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化学工学

流体エネルギーの考え方|気密試験と水圧試験のどちらが危険?

流体エネルギー 化学工学
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流体エネルギー(fluid energy)について、空気と水の2つの流体を比較します。

これは、タンクの気密試験や水圧試験で登場する話題です。

タンク内に圧力を掛けるときに、水圧が安全という話は一般的に言われます。

ところが、なぜなのかを理論的に説明をしている人を見たことがありません。

体感的に危険と分かっていても、どういう評価をすればいいのでしょうか?

流体エネルギーに着目して、簡単に整理してみます。

条件

気密試験や水圧試験を想像しているので、とりあえず以下の条件で考えます。

  • 1m3
  • 100kPaG
  • 27℃(300K)

計算を少しでも楽にするために、雑な値にしました。

圧力100kPaGある流体を大気圧(0kPaG)に下げるという状況です。

これを空気と水のそれぞれの場合で考えましょう。

密度は空気は1.29kg/m3、水が1000kg/m3とします。

流体エネルギー(fluid energy)の計算

流体エネルギーの計算をします。

熱力学第一法則を使います。

空気

空気のエネルギーは、断熱膨張の仕事として考えます。

$$ W_1=\frac{mRT}{κ-1}(1-(\frac{P_2}{P_1})^{(\frac{κ-1}{κ})} )$$

という関係を使います。

値を入れていきましょう。

$$ W_1=\frac{1.29*0.287*300}{1.4-1}(1-(\frac{0.1}{0.2})^{(\frac{1.4-1}{1.4})} ) = 49.89 kJ$$

こんなものかな?という感度でしょうか。

イメージが湧きにくいですよね。

水のエネルギーは以下の式を使います。

$$ W_2=mvdp =mv(P_1-P_2) $$

体積変化のない液体のエネルギー変化を、Δpv=pΔv+vΔp=0+vΔpとしたものです。

$$ W_2=1000*1*(200-100)=100MJ $$

となります。

水の方が空気よりも圧倒的に流体エネルギーは多いですね。

流速の計算

流速の計算を行います。

流体エネルギーとしては、同じ体積であれば水の方が空気よりも多いです。

これは水の密度が圧倒的に高いからですね。

気密試験や水圧試験で圧力を開放するときは、空気の方が危ないという感覚と違いますよね。

これは流速で考えると良いと思います。

簡易的にベルヌーイの法則で考えます。

$$P = \frac{1}{2}ρv^2 $$

圧力エネルギーが急激に解放されたとき、そのエネルギーが流体エネルギーに変わったと考えます。

流体エネルギーは密度×流速の世界ですね。

空気

空気の場合の流速を考えましょう。

$$ 100=\frac{1}{2}1.29v_1^2 $$

$$ v_1=12.5m/s $$

というかなり早い速度となります。

圧力エネルギーは100kPaGから0kPaGに変化する部分をそのまま考えています。

この速度で大気に開放された空気が、どれくらいの範囲に影響があるか少し考えましょう。

空気による減衰が全くないとして、運動量の保存則だけで考えます。

流速12.5m/sで放出された空気が、流速1m/sになるまで球体上に拡散したときの球の半径は

$$ 12.5=4πr2*1 $$

として計算します。結果は

$$ r=1m $$

100kPaの気密試験で気体を開放したときは、1m程度まで何かしら影響があると考えると良いでしょう。

水の場合の流速を考えましょう。

$$ 100=\frac{1}{2}1000v_1^2 $$

$$ v_1=0.44m/s $$

というかなり遅い速度となります。

拡散距離の簡易計算は、放物線の計算として考えます。

プラント5m高さから流速0.44m/sで落下する水滴が到達する距離は、落下時間1秒として0.44m

空気の場合は1m程度でしたが、水の場合はその半分くらいですね。

水圧試験としては高さ5mは化学プラントではやや過剰で、1m程度で見たとしたら、0.09m程度。

かなり緩和されますね。

参考

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気密試験や水圧試験はタンクなどで良く行う試験ですが、いつも行っているからと思考停止になっているケースがあります。

さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

最後に

流体エネルギーを空気と水について考えました。

気密試験と水圧試験の危険性の比較の分かりやすい例として使えると思います。

エネルギー的には水の方が高いのですが、開放されるときの流速や影響範囲は気体の方が高いです。

気密試験で金属片などが空気とともに飛ぶときは、金属片の重量が軽くても速度は結構早いので、人に当たると怪我をするでしょう。

気体そのものが持っている絶対的なエネルギーではなく、人に衝突するエネルギーとして考えることになります。

複雑な計算はしなくても、これくらいの仮定を置いた簡略計算は実務で役に立ちます。

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