化学プラントの生産業界や生産方式について解説します。
典型的なバッチや連続という方式は、化学業界の生産方式を語るうえで必須です。
どちらが良いというわけではありませんが、初めて化学業界に入ったエンジニアはかなり分かりにくい部分でしょう。
特に設備だけを担当する生産技術エンジニアは、使い方やプロセスが分からずに違いを意識する機会が多くはありません。
バッチだけの専門家や連続だけの専門家としてのキャリアを進むのなら問題ありませんが、バッチと連続の間で担当変更があるような会社では、両方の違いを知っておくことは重要でしょう。
化学プラントの生産業界
化学プラントの生産業界としてペトロ・バルク・ファインの3つを解説します。
ペトロケミカル
ペトロケミカルとは石油化学プラントのことです。多くの塔が並んでいるプラントです。工場萌えの対象にもなります。ペトロケミカルは石油化学の技術を使っています。
有機化学を少し触ったことがある人は、「エチレン」という化学物質を聞いたことがあると思います。C2H4です。有機化学物質には様々な種類がありますが、それらは原油から派生します。原油 → エチレン
この工程をペトロケミカルのプラントでは担当します。原油からはエチレン以外にもたくさんの物質を得ます。原油からLPG・ナフサ・灯油・軽油・重油などを分離します。原油とは逆に言うと、これらの油の混合物です。
「原」油なので、自然界から採掘した油そのもの。そのままでは人間は有効に活用することができません。蒸留という化学の単位操作を行うことで、分離します。
参考ですが、エチレンはナフサというグレードに分類されます。有機化学を触った人は、「ポリエチレン」という単語も聞いたことがあります。
プラスチックのバックやボトルなどがそうですね。エチレンがいっぱいくっついたもの、程度に私は理解してます。エチレンがモノマーといい、ポリエチレンはポリマーとも呼びます。
原油 → エチレン → ポリエチレン
この工程もペトロケミカルのプラントの担当範囲。まずはこれくらいの理解で良いと思います。エチレン以外の種類は、興味があれば少しずつ調べていけばいいでしょう。
バルクケミカル
続いてバルクケミカルです。ペトロケミカルとバルクケミカルを分けて記載していますが、実際にはペトロケミカルはバルクケミカルの1つと考える方が正解です。それでもペトロケミカルはその事業規模が圧倒的ですので、分けて考える方が良いという発想もあるでしょう。
バルクケミカルは一般に言う連続プラントと考えれば良いでしょう。石油化学に代表される有機化学系のプラント以外に、無機化学系のプラントもバルクケミカル。ペトロケミカルとバルクケミカルを分ける場合、ペトロケミカルは有機化学系・バルクケミカルは無機化学系という方が良いでしょう。
それくらい私の中では適当です。私のようにバッチ系で仕事をしてきた人からは、この辺の世界は本当に疎いです。特に機電系エンジニアは、下手をしたら化学物質の中身を全く知らなくても仕事ができてしまいますので…。
ファインケミカル
ファインケミカルはバッチプラントと読み替えても良いでしょう。
バルクケミカルが連続プラント
ファインケミカルがバッチプラント
この2台巨頭が化学プラントの生産方式。連続プラントが多量少品種に対して、バッチプラントは少量多品種です。
いろいろな製品を作るため、切替生産を行うのがファインケミカルの特徴です。扱う製品が多いので、ここでは紹介できません。
大量生産をする場合は圧倒的に連続プラントが有利ですが、少量生産の場合はバッチ生産の方が有利です。
1年の1/3を製品Aの生産に使い、1年の1/2を製品Bの生産に使う、というように1つの工場で別の製品を作ることができます。これは二毛作そのもの。ペトロケミカルのような派手さはありません。地味です。工場萌えなんて起こりません。
運転条件の比較
ペトロ・バルク・ファインの運転条件の比較をしてみましょう。
生産方式 | 圧力(MPa) | 温度(℃) |
ペトロ | 14 | -180~850 |
バルク | 1 | 500 |
ファイン | 0.2 | -10~200 |
典型的な例を紹介しているだけなので、該当しない例も存在します。こうやってみると、ファイン系の圧力・温度は非常に条件が緩やかです。
これが連続系のエンジニアから、バッチ系のエンジニアが軽んじられる原因です。大手の会社ほど連続のエンジニアがポジションを独占しています。バッチのエンジニアは肩身が狭いようです。私はどっちでも良いと思っていますが…。
単位操作
化学工学の世界では「単位操作」というワードがあります。古いものでは以下のような単位操作があるでしょう。
伝熱・流動・蒸発・蒸留・抽出・晶析・調湿・ろ過・乾燥
化学工学の教科書に書いてありそうな項目を拾ってきました。私は化学工学を専攻していません。会社に入ってから必要な知識だけを学びました。バッチ系化学プラントで使う単位操作だけを拾ってきている感じがします。
この単位操作と設備の構成は1:1で対応しません。連続とバッチの違いを単位操作で議論しようとしても、きれいに整理できないのはこの辺が原因だと思います。運転条件の主要要素である圧力や温度は違いますよ。でも、化学工学的な単位操作という意味ではあんまり変わりません。そこで、連続とバッチの違いを、設備の構成という切り口で紹介しようと思います。
連続とバッチの設備構成
連続プラントとバッチプラントで設備構成を比較してみます。単位操作とは関係なく設備構成が違っています。
連続の設備構成
複数の連続工場を見て回ると、こんな感想を抱くと思います。どこもバラバラしている
これは、簡単に言うとそのプラントが単一製品に焦点を当ててカスタマイズされていると言えます。
設備配置に統一感がない
連続プラントでは塔や熱交換器が張り巡らされていますが、その配置は素人が見てもすぐに分かるくらい、プラントごとに統一感がありません。
塔は塔・熱交換器は熱交換器というような、階やエリアごとの設備配置がありません。階数が異常に多かったり、架構の床面積が階ごとに違ったり、無駄に階段があったり。バッチ系化学プラント担当の私が見ると、違和感のある構造です。
単位操作と設備構成が一致しない
連続プラントの反応工程は、酸化・重合・分解・蒸留などがあります。このいずれの反応工程も、共通化されていません。
塔・熱交換器・リボイラー・ポンプなどの構成は同じですが、構成する設備数はバラバラです。酸化工程で1つの塔・2つの熱交換器・1つのリボイラー・1つのポンプだったとして、重合工程で3つの塔・5つの熱交換器・1つのリボイラー・3つのポンプというような構成だったりします。とにかくバラバラです。
一度建てると改造がしにくい
連続生産をするということは、その製品が1年365日運転できるだけの需要のある製品と言えます。大量に生産する需要のある製品です。
1つのプラントを建てるためには膨大な投資が必要です。そこで1つの製品に特化したプラントを作るのは、かなりの投資判断が必要。連続工場のプラントを建てるというのは、かなり勇気のいる話です。
その製品の売り上げが悪くなったときに、他の製品を導入するのがかなり難しいです。大幅な改造が必要となります。バッチ系化学プラントを担当していると、羨ましいと思いつつ、少し可哀想にも見えます。オペレータが勉強する機会が少ないですから ^ ^
バッチの設備構成
バッチの場合はどれを見ても同じような構成に見えるでしょう。バッチはバラバラではなくて統一感があります。
基本構成要素が同じ
バッチプラントは切替生産を行うために、設備構成はほぼ同じです。
反応・蒸留・抽出・晶析
いずれも同じ設備構成で行います。すべてを反応器で実施します。
反応器・熱交換器・ポンプが1セット。この組み合わせを10~20個並べます。
どのプラントも見た目が同じ
バッチ系化学プラントを見学すると、この意見が出ます。1つ見れば十分。飽きる。本当にこのとおり。
- 1~2階に反応器を設置
- 3階に粉体原料や液体原料の仕込み室を設置
- 4階に熱交換器を設置
ほぼこの構図です。バッチ系化学プラントのレイアウトは、ほぼ最適化されています。
機能拡張性が大事
切替生産が多く、新製品の導入や合理化も多いため、設備改造工事が多いです。だからこそ機能拡張性を持ったプラントが大事です。これは相当難しい話。
最適化されたバッチプラントでも、連続プラントと大差ありません。最初は空間的に余裕のあるバッチプラントでも、少し改造をするだけで一瞬で拡張性がなくなります。
プラントレイアウトの最適化は、プラント設計の合理化として定期的に話題になりますが、実現する機会がないために、絵にかいた餅状態になります。
設備の統一性
バッチプラントは設備の基本構成が基本的に同じです。だからこそ設備の統一仕様はとても大事。バッチプラントの今後のあるべき姿です。個別プラントの最適化よりも複数プラントの全体最適化を目指しましょう。これはかなり難しい話です。
参考
化学業界などの広い話題は機電系エンジニアはかなり苦手な分野です。
しかし設備の構成や生産方式を理解できるようになると、業界全体に目を向けやすくなるでしょう。
視野を広げようと思ったときには、以下のような本がおススメです。
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最後に
化学プラントの生産業界と生産方式について解説します。
ペトロ・バルク・ファインと連続・バッチの違いについて解説しています。
ペトロ⇔連続、ファイン⇔バッチと関連付けても良いでしょう。
大手会社でバッチと連続の2形態を持っていても、技術者は連続だけの専門家・バッチだけの専門家として成長を目指します。
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