断熱(insulation)のスペックの使い分けを解説します。
化学プラントでは、常温である大気の温度とは違う温度でプロセスを取り扱うことが多いです。
特にバッチ系化学プラントでは、日々のバッチで温度制御をかけるので系内の温度を一定に保つための仕組みが求められます。
そこで装置や配管に断熱を付けます。
断熱・保温など様々な呼び方はあります。
一言に断熱・保温といっても色々なスペックがあります。その使い分けを解説しましょう。
この記事では保温と保冷を分けるために、総称として「断熱」という表現を使います。
断熱(insulation)の構造
断熱の目的は伝熱を遮断することです。
断熱材を装置に巻くことで、外気との伝熱のやり取りを少なくする効果が出ます。
これは断熱材が繊維状の構造になっているから、
繊維状の間に空気が含まれていて、外気が繊維内に入りにくく繊維内から抜けにくくする機能があります。
羽毛布団と同じです。
繊維が複雑で空気が逃げにくいほど効果がありそうですが、高価でしょう。
どれくらいの温度まで使えるものかという温度条件に対してスペックが分かれます。
断熱(insulation)材の種類
断熱材としては下のものを一般に使います。
- グラスウール
- ロックウール
- 硬質ウレタンフォーム
家庭の壁にはグラスウールが良く使われますよね。
グラスウールも立派な断熱材。
そうそう、グラスウールと言えば遮音材としても有名。
音は空気の振動が伝搬することで伝わるので、空気の流れを阻害する繊維は遮音材としても使えます。
化学プラントでも遮音目的で断熱を付けるというケースはゼロではありません。
騒音に特化した装置や断熱を付けることが難しいので、あまり効果は期待できませんが・・・。
設備と大気の温度差が高い場合には、グラスウール以外の材質を使います。
- 設備の方が高温の場合はロックウール
- 設備の方が低温の場合は硬質ウレタンフォーム
という使い分けをします。
化学プラントの場合は火に強い材質が求められるという意味でも、グラスウールは使えません。
断熱(insulation)のスペック
さて断熱のスペックの使い分けを紹介します。
保温と保冷の大きく2つに使い分けがされますが、それ以外の目的もあります。
保温
保温は設備や配管の温度が大気よりも高い側の断熱を指します。
バッチ系化学プラントでは高くても150℃くらいが限界。
それでも保温をしていないと、装置内の熱が外に逃げて温度が下がっていきます。
保温をする目的、保温をしないとこんな問題が起こりえます。
- 反応が進まない
- 自己還流が掛かって蒸留できない
- 融点以下となって固まる
- 溶解度が下がって結晶が析出する
反応条件としての温度は年々厳しくなっていく一方。
緩い条件で反応ができるような化学物質の開発が先に行われて、開発が残ってそうな物質はどうしてもいろいろな制約が入ってきます。
上の4ケースともバッチ系化学プラントでは非常に多く、固まったり結晶が析出するケースが年々増えています。
保冷
保冷は保温の逆で、設備や配管の温度が大気よりも低い側の断熱を指します。
バッチ系化学プラントでは-20℃くらいが限界。
保冷を付けないと、大気の温度を吸収します。
こっちの方が直感的に危ないという認識が出やすいと思います。
- 反応が過剰に進み暴走する
- ガスの凝縮や吸収ができずに大気に放散する
- 真空を保てない
反応熱を吸収するために使う冷媒が空気によって温められると、冷却効果が下がります。
その結果、目的の反応温度で制御できず高い温度が継続されて暴走することも。
普通はインターロックを掛けて停止するので、大きな問題にはなりませんが。
運転時間が延びたり非効率的だったりするので、保冷をしないで良いことはありません。
蒸発したガスをコールドトラップで凝縮させたり、ガスを水で吸収させたりするときも、冷却源が必要です。
冷却源の温度が高いとガスが凝縮せず高い蒸気圧を持つこともあります。
水の温度が高いことで水に対するガスの吸収量が下がり、ガスが放散されたりします。
この辺、機電系エンジニアが意外と疎かにしがちな箇所です。
除害装置で液体を循環させてガスを吸収させようとしているのに、熱交換器が無かった!
なんて残念なケースもありましたね^^
真空ポンプの封液温度が下がらずに封液の蒸気圧が上がることで、系内の真空度が高くならないことも考えられます。
保温冷
保温例はバッチ系化学プラント独特でしょう。
温めつつ冷やしつつって意味が分かりにくいですよね。
保温冷は反応槽に対して行うことが普通。
これは結構単純な理由。
A製品では反応槽は高い温度、B製品では反応槽は低い温度
で使うというもの。
生産の切替のタイミングで断熱を切り替えるという無駄なことはしないので、装置には常に同じ断熱材を付けている状態になります。
保温でも保冷でも耐えれるように保温冷という発想です。
ごくまれに1つの製品でも保温冷が必要な場合がありますが、バッチ内での温度変化が激しいことになるので、普通はしません。
火傷
火傷防止は反応プロセスに着目したものではありません。
人に着目しています。
装置や配管がそれなりの温度になっていて、保温が無くて大気で冷却されても問題が無い
という曖昧な条件に対して火傷防止を行います。
中途半端だから忘れがち。
でも現場で気が付かずに高温の配管に触れて火傷って結構起こりえます。
ポンプに火傷防止をすることもありますが、これは懐疑的。
ポンプの動力熱がプロセス液には加わるので、火傷防止を付けることでプロセス液の温度が上がり危険な状態に可能性があるからです。
プロセス液は大体が腐食性があるので、PTFE系のマグネットポンプを使って、そこに火傷防止を付けると
今度はマグネットポンプが温度でやられるなんてオチも起こりえます。
回転部を手で触れるということ自体が異常な発想なので、手を振れない部分としてのポンプ表面には断熱を付けなくても良いのでは?って思いますが
人間何するか分かりませんからね。
できる対策なら取っておきたいと思うでしょう。
防露
防露という考え方もあります。
火傷の逆の発想。
プロセス液の温度が低いが、大気で温まっても良い
という微妙な条件。
冷やされた空気から結露して装置や配管に水が付着します。
化学プラントではこの露も結構厄介なもの。
結露の水にプロセス液が混じったりガスが混じったりして腐食性のある水になりえます。
雨で流れていけばまだ良いのですが、そうではない場所で結露すると大変。
配管の腐食から液漏れが起こるかもしれません。
どこから漏れるかも分からないので、例えば天井付近の配管でも防露は対策したいですね。
魔法瓶
断熱材に関連して、魔法瓶の話もしておきましょう。
魔法瓶とはジャケット付きの水筒で、ジャケット内には空気が入っているという構造。
空気が大気と入れ替わらないために、伝熱を抑えることができます。
空気は最高の断熱材
その通りですが、そもそも断熱材も空気を動かさないためのもの。
断熱材の繊維の方が空気よりも熱を伝える要素となり、繊維どうしがどれだけ密着していないかということが断熱性能に影響を与えるわけですね。
化学プラントの反応槽にジャケットが標準装備されているのは、プロセス反応の温度を魔法瓶効果で一定に保つという目的もあります。
温度調整源としてのユーティリティ液はなるべく使わない方が省エネですからね。
参考
最後に
化学プラントでの断熱のスペックの使い分けについて解説しました。
断熱材の機能と繊維の関係について触れています。遮音材とも関係。
保温・保冷・保温冷・火傷・防露という5つに分けています。
省エネの目的だけでなく人体や設備の保護の目的でも断熱は活躍します。
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