化学プラントで起こる不具合(claim)工事について解説します。
膨大な量の配管工事を行う化学プラントでは、現地工事段階でトラブルが付きものです。
設計図100%そのものの工事なんてとてもじゃないけどできません。
工事段階で起こったトラブルを不具合工事などと称します。
不具合が起きたらすぐに改善してくれ!っていう声が現場では起こりそうですよね。
そして、それはすぐには実施できず工事終盤に追い込まれることに。
その結果、事故に繋がる可能性もあります。
こういう悲劇は各社でよくあることでしょう。
工事で不具合が起きる背景やそれをすぐに指摘する背景について、考えてみました。
不具合(claim)工事
化学プラントで起こる不具合についていくつか例を紹介しましょう。
- バルブの位置や向きが良くない
- 計器の位置や向きが良くない
- 配管の組み方がおかしい
- 配管と他の設備が干渉する
- 資材が足りない
- 配管が施工されていない
どれも典型的な不具合です。
バルブの位置
バルブの位置は現場不具合の基本です。
バルブを付けるかどうかはP&IDで明確に決まっていますが、
- バルブの高さ
- ハンドルの向き
などは配管図にしか記載されていません。
配管図を書き上げて、いざ工事に入って配管をくみ上げると「こんなはずじゃなかった」という結果がありえます。
- バルブが思ったより高い位置にあって操作できない
- ハンドルを無理な姿勢で操作したり、回り道をしないといけない
この問題は基本的ですけど、トラブルとして起こる例はあまり多くはありません。
配管図を書く段階で図面屋さんがちゃんと書き上げますし、レビューで製造部もチェックする箇所です。
現地工事に入るまでにトラブルの芽をほぼ潰してしまえます。
計器の位置
計器の位置も不具合工事の典型例です。
流量計の指示値はDCSに取り込んでいたとしても、メンテナンスや調整のために現場チェックが必要です。
圧力計は単なる取り付け間違いが多いでしょう。
液面計は差圧式液面計で液抜きノズルの高さを忘れていたというような例です。
配管図に書き上げるのが普通なので、計装屋がちゃんとチェックしておくべき部分です。
配管の組み方
そもそも配管の組み方が間違っていたという例です。
配管の組み方そのものに関わるので、P&IDで明確に指示をしておいて配管図をちゃんと書けば防げる問題です。
最悪、配管図のレビューでもチェックできます。
機電系エンジニアが最も目を光らせないといけない部分です。
干渉
配管が何か他の設備と干渉するトラブルです。
現地不具合というと9割はこの干渉でしょう。
- 新設配管と新設配管が干渉した
- 既設の配管や梁と新設配管が干渉した
- 新設配管を通すと電気配線が通らない
- 既設配管の取り合いと新設配管の位置を間違えていた
工事で新たに敷設する配管(新設配管)はその数が多いから、知恵の輪よりも複雑な形状になりがちです。
限られた空間内を埋め尽くすように配管を施工します。
この時に既設設備や電気計装土建などの関連設備のことまで考えて、配管図を書くのが図面屋さん。
恐ろしいほどの3次元想像力が要求されます。
でも限界があります。
いくつかの配管は干渉してしまいます。
2D-CADでも3D-CADでも干渉をゼロにすることはほぼ不可能。非現実的です。
資材が足りない
配管工事に必要な資材が足りていないケースもままあります。
これは積算の問題。
配管図からスプールを作り、資材の必要数を積み上げていく段階で数え間違えが起こります。
積算は多くの工数がかかります。
業界によって積算の方法が変わるため、専門的な技能職となっている場合も多いでしょう。
配管の構成を知っていないと数え上げることはできません。
配管の数が多いとどうしても間違えるもの。
完全にゼロにすることができないため、現場工事になって資材を調達していなかったなんてことが起こります。
汎用的な配管・ガスケット・ボルトナットなどならまだいいのですが、グラスライニング配管やフッ素樹脂ライニング配管など特殊資材は慎重に数え上げないと後でフォローが効きません。
グラスライニング配管の数え間違がありました。
至急手配してください!
いまさら手に入るわけないでしょ
こんなやり取りは1度や2度は必ず経験します。
配管が施工されていない
配管などが施工されていないというケースです。
これは配管図など工事資料の作り方が悪い例。たとえば・・・
P&IDにも配管図にも書きにくいような工事なので、そもそも忘れ去れていたというような工事内容です。
とりまとめである機電系エンジニアが猛チェックをしたい部分です。
不具合(claim)工事が起こる背景
不具合工事はいろいろありますが、そもそもなぜ起こるのでしょうか?
その背景をちょっと考えましょう。
設計
不具合工事が起こる最大の要因は設計です。
設計の良し悪しが工事の良し悪しの大半を決めます。
仕事は段取り八分といいますが、工事における段取りが設計です。
そのために長い設計期間を設けて準備をします。
ところが、配管設計にもいろいろな問題があります。
- 図面屋の技能が育っていない
- 図面屋の人数が少なくなっている
- 機電系エンジニアが図面屋に対して曖昧な指示をしている
- 機電系エンジニアが図面をチェックしない
大きく図面屋と機電系エンジニアの人の問題になります。
仕事量の問題もありますが、人の問題の方が大きいです。
3D-CADにすればある程度は防げる問題ですが、3D-CADを書ける人材が豊富に居るわけではありません。
3D-CADの環境すら整備されていない会社も多いでしょう。
少子高齢化で人材不足の現在、図面屋そのものの人数も減っています。
バッチ系化学プラントという特殊な配管設計ができる人は非常に少なくなっています。
同じように機電系エンジニアの数も少なく、プロジェクトの機会も少なくなっているので、成長速度が極端に遅くなっています。
多くの配管図を短い期間でチェックして最低限の品質はクリアできるようにする技能を磨くチャンスが少なくなっています。
レビューの時間が取れない
プロジェクトの早期完成に対する要求が強い現在では、配管図のレビューを擬制にせざるを得ない局面があります。
- P&IDの作成とレビューに時間が掛かり、配管図の作成時間が少ない
- 配管図の見方を知っていない人が、時間を掛けてレビューしコメントしない
- 他の仕事とピークが重なってレビューの質が落ちる
理由はいくらでも思いつきます。
いずれにしてもレビューそのものに問題があるということ。
レビューをしないと不具合の発生確率は増えますが、レビューをしても費用対効果を考えないといけないでしょう。
現地調整
機電系エンジニアの工事部隊が工事会社とコミュニケーションを適切に取っていない場合もあります。
- ここは配管が当たりそうだから、後で手直ししないでいいように先に付けてみよう
- パトロール頻度を上げて、仮組段階で指摘しよう
- 怪しそうな場所は、工事会社と図面屋と3人で先に打合せしよう
こういう前向きな仕事の仕方をしているだけで、不具合を防げる可能性が高くなります。
不具合が起きたことを工事会社から連絡を貰って初めて気が付く
というのは工事部隊としては残念な結果です。
パトロールでは安全以外にも品質もチェックすべきです。
手直しをするにしても早期発見ができれば、工期内に収まります。
発見が遅れた結果、不具合を残したまま製造に入らざるを得ないのは危険です。
不具合(claim)工事に対する考え方
化学プラントのプロジェクトという全体を見た場合に、不具合工事に対してどう考えれば良いか整理してい見ましょう。
予算
不具合工事が起きると、追加工事のために余分な費用が発生します。
コストアップの要因となって、プロジェクト予算を圧迫することでしょう。
予算が足りないなんて場合もあり得ます。
外部プラントエンジニアなら追加費用の申請をユーザーにすればいいでしょうが、ユーザー内ではこの申請がとても難しいです。
予算必達
この言葉で抑え込まれようとします。
できるだけ予算を越えないように、越えそうなら早い段階で報告を。
口ではこういう言い方ができますが、現地工事段階で追加費用の取りまとめをするのは結構大変です。
最後に一括で清算する場合が多いでしょう。
最後の段階で追加額が分かって手遅れ、というケースになると悲惨です。
そうならないためにも、予算上は追加を抑制するように配管図の品質を上げたいと思うのが普通です。
設計時間
設計時間は不具合の大小に直接影響します。
慌てて設計するのと余裕を持って設計するのは当然違います。
とはいえプロジェクト全体を考えた場合、時間はどこかを犠牲にしないといけないタイミングがあります。
- 設計期間を犠牲にして工事準備期間を確保する
- 工事完成時期や工事準備期間を犠牲にして設計期間を確保する
こんな関係性が設計期間には含まれます。
図面屋はこの期間に対して質や資料の作成順番などフレキシブルに対応しないといけません。
実際には、決まりきった仕事しかできない図面屋が多いので、フレキシブルな仕事をする場合は機電系エンジニアが強烈に旗を振って誘導しないといけないでしょう。
簡単に書いていますが、結構難しいですよ。
工事
図面の質が悪い場合には、工事段階で動き回ることを覚悟しないといけません。
こう書くと、工事担当者に責任を押し付けているように見えますね。
これは設計期間が取れないから、とにかく現場で調整という荒業をプロジェクトメンバー全員が覚悟しようという意味です。
プロジェクト期間の短縮を、現地工事の短い期間で短期決戦をする覚悟。
毎日毎日不具合が起きて、現場を動き周り、図面と現場を照合しながら、その場で修正指示を出す。
体力勝負になります。
エンジニアの工事での仕事っぽく見えて、やりがいを感じる人が居るかもしれませんが。。。
段階的投資
プロジェクトや合理化などの工事では段階的な投資が現実的です。
- プロジェクトで最初に割り当てられた予算でとにかく生産ができる最低限度の形を作る
- とにかく生産してみて不具合を抽出する
- 次のSDMで修正する
こんなアプローチが必要になってくるでしょう。
設計期間が取れず、配管図のレビューもできず、工事段階では既に修正が効かない。
こういう環境だといざ形にして使ってみる方が、トータルとして速い可能性が高いです。
ただし、不具合の抽出→SDMまでの時間が短くて改善工事が十分にできないというケースの方が多いですが。
この辺は経理企画が考えるべきこと。
不具合のツケを現場に押し付けてばかりいると、どこかで痛い目を見ますよ。
他人任せでは成功しない
やり直し工事が発生する本質的な原因は「他人任せ」です。
- 図面の質が悪いのは、図面屋が悪い。
- 現場で取り付ける前に、作業員や監督が見ていない。
- 問題が起きた時に、相談をしてこない。
こういうことを言う設計者は、実際に多くいます。
残念ながら筋違い。
他人任せで工事が進むには、相当の信頼関係や協力体制が必要です。
他人任せでできるのであれば、他人任せにしようとするその本人が不要ということ。
上記の3つ全てが成立していないから、現場で問題が起きるのです。
他人任せにするということは。3つの要因を全て放置して、やり直し工事を起こす方向に作用します。
工事の設計・監理で知っておくべきことです。
やり直し工事が多い環境にあれば、ぐっと耐えて不具合を見つけ、潰していかざるを得ません。
忍耐力を鍛えることができます。
参考
最後に
化学プラントの不具合工事についてまとめました。
操作性・干渉などの王道パターンから未施工など根本的な見落としのパターンなど、人が起こしがちなミスが大量に含まれます。
設計・レビュー・工事それぞれに課題があり、プロジェクトとして何を優先するかという視点で広く課題を考えていかないと、同じ事を繰り返すだけになります。
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