汚れ係数(fouling factor)について解説します。
熱交換器などの伝熱計算で登場します。
決まりきった係数なので、境膜伝熱係数などの詳細計算をしていたら、重要度を忘れがちになります。
その割に、実は設備能力を設計するときにはかなり影響が出ます。
実例を使って紹介しましょう。
この記事を読むと、汚れ係数の重要さが分かり、熱交換器の議論をするときに有利になります。
汚れ係数(fouling factor)とは
汚れ係数とは伝熱面の熱抵抗を表す係数です。
新品の状態では、伝熱計算は以下の要素から成り立っていると考えて良いでしょう。
伝熱 = 金属 + 境界層
金属部と境界層の熱抵抗を求めて、その合計値が総括伝熱係数とか熱貫流率という用語で示されます。
ところが、使い続けていくうちに金属表面には汚れが付きます。
以下のように、熱抵抗では汚れの要素を入れる必要があります。
伝熱 = 金属 + 境界層 + 汚れ
汚れの要素を考えると、伝熱係数は悪くなるはずです。
汚れはいくつかの要素で決まりますが、内容物でほぼ決めても良いでしょう。
汚れ係数(fouling factor)の典型
汚れ係数の具体的な値を紹介します。
色々なパターンで汚れ係数が定められていますが、覚えるのは面倒ですし、使う機会も少ないです。
個人的には以下の2つだけを使っています。
- 流体の片側がきれい ・・・ 0.0002(m2・K・hr/kcal)
- 流体の両側が汚い ・・・ 0.0004(m2・K・hr/kcal)
伝熱を考えるとき、2つの異なる流体が登場します。
この流体がきれいか汚いかを1つの判断基準にしましょう。
- きれい ・・・ ガス
- 汚い ・・・ 液体
これくらいの間隔です。
0が多くて桁数が覚えにくいですが、1万分の1のオーダーであることを知っていればミスは防げます。
実際の値は、ハンドブックなどで近い値を選ぶことは忘れないようにしましょう。
計算例
汚れ係数を含めた計算例を見てみましょう。
高温 | 低温 | ||
境膜伝熱係数 | kcal/m2・hr・K | 10,000 | 10,000 |
汚れ係数 | m2・hr・K/kcal | 0.0002 | 0.0004 |
金属部は、板厚1mm・熱伝達率10kcal/m・hr・Kとします。(簡略化しています)
境膜伝熱係数の計算も省略しています。
この状態で、熱抵抗を一覧化してみましょう。
– | m2・hr・K/kcal |
境膜 | 0.0001 |
汚れ係数 | 0.0002 |
金属 | 0.0001 |
汚れ係数 | 0.0004 |
境膜 | 0.0001 |
熱抵抗の合計は
0.0001+0.0002+0.0001+0.0004+0.0001=0.0009 m2・hr・K/kcal
となり、逆数である総括伝熱係数は
1/0.0009 = 1111 kcal/m2・hr・K
というかなり高い値になります。
絶対値はともかく、汚れ係数が全体の60%以上の抵抗を示している結果がポイントです。
調整代がほぼない
汚れ係数が熱抵抗の大半を占めているとなれば、他の要素を調整して何とか伝熱性を良くしようとする努力が虚しいものに感じるでしょう。
あえて、熱抵抗を占める要素で調整可能なものをピックアップすると以下のようになります。
- 境膜伝熱係数は、設備設計がちゃんとしていれば、変える要素はほぼない(流速を調整する程度)
- 金属部は、耐圧力や耐食性などの運転条件で調整ができない
- 汚れ係数は内容物でほぼ決まる
汚れ係数で何とかしようと思っても内容物を何とかするしかなく、プロセス条件を変えるなどの大々的な変更になります。
かといって、他の要素も変えにくい。
そうなると、熱交換器ハンドブックなどで細かな計算をずっとしている意味が何なのか疑わしくなりますね。
計算方法の体系とその結果を知ること自体には意味がありますが、設計のたびに詳細計算をすること自体は大きな意味はありません。
汚れ係数のオーダーを知っていると、詳細計算の時の計算間違いを防ぐチェック目的としては機能するかも知れませんね。
参考
関連記事
伝熱についてさらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
伝熱計算の汚れ係数について解説しました。
金属表面のスケールなどの熱抵抗を示すものです。
運転上考慮すべき要素であり、熱抵抗のかなりの部分を閉めます。
逆に汚れ係数さえ分かれば、伝熱計算は簡略化しても良いくらいでしょう。
一度はU値の計算をして、汚れ係数の大小関係を把握しておくと良いですね。
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