いです。
認定弁
高圧ガスなど法規に適合する場合は、高圧ガスの認定弁など適切な弁を設置しましょう。
安全弁と同じ感覚です。
参考
関連記事
関連情報
最後に
水素添加反応は便利で応用範囲も広い一方、非常に高リスクな反応です。バッチ系プラントにおいては、以下の点が特に重要です:
- 高圧対応の機器・部品選定
- 急速な冷却を可能にする構造設計
- 自動化・インターロックによる事故予防
- ガス検知器や非常用発電などの非常時対応
- 設備の健全性を保証する検査・法令遵守
水素を扱う設備では「最悪を想定した安全設計」が欠かせません。
設計・保守・運転のあらゆる段階で、現場目線の知識と判断力が求められます。
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)
*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。
コメント