硫酸(sulfuric acid)を取り扱う設備の設計で、注意したいことを解説します。
幅広い設計要素がありますが、重要ないくつかの要素に絞ります。細かい設計は社内標準のような基準化を優先した方が良いでしょう。
硫酸という薬液の性質を良く理解して考えないといけない部分を、設計ポイントとします。
新人エンジニアで最初は水系の設計を行って、できるようになったときにチャレンジしたい代表的な薬液が硫酸です。
フロー
硫酸周りのフローとしては以下を考えます。
貯槽に入った硫酸を、ポンプでどこかに送るという例です。
- タンク容量は10m3
- ポンプ流量は0.1m3/min
- 98%硫酸(濃硫酸)
- 常温
この辺りの前提条件から始めましょう。
タンク容量は使用先で使う量やデリバリーサイクル、ポンプ流量は使用先の要求に依存します。
だいたいは工場で統一している思想(標準流速)で決めると思います。
タンク
タンクの設計で重要な項目を解説します。
材質
タンク材質は金属性が好ましいです。
10m3程度であれば、グラスライニングなどのタンクでも使えますが汎用金属系の方が安価です。
候補はSS400とSUS304。
金額さえ許せばSUS304にしておく方が良いでしょう。
この2つのどちらを選ぶかはかなり意見が分かれます。
- SS400は濃硫酸に対して使用できるが、濃度が薄くなると使用しにくい
- SUS304は薄い硫酸と濃硫酸に限定すると使えるが、その他の領域では腐食性がない。
SS400でもSUS304でも通常の濃硫酸だけを考えていると、大きな差はありません。
問題は希硫酸になるような希釈される環境。
タンクに限ると雨や空気中の水分が敵となります。
液溜まり
タンクとしては液溜まりを極力少なくする構造にしましょう。
屋外タンクの通常の構造で、大きな問題はありません。
気層部に液が溜まると、空気中の水分と接触して希硫酸を作ってしまうので、気層部こそ液溜まりがない構造にしましょう。
天板と胴板の接続部の溶接構造が特に注意です。
ガスライン
ガスラインは、雨や水が入ってきにくい構造にしましょう。
天に向かって開放するのではなく、180°エルボを使って地に向けると無難です。
この状態だと、ポンプで液を送ったときに空気が混入してきます。
長期的には希硫酸のリスクがありますので、ドライエアーや窒素でガスラインにシールをする方法が考えられます。(弊社は採用していませんが)
挿入管
タンク内部には挿入管を付けると良いでしょう。
タンクに硫酸が入っている状態で、天から液面に向かって硫酸を降らせると硫酸のミストと空気中の水分の接触確率を上げてしまいます。
これは一瞬だけでも希硫酸を作ってしまうという意味で好ましくありません。
挿入管でタンク底板近くまで導いて、液の内部にフィードする方が安心です。
ただし、配管でそれなりの速度で底板に硫酸が衝突することになるので、当板が必要となります。
当板を必要とするとき通常は変形を気にしますが、SS400で硫酸の場合は腐食を気にします。
というのもSS400は濃硫酸に対して、保護被膜を作ることで耐食性が上がる形になります。
流速を上げてしまうということは、この被膜を削り取ることに繋がります。
私はこの点を重視して、濃硫酸はSUS304を選定することが多いです。
ポンプ
ポンプの設計で重要な項目を解説します。
型式
ポンプはシールレスポンプを選ぶのが無難です。
渦巻ポンプだと水の問題があるので、希硫酸のリスクを高めます。
キャンドポンプでもマグネットポンプでも良いと思います。
無難なのはキャンドポンプです。
ただし、ベアリングにカーボンを使うと危険ですので、注意が必要です。
能力
能力は圧力損失の計算をしましょう。
特にある程度の期間をポンプ設計した人ほど注意が必要です。
ポンプの圧力損失なんて適当に決めれば良いでしょ?
というように思ってしまうと危険です。
というのも、硫酸は密度も粘度も高めだからです。
密度が1840kg/m3、粘度が26cP(at20℃)というのは、水と同じ扱いで計算していいレベルではありません。
水や溶媒よりは、配管口径を1サイズは上げることになります。
配管
配管の設計で重要な項目を解説します。
材質
材質はSUS304を選ぶのが無難です。
SGPはもちろん、板厚を上げたSTPGでも考えモノです。
悩むくらいならSUS304にしましょう。
ボルトナットは特に気にしなくて良いと思います。SS400ですね。
接続
接続はフランジが無難です。
使用条件におりますが、JIS10kフランジで済む場合が多いでしょう。
ねじ込み継手は漏れの可能性が高くなります。
ガスケット
ガスケットはジョイントシート系で良いでしょう。
フッ素樹脂系でも悪くありません。
参考
濃硫酸のような具体的な薬液を扱う時には、腐食に関する知識が大事です。
腐食に関しては特に幅広く勉強することが良いでしょう。
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基礎をしっかり学びましょう。後々で効いてきます。
最後に
濃硫酸を扱う設備の設計で注意したいことをまとめました。
材質はSUS304が無難です。SS400も使えますが、流速に対するケアが大事になります。
希硫酸にならないようにするために、水分を混入しないような気配りをしましょう。
水系の設計と近い感覚で設計できますが、ポンプの圧損計算はちゃんとした方が良いです。
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