化学プラントで断熱工事を行う際、装置の表面積を計算する必要があります。しかし、細かく正確に計算することにこだわりすぎると、時間も手間もかかってしまいます。実務では、ざっくり計算でも十分に見積もりや工事量の確認は可能です。
この記事では、熱交換器やタンクを例に、簡単で効率的な表面積計算方法を解説します。
この記事は、保温シリーズの一部です。
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熱交換器
断熱施工の対象となるのは、やはり熱交換器でしょう。特に多管式熱交換器が多いです。
熱交換器に断熱を付ける場合、全面的に付けることが多いと思いますが、シンプルな計算のためにシェル側のみ断熱を付けるケースを考えます。

このケースは意外とありえます。プロセス側が常温よりやや高くて、シェル側が冷水を通すという場合です。常温より高いと気持ち悪いのでもう少し冷やしたいという場合です。この断熱表面積の計算は以下の通りです。
$$ A = πDL $$
これだけです。簡単ですね。
タンク
タンクでも平型の円筒形を例に断熱量表面積の計算を行います。このケースは、天板からの放熱を避ける狙いがあります。

$$ A = πDH + \frac{π}{4}D^2 $$
これも簡単ですね。Excelの簡単な計算式だけで処理できます。
皿型タンク
最後に皿型タンクの表面積計算を行います。

皿型タンクでも天板側は断熱を付けないケースは結構多いです。さて、このケースで真面目に表面積を計算すると以下の通りです。
$$ A = πDH + 0.31514πD^2 $$
0.31514というのが面倒ですね。上鏡も断熱を付ける場合は、2倍しましょう。でも、この計算はほとんど意味がありません。
例えば、D=2m・H=3mという10m3程度のタンクを考えてみましょう。計算結果です。
πDH+0.25πD2 | 25.9m2 |
πDH+0.31514πD2 | 27.8m2 |
断熱表面積は8%程度の違いです。簡易計算として皿鏡を円板に置き換えてしまうと、8%くらい少ない数値で見積もることになります。
とはいえ、これは断熱工事全体のボリュームから見ると誤差範囲。そのためだけに0.31514という数値を探してきたり、計算ソフトを使ったり・・・という面倒なことはしない方が健全でしょう。
鏡部分を完全に無視したらさすがに影響が出るので不安と思うなら、少し補正をしましょう。以下のようなモデルを考えます。

これは下鏡を完全に円筒に置き換えたものです。H = 0.194Dですが面倒なのでH=0.2Dとしておきましょう。この時の表面積は
$$ A = 1.2πDH + \frac{π}{4}D^2 $$
です。比較してみましょう。
πDH+0.25πD2 | 25.9m2 |
πDH+0.31514πD2 | 27.8m2 |
1.2πDH+0.25πD2 | 29.7m2 |
今度は実際の計算より7%程度高いです。ちょっと真面目にしようと思って鏡の高さの分を考えると、今度は高い目に出てしまいます。
とはいえ、どちらのケースでも±2m2くらいの差しかありません。繰り返しますが、これくらいの差なら断熱工事全体の中では誤差範囲。ユーザー側なら見積の積算速度を重視して、ざっくり計算しても良いと思います。
参考
最後に
断熱保温の表面積計算は、熱交換器やタンクを例にすると簡単な円筒・円板計算だけで十分です。皿型タンクの鏡部分もざっくり計算して問題ありません。伝熱計算以外の工事見積や数量確認では、細かい精度にこだわる必要はなく、効率重視で進めることがポイントです。
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