ラビリンスシール(labyrinth seal)について解説します。
回転機械のシールといえばメカニカルシール。
その前世代にグランドシールがあって、他のシールは基本的には存在しないもの。
こういう感じで初心者のころは把握しがちです。
それで間違いではありませんが、ラビリンスシールというものがあることを、ときどきで良いから思い出せるように、知識として知っておいてほしいです。
ラビリンスシール(labyrinth seal)の構造
ラビリンスシールの構造を最初に解説しましょう。
ラビリンスシール
メカニカルシール
ラビリンスシールは、不完全シールでそれなりの隙間を多数設けただけの構造です。
ラビリンスは迷宮という意味の英語。
迷宮が複雑だったり狭かったりしたら、抜け出すのは大変です。
回転機械で対象となる流体(液体や気体)も、迷宮から抜け出すのは大変だと感じます。
メカニカルシールのような完全シールを期待できるわけではないですが、ラビリンスシールはそれなりにシールができるというのがポイントです。
化学プラントでラビリンスシール(labyrinth seal)を使う場面
化学プラントでラビリンスシールを使う場面を紹介します。
外部に拡散しても良い・空気や水が混入しても許容される系統の、送風機・ブロアー・ファン
ほぼこの1パターンに限定されます。
メカニカルシールやグランドシールに比べて、ほぼノーメンテとなるのがラビリンスシールの最大のメリット。
このメリットを使える場面は、化学プラントでは相当少ないです。
ラビリンスシールは中途半端なシール性です。
液体に対して使うには、よほど考えて設置しないと漏れてしまうでしょう。
TPMなどでよく言われるドライフロアーの考え方から、反してしまいます。
気体に対して使う場合にも、外気である空気との接触を前提として設計します。
送風機やブロアーに限定化されますね。
この場合にも、以下のような条件だと、ラビリンスシールは使わない方が良いでしょう。
毒性ガスなど外気に拡散すると、環境衛生面でNGのガス
空気や水が系内に入ると、反応したり腐食性が上がる危険なガス
化学プラントの場合、ブロアーの設計ではほぼ空気として設計をします。
メーカーに条件提示をする場合でも、空気と表現してしまいます。
これは動力設計としては正しいのですが、材質やシール設計としては不十分。
プラント内で発生するガスが含まれた空気であることを、想定していません。
ラビリンスシールを使う場合には、その前段でガスを処理していることが前提となります。
ラビリンスシール部から漏れが起きたら元も子もないですからね。
前段での処置ができない・不十分である・安全性を高めたいという場合には、グランドシールを使う方が好ましいです。
グランドの欠片が混入することは許容されることが前提となります。
シンプルイズベスト
ラビリンスシールは原理が非常にシンプルです。
グランドシールもかなりシンプルな構造ですが、もっとシンプルでしょう。
単に隙間を適当に付けるだけでも、ある程度の機能が発揮するからです。
壊れた場合にも、補修や応急的な製作が比較的しやすいです。
もちろん、効果を高めようとしたら専門的な解析をすることになりますが、その分だけ構造は複雑になります。
補修も難しくなるでしょう。
シンプルな構造でそれなりの効果を期待する、というラビリンスのメリットを無くす方向になります。
ラビリンスの発想は大事
ラビリンスシールは化学プラントではあまり使いませんが、発想はとても大事です。
シンプルな構造ですが、圧損を利かせるだけでシール効果があるということは、設備のシール以外にも応用が利くからです。
- シールが壊れていてガスが拡散するので、シールを復旧するまでの応急処置をしたい
- 粉体の取り扱い場所の作業環境を改善するために、少ない費用で対応したい
- 反応で発生したガスで配管が腐食するときに、ガスの流れを制御したい
圧力損失を上げることで流れを変えることができる、というラビリンスの思想は化学プラントなどのプロセス系のエンジニアリングでは大事にしたい部分です。
現場での困りごとに対して、意外と簡単に解決するかもしれませんよ。
参考
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最後に
ラビリンスシールを化学プラントで採用する理由を紹介しました。
空気や水が混入しても許容される系統の、送風機やブロアーに限定されるでしょう。
中途半端なシールでそれなりの効果を期待しつつノーメンテというメリットを活かせる場所は意外と少ないです。
圧力損失を持たせて流れを制御する、という思想は広く使えるでしょう。
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