化学工場でのグランドシールについて解説します。
グランドシールはシール系で最も古い技術だから、存在そのものを認識していない若手エンジニアも結構います。
もちろんほとんどの場所では使わなくなりましたが、今でも使っている場所が化学工場でも存在します。
シールの基本とも言えるグランドシールなので、基本事項は理解しておきましょう。
グランドシールとは
そもそもグランドシールって見たことあるでしょうか?
実物を見る機会すら少なくなっていますね。
グランドパッキンという方が適切でしょう。
こんな形で組み合わせて使います。

この例ではグランドパッキンを4段重ねています。
繊維を編んで紐状にした物体を丸めてリング状にします。
1つのリングを4段重ねてシールとして使います。
材質
グランドの材質はいろいろあります。
化学工場で使うグランドだけでも以下の材質があります。
- 黒鉛
- アラミド繊維
- PTFE
ここでピンときたあなたはガスケットマニアです。
そうです。これらの材質はノンアスベストのジョイントシートガスケットそのもの。
ガスケットもパッキンもシールという意味では同じだから、当たり前と言えば当たり前。
グランドは存在価値が高くないので、言われるまで気が付きにくいですよね。
複数段にする理由
グランドを複数段重ねるのはちゃんと理由があります。
グランドシールの複数段のうち実際にシールが効くのは1段だけ
4段でくみ上げたパッキンで、1段目のシールが効いていて使っているうちに寿命が来たとしましょう。
この時は2段目~4段目のどこか1段が次のシールとして機能します。
繰り返していって4つのシールすべてが駄目になれば寿命です。
この発想はVパッキンやオイルシールと同じ発想です。
Vパッキンもオイルシールもグランドシールと同じパッキンという動機器向けのシールだから、当たり前と言えば当たり前。
グランドシールを使う場所
グランドシールを化学工場で使う場所について解説します。
ポンプの軸封
グランドシールはポンプの軸封に使います。
現在でも、水系のポンプにはグランドシールが使われている場合はあるでしょう。
ドライフロアには全く向かないので注意が必要です。
グランドシールは冷却水が漏れているのが普通。
漏れていない方が異常です。
水を漏らすということは、ポンプ周りが水浸しになります。
歩いている時に転倒する恐れもありますし、異物の原因ともなれば、藻などの発生原因ともなります。
水を漏らしても良いことはほとんどありません。
撹拌槽の軸封
撹拌槽の撹拌軸にグランドシールは使います。
一般的な撹拌槽ならドライシールやメカニカルシールを使いますが、漏れなどどうでもいい撹拌槽ならグランドシールを使うこともあるでしょう。
グランドシールの方が安価なので、積極的に使うケースもあるかもしれませんね。
撹拌槽はポンプに比べれば回転数が小さいので摺動熱が少なく、冷却水を使わなくても使えるケースがあるので、グランドシールを使いやすい環境にあると言えるでしょう。
ファンの軸封
ファンの軸封にグランドシールを使う場合があります。
ポンプよりはファンの方がグランドシールを使いやすい環境にあります。
ドライフロアーを気にしますからね。
冷却水を使わないで良いファンの方がグランドシールを使いやすい環境にあるでしょう。
ファンでグランドシールを使うとグランドは摩耗してシールの機能は失われますが、開口部が狭いので漏れ量が少ない状態を維持できます。
でも、同じ漏れを許容するならラビリンスシールの方が無難ですけどね・・・。
バルブのシール
気が付かないかも知れませんが、バルブ類のシールにグランドは使います。
バルブの弁棒も回転機のシャフトと同じ可動部です。
人が動かすか機械が動かすかだけの違い。
シール機構は必要です。
手動バルブならシールは最も安価なグランドを使うでしょう。
回転機器ならグランド以外の手段も考えられますが、バルブはグランド一択と考えて良いです。
グランドシールを避ける理由
化学工場でグランドシールを避ける理由を紹介します。
代替候補であるメカニカルシールとの比較をします。
冷却水が必要
グランドシールは冷却水が必要です。
グランドはシャフトとケーシングのシールをするために、編み物で強引に蓋をする発想です。
シャフトとグランドシールの間には常に摩擦が発生します。
シール水が無いと、グランドは一瞬で熱を持ち劣化します(焦げたり、破損したり・・・)
シール水はランタンリングから注水して、プロセス側・大気側の両方に液が流れるようにします。
プロセス液による冷却では、グランドシールの1段目しか効果が無いからです。
グランドシールは4~5弾で構成して、多段によるシール効果を期待しても、
シール水がないとグランドシールの設計思想が一破綻します。
冷却水が必要なグランドシールに対して、メカニカルシールでは冷却水を無くせる可能性があります。
セルフフラッシングで対応できる可能性があるからですね。
冷却水が必要な分。変動費(水処理・動力)などが大きなデメリットになります。
メカより漏れる
グランドシールはメカニカルシールよりも漏れます。
ドライフロアーに反してTPMの思想から外れることになるでしょう。
グランドはできるだけ避ける最大の理由ですね。
損失が大きい
グランドシールはメカニカルシールより損失が大きいです。
動力損失が大きいことは、渦巻ポンプではデメリット以外の何物でもありません。
そもそも渦巻ポンプを使うのは、以下の理由があるからです。
- ポンプ効率が高い
- 大流量でも送液可能
このうち、ポンプ効率を最適化するならメカニカルシールの方が有利です。
大容量のポンプはシールレスポンプでは使えないために、渦巻ポンプを使います。
プロセス液とは違ってユーティリティ液をターゲットにすることが多く、24時間365日使うことを考えています。
ここでは、少しの損失ですらデメリットになります。
最後に
化学工場でグランドシールを使う場所やその意味を解説しました。
グランドシールの材質や機能を紹介した後、化学工場で使う場所として回転機やバルブの例を紹介しました。
グランドシールを避ける理由として、冷却水・ドライフロアー・動力損失に関してまとめています。
この記事が皆さんのお役に立てれば嬉しいです。
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