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配管

配管内の液封対策の基本|見えない敵

液封 配管
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液封現象(Liquid expansion)は、化学プラントで気が付かないうちに起こりえる、とても怖い現象です。

古典的でついつい忘れがちになります。

手動操作を基本としているプラントならオペレータがその理屈を知っていて対応してくれますが、自動化が進むほど意識が薄くなっていきます。

自動弁の開閉操作が無駄に多くなっているように見えて、不要だから削除したら液封が起こった!

ということは容易に想像できます。

いつの時代も原理原則をしっかり理解しておきたいですね。

液封(Liquid expansion)の原理

液封は非常に恐ろしい現象です。

化学プラントで配管設計をする場合、液封の可能性は常に考えるようにしましょう。

まずは液封という現象から解説します。

温度膨張

まずは温度膨張という物理現象の当たり前から解説します。

下の図を見てください。

温度膨張(Liquid expansion)

上が常温の物体、下が少し温度を上げた状態です。

温度を上げると物体は伸びます。

この絵のようにかんたんのために1次元で考えて、長さL・温度差Δt・温度膨張係数αを使うと、

$$ L_1 = L_0(1+αΔt) $$

という関係式で考えます。これを線膨張とも言います。

3次元の場合は体積膨張と呼び方が変わります。

実際の物理現象上は体積膨張ですが、計算がややこしいですからね・・。

体積圧縮

次に体積圧縮について解説します。これも物理現象として一般的。

物体を押すと物体は縮みます。

下の図のとおり。

圧縮(Liquid expansion)

押す力のことを圧縮力という言い方もしますね。

専門用語で体積弾性率で評価します。

$$ F = β({L_1}-{L_0}) $$

というフックの法則そのままの世界で評価ができます。

液封(Liquid expansion)は何が危険?

液封とは液体が閉じ込められている状態で温度上昇したときに起こる現象と考えて良いです。

液封の危険(Liquid expansion)
  • 温度上昇をすると液体は膨張する
  • 膨張しようとしても閉じ込められているから膨張できない
  • 膨張を抑えるように液体は周囲から力を受ける
  • と同時に、液体は周囲に対して膨張力を与える

この状態が平衡関係にあれば問題にはなりません。

問題は、割と低い温度上昇で周囲側が負けてしまうということ。

周囲が負けるとは、内部の液体を閉じ込めることができずに外部に放出されることを意味します。

漏れですね。大変です。

熱膨張について、材料力学で熱応力という現象として説明されます。

詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

簡単な計算

液封についてちょっとした計算をしてみましょう。

  • 20℃→25℃に上昇
  • 温度膨張率:0.2×10-3 1/℃
  • 体積弾性率:2,100 N/mm2

このデータを使いましょう。

水が5℃温度上昇して25℃になったときの、水の伸び量は

0.2×10-3×(25-20) = 1×10-3

となります。

この伸びに対抗するように、外部から水に加わる力は

1×10-3×2,100 = 2.1 N/mm2 = 2.1MPa

となります。

JIS10k(1MPa)のフランジが多いバッチ系化学プラントでは、2MPaの力に耐えるだけの配管や装置の能力ではありません。

つまり5℃も温度が上がろうものなら、液封で設備は簡単に壊れます。

昼と夜だけでも5℃くらいの温度差って普通にありますよね。

何気ない普通の状態でも液封は起こりえるということです。

恐ろしいですよ。

自動弁

液封の起こりやすさが分かったところで、液封が起こる場所を解説します。

まずは自動弁。

自動弁(Liquid expansion)

ポンプでどこかに液体を送る時に、自動弁が2つ入ったケースは要注意ポイントです。

ポンプを停止すする手順を見てみましょう。

  1. 流量計や液面計を見て一定量送ったことを確認
  2. 自動弁Bを閉める
  3. 自動弁Aを閉める
  4. ポンプを止める

こんな感じになるでしょう。

自動弁AとBの間で液封が起こってしまいます。

対応としては液を逃がすという手段になるので、以下のような手段が考えられます。

自動弁の液封対策
  • ポンプを止めた後で自動弁A自動弁Bを数秒開ける
  • 逃し弁のような安全装置を付ける

バルブの開閉くらい簡単でしょ?と思うかもしれませんが、人がいちいち気にしないといけないため忘れ去られる可能性があります。

長距離の配管になると、どこに自動弁が付いているかラインチェックも大変です。

その割にダメージが大きいので、リスクは除去したいですね。

自動弁を付けて自動化したとしても、液封対策の工程をシーケンスに含めていないと対策になりません。

仮にシーケンスを組んだとしても、課題は残っています。

自動弁B側を開けて逃がす場合

自動弁A側を開けて逃がす場合

流量計の設置位置によっては流量計でカウントされていない一定量が追加で送られてしまう

タンク液面が配管高さより高い場合は液がポンプ側に落ちていかない

運転条件に依存した対策となってしまいます。

汎用的ではありません。

それならばアナログだが確実な安全装置の逃し弁を付けようという発想になるでしょう。

逃し弁は安全弁の親戚です。

ボール弁

ボール弁自体にも液封が起こりえます。

ボール弁の概略図を示しましょう。

ボール弁液封(Liquid expansion)

ボール弁はボール弁体シールの3点で成り立っています。

赤枠の部分は空洞になっていて、液が入り込みます。

その割に青色のシールで蓋をされて逃げ道が無くなってしまい液封となります。

機械的に強度を考えて、温度上昇が起きた時にどこから漏れるか考えてみましょう。

  1. 弁棒周りのグランドシール
  2. 弁座のシール(青色のシール
  3. 本体ガスケット

この3つくらいでしょう。

ここで1のグランドシールや3の本体ガスケットが最も弱い状態にある場合で、液封を起こすとプロセス液が大気に漏れていきます。

ということは2のシール部が弱くなるように設計するというのが1つの思想になります。

実際にこの方法は採用されています。

日阪製作所のサイトにも内圧上昇防止としてちゃんと書いてありますね。

同サイトには弁体そのものにも逃がし口を付ける構造を取っているようです。

凍結も液封(Liquid expansion)の一種

水の凍結も実は液封と同じ原理で起きます。

基本的には水だけに当てはまります。

というのも水は氷になると体積が膨張するから。

温度膨張の説明でも、温度が上がるほど体積が膨張するのが普通と書きました。

でも水だけは別です。特殊です。

4℃で密度が最大つまり体積が最小になるという特性があります。

ということは4℃よりも温度を下げていくと、体積が増えるということです。

氷が水に浮くのも密度が小さいからです。

お風呂を沸かしたときに、熱い湯が上面に・冷たい水が下面に溜まるのも密度の話。

凍結をしたときにはすぐに気が付きません。

というのも氷の状態で周囲を破壊しても、氷だから漏れに気が付きません。

夜間や明け方に凍結が起きて破壊され、昼間になって溶けて水になって気が付くというパターンが多いです。

凍結だけでも鉄の配管を壊す威力があります。

凍結と液封は同じ原理なので、凍結も液封も怖いという感覚を持っておきたいですね。

凍結について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

参考

液封は原理的には簡単ですが、だからこそ実設備では見落としがちです。

配管に関するトラブルは過去に多く発生しているので、以下の本で体系的に学習しましょう。

最後に

ボール弁は構造がシンプルですが、それゆえに液封の問題が起きます。

液封は気が付かないうちに起こりえる割にとても危険です。

自動弁・ボール弁・凍結という視点で解説しました。

配管設計では常に液封の可能性を気にしておきたいですね。

化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)

*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。

  1. cadmi より:

    ブログサークルから来ました。
    プラントに下請でたまに入るのですが、たった5℃で配管が破裂する恐れがあるんですね!
    勉強になるので他の記事も読ませてもらいます!

    • ねおにーーと より:

      コメントありがとうございます。
      冬に氷点下以下なったときの水道管でも同じことが起こります。
      これからもよろしくお願いします。

  2. より:

    食品工場で働いているものです。自動弁の所で書かれている内容と同じ現象が油を送液(貯槽タンク~配合タンクへ送液部)で起きています。自動弁の両側締めで起こる液封による昇圧の原因は何でしょうか?タンク貯槽温度と送液配管にも油が固まらないようにヒーター加温しており温度差はそこまでありません。
    もう一点教えてください。公共上水を工場迄は埋設配管ですが場内は屋外配管ラックで配管保温なく引きこんでいます。油と同じように配合タンク手前に自動弁があり計量後閉止します。未使用中の配管内圧が0.6Mpaくらいになっていますが対策があれば教えてください。

    • ねおにーーと より:

      コメントありがとうございます。

      1点目ですが、ヒーターで加熱している状態で自動弁で液封状態になっていると昇圧する可能性は高いと思います。
      入口側自動弁を閉めたときの液封部の液体温度よりも温まる要素があれば、昇圧しえると考えます。
      記事中の簡易計算では、5℃で2.1MPaですので、単純計算で1℃上昇すれば0.4MPa程度の昇圧が予想されます。
      ヒーター温度>液体温度であって液体が静止状態であれば、測定温度が液体の代表温度を示していても、局所的な温度変化をキャッチできているわけではないと考えられます。
      「温度差はそこまで」という点がポイントになるでしょう。

      2点目の公共上水は、圧力保持状態を気にされる場合は逃し弁などの安全装置を付けることが最初に考えられます。
      上水で取引数量にも影響するので、付けないと思いますが・・・。
      自動弁が2つ付いていれば、前段を最初に遮断→タイマー→前段以降の液が流れ空気で置換→後段を遮断→前段を開放というように、2個の自動弁の間に空気層を作れば、液封は起こらないです。
      同じような考え方で、アキュームレータを付けて、圧力変動を吸収するということも考えられます。
      この辺りが運転を複雑にする要因を生むので、直結で工場に引き込まずにタンクに受け入れて、使用先に供給するという方が安定しますね。

  3. より:

    ミです。ご連絡遅くなりました。
    丁寧なコメント回答ありがとうございました。
    参考にさせていただきます。
    ちなみに公共上水ですが、自動弁手前に減圧弁をつけるという考え方でもいいでしょうか?

    • ねおにーーと より:

      残念ですが、あまりいい方法ではありません。効果がないとは言い切れませんが、適切に作動するかどうかが分かりません。

      ・液封は系が閉じた瞬間の圧力と温度に対して、温度上昇分が圧力上昇に変化し、設備の耐圧を越えることで漏れが起きます。
      ・減圧弁を付けると使用中は2次側の圧力が下がりますが、停止中は圧力降下が低くなります(1次側圧力に近づきます)。
      ・減圧弁を付けても1次側圧力が下がるわけではないので、減圧弁の設置場所を考えないと、期待される効果は低いでしょう。