建設プロジェクトマネジメントで配管設計(piping design)に対する思考の推移をまとめました。
化学プラントのオーナー系機械エンジニアなら配管設計は相当こだわりを持つべきです。
配管設計はオーナー側機械エンジニアの存在価値の主要部分であり、エンジニアリング期間を左右する重要な要素でもあります。
ところが、プロジェクトが進むにつれて状況が変わっていき、都度異なる判断を掛けていかなければいけません。
どんな風に推移していくかをまとめてみました。
どんなに立派な意気込みがあっても、最後はなし崩し的になります。
配管設計(piping design)とプロジェクトの流れ
配管設計は配管図を描く図面屋さんの仕事だから、プロジェクトの中盤で話題になるだけだろう。
こう思っている人は意外と多いはずです。
もっとプロジェクト全体に広く関わる話ですが、機械系・プロセス系のエンジニアと製造部が主に興味を持っている程度でしょう。
計装系が自動弁・計器の取り合いや流量計の直管長などで配管図レビュー時に興味を持ちますが、配管設計という意味では興味をほぼ持ちません。
プロジェクト全体のどの部分で配管設計が関わってくるか流れに沿ってみていきましょう。
- ステップ1予算化段階
- ステップ2機器設計段階
- ステップ3P&ID作成段階
- ステップ4配管図作成初期
- ステップ5配管ヘッダー検討
- ステップ6配管図レビュー
- ステップ7現地工事初期
- ステップ8現地工事終盤
ステップ1 予算化段階
予算化段階では配管のレイアウトのことはほとんど意識していません。
あえて意識するといえば
- 配管総量
- 配管口径
- 配管材質
これくらいだと思います。
予算化段階では詳細設計を行う時間的余裕はなく、配管に関する思想はほぼないといって良いでしょう。
本来ならば、プラント外からの配管の引き込み方法や、プラント内の立ち上げスペース・切替配管スペース・受入流量計ヘッダーなど考えることはあります。
プラント建設クラスの高難易度でなければ、既設をそのまま使うという思考で終わってしまいがち。
この段階で配管に対するこだわりを持つエンジニアの方は希少価値があります。
ステップ2 機械設計段階
機器設計段階では配管を考えて設計しなければいけません。
機械系エンジニアが配管設計で最もこだわりを見せないといけない段階です。
本当はこの段階では以下のことをちゃんと考えていないといけません。
- 配管口径
- ノズル口径・形状
- ノズルヘッダーの並び
- 必要な計器類の設定
これらができていないと、本当は配管設計に掛かれません。
でも機器設計を疎かにしているエンジニアは本当に多いです。
機器設計書を仕上げる余裕がなくて、パスして設備調達に至るケースも。
ここでパスされた配管設計思想が後でカバーできればまだいいのですが、いったんパスされたものは次のステージでもパスされがち。
ステップ3 P&ID作成段階
P&ID作成段階では機械エンジニアがプロセスエンジニアや製造部に対して配管設計のこだわりをアピールする場です。
プロセス面の話だけが議論の対象になりがちですが、機器設計の情報をP&IDに反映させてまとめて議論すべきです。
こだわる内容はステップ2の機器設計の内容でほぼOKです。
数がとても多いので、簡単に見えても結構難しいです。
だからこそ機器設計で緻密に検討する時間が大事になってきます。
ステップ2でパスされた思想が、ステップ3段階でちゃんと検討できるわけがないですよね。
ステップ4 配管図作成初期
配管図作成初期には、機械エンジニアは図面屋さんに指示をしないといけません。
この段階では機械エンジニアは自分が持っている、こだわり100%を表現する必要があります。
「こだわり」とは要求事項と読み替えても良いです。
図面屋さんに対する配管設計の要求事項です。
このイメージをできるだけ早い段階でできるだけ正確に、図面屋さんに伝えないと配管設計が後戻りして、低質な配管が出来上がります。
- ステップ2の機械設計を通じで作り出した、機械関係の配管思想
- ステップ3のP&IDを通じて作り出した、プロセス関係の配管思想や製造部の作業性
これらの想いを配管図に漏れなく入れ込む段階です。
溜め込んだエネルギーを放出する段階ですね。
ステップ5 配管ヘッダー検討図
配管ヘッダー検討図は配管図作成の初期に行う作業です。
ステップ3のP&ID段階がしっかりしていて、ステップ4で図面屋さんに適切に伝えていれば、この段階では何の問題もないはずです。
言語化の問題で1回で100%適切に伝わるわけではありません。
質疑応答を繰り返します。
それでもステップ1の段階でちゃんとした思想があれば、質疑応答は一瞬で終わります。
ここが機械系エンジニアのこだわりを見せる最終段階と思わなければいけないでしょう。
- まだ配管設計は終わっていないから
- 工事段階で修正は可能だから
こういう甘えを許していると、配管図の質はどんどん悪くなります。
機械系エンジニアよりもプロセスエンジニアがこの辺の発想を保有しておらず、後になって修正をいっぱい言ってくる傾向がありますね。
現実を正しく他部門に伝えるのも機械系エンジニアの役目でしょう。
ステップ6 配管図レビュー
配管図のレビュー段階では、ほぼ完全に妥協をしましょう。
この段階で修正をいっぱいかけても、時間的な余裕は少ないです。
修正が追い付きません。
発注・工事手配と実害が多かれ少なかれ出てきます。
プロセスエンジニアや製造部のレビューのための場と割り切りましょう。
とはいえ彼らが2D-CADの配管図を正しく読み取る力があるわけではなく、仮に3D-CADの環境があってもレビュー時間がかかるので、レビューの質が悪くなる可能性は高いです。
それならば不満があっても一度作り上げて使ってみて、不具合の優先順位付けをする方が結果的には速いと思います。
この辺の割り切りはプロジェクトではとても大事です。
ステップ7 現地工事初期
現地工事初期には配管図としてのこだわりを見せる場ではありません。
- 配管の傾きがおかしい
- 配管の立ち上がりが傾いている
- フランジの切込み位置がおかしい
こういう要望は出せなくはないですが、工事品質に影響がでない程度に留めましょう。
例えば、自然落下ラインで配管勾配を指定しているのに逆勾配だった、スラリー配管なのに曲がりを勝手に増やされた、とか。
運転面で確実に問題が起きるであろう場所から、そのリスクを正しく評価して指摘するかどうかを判断する段階です。
ちょっとでも品質の悪いあらさがしをすることは止めましょう。
ステップ8 現地工事終盤
現地工事終盤では、100%妥協です。
運転に多少に支障があっても、とにかく配管が繋がればOK
これくらいの覚悟で挑むべきです。
不具合があったら、次のSDMで何とかすればいいのです。
ここまで問題が解決しなかったのは自分1人のせいではありません。
配管設計は機械系エンジニアの成果物として責任感を感じるかもしれませんが、過剰に感じないようにしましょう。
こだわりは大事ですけどね^^
参考
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最後に
化学プラントの建設プロジェクトで配管設計にかける想いの推移を紹介しました。
予算化段階・機械設計段階・P&ID作成初期・配管図作成初期・配管ヘッダー検討図・配管図レビュー・現地工事初期・現地工事終盤に分割しています。
P&IDや配管図を書き始める段階で100%のこだわりを持ち、以降は妥協していくイメージです。
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