機電系エンジニアにとってお供とも言える図面(drawing)。
エンジニアにとっては仕事の成果物として位置づけられる重要な資料です。
どんなものでも、最初はゼロから図面を作り上げていきます。
プラントエンジニアリングでは、とても多くの図面が必要になるので、毎回ゼロから作り上げていては時間がいくらあっても足りません。
どれだけ合理的・効率的なアプローチができるかがエンジニアの腕の見せどころ。
標準化がその1つの正解です。
図面の標準化(標準図)に対する考えをまとめてみました。
化学プラントで取り扱う図面(drawing)種類
エンジニアリング資料として化学プラントで取り扱う図面を、ここでは3つの種類に分けて説明します。
機器図・工程図・工事図の3つです。
これは図面作成者の違いとも言えます。
膨大な図面を取り扱うので、大きな分類で仕分けをする意義はあるでyそう。
機器図
まずは機器図から見てみましょう。
組立図
機器図の基本は組立図です。外形図ということもあります。
機器の全体イメージが載っている図面のことです。
一般に機器の図面というと組立図を考えればいいでしょう。
組立図というのは部品を組み立てるという作業をイメージした名称ですね。
化学プラントの設備の組立図は、かなりの情報が網羅されています。
例えばタンク1つを取ってもこんな情報が記載されています。
- 機器外形
- ノズルオリエンテーション
- 主要材質
- 運転条件
- 法的要求
- 重量
これらの情報は次の目的で使用します。
組立図は工事設計としてローディングデータ・配置・配管などとの接続のために大活躍します。
もちろん機器の設計情報としての材質や設計条件が、メーカーにちゃんと伝わっていることを確認する意味でも組立図は使えます。
機器の組立図単体で意味があるわけでなく、関連図面との位置づけにおいてとても大事です。
部品図
組立図があるから部品図があって当然でしょう。
化学プラントで部品図というとあまり種類はありません。
- 撹拌機
- モーター
- 軸封
- タラップ・ラダー
この辺が部品図として提示されます。
部品は本体とは別に製作するけど、組立ができるかどうかが大事です。
実はこれらの図面はあまり活躍する機会がありません。
ないよりはあった方が良いという程度でしょう。
メンテナンスやトラブルという重要工程で活用できますが、過信は禁物です。
現物を見ないと分からない情報が含まれている場合があるからです。
部品図には書いていないけど、実物には部品があった。
罠ですよね。
詳細図
詳細図は本体の一部を拡大した図という定義が適切でしょう。
部品図と重なる部分もありますが、微妙に違います。
- ノズル詳細
- マンホール詳細
- 挿入管詳細
- バッフル詳細
この辺りは製作段階で必要となる場合がありますが、以降の作業ではほとんど使いません。
組立図には書けないけど知っておきたい取り合いの情報、というような曖昧なニーズを満たすための図面です。
工程図
工程図は工程表とかスケジュール表とか言うことが多いです。
- プロジェクトの設計工程
- 現地工事の工程
- 設備メーカーの製作工程
工程表を図面に分類して良いか悩むかもしれませんね。
機電系エンジニアの成果物が基本的に図面であるという位置づけから、図面の一部として工程表を入れておいた方が整理しやすいという立場で考えています。
工事図
工事図は、言葉どおり工事で必要な図面です。
化学プラントで必要な工事図面に限定してもかなりの種類があります。
配置図
工事図の基本は配置図です。レイアウト図などと呼ぶ場合もありますね。
- 工場全体の配置
- 各プラントの配置
- プラント内の設備の配置
いろいろありますが、工事レベルではプラント内の設備配置が最も大事です。
設備をどこに配置するかで、工事物量が大きく変わります。
配管ルートが変われば、作業性も変わります。
配置はコストインパクトが高いため、配置図はエンジニアリング資料の中でもとても重要な位置付けです。
配置は一度決めてしまうと簡単に変えることができません。
配管なら少しお金をかけて取替をすることは可能ですが、配置は無理です。
だからこそ真剣に検討しないといけません。
配管図
配管図はP&IDを元に作成します。
実際の配管ルートを描いた図面。
平面配管図・アイソメ図・スプール図などからなります。
この配管図を作成することが、プラントエンジニアリングの大半の時間を占めます。
図面屋さんに依頼する仕事。
配管図を基に配管工事をすることが、プラント工事の大半の時間を占めます。
プラント工事は配管に始まって配管に終わる!という感じですね、
基礎図
基礎図は機械設備を設置する場所を示す図面です。
土木建築屋が作る図面です。
機械設備と基礎図がマッチしないと、機械設備は据付できません。
土木建築工事は、プラント工事でも多くの時間を占有してしまいます。
他の工事業種と入れ替わることができないので、優先して時期を決めないといけません。
ここで基礎図に不備があって、機械設備の据付ができないと
工事全体におけるダメージが相対的に大きくなります。
ということで、プラントエンジニアリングでも基礎図のチェックはかなり慎重に行います。
据付図
据付図は基礎図と兼ねる場合が多いです。
据付要領図という別の図面を作成する場合もあります。
これは重機の配置・設備の引き込み方などを示した図面です。
バッチ系化学プラントではごくまれに作成します。
結線図
結線図は電気計装の図面です。
電気なら機械装置のモーター・計装なら自動弁や計器、と配線を繋ぐための資料です。
電気なら3本の線を装置に繋ぐだけだから間違るはずがない!
素人ならこう思うでしょう。
でも実際に繋ぎ間違えが起こります。
これだけでも、回転機械が逆回転して設備が故障します。
これを防止するために結線図があります。
電気なら電気系統全体・計装なら計器とDCSとの間の系全体を示す系統図も結線図の1つです。
この資料がないと後々のメンテナンスで非常に困ります。
機械関係のP&IDと同じ位置づけですね。
配線図
配線図は電気計装の工事図面です。
機械の配管図に相当する、現場のルート図と考えればいいでしょう。
配置図をベースにダクトなどの固定ルートと末端接続の枝ルートを示したような図面です。
標準図って大事
標準図の重要性はいくらでも思いつくでしょう。
念のため言語化してみます。
設計時間の短縮
標準図面を使うと、当然ながら設計時間を省略できます。
- タンク容量と寸法の関係
- タンクノズルやマンホール
- タンクのタラップやステージ
- 配管のスペック
- 配管ヘッダーの作り方
- 配管スタンドの構造
- 機器据付基礎の構造
- 作業架台の構造
これらの情報は同じ工場内であれば、プロジェクトが変わっても変化しない共通データとして使用できます。
1つ1つをゼロから検討してれば時間がいくらあっても足りません。
標準図を決めてしまうと、自動的に仕様を決めることができプロジェクトの高速化が可能です。
コストの削減
標準図を使うとコストも削減できます。
設計の高速化ができるからコストも削減できるのは当たり前の話。
個別のプロジェクトレベルで見れば標準図を使わない方が短期的なメリットが出る場合もありますが、長期的には損します。
トラブルの再発防止
標準図を使うと、過去の設計トラブルを防止することができます。
例えばステージの標準図を考えてみましょう。
これがなぜ必要かというと過去にこんな問題があったはずです。
機器図が提示されてから機器上部のステージの図面を作り、先に検討完了した配管図と干渉して、配管を通すことができなかった。
言語化するとこんな問題です。
ステージの形を決めるタイミングと配管図を作成するタイミングでは、ステージの方が先でしょう。
ところがコンカレント的な仕事をする場合、機器図が決まる前に配管図を書きたくなります。
機器図が決まる前に予めステージの形を決めてしまって情報を共有できていれば、配管はステージをかわすように設計が可能です。
標準化の課題
図面の標準化は大事ですが、課題があります。
標準化が大変という一言に尽きますが、背景を考察します。
時間がない
標準化には時間が必要ですが、その時間が取れないケースが多いでしょう。
忙しくて標準化なんてやっていられない
目の前の仕事をとにかく完遂することで精一杯ですからね。
そうこうしていくうちに標準化が遅れたり、すでにある標準図も見直しが進まずに時代にそぐわないものになります。
経験が少ない
標準化をするためにはその工場での膨大な経験が必要です。
その工場の全体を知っていないと標準情報の取りまとめができません。
各自、自分たちの意見を主張しても統一した思想を持つ人がいなければ、標準化は難しいでしょう。
経験年数とローテーションの問題です。
これを軽視して10年~20年経つだけで、誰も標準化の思想を知らなくなるのが組織です。
思考できない
標準化には設計の本質的な思考が必要です。
でもこの思考をできる人が少なくなっています。
これは技術の高度化・広範囲化が背景にあります。
でも標準化をするときにどういう思想・どういう設計をしたかを残していないケースが多いと思います。
標準というと結果だけを書類にまとめるケースが多いですからね。
その中身は設計者が本質的な思考をすれば自ずと導けるはずだ。
という学校の教科所の「行間を読む」ような思考で標準が作られます。
設計の考え方をちゃんと残しているだけでも、標準化の見直しや新技術の標準化もしやすいと思いますが。。。
技術が高度化・広範囲化するほどに多くの内容を行間を読まないといけなくなってしまいながら、牛餓しくて時間が足りず経験もできない。
これでは標準化を進める方が非現実的です。
バランス感覚と覚悟
標準図の考え方から逸脱するには覚悟が必要です。
ここはバランス感覚が非常に大事です。
- 絶対に標準図でなければいけない
- 何でも標準図から外してもいい
このどちらかに偏るエンジニアが非常に多いからです。
とにかく標準図
標準図が大事だから、何でもかんでも標準図にすれば良い!
こう考えた場合の弊害についてまとめました。
プロセス条件を満足しない
標準図ばかりを使っていると化学プラントのプロセス条件を満足しない場合があります。
- 大口径のノズルが必要
- 独自のタンク形状が必要
こんなケースは普通にあり得ます。
標準図というのが、これまでの自社プロセスに適用できた設備を共通化したものという前提条件を忘れてはいけません。
今まではこれで良かったからこれからもOK、というわけでは無いからです。
特にタンクの大口径化の需要は分かりやすいニーズです。
粉体仕込・減圧蒸留などプロセスが高度化していますからね。
プロセス条件が時代とともに移り変わっていることや標準化の前提条件を知らずに、標準図を適用していると痛い目を見ます。
設計力が育たない
標準図をそのまま適用するだけでは設計力が育ちません。
- タンクの径
- タンクの高さ
この単純な情報1つを取っても、容量を固定しても自由度が1つありますよね。
ところが標準図で決め込んでしまうと、径や高さを変えるという選択肢に目が行きません。
この狭い位置にタンクを置きたいけど大丈夫かな?
って検討をする場合に、標準図がこの大きさだから設置できないと答えてしまいます。
径を少し細くして高さを上げて、胴に補強を付けて、床とボルトで固定する
というような応用を効かせる設計力が育たない傾向にあります。
とにかく標準外
とにかく標準外を適用すると、こんな弊害が出てきます。
既設と同じで良いと考える
既設の老朽更新が多い化学プラントでは、既設と同じ仕様でリプレースすることが多いでしょう。
ここでよくあるのが既設と同じ。
この瞬間にエンジニアとしての価値を放棄します。
この思想でよければエンジニアが行う老朽更新業務は作業のレベルに落ちてしまい、時間を掛ける必要は全くありません。
昔は手動で強引に作成できたけど、自動化が進んだ現在では作れなくなった。
そんな設備形状も存在します。
既設と同じことにこだわり現実を見ない結果、大幅な設計見直しや追加コストが必要なんてこともあり得ます。
既設と同じものを採用するなら、既設が最適であることの論理を構築しないといけません。
トラブル対応を軽視する
標準外の設備を導入するとトラブル対応を軽視しがちです。
例えばある設備が運転時に壊れた時のことを考えましょう。
- タンクのノズルオリエンテーションが違っているから予備機が使えない
- ポンプの型式が違うから取替できない
- 熱交換器のサイズが合わないから取替できない
トラブルが起きた時は即修理したいと思うのが普通。
ところが標準外の設備を多用していると、部品や本体の共通予備化ができなくなります。
トラブル時を考慮して在庫を持とうものなら、無数の在庫が必要になります。
もしくはトラブル時に無理やりレイアウトを合わせるための配管改造が必要になってきます。
配管の在庫があれば対応可能ですが、それも難しくなってきていますね。
だからこそ標準化が大事です。
プラント設計思想が育たない
標準外ばかり適用しているだとプラント設計思想が育ちません、
トラブル対応・部品の共有化と似たような発想です。
Aプラントは独自設計をしないといけないから、Bプラントとの共通化は考えなくていい
こんな思想を持つエンジニアが出てきて、例外ばかりを作ろうとしがちです。
ちょっとした配管1つでもルートを変えるだけで、運転や工事の作業性がぐっと変わることもあります。
標準図を使っていても設計力は育ちませんが、標準外ばかりだとプラント設計思想が育たない。
バランスの問題ですが難しいですね。
参考
関連記事
最後に
化学プラントの図面と標準化の考えについて解説しました。
機器図・工程図・工事図の3つに分けて、標準化の重要性をまとめています。
標準化ばかりにこだわったり、標準外の既設と同じことにこだわる、バランス感覚の欠如するエンジニアができやすいので注意が必要です。
標準化は設計の本質にかかわるので非常に大事ですが、忙しい現在では標準化に目が行き届きにくいですね。
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