化学プラントのをスクラップビルド(scrap build)するときの思想について解説します。
言葉どおり壊して建てるという意味。
プラントエンジニアリング的にはビルド側だけに注目しがちですが、オーナーエンジニアはスクラップ側もちゃんと見据えておきましょう。
プラントのライフサイクルという視点ですね。
工場全体の思想に関わってくる経営判断的な部分が強いです。
スクラップすべき理由
まずは工場がスクラップするべき理由を解説します。
建物の限界
スクラップするかどうかの判断の1つは建物の限界。
古い工場なら50年くらい現役で生きているプラントもあるのではないでしょうか。
プラント内の設備や配管配線など都度更新していけば良いですが、建物は完全に別の話。
柱など補強しようにも限界があります。
床が抜け落ちてきた・建物が傾いてきた・・・なんて兆候が出たら黄色信号です。
でも、いつ赤信号のアウトになるのか判断に迷います。
判断を先延ばしにしているうちに経営層は役職を交代するかもしれませんが、長年運転や保全をしている現場サイドはたまったものではありません。
仮に建物を増設したいと思っても建築確認申請の壁。
この規制のせいで、建屋の継ぎ足しが基本的にできません。
建屋の増築をする場合、建築物の構造計算をゼロからやり直さないといけませんが、既存の建屋が現在の建築基準法の基準に適合できるはずがありません。
非合理的なプロセス開発
スクラップをしないと、非合理的なプロセス開発をする場合があります。
ある反応を導入しようとしたときに、反応器2つを直近に置きたいと考えたとしましょう。
普通なら隣り合う2つの反応器を使えばいいのに、古いプラントだと最適な組み合わせの反応器を選び出せない場合があります。
そのせいで、遠くの2つ反応器を配管で強引に繋がないといけません。
- 配管コストが高い
- 配管が詰まるかもしれない
- 余計な計器が追加で必要
というように、プロセス開発の視点ではコストアップの要因が生まれてきます。
プロジェクト技術力の喪失
スクラップをしないと、社内の建設プロジェクトの技術力がどんどん弱くなってきます。
建物を壊すというのは、単に壊せばいいだろうという以上の性質があります。
例えば、ユーティリティの遮断。
プラントを壊したとしても、引き込みユーティリティは簡単には取り外しできません。
そもそもプラントを建てる時にも、引き込みに相当苦労をします。
だからこそ簡単には取り外したくないでしょう。
これが次のプラント建設の障害となりえます。
ユーティリティの位置が決まっているから、プラントの構成や動線などレイアウトが決まってしまう場合があります。
プラント建設をした50年前と現在では同じ思想でプラントで建てられるわけではありませんよね。
ネックになる要素は極力減らしたいもの。
減らせなくても、50年先に困る人がいるかもしれないと考えて設計したいもの。
取り壊しを行わないと、こういう設計をできる技術力を育てる機会が無くなってしまいます。
スクラップビルド(scrap build)できない背景
スクラップすべき理由はいくつもありますが、できない背景もいっぱいあります。
製品を切れない
スクラップするということは、そのプラントでの製品を止めるということ。
これは一大決心です。
売れなくなった衰退期の製品でも、一定量を作り続けないといけない製品はあります。
そのためだけに別のプラント建設をすることは論外でしょう。
かといって、他の稼働が低くなったプラントに移管するのも膨大な手間がかかります。
プロダクトライフサイクロとプラントライフサイクルの問題です。
コストが高い
コストが高いから、スクラップできない。
当然ですよね。
スクラップをして更地にするためにはコストがかかります。
仮にそのプラントを使わなくても、他に使う用途なければ残しておけば良いでしょう。
こうやって後回しになっていきます。
後処理の問題
スクラップには後処理の問題があります。
プラント周囲の土。
これが環境面に問題を与えます。
土壌汚染対策法の世界です。
コスト的にも問題ですが、そもそも廃棄できる土でない場合も。
環境規制に適合しない不純物が入った土で処分ができなかったり、
横持ちして仮置きするための場所が無かったり・・・。
事情は様々ですが、後処理の問題を敬遠してスクラップビルドを止めようとする勢力は存在します。
参考
最後に
化学プラントをスクラップビルトすべき理由とできない背景を紹介しました。
建設プロジェクトの技術が育たない・非合理的なプロセス開発・チキンレースが解決しないというのが理由です。
コストが掛かり、後処理が面倒で、緊急でないために、スクラップビルドは進みません。
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