化学プラント向けのエアコン(air conditioner)の設計方法を紹介します。
エアコンはエアコンメーカーにお任せ♪となりがちですが、化学プラントのエンジニアなら十分に専門的な議論が可能です。
冷凍機とも関連しますので、是非とも習得しましょう。
詳細計算はメーカーにお任せです。その手前の条件設定がユーザーとしては大事です。
空調エアコン(air conditioner)の設置目的
化学プラントでも空調エアコンの需要は非常に高いです。
その理由はシンプルで冷房。
冷房目的の背景
ストリップの架構なら風が通るのでまだマシですが
壁で囲われた室内は、夏は非常に暑いです。
壁で囲うということは、そこで危険な物質を扱うということ。
作業員も保護具を付けないといけません。
夏でも半袖禁止の化学プラントでは、長袖というだけで暑いです。
そこに保護具が加わると、さらに暑いです。
だからこそ、化学プラントでも空調用(特に冷却用)のエアコンを購入します。
エアコンといえば、ダイキンさんですね。
一般的な空調メーカーのエアコンを調達します。
ここに化学プラントの独自の問題がありまして…、やっかいな話です。
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エアコンは熱中症対策と割り切りましょう
暖房目的を避ける理由
化学プラントの空調エアコンで暖房を避ける目的。それは静電気着火を避けるため。
絶対的な理由であり、抗いようがないようにも見えます。
暖房を付けると相対湿度が下がります。
この結果、空気中での静電気の逃げやすさが落ちます。
各種の静電気対策のうち、空気中の静電気放散量がどれだけの影響があるかというと疑問は残りますが、運転者としてはできることはやっておきたいもの。
仮に空調機で暖房を使わなくても、寒ければ服を多めに着れば防げます。
空調機で暖房を使うことで、湿度低下は避けれません。
暖房が加熱源となりうることも、化学プラントでの暖房を避ける要因です。
どれだけフィルターを付けていても、漏れた粉がフィンチューブについてそこで熱を持ってしまうと・・・って考えると怖くないですか?
怖くないと考える会社は、真空ポンプで油回転ポンプを使えたりするでしょう。
安全や保安防災に対する各社の考え方が強く出る分野です。
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静電気ってとにかくややこしいです
空調エアコン(air conditioner)の3パターン
化学プラントの空調エアコンを3パターン紹介します。
家庭用なら1パターンに限定されていて意識していませんよね。
みんなそうなので、3パターンあること自体がすでに意外ですね。
冷水引き込み型
冷水引き込み型の構造はシンプルです。
ファンとチューブがあれば、ほら、できあがり。
チューブに冷水を通します。ファンを回します。
イメージとしては以下のとおり。
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冷水を通した冷たいチューブの周りを、ぬるい風が通って冷たい風となります。
この風が冷却エアコンの出口から排出されます。
動力源はファンのみです。
化学プラントでは、冷水を反応の冷却用に使用していて、冷凍機で冷水サイクルを作成しています。
空調用のエアコンに冷水を使う場合は、冷凍機のサイクルを乱す方向になり、
あまり採用したくありません。
室内機・室外機分離型
室内機と室外機を分離したパターンです。
家庭用のエアコンもこのタイプ。
室内機と室外機を分離したイメージは以下のとおりです。
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室内機だけを見ると。「冷水引き込み型」と全く同じです。
冷水を引き込むチューブ・ファンが入っているだけです。
室外機では、部屋の熱を奪い取った冷水(温水)を冷やしています。
化学プラントにおいては、冷凍機が担っている部分です。
室外機には冷凍機と同じく、冷凍サイクルが含まれています。
蒸発器・圧縮機・凝縮器・絞りという基本冷凍サイクルです。
室外機には圧縮機が含まれるのが大きな特徴です。
圧縮機は防爆規格に適合したものが非常に少なく、ほぼ非現実的です。
そのため、危険物製造所内に圧縮機を設置することは、ほぼできません。
室外機だけを非防爆地域に設置しないといけないでしょう。
冷凍機も同じような発想で、危険物製造所より離した場所に設置しています。
室内機・室外機一体型
室内機と室外機を一体化したパターンです。
これは室外機の圧縮機が防爆規格に適合したものに限定されます。
小型のスポットクーラーで数例存在する程度です。
スポットクーラーでも作業者の熱中症対策として有効なので、
作業エリアが余裕があれば、スポットクーラーを設置するケースは多いです。
空調エアコンの原理
エアコンは極論ではチューブとファンがあれば成立します。
下の図を見てください。
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暗に冷房を想定しています。
- チューブの中に冷水が入っています。
- ファンで暖かい空気に流れを作ります。
- 暖かい空気が冷たいチューブに接触して、冷やされます。
これがエアコンでの熱交換が行われる基本原理です。
ここさえ知っていれば、エアコンの8割は知ったも同然。
暖房の場合は、チューブ内が暖かく、空気が冷たいです。
温度分布を下の図に示します。

体感気温と同じモデルで説明可能です。
体感気温は風速があるがゆえに、熱交換が推進されて、気温が冷たく感じます。
エアコンはファンで風の流れを作り、熱交換を推進させます。
ファンの速度が速いほど、空気とチューブの温度差が高いほど
熱交換の能力つまり、エアコンの能力は上がります。
ファンの速度は電力や圧力損失の影響で最適値が存在し
空気とチューブの温度差は、チューブ側の温度の制約を受けます。
エアコンの構造
シンプルなエアコンの構造を下記に示します。

上に書いた原理図を箱に収めただけです。
超簡単です。
化学プラントではこのタイプのエアコンを良く使います。
というのも、冷水を自前で供給できるから。
冷水を自前で供給できない場合はどうしましょうか?フロンと圧縮機を使います。
一般の家庭では室内機と室外機という形で分離します。
室内機がファンとチューブで構成されています。単純ですよね。
そもそもフロンと圧縮機すらなくても、冷水があればエアコンは実現可能です。
防爆構造
化学プラントではエアコンに改造が必要です。
それが防爆。化学プラントで悩みの種の防爆。エアコンでも防爆。
エアコンで防爆というと、ファンのモーター。
モーターを安全増防爆にする改造が必要です。
昔はお手製の改造が多かったですが、今は標準的に対応してくれる会社が増えてきました。
今となっては、「その気になれば何とでも改造ができる、という知識があれば良いでしょう。
地球温暖化が進み、熱中症もすっかり市民権を得た今、
化学プラントの作業でもエアコン前提で考えるようになっています。
防爆場所でのエアコンの需要が増えれば、それだけメーカーも対応してくれます。
次の時代は、防爆ですらなくてもエアコンを使えるような防爆設計を進めることになるでしょう。
オプション
私はエアコンはオプションの塊だと思っています。
原理を考えれば考えるほどオプションが多いように感じます。
フィンチューブのむき出し
さて、エアコンの原理を考えた場合、フィンチューブを室内にむき出しにしてファンを付ければいいのでは?と思いませんか。
これは正しい発想です。
冷水や冷媒で空気を冷やして室内を循環させることで、冷房が効くのですから。
家庭用エアコンなどでパッキングされているタイプが多いですが、これは何を目的にしているでしょうか?
簡単に言うと見た目です。
室内の見た目を良くするためには、臭い物に蓋をする的な発想で見えなくするのが鉄則です。
街中の工事現場でも最近では全面足場で囲ってしまいますよね。
あれと発想は全く同じです。
フィルター
室内機を囲ってしまうと必ずフィルターを付けないといけません。
中性能フィルター・HEPAフィルターなど目開きはさまざま。
この目的って、機械的にはフィンチューブへのゴミの堆積防止です。
ゴミがフィンチューブに溜まると、チューブ内外での熱交換を阻害します。
これを定期的に掃除しないと、性能が劣化します。ゴミの中にはハウスダストやカビの類も含まれるので、人体の健康にも影響が出る可能性があります。
人体の健康に関しては、その部屋の中で一部掃除をしていない場所があり続けるという意味で大きな間違いはないと思います。
フィンチューブをむき出しの構造にしていると、 高圧洗浄水やエアーブローで取り除けば、メンテナンスできるはずです。
パッキングしてしまうと、こういう洗浄は無理です。
だからこそ、フィルターを付けてパック内は綺麗な環境にしようという方向に動きます。
フィルターを定期的に洗浄すればいいので、楽と言えば楽。
異物混入が嫌
フィルターを付けるか洗浄するかという視点が、伝熱性や人体への影響を第一に考えましたが、もう1つの視点があります。
それが異物混入。
粉体を取り扱う室内のエアコンでは、フィルターに製品が付きます。
これを清掃しないと、別の製品の生産をする時に、異物混入の原因となります。
そうするとフィルターの清掃が定期作業として発生するので、作業が楽にするようにした方が良いでしょう。
メーカー純正のエアコンなら、フィルターを取り外して水洗いするということで、清掃が完全にできていると盲目的に信じているユーザーが多いです。
それで許容できるなら、放っておいた方が良いでしょう。
エアコンの中のゴミも取りたいという要望が出てき始めたら、いよいよ問題は大きくなります。
本気でやるなら、室内機を設置するエリアを限定し、空調空気を直接ダクトで室内に取り込む方式を採用するでしょうか。ホテルやビルで使用される方式です。
これはこれでダクト内のメンテナンスが必要です。
それでも室内機では印象が良くないから、ダクト方式にすると言いかねないです。
エアコンの能力設計
化学プラントの空調機エアコンの能力設計ってどうするでしょうか?
実態を紹介しましょう。
伝熱計算
熱量計算の基本として出てくる伝熱計算。
Q=UAΔtの世界。
この計算を空調機エアコンに適用すること自体は不可能ではありません。
化学工学的には空調・調湿の分野で、空気中の湿度が入った熱計算をするのでは?と思いがちですが
あまり真面目にしても良いことはありません。
温度・湿度の問題以上に厄介なのが、伝熱係数。
エアコンという機械そのものの伝熱計算は簡単でも、問題は熱バランス。
冷房を対象とした部屋では、部屋の外から流入してくる熱量の計算がしんどいです。
考え出すとキリがないです。
特に換気回数はこれだけで熱交換器としてのエアコンの能力を左右するだけのインパクトがあります。
面積見合い
エアコンメーカーに見積を依頼した場合、面積見合いでの設計を依頼する方が遥かに現実的です。
空気を冷やすという目的では室内の空間容量の方が正しそうに見えますが、投影面積の方が現実的です。
類似工場で導入したエアコンの能力と投影面積から比例計算で能力計算するという方法。
これでかなりの確率で問題を防げます。
変に細かい計算をするよりは、主要指標を少し調べるだけで一瞬で決まるので楽ですよね。
空間容量ではなくて投影面積で決めるのは、高さの概念を考える必要が無いから。
類似工場と検討対象の空間の高さがほぼ同じ(=プラントの設計思想が同じ)というのが最大の理由。
仮に検討対象の工場の方が類似工場よりも高い場合でも、作業者への環境空調を目的としているなら、高所で空気が冷えていなくても問題が起こることは少ないです。
高所で作業を頻繁にするというのであれば真剣に考えるべきですが、普通は床面での作業でしょう。
床面近くだけを冷やせるという思想の方が好ましいです。
そのためにも、高さの概念が反映しない投影面積の方が失敗しない確率は高いでしょう。
参考
最後に
化学プラントの空調機エアコンの設計方法を解説しました。
冷房目的に限定する理由・エアコンのパターン・原理・オプション・能力設計
単純な伝熱計算の延長上の問題ですが、汎用的な機械だけに化学プラントに特化して検討するのが難しかったりします。
化学プラントでは防爆の制約があって室外機の設置場所を特別に考えないといけない場合もあります。
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