機電系エンジニア(engineer)と設備メーカー(maker)がお互いに気を付けたいことをまとめました。
化学プラントの機電系エンジニアをやって早10年以上。
長いこと設備メーカーとやり取りしましたが、どうしてもコミュニケーションの溝が発生します。
ユーザーとメーカーの問題は、長年の関係性で固着してしまい、協力関係を築くのが難しくなっていきます。
メーカーとユーザーが、お互いに相手のことを考えない風潮が強くなっていて、自分のことだけを考えていっています。
それでも、仕事を進めるためには歩み寄っていかないといけません。
この記事を読むと、典型的な問題点を理解できます。
解決のヒントになるかは不透明ですが、考え方を変えることはできるでしょう。
機電系エンジニア(engineer)が気を付けたいこと
機電系エンジニアが設備メーカーに対して気を付けたいことをまとめました。
メーカー(maker)が何でも知っていると思わない
機電系エンジニアはメーカーが何でも知っている専門家だと思いがちです。
機電系エンジニア以上に製造部やプロセスエンジニアはこの風潮が強いですね。
製造部から機電系エンジニアに問い合わせが来ても、機電系エンジニア自体に技術力が無いから
「(機電系エンジニアは信用できないから)メーカーに聞いてください」
というような依頼を受けます。
これはある意味で正しい現実認識です。
ニュアンスがちょっと違って
「(ほかに調べる手段が無いから)メーカーに聞いてください」
という場合もあります。こちらのケースはレアケースですけど。
メーカーは専門家だから何でも知っていると思って、メーカーに聞いてみると結構そうではない現実に直面するでしょう。
- モーターはベンダーから手配しているだけ
- 一品設計で今回初めて取り組んだ
- 試行錯誤をしている材質だった
設備メーカーには技術が蓄積されていて、技術伝承も十分にされていて、聞けば何でも答えてくれる専門家のように錯覚してしまいます。
ところがこれだけ技術が複雑になり人も少ない現状では、どうしても分業にならざるを得ません。
さまざまな部品を組み合わせて1つの製品とする以上、設備メーカーは窓口として対応しようとしますが、過剰に依存しても効果は期待できません。
その結果、裏切られたと感じる人もいるくらいです。よくありません。
例えばポンプの納期が遅れそうになりモーターが原因だったとして、メーカーは
「モーターの納期が遅れているから遅れている」
というような言い方をします。
これは言っていること自体は間違っていませんが、機電系エンジニアの中には
モーターはメーカーがベンダーに手配しているのかメーカーが自作しているのか判断が付かない
というケースがあります。
もっと広く「何が自社で製作できて何が外部調達なのか、ユーザーからは分からない」と言えるでしょう。
メーカーは何でも自社で手配しているから、納期のコントロールなんて簡単なはずだというのが機電系エンジニア側の思い込みとしてありがちです。注意しましょう。
この辺の思想は2022年現在は物流遅延の問題が常識レベルで広まっているから、さすがに勘違いしているエンジニアは少なくなっているでしょう。
検討しますと言われたら諦める
設備メーカーが技術の専門家として疑わない機電系エンジニアは、無意識にハードルの高い質問をします。
それこそ社内の技術者同士で語るような高度な議論を。
難易度の高い質問を受けたメーカー営業はたいてこういうでしょう。
検討します。
これは非常に危険なワードです。
社内なら前向きな答えが返ってくると期待するでしょう。
社外の人がこのワードを出すと真逆に思っていた方が良いです。
その場を流すためだけのワードです。
- いつまで経っても返事しない
- 何度か催促したら「無理です」と回答
- そもそも質問の中身を理解してなかった
メーカーは技術者の能力が高く、技術力が毎年進歩しており、難しい注文をどんどん受けたいと思っている。
これが一部のユーザーの思考です。
そんなことはありませんからね。
自社の技術力が同じように上がっていると思いますか?鏡見ましょうね。
メーカー(maker)がすぐ対応できると思わない
機電系エンジニアはメーカーがすぐに対応するのが普通だと思っています。
特に保全は。
依頼するときはたいていは逼迫した状況なので止むを得ませんが・・・。
メーカーに人が十分配置されていて何かあったらすぐに駆け付けることができる、というのが思い込みです。
これだけ少子高齢化が叫ばれていて、各会社ギリギリのところで仕事している情報も出回っているのに、
メーカーから何の報告もないから問題なく機能している会社なのだろう、と推測してしまうのがユーザー側です。
- 工場の近くにメンテナンスマンが常駐して、自社にほぼ専属で対応してくれる
- 工場の近くにメンテナンスマンが駐在しているが、県をまたいで各所を対応している
- メンテナンスマンが工場の近くにいない
これくらいのケース分けをして、メーカーの対応を議論しなければいけない時代です。
メーカーの対応にあわせて設備の構成や稼働率の設定をしないといけないのがユーザー側。
経理企画のチームがこういう背景を知って設定すべきなのに、営業の要求だけを受けて工場側に無理を強いるケースばかり。
今までと同じ設定で運転をさせておき、トラブルが起こった時に製造部や機電系エンジニアのせいにするのが会社というものです。
新規案件の打合せに期待しない
新規案件の打合せをメーカーに持ちかけた時に、期待し過ぎない方が良いです。
この時のメーカーの対応は非常に紳士的なので、やり取り後に満足感が出て期待してしまうでしょう。
でもその後の展開は期待外れのケースが多いです。
- 対面での打ち合わせで技術者に同行してもらい
- 検討しますという形で打ち合わせが終わり
- 時間が掛かって見積書が一枚出てくる
こんなケースが非常に多いです。
見積書の内容をメーカーの営業に聞いても、良い答えは返ってきません。
- 技術に確認します。
- ちょっと確認します。
- 保証できません。
こんな回答で時間が掛かったり、検討がストップしていく方向です。
実はこの話は、打ち合わせ段階で決着が付いています。
前向きに技術的な内容を議論したときに、メーカーは心の中で「無理」と即決しています。
それを悟られないようにするために、検討しますと持ち帰り。
検討に時間が掛かっていることをアピールするためにも回答を遅らせる。
気が付いた時には返事すら忘れていた。
JTCにありがちです。
議事録に期待しない
会議をしたら議事録を取るのが仕事。
こんな風に考える人も多いでしょう。
重要な会議なら大事ですが、すべての打合せに対して議事録を取るのは現実的ではありません。
そもそも議事録を取っても後で確認する人なんて数人ですからね。
設備メーカーとのやり取り程度では長期間にわたる課題の共有なんてする必要はなく、即決即断できれば議事録なんて作る必要がありません。
議事録の取り方に問題があったり、表現内容の違いで揉めたり・・・
同じ言語を使っていると認識が共有されると思い込みやすいのが議事録の弊害。
そんな意図でなかった・そういう解釈ではなかった。
あとで言い訳ならいくらでもできてしまいます。
プロジェクトなどで格好をつけるために議事録を作りたがりますが、設備メーカーに強要するのはちょっと違うでしょう。
図面屋が少ないことを知る
メーカーの図面屋さん・設計部隊が脆いことをユーザーは知るべきです。
図面を書ける人が少なくなって外部に委託するメーカーが非常に多いです。
この結果、図面の質も速度も当然落ちます。
外部委託した図面のチェックをメーカーが行いユーザーに出せるようになるまで、時間が掛かります。
いつもなら発注後1か月で図面が出てきたのに、3か月~4か月経っても出てこない。
こんなケースは増えています。
それを報告しないメーカー営業にも問題がありますが、ユーザーも図面屋の実態を知らないことが問題です。
こういう実態こそメーカー営業に聞けばいいのですが、ちゃんと実態を答えてくれる営業は少ないです。
「すみません。こちらのミスです」というような縦割りの回答でその場を濁し、今後の対策を打てなくするような対応が多いです。
時間が掛かるのならプロジェクトの優先順位を変えることはかなりできるにもかかわらず、メーカーから情報が無いがゆえにいつも通りの予定を組んで失敗しそうになる。
期限が短くてメーカーもユーザーも慌てる。
そんな結末を迎えるくらいなら実態をちゃんと共有するほうが遥かに大事ですよね。
技術者に期待しない
メーカーの技術者に過度に期待してはいけません。
技術力そのものはあるでしょうが、ユーザーとのコミュニケーションには慣れていません。
これは研究者にありがち。
大学で研究室にいた人のうちコミュニケーションが得意でない人や高校で成績が良かったけどおとなしい人を、想像すると良いでしょうか。
- 専門用語を使い過ぎて分からない
- 一般化した回答ができない
- ユーザーのことを知らない
技術者は自社の研究現場が職場なので、ユーザーの現場を知らないのが難点。
昔のように技術者が現場に行って情報を入手することが難しく、営業が間に入ることで情報が遮断されてしまいます。
ユーザーとしては営業に聞いても情報が伝わらないから技術者に直接聞きたいと思うでしょうが、その技術者とのコミュニケーションも上手くいくとは考えない方が良いです。
何か情報が得られればラッキーくらいに考えると良いでしょう。
設備メーカー(maker)が気を付けてほしいこと
設備メーカーが機電系エンジニアに対して気を付けてほしいことをまとめました。
保証に過剰にならない
設備メーカーは保証に敏感です。
製造物責任(PL)に関わるからでしょう。
かなりの部分をユーザーの指示に依存する形でメーカーは対応します。
- 材質
- 型式
- 液性
こういう情報が無いと設備メーカーは保証ができません。
だからこそ保証対象外ということを強く主張してきます。
それも間違ってはいませんが、全部のユーザーが保証を当てにしていると思っている傾向がメーカーにはあります。
設備の選定に必要な情報が全部提示されないのだから保証を議論しても意味がなく、壊れたらその時に今後のことを考える。だから早く決めたい。
これくらいに考えているユーザーは居ます。私もこの考え。
保証問題を真面目に応対しようとしたら、液のサンプルをメーカーに送ることになりますが非常に危険な行為。
- 設備プロセス情報の流出
- 技術ノウハウの流出
- 運送時の漏えいなどの危険性
こういった背景がユーザーにはあって情報が開示できるものではない、という推察をメーカーにはしてほしいところです。
新たな設備を導入するときに、プロセスのサンプルをメーカーに送るのではなく、機器のサンプルをユーザーに送って欲しいというのは、こういう背景があるからです。
機器のサンプルを要求してその機器が使えそうな場合は、そのまま買い取りするケースの方が多いと思います。
返却して新品を買うというケースは少ないと信じたいです。
逆に保証に過剰なユーザーとはお付き合いしない方が良いと思います。
そんな余裕はメーカーにもないと思いますので。
返事はタイムリーにしてほしい
設備メーカーは返事が遅いことが多いです。
それを言ったらユーザーも図面確認や承認が遅いでしょ?
言っていることは間違ってはいません。
ここで言うタイムリーとは
- 打ち合わせで要求したカタログなどを翌営業日くらいには送って欲しい
- 正確な値でなくていいから費用な納期の情報が欲しい
- 時間が掛かりそうなときに、中間報告や悩んでいることを報告して欲しい
という内容です。
メーカー営業目線では、こんな感じだろうと推測しています。
- カタログは昔は広報などに電話で伝えて丸投げしていたが、今は自分がメールを送らないといけない
- 工場の稼働や実態を把握していないから概算すら出せずに、時間が経ったら忘れる
- 時間が掛かっていて管理すらできていない
かんたんにいうと、営業がタスク管理をできていないでしょう。
営業に対して業務負荷が掛かりすぎているのか、営業の実力不足なのか・・・
営業が移動するために時間を取られていて対応が遅くなっているなら、移動を止めてテレワークやメールなどのコミュニケーションにすれば改善されるはずなのに。
あまり真剣に取り組んでいるとは思えないメーカーの方が多いです。
在庫に対して意識して欲しい
メーカーは在庫に対してもう少し意識してほしいと思います。
- 自社の倉庫がいっぱいだから納期から1日でもずらして発送したくない
- ユーザーは倉庫が多いから、ちょっとくらい早く納入してもいいか
こんなやり取りが頻繁に行われます。
これらの情報はいつもその時になって初めて出てきます。
前もって工場の稼働状況を見れば分かるはずなのに・・・
問題になってその場で決心をしないといけないくらいのタイミングになってようやく相談を持ち掛けるメーカーが多いです。
デビエーションリストを書いてほしい
一部のメーカーはデビエーションリストを書きません。
この状態で見積を進めていって発注が進んだ結果、揉めることがあります。
メーカーがデビエーションリストを出さない以上ユーザーの要求を呑むことが普通ですが、
そんな仕様書は見ていない・知らぬ存ぜぬで通そうとするメーカーがいます。
これはユーザー・メーカーお互いに損をします。
いい仕事になりません。
デビエーションを書けばコスト削減や納期削減などの合理化のチャンスもあります。
長年のユーザーからの依頼を蓄積していったユーザー独自仕様が何なのか明確にできます。
メーカーとしては独自仕様は把握していますが、ユーザーはメーカー標準が何なのか知らないので気が付かずに過剰な独自仕様となっている場合があります。
ここでデビエーションリストがあれば、「こんな無駄な仕様が付与されていたのだ!」ってユーザーも気が付くことができますよ。
工程表を書いてほしい
一部のメーカーは製作工程表を書きません。
ユーザーも製作工程表を過信していないのですが、工程表がある方がタスク管理はできます。
特に立会検査の日程を決めようとするときに大事。
工程表が無いから・工程表通りに物事が進まないから、と適当に考えるユーザーは結構います。
その結果、2日後に立会検査をするという申請書がメーカーから出されてきて大慌て。
なんてことが実際にあります。
- 工程表通りに進んでいる
- 立会検査は工程表の日付通りに行う
こんな進捗管理をお互いにする方が好ましいです。
少なくともメーカーから先にアクションはするべきでしょう。
情報が共有されていると思い込まない
メーカーの営業は、ユーザーの全エンジニアには情報が共有されていると思い込みがちです。
設計情報・納期情報・トラブル情報などですね。
そんなにきれいに情報共有されている会社なんて少ないですよ。
多分メーカー営業もこれは知っているはず。
同じ職場の各担当と直接やり取りしているから。
悪いのはユーザー側。
それをうまくメーカー営業は利用して、ユーザーに対して「以前○○さんには伝えたので、ご存じと思いますが・・・」という言い方をします。
ここでユーザーも正直なので、知りませんでしたという回答をしがち。
ユーザーは同じ職場で情報を共有しようとせず、メーカーに聞けば早いなんていう考えですね。
悪いのはユーザー側。
でもメーカーもそういうユーザーの状況は察して欲しいと思うこの頃。
参考
最後に
化学プラントの機電系エンジニアと設備メーカーがお互いに歩み寄り部分を解説しました。
会社が違うと文化が違うくらいにお互いのことを理解できない風潮が強くなっています。
敵・味方くらいの感覚として違いがあります。
本当は日本ならメーカーもユーザーも味方という感覚で仕事をしたいし、昔はできていたはずですが。
時代が変わったということですね。
まずはお互いのことを正確に知るというところから始めていきましょう。
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