バッチプラントでは分液はごく日常的に行います。手動分液の補助目的で配管ライン中に導電率計を設置することは大事ですが、よく気を付けて設置しないと失敗しやすいです。
本記事では、導電率計を設置する時の注意点をまとめました。
この記事は、分液シリーズの一部です。
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液体と確実に接触させる
導電率計はセンサーを液体と接触させることで初めて機能します。すごく当たり前で簡単なことに見えますが、これが意外と難しいのがプラント設計かも知れません。
分液目的でライン中に導電率計を設置する場合、下の図のような水平ラインに設置することが基本です。

液体の流れの中にセンサーが浸かっていて、液体の導電率を測り、水と油の差を検知するような目的で導電率計を使います。
センサーの深さ
実際に上記のような理想的な条件で液体が流れるのであれば、導電率計は適正に作動します。これが難しい理由はいくつかありますが、1つ目はパイプ中に液体が満液になるとは限らないという問題があります。

この図のように液体がパイプ中に満液ではなく、上部に気相部ができている場合には、センサーが液体と接触しない場合があります。サイトグラスなどを設置してないと液浸を調べることができず、現場で問題があった時に計器が悪いのか運転条件が悪いのかを特定することが難しくなります。
パイプ中に気相部ができないようにするためには、配管設計上のポイントがいくつかあります。
・導電率計を設置するラインはガス溜まりができない配管形状
・上部のタンクから重力落下で液体を導電率計部に押し込む
・下部のタンクからガスが混入しないような配管形状
重力落下で分液ラインを組みガスラインを適切に設置することが、最初に考えることです。これは滴下ラインのの配管設計と同じ考え方です。
流速を落とす
分液ラインで導電率計が測定しにくい理由の1つに、流速の問題があります。導電率計で適切に測定するためには流速が低い方が安定します。一方で、分液を早く終わらせるためには流速はある程度早い方が好ましいです。
この2つの課題を解決するために、導電率計部の配管口径を上げて流速を落とす方法が考えられます。

これは一見うまい事行くように見えます。ところが、上部にガスが溜まる・下部に液が溜まるという問題が出て、必ずしもうまくいくわけではありません。液溜まりを防ぐためにガス溜まりを許容するか、ガス溜まりを防ぐために液溜まりを許容するか、という分液の品質を悪化させるようなリスクを許容せざるを得ない話に展開しやすいです。
エルボ部を利用
導電率計を設置する場所として水平ラインではなくエルボ部を利用する場合があります。これは水平ラインの最小化を目的としています。上記のように流速を落とすことまで考えると配管の水平部は長くなってしまい、配管ルートが長くなると分液性を悪化させるかもしれないからです。

この場合も、水平部の設置ケースと同じように注意が必要です。水平部のときに比べて、より確実な手を取ることになるでしょう。
というのもエルボ部では、ガス溜まりに相当する部分が読みにくいからです。現実的には下の図のように、流路が変わる場所で液体が流れている領域は少ないと考えられます。

センサーが水平部の中央部(左図)のように置けば問題ないだろうと思いきや、意外と流体が流れずに接触しないこともあります。確実に接触するためには、センサーが水平部の下部以下(右図)のように置くことになります。これでも、確実に接触するとは限らず(気液界面の変動があるため)、もっと深くセンサーを設置した方が良いか悩むことになります。
配管距離を削減するためにエルボを使いたかったとしても、センサーが長くなって配管高さが必要になり、物理的に設置できないということにもなりかねません。分液ラインの高さは反応器とポンプの高さで決まって制約が大きく、この個所には他のラインを接続する必要もあるので、意外とプラント建屋そのものの建設思想に影響するくらいの大きな課題です。
エルボ部の設置が必ずしも正解というわけではありません。ケースバイケースという一言で終わりかねませんが、化学プラントの配管設計の難しさの1つだと思います。
参考
最後に
分液ラインに導電率計を設置する際に最も重要なのは、センサーを必ず液相に浸すことです。
そのためには、
- 満液状態を維持する配管形状を選ぶ
- ガス溜まり・液溜まりを発生させない設計をする
- 流速と口径のバランスを誤らない
- エルボ部設置は最後まで慎重に検討する
といった配管設計上の注意点が欠かせません。
導電率計の不良と思われていたトラブルが、実は“配管設計の問題”であるケースはよくあります。
分液ラインの特性を理解し、現場で確実に液浸が得られる設計を目指すことが、安定した分液運転につながります。
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