バッチ系化学プラントで使用する液体の性質(liquid nature)をまとめました。
液体の知識や薬液の特性は化学プラントではとても大事です。
水だけではなく様々な性質の液体を扱います。
機電系エンジニアとしては薬液の特性を理解せずに、仕事を進めれてしまう面が少なからずあります。
ところが、そういうエンジニアもどこかのステージまで成長すれば必ず痛い目にあいます。
基本を知らないということですからね。
設備を扱う以上、実際には薬液の特性は理解しておく方が有利に働きます。
最低限知っておくべきことをまとめました。
液体の種類
化学プラントで使用する主な液体の種類を紹介します。
水
水は日常生活でも一般に使用されます。
化学プラントでもユーティリティとして大量に使用します。
それだけでなく、溶媒としても使います。
- 反応で得られた不純物の塩を除去するため
- 有機溶媒系の粉体をろ過するため
- 粉体を安全・用意に運搬するため
現在の化学反応で水を主体にしたケースは非常に少ないです。
水でできる反応であれば積極的に使いたいっ!
そう思いながらプロセス開発をしているに違いありません。
実際には、何らかの有機溶媒を使わざるを得ないのですが^^
硫酸
硫酸とは学校で習った、あの危険な酸です。
硫酸・塩酸くらいは小学校~中学校くらいで学びますよね。
化学薬品で危険なものといえば、真っ先に出てくる薬品です。
この硫酸は化学反応の溶媒としても使います。
硫酸を使う場合は、硝酸とセットでニトロ化反応に使います。
ニトロ化反応に使いつつ溶媒としても使うのが硫酸です。
ニトロ化反応の後で別の反応がある場合は、溶媒置換が必要。
この場合、硫酸を処理や回収するための設備が必要になります。
後は一部のpH調整用にも使いますね。
硝酸
硝酸はニトロ化反応で使います。
硫酸の場合はニトロ化以外にも反応に使用する場合はありますが、硝酸はニトロ化専門で使うことが多いですね。
腐食性がとても高い液なので、機電系エンジニアも慎重に設計することでしょう。
塩酸
塩酸はクロル化反応で使います。
反応名としてはあまりなじみがないかも知れませんね。
硝酸と同じく反応専門に使うことが多いです。
苛性ソーダ
苛性ソーダは水酸化ナトリウムという名前でも化学初心者になじみがあるでしょう。
アルカリとして一般的。
化学プラントではpH調整に使用するのが一般的。
硫酸とセットで使います。
一部の分液用にも苛性ソーダを添加することがあります。
亜硫酸ソーダ
亜硫酸ソーダは還元剤として使うことがあります。
頻繁に登場するわけではありませんが、たまに取り扱うことがあるでしょう。
メタノール
メタノールはアルコールとして非常に有名。
アルコール類の基本とも言えます。
世間一般にはお酒であるエタノールの方が有名ですけどね ^^
メタノールは、水にも油にも溶けるという特徴があり、使いやすいです。
溶媒としては使うケースはあまりありません。ゼロではなく、使うケースはありますよ。
どちらかというと設備洗浄用に使うでしょう。
これも溶媒の一種ということで…。
毒性やあり、積極的に使う方向ではありません。
プロパノール
プロパノールもアルコールの一種。
メタノールと同じく水にも油にも溶けます。
人や環境に対する影響が比較的少なく使いやすい溶媒です。
アセトン
アセトンは、プロパノールから誘導されます。
プロパノールと同じく、水にも油にも溶けます。
プロパノールと同じく使いやすい溶媒です。
工場での油汚れ、例えばペンキ塗装など、はアセトンで落とそうとしたりします。
化学反応でも使用することはあります。
トルエン
トルエンは有機溶媒の代表のような扱いです。
水には溶けないが、有機溶媒には溶けます。
バッチ系化学プラントでも現役で使用する溶媒です。
とはいえ使う機会はどんどん少なくなっています。
キシレン
キシレンも有機溶媒の1つです。
水には溶けないが、有機溶媒には溶けます。
化学プラント的には導電率が低く、静電気着火しやすいという意味で、
トルエンよりも危険性が高いです。
液体の密度
液体の密度をいくつか紹介しましょう。
水
水の密度は1000kg/m3です。これは基本中の基本です。
厳密には温度に依存して、4℃で最大の密度を持ちますが、化学プラントの機械設備では通常議論にならない誤差の範囲です。
酸・アルカリ
酸・アルカリは水よりも重いです。
名称 | 密度 |
---|---|
苛性ソーダ | 2130 |
塩化カルシウム | 2150 |
硫酸 | 1830 |
塩酸 | 1180程度 |
硝酸 | 1510 |
酸・アルカリは水で希釈されますので、濃度によって密度は変わる点に注意してください。
苛性ソーダや塩化カルシウムを100%の状態で使うことはないので、最大でも2000kg/m3程度と私は考えています。
有機溶媒なら水とみなして計算すると良い!と言われます。
出は水とみなしてはいけないものは何か?ということまで詳細に言ってくれる人は、非常に少ないです。
有機溶媒は水、酸・アルカリはそのままで考える
こうはっきりと明示できるプラントエンジニアはほとんどいません。
有機溶媒
有機溶媒は水より軽いです。
具体例をいくつか紹介しましょう。
名称 | 密度 |
---|---|
トルエン | 867 |
キシレン | 860程度 |
ヘプタン | 684 |
アセトン | 784 |
メタノール | 792 |
イソプロピルアルコール | 786 |
いずれも水より軽いです。
これを知っているだけで、機械設計に変化が発生します。
機械装置の設計では、動力計算に影響が出ます。
例えば、ポンプの動力計算・攪拌機の動力計算などです。
これらの動力は、「密度」に比例します。
比例なので、有機溶媒で計算した時と水で計算した時とで20~40%のずれが起こることになります。
化学プラントの機械設備について、科学技術計算をどれだけ密に行っても効果が低い、と言われるのはこれが理由でしょう。
特にバッチ系化学プラントでは汎用性が求められるため、特定の有機溶媒では所定のパフォーマンスを発揮しても、水では発揮できないとなると問題になります。
特に、設備洗浄では水は必ず使います。
有機溶媒を使う装置だから有機溶媒だけをターゲットにしていいというわけではなく、液体の基本である水もセットで考えないといけません。
動力計算を行う設備に対して内容物物性を規定する場合は、取扱物質と水のどちらが厳しい条件側になるかを判断する必要があります。
液体の粘度
液体の粘度をいくつか紹介しましょう。
水は1mPa・s
水の粘度は1mPa・sです。これは基本中の基本です。
厳密には温度に依存して大きく依存します。
- 0℃で1.792mPa・s
- 20℃で1.002mPa・s
- 100℃で0.282mPa・s
20℃くらいが標準的につかう「常温」の範囲内ですので、以降の議論も20℃を前提にします。
酸・アルカリ
酸アルカリは、濃度にもよりますが粘度は高いです。
名称 | 粘度 |
---|---|
苛性ソーダ20% | 4.5 |
塩化カルシウム20% | 1.18 |
硫酸100% | 26.7 |
塩酸30% | 1.9 |
硝酸 | 2程度 |
有機溶媒
有機溶媒の粘度は、基本的には水より低いです。
一部に高い物も含みますが、例外です。
名称 | 粘度 |
---|---|
トルエン | 0.59 |
キシレン | 0.60程度 |
ヘプタン | 0.42 |
アセトン | 0.32 |
メタノール | 0.55 |
イソプロピルアルコール | 2.37 |
粘度が高いと…
粘度が高いと、化学機械上は何が問題になるでしょうか?
圧損計算や撹拌計算などに影響を与えます。
レイノルズ数Re
レイノルズ数は、流体を議論するうえでほぼ欠かせない基本的な無次元数です。
ここで粘度は、逆数で効いてきます。
Re ∝ 1/μ
粘度はμで表現することが多いです。
粘度が上がると、レイノルズ数が小さくなる方向です。
小さくなっていくと、乱流から層流にシフトします。
層流領域での運転になると、かなりの高粘度で抵抗が増えてくると思えばいいでしょう。
配管摩擦損失のグラフなどでも、層流と乱流で線を分けています。
レイノルズ数において物性で変えることができるのは「密度」「粘度」です。
- 密度は、水に対して0.5~2.0倍の範囲内です。
- 粘度は、水に対して0.1~2.0倍の範囲で変わるイメージです。
動力計算・配管摩擦損失はReに依存
10mPa・sであれば、レイノルズ数への影響は少なく、問題になることはほぼありません。
100mPa・sになればかなり変わりがありますので、動力計算・摩擦計算などに注意する必要があります。
本記事で上げた物性では、硫酸が要注意です。
材質
これらの薬液に対して機電系エンジニアとしては材質の選定に興味が行きます。
水
水は配管材質は鉄系SGPで十分です。ガスケット材質は汎用ジョイントシートで十分です。
基本ですね。
酸・アルカリ
酸やアルカリに対して配管材質はステンレスを選びたくなるでしょう。SUS304で十分です。
ところが、常温の45%苛性ソーダや98%硫酸ソーダは炭素鋼でも耐食性があります。
炭素鋼だからSGPを選びたくなりますよね。基本的にはOKです。
硫酸は密度が1.8程度と水よりもかなり高いので、取り扱い圧力が高くなりがちです。
ちょっと不安があればSTPGにしている方が無難でしょう。
これだけで、SGP・STPG370・SUS304という3つの選択肢が出てしまいました。
悩みますよね。。。
ここでは、鉄系(SGP・STPG370)とステンレス系(SUS304)でどちらを選ぶのか、メリットデメリットを判断しないといけません。
私は以下のように簡単に把握しています。
コストを重視すると鉄系、煩雑さを嫌うならステンレス系というところでしょうか。
配管に対してガスケットは何を選べばいいでしょうか。
今回は悩むところです。
私は、配管とガスケットの組み合わせは一般に以下のように理解しています。
鉄系 | 汎用ジョイントシート | |
ステンレス系 | フッ素樹脂包み or フッ素樹脂 |
この定義に従うと、苛性ソーダや硫酸のために鉄系の配管を選ぶと、汎用ジョイントシートを自動的に選ぶことになります。
ここで注意が必要。
汎用ジョイントシートは苛性ソーダや硫酸には耐食性が低い 。
苛性ソーダや硫酸は、配管材質を鉄系にするかステンレス系にするかによらず、ガスケット材質はフッ素系を選ばないといけません。
汎用ジョイントシートはあくまでもユーティリティ系に使うものであって、プロセス系には積極的に使うものではありません。
鉄系の配管もユーティリティ系に使うものであって、プロセス系には積極的に使わない方が良いでしょう。
コストを抑えるためには、ガスケットの性質を正しく理解して内容物を適切に把握していないといけません。
注意ですね。
有機溶媒
特段のこだわりが無いならば、配管材質はSUS304・ガスケット材質はフッ素樹脂やフッ素を使うと良いでしょう。
汎用性を考慮して、どんな有機溶媒でもそれなりに対応できるようにしておくのがバッチ系化学プラントの思想です。
例えばトルエンなどはSGPでも使える場合がありますが、例外として捉えておく方が良いでしょう。
その他の特性
液体の性質としてあまり重要ではないが知っておきたい項目をまとめました。
沸点
水の沸点は大気圧で100℃、酸アルカリは100℃以上(通常は沸点で扱わない)、有機溶媒は100℃前後で液体によって異なります。
常圧蒸留ばかりでなく減圧蒸留もあるので、沸点を覚えている機電系エンジニアはあまり多くは無いでしょう。
融点
水の融点は0℃、酸アルカリや有機溶媒の融点は議論にならないでしょう。
あえていうとブラインで塩水を使ったり有機溶媒を使ったりしますが…。
導電性
水系(水や酸アルカリ)は電気を通し、有機溶媒は電気を通しません。
分液をきれいに分けるために導電率計を使うのは、水層と油層の導電性の違いを利用したものですね。
参考
液体の知識は流体力学から始めるのが良いと思います。
もちろん、化学的な知識も必要になりますが、機械屋としては流体力学がおススメです。
最後に
バッチ系化学プラントで使用する液体の特徴について解説しました。
水・酸アルカリ・有機溶媒でもメジャーなものに限定しました。
密度・粘度・材質などにも触れています。
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