化学プラントのオーナーエンジニアの教育(education)についてまとめます。
私は過去15年くらいで10人くらいのエンジニアの上司として、彼らの仕事を見てきました。
一様に成長速度に問題があります。
同じ会社でも場所を問わず問題なので、他の会社でも似たようなものかも知れません。
そこで、教育について考えていることをまとめました。
外部プラントエンジニアとの違いという点がポイントです。
化学プラントのオーナーエンジニアの工場内での位置づけ
まずは化学プラント内でのオーナーエンジニアの位置づけを整理しましょう。
かんたんにいうと、外部エンジニアと同じような状況だと思います。
これならユーザーエンジである必要はないのでは?
情報が入ってこない
化学プラント内で勤務していたら、化学プラントの情報って入ってきそうですよね。
ところがエンジニアレベルでは情報はほとんど入ってきません。
分断化されています。
必要な情報しか入ってきません。
エンジニアには建設や合理化と言ったプロジェクトの話が入ってくるくらいでしょう。
来年、こんな仕事がありそうだからよろしく
プラントの運転の実態・トラブルの背景・運転の思想・工場全体を考えた将来計画などエンジニアリングに関連する情報がほとんど入ってきません。
外部エンジニアがプロジェクトにおいて入手できる情報よりちょっと多い程度です。
本来のオーナーエンジニアが必要な情報は自分から入手しないといけません。
天から降ってくる情報だけに満足していると、思考力が無いエンジニアとなります。危険!
専門分野が狭い
化学プラント内では機電系エンジニアの専門分野は狭いものです。
一般のエンジニアの視点から見たら、エンジニアリングの仕事で使う知識が多いから「狭い」なんて言い過ぎた!
って思うかも知れませんね。
材料力学・熱力学・流体力学・振動工学・材料腐食・配管設計・消防法・圧力容器・・・
確かにいろいろな分野の学問を使っているような気がしますが、全部を使うわけではありません。
しかも上の学問は機械工学という1つの分野でまとめれそうです。
化学工学・分析・有機化学・環境処理・プラント運転・経理・人事・・・
化学プラントの製造部が関わる学問に比べれば狭い狭い。
専門分野の狭さと情報量の少なさが、成長速度を大きく妨げます。
質問しない
化学プラントの機電系エンジニアは質問しません。
驚くほど無口で、おとなしいです。
悪く言うと、最低限の情報しか出さない。
こんな事を質問してもいいのか?馬鹿にされないか?という意識が初心者は特に強く、畑違いの製造部に意見を言いにくいことも影響しているでしょう。
エンジニアリングの技術的能力を向上させるためにも質問は積極的にしましょう。
新技術を提案しにくい
化学プラントの機電系エンジニアは新技術を提案しにくいポジションにあります。
これは成長やモチベーションに大きく影響を与えます。
- 防爆の制限があって技術導入できない
- 設備の技術は進歩の余地がほとんどない
- メーカーの技術開発が停滞している
- 製造部の実態を知らないので提案しにくい
- 提案すると仕事が増えて忙しい
現状維持で何年やり過ごすことができるか、というチキンレース的な発想をしがちです。
それでも逃げ切れるかも知れないのが化学プラント。
最初の2~3年
入社して最初の2~3年は教え込む仕事をした方が良いでしょう。
鉄は熱いうちに打て
この言葉どおり。
エンジニアに関する業務を小さくても良いから一通り体験させるべきです。
これは仕事を即戦力を期待したものではありません。
化学プラントのエンジニアリングってこんな仕事なんだ。
ということを2~3年もかけて習得してもらうという意味です。
予算見積→着工→設計→調達→図面チェック→工事資料作成→工事→検査
という仕事は1~2年に渡ります。
2年でマスターできれば御の字。余裕を持って3年は欲しいですね。
仕事の流れをしらない状態で、いろいろな指摘をしてもあまり意味はありません。
オーバーフローします。
プロジェクトに割り当てない
若手のうちに割り当てられがちなのが、大プロジェクトの一員
大きなプロジェクトを知ってもらって、プラント建設のスケール大きさに感動してもらおう!
みたいなきれいごとを言います。
オーナーエンジニアでこれが成功した例は見たことがありません。
単なる手駒で終わってしまうからです。
プロジェクト全体を見通せるわけでもなく、仕事の全体を知ることもできません。
忙しく動いているうちに何となく終わってしまった。
こんな感想を抱くだけです。
もったいない。
外部エンジニアの場合はこれでも良いでしょう。
客先とやりとりして度胸を付けることは若いうちにしておいてもいいことですから。
オーナーエンジニアの場合は、それよりも定型的な仕事の流れを体得する方が先です。
教え込む
最初の2~3年は教え込ませることに注力しましょう。
考えることで深く学ぶことができる。
一般的に言われていることですが、知識のない段階で考えても意味がありません。
義務教育特に小学校と同じ扱い。
最初は化学プラントに関する知識を徹底的に教え込ませるべきです。
知識を習得するだけでも相当の時間が掛かります。
考えさせて自分の意見を言わせようとしても、混乱するだけで意見はでにくいです。
教え込ませる期間として割り切りましょう。
まずはポンプ設計
新入社員には「定型業務」を習得させることが第一です。
数年に1回しかない仕事、10年に1回しかない仕事よりは
毎年確実に存在する仕事の方が重要なのは言うまでもありません。
でも、そんなことすら理解していない部長や課長もいます。
設備エンジニアとして経歴を積んだ部長でも、意識しない人が居ます。
ポンプ更新は設備エンジニアにとって毎年あるといって良い仕事です。
- ポンプは化学プラントの中でも数が多く30~40%を占める。
- ポンプは動機器なので、壊れやすい
- ポンプは工事金額が安い
この辺のバランスが絶妙です。
動機器は設備のエッセンスだらけ
仕事量の軽さだけを言えば、配管だけを更新するJOBやストレーナー等の配管付属品を付けるJOBなどもあります。
これも毎年のように存在する仕事。
配管更新だけならJOB物量としてはポンプ更新より多いです。
金額が安く手を付けやすいです。
配管設計を主に置く場合は配管更新を最初にさせても良いですが、
プラントエンジニアたるもの設備の更新に手を付ける方が大事だと思っています。
設備の更新でも、配管設計は多少は含みますからね。
動機器であるポンプには学ぶべき要素が非常に多いです。
- 鉄やステンレスという材質を議論することがある
- シールについて触れることができる
- モーター・ベアリング・潤滑などの機械構造を知ることができる
- 圧損計算のような計算もできる
静機器だと、1は可能ですが2・3は不可です。
4もありませんがその代わりに強度計算は可能です。
1~4を仕事でつかえるレベルまで教え込もうとしても、2~3回は仕事を回さないといけないので、1年~2年掛かります。
簡単ではありませんが、概要だけでも早めに手を付けておく方が好ましいです。
他部門との接点
設備更新を進める理由は「他部門との取り合い」を知れるから。
仕事は1人でやるものと言いつつ、1人ではできません。
他部門とのやり取り・調整が必要です。
ポンプならこの調整の数が多いです。
- 設備据付のために土建屋と調整
- 配管取付のために配管屋と調整
- 電気配線のために電気屋と調整
- 運転面で製造部と調整
登場人物が4つあります。
配管だけなら2と4。静機器なら1・2・4。
動機器なら関わる人が多くなります。
仕事は自分で完結することがなく、必ず誰かに情報を渡さないといけない
単純なことですが、このバトンタッチの意識は非常に大事。
学校では教わりにくいでしょう。
スポーツやバイトをしていればある程度は身に付きますが、それでも会社における情報交換はより大事です。
この意識を植え付けさせるには、早い方がいいです。鉄は熱いうちに打て、ですね。
関わる人の多さを最初に目の当たりにして、接点業務の重要さに気が付くことは、会社において重要なことです。
4年目~10年目
4年目以降は考えさせる期間です。
ここでエンジニアとしての能力が決まります。
考えさせる
人は考えさせないと育たない。
これは確実に正しいです。
仕事の流れを理解したら、1人で考えさせましょう。
ここでどれだけ考える力を養うかでエンジニアとしての評価は決まります。
オーナーエンジニアはこんな行動をとりがちです。
- 1人で考えすぎて時間を浪費する
- 独断で指示を出してしまう
- 本当は分かっていないのに、分かったふりをする
- 優先順位の低い仕事はスルーする
- 自分で資料を作らない、説明しない
- 本質が何かを見抜こうとしない
教え込ませる段階は過ぎているので試行錯誤を指せたらいいですが、致命的な失敗にならないようにチェックする必要はあります。
独断で指示を出すということについては厳しく指導しましょう。
あとはスケジュール感をチェックして、遅れている案件がないかを見るくらいで良いでしょう。
分からないことは部下から上司に相談させるべきで、上司は待っていましょう。
変に進捗管理をしようとすると時間を浪費します。
意見を出させる
この段階では意見の発信をさせましょう。
そして誤りや足りない部分はどんどん指摘しましょう。
今では指摘し過ぎたら委縮すると言って、指摘しない風潮がありますが・・・
そうしていくと結局人は育ちません。
成長速度を遅くしていく悪影響が目立ちます。
もちろん指摘が強すぎて、鬱になるような指導は論外ですが。
11年目~
10年も経験すれば、エンジニアの業務は一通り体験します。
一定規模のプロジェクトも経験するでしょう。
自分で計画・判断・管理ができます。
自由度をもったエンジニアリングをできるようにもなるでしょう。
プラント建設の思想や工場全体に跨る思想なども持つようになるでしょう。
この辺りの思想をどれだけ幅広く数多く持てるかが勝負です。
教育という概念は完全になくなり、上司の管理もなく単純に戦力として考えられます。
思考力
この年代では思考力の深さは1つの課題です。
でもこの段階で教育をしてどうにかなる問題ではありません。
思考力が育ってなかったらこれ以上は無理、と諦める段階。
思考力は重要ですがそれよりも重視すべき課題があるからです。
マネジメント力
この年頃ではマネジメント力が最大の課題です。
もっというと、メンタルヘルス。
部下を壊さない。
これだけを注意していれば、勝手に評価は上がります。
厳しい指導をするほど、「この人は部下を壊すかもしれない・・・」という注意信号が出ます。
「会社を良くしよう」「頑張って困難な課題をクリアしよう」と情熱を持っても、周りの人は付いてこずに評価されないどころか悪い評価になってしまいます。
この現実にどれだけ早く気付けるかが、化学プラントの機電系エンジニアとして長く居続けるかに影響します。
決して肯定的な意味で言っているわけではありませんからね(笑)
15年目~
この辺りになると管理職になる人もいるでしょう。
チーム全体をまとめる仕事です。
速い人では10年目くらいから管理職を見据えた指導を上司から受けるようになるでしょう。
「次の主戦力を育てるように」
こんな風な指導を受けたあなたはロックオンされていますよ(笑)
5年目~9年目くらいの若手が10年目で独り立ちできるように、今10年目の実務責任者が教育をちゃんとしましょうね、と。
15年目になったあなたはそう思うでしょう。
育っていなくても管理職にはなります。
この場合はプレイングマネージャーですね。
課長級のこの段階ではメンタルヘルスが最大のテーマです。
どれだけ優秀な人でも部下のメンタルヘルス問題を起こせば一発アウトです。
人に恵まれるか?というキャンブル的な要素が強いです。
とはいえ、この年くらいになると覚悟は決まってきます。
25年目~
ここまで来れば部長に上がることも視野に入ります。
でもここは運の要素が強いです。
上のポジションが空いているか、子会社の出向や年齢分野など自分ではコントロールできない部分です。
部長に上がってもメリットなんてないので、課長をゴールと設定しても良いかも知れませんね。
教育的には課長と同じくメンタルヘルスが最大のテーマ。
ローテーション
オーナーエンジニアの場合はローテーションは少し考えて行わないといけません。
入社5~6年目がベスト
私はこう考えています。
これより早いと失敗しがち、遅いと考えが固執しがちです。
入社3年目までで一通り経験して、同じ工場で1つ(1~2年)の仕事を経験する。
これを卒業式の扱いとして、別の場所にローテーションをして3年くらい経験。
1年目が様子見、2年目が自分の色を出す、3年目は引継ぎ。
よく言われる3年の範囲内でのローテーションで取り組むことですね。
この段階は本当は製造部の管理をするのが理想的。
3年経過して8~9年経てば、また別の場所にローテーション。
製造部の管理を経験してエンジニアに戻るというのが、オーナーエンジニアのあるべき姿でしょう。
ずっと同じエンジニアリングを経験しているだけだと、視野の広さが育ちません。。。
遅い方には8~9年目くらいまではまだ何とかなるでしょうが・・・。
遅ければ遅いほど、ローテーション先で苦労します。
固定化のリスク
ローテーションが難しい機電系エンジニア。
優秀であればあるほど、ローテーションのタイミングが遅れていき固定化していきます。
その固定化によって人の成長を阻害することになりますが、何が問題かをまとめてみます。
組織の固定
人が固定化されると、癒着や不正の温床となります。
その対策として、異動を頻繁に行うのが日本式。
異動に対して興味を持つ社員が多いのは、変化を期待しているからだというポジティブな面があるでしょう。
異動を頻繁に行うと、それはそれでリスクがあります。
大きな組織になるほど、多くの組織を経験しないと全体像が読み取れません。
そのために異動が頻繁に行われ、どの職場も表面的な部分しか分からないゼネラリスト社員が大量に養成されます。
組織をどれだけ固定化するか流動化するかというのは実は難しい話です。
経験主義の誤用
機電系エンジニアや運転部門は化学プラント内で経験が大事と強く言われます。
経験しないと分からないような、学問的でない部分が多いからです。
これを曲論まで詰めて経験が大事だから理論は不要なんていいがちなのがJTC。
現物を見た方が早いからと言って、言語化すら諦める人が量産されます。
言語化できず良く分からなくて、とりあえず既設と同じに状態に復旧しておこうという発想になるわけですね。
そういう社員が増えていくと、本質を問おうとしたり変化させようとする人がマイナー化されて敬遠されるようになります。
歴史を疎かにする
組織の固定化が進むと歴史を疎かにしがちです。
当時その問題に直面した社員の中では強烈な記憶として残っていても、時間が経てば忘却していきます。
そこで形に残そうとしなければ、外部から転入してきた人が学習できません。
その当時起こったことを外部の人でも簡単に理解できる仕組みを作る。
相当難しいことです。
でも大事です。
この仕組みをちゃんと作るのが、保全の仕事の1つでしょう。
保全というかプラントの歴史という世界です。
まぁ、そうはいってもオーナーエンジニアでプラントの歴史を大事にしている人なんて極小です。
過去にこんなことがあったから、○○はダメだ。
という意見にはもっと説明を要求して、歴史を紐解けるようにしたいです。
でもそれを問い詰めても答えが返ってくるわけでなく、言語化能力の不足を実体験でごまかそうとする社員を目の当たりにするだけでしょう。
参考
関連記事
さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントの機電系エンジニアの教育方針をまとめました。
情報量・専門分野・発信という3つの課題があり成長しにくいオーナーエンジニア。
3年→10年→それ以降でローテーションも含めて考える必要があります。
教え込ませる期間と考えさせる期間を分けましょう。
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