化学プラントの製品のライフサイクル(product lifecycle)について解説します。
プロダクトライフサイクルと呼ぶこともあるようです。
私は機電系エンジニアとしてプラントライフサイクルを注目しがちですが、製品ライフサイクルも同じように大事な概念です。
化学工場でも企画系の部門や、経営トップクラスの思想です。
オーナーエンジニアの一担当レベルでは意識することは少ないでしょう。
ですが、この思想は長期計画を立てる設備エンジニアにとって必須の考え方です。
本質的には難しい考えですが、少しずつマスターしていきたいですね。
一緒に勉強していきましょう!
導入
プロダクトライフサイクルは導入→成長→成熟→衰退という4つのフェーズに分けます。
まずは導入期から見ていきましょう。
いくつかのケースがありますが、商業生産前の試製造で苦しみます。
研究開発を自社で行う
製造業では自社で製品の研究開発を行うことが一般的でしょう。
特に大手なら100%自社開発だと思っている人もいるくらいです。
研究所では反応合成探索・開発部門では反応処方確立などが仕事なので、自分の仕事をして当然と思うかもしれませんね。
化学プラントの研究開発の場合、10年くらい経ってようやく市場に出せるというものも珍しくありません。
博士号取得→入社→開発とストレートに進んだとして、37~38歳。
成果が出て管理職に昇進したら、もう研究開発の現場には出られない。
こう考えると辛いですね。
研究者のキャリア形成・人材確保・製品開発速度が一致していません。
プラントエンジニアリングのように2年くらいで成果が出る仕事の方が分かりやすい、という意見がでるのは研究開発側をみているからですね。
工事だと数か月~1年くらいのスパンなので、2年でも十分に長いと言われますが・・・。
化学の可能性は無限大!なんて昔は言われていましたが、そんなことはありません。
重箱の隅を突くような可能性しか残されていません。
だからこそDX(デジタルトランスフォーメーション)に目を向けたり、CN(カーボンニュートラル)やGX(グリーントランスフォーメーション)という分野に進もうとします。
他社の技術を買う
研究開発部隊を持っていないで物を作るだけの会社は化学プラントでも当然存在します。
ライセンス生産の類です。
使う側は基本的には受け身の姿勢で良いはずです・・・が、条件によってちょっとずつ違ってきます。
というか定型パターンがないという方が正しいでしょうか。
研究開発部隊がある工場
自社でしっかりした研究開発部隊があるけど、他社から技術を買い場合を紹介します。
吸収合併が1つの例です。
プロセス技術的には確立されていますが、廃油排水処理が疎かな場合が多いです。
その地域での環境規制や、工場内での廃油排水処理能力の違いなどで単純な移管ができないことは結構多いです。
この場合は、自社の研究開発部隊のお仕事です。
自社で開発している製品ではないモノを、合理化開発するって気持ち的にどうなんでしょうね・・・。
プロセス反応条件が割と雑だったり緩かったりするパターンがあって、そこを攻めるだけでも合理化ができたりするようです。
そのためには設備構成やシーケンスを変える必要がありますが、それができる工場は技術力があると言って良いでしょう。
研究開発部隊がない工場
研究開発が無い工場で他社から技術を買う場合は、ライセンサーに頼りっきりになります。
どうでもいいですけど、ライセンサーとライセンシーって分かりにくいですよね。
技術がないけどモノを作るのだから、技術のある先に委託するのは当然です。
パッケージ技術
自社で開発した技術はパッケージとしてまとめる必要があります。
社内なら何となく寄せ集めの資料で形を作り、問題が起きれば支援部隊に依頼すれば良いでしょう。
長年そういう対応をしているはず。
でも、外部に委託しようとしたら、しっかりパッケージがしておく方がいいです。
というのも委託先から質問がいっぱいくるから。
例えば、温度条件を常温って書いていたらそれだけでも質問が来ます。
25℃±10℃なんて書こうものなら、冬場は15℃以下だから温めないとまずいですか?というような問い合わせが来ます。
だから、ざっくりと0~40℃なんて条件を付けたりしますね。
こうした情報をどこまで与えるかがカギになってきます。
- 反応条件の管理範囲
- 逸脱時の対応
- 緊急対応
- 反応プロセスの技術的考察
- 分析条件
エンジニアリング的には設備構成はとても大事な情報ですが、パッケージにまとめるかどうかは微妙なところ。
委託先に設備投資を迫ることになるから。
この設備構成でないと作れませんというパッケージにしてしまうと、投資がかかるのでお断りしますというパターンになります。
設備構成に応じて生産量や品質が変わることを許容するかどうかの判断をすることになるでしょう。
プラントエンジニアリングでリソースが大事な要素になりますが、導入期のリソースは化学会社としてはとても重要な要素です。
考え方は本来は似たようなものです。
成長
成長期は導入期を抜けた製品の売り上げを伸ばすための時期です。
ですが・・・
成長期にならないのが普通
化学プラントの場合、成長期に乗るのかどうかが怪しい製品って相当多いです。
導入前の研究開発段階で相当絞り込まれて、これは売れる!って判断した物だけが導入期を過ぎるはず。
それでも投資判断から導入期までの数年間で、実は売れなくなってしまったというパターンです。
成長期で売れる見込があれば、設備投資もどんどん行われるでしょう。
逆に売れないなって思った製品は、合理化・安定化と言った設備投資の対象からは外れていきます。
機電系エンジニアとしてはこういう毎年の設備投資の傾向から、成長期に入ったかどうかを見極めることは可能です。
そんなことは考えずに、何か良く分からないけど急に売れたから対応するって考える人が多いですけどね^^
自社で作り続けるか?
成長期はある重要な決心をしないといけません。
自社で作り続ける必要があるかどうか
これは大きなテーマです。
ギャンブル的要素を含みます。
成長が約束されているプロセスなら自社で作ろうとするでしょう。当然です。
社員のモチベーションも上がります。
でもその製品がいつまで売れるか分かりません。
さっさと外部に委託した方がメリットがでていたのに・・・
ってこともあり得ます。
適切なタイミングで外部に委託しようとした場合、成長期から見極めをしていかないといけません。
成熟
成熟期は安定している状態です。
成長期で正しく売り上げが伸びて、稼働率が高い一定期間を成熟期と呼ぶのが理想的です。
でもそんな製品はあまりありません。
成長期で伸びなかったけど、ずるずる一定量必要な製品。
こういう製品が多いがゆえに悩むところ。
自社で作り続けていると追加設備投資はいらずに粛々と作り続けることは可能ですが、成熟製品が多すぎて、新製品を取り入れることができない!
なんてケースが出てきます。
このタイミングまで追い込まれると、新プラントを建設することになるでしょう。
新たな製品を導入するためにプラントも新しく作ろうという流れです。
こうはならないためにも、適切なタイミングで「切り捨て」が必要となります。
衰退
衰退期は言葉どおり衰退する時期。
成熟期で高い稼働をしていたが、どんどん売れなくなってきたというパターンです。
無事に成熟期を迎えた製品だけが通る道。
成長→成熟を経ずに導入後ずっと低空飛行を続ける製品に衰退という表現をするのはどうかと個人的には思っています。
製品によってはなかなか生産中止に踏み切れません。
生産者責任ですね。
これが工場としては制約になるので、外部に委託したいと思うのが普通の発想です。
この時期くらいにありそうな古い製品のプロセス条件を見てみると、相当雑だということが分かるでしょう。
最低限の情報はあるものの技術的な考察がほとんどありません。
カンとコツで作り続けていると言っても良いでしょう。
衰退期だから外部委託するには技術開発にコストがかかり、社内の安価コストで作る方がいい。
本当は切りたいのに切れないというジレンマが出てきます。
参考
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さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントの製品をプロダクトライフサイクルの目線で解説しました。
導入→成長→成熟→衰退という流れが典型例ですが、そこまで綺麗な流れを辿る製品は少ないです。
成長するかどうかがある意味ギャンブル。
選択肢を広げる意味で外部委託のケースは常に考えたいですね。
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