2030年の生産技術(Production Engineering)がどうなっているかを勝手に想像してみました。
大手企業の機電系エンジニアを長いことしていると、あたかも当然ある環境のように錯覚してしまう人が多いです。
そのためか、10年後の自分の職場がどうなっているか、想像する人が驚くほど少ないです。
製造現場のオペレータの方がその辺りは敏感に考えている感じがします。(偏見かも知れませんが)
職場の特徴
私の職場は大手の化学プラントのオーナーエンジニアリングで以下のような特徴があります。
- 設計は簡単な増改築を自部署で対応(大きなプロジェクトのみエンジニアリング会社に依頼)
- 保全は施工会社に依頼して、工事計画や準備が中心
- 50代はほぼ管理職
- 40代は数が少なく板挟み
- 30代は数が多いが経験値が少なめ
- 20代は定期的に採用しているが、退職も多い
オーナーエンジニアでもそこそこの規模になると、こういう感じになると思います。
規模が少なくなると、設計の依頼量が増えたり保全を自前で行ったりと、いくつかのパターンに分かれるのでしょう(妄想です)。
こういう職場が2030年にはどうなっているか、ということを考えてみます。
設計
まず設計は2030年にはおそらく無くなります。
設計課というような課としては存在しないでしょう。残念です。
- 若手の機械系で化学プラントの設計を希望する人が激減している
- 化学工場の別部署から機械系の知識をある人を転籍するのが難しい(知識・モチベーション)
- プラント設備の進歩が遅く、ほとんどが単純更新
- 過去積み重ねた設計知識を習得するのに、時間が掛かりすぎる
学生が志望しない
機械系の学生は、自動車・半導体などいわゆるメジャーどころに就職するのが、やはり王道です。
電機・電力・鉄鋼など他のものつくり関係の会社でも良いでしょう。
化学プラントはそもそも人気も少なく、学生の数も減っているのでそもそも志望する人が少ないという致命的な問題があります。
異動も難しい
かといって、自社内での異動・配置転換で何とかできるものでもありません。
大学で学んだ化学の知識を使いたいのに、機械系って・・・。
こんな感じでモチベーションを無くします。
製造にいても交代勤務大変だし変わらないから、それなら間接部門でも良いか
というようなネガティブな理由で仕事に取り組みます。
単純更新ばかり
化学プラントの設備は、技術革新がかなり進みにくいです。
大きな部分はすでに確立された技術であり、何かの要素を良くしようとすると何かが悪くなるトレードオフの関係ばかり。
防爆の規制でDXもなかなか進まない。
そうすると単純更新の仕事しか設計者は担当しないことになります。
習得に時間が掛かる
それでも、習得すべきことは山のようにあります。
マスターするには5年では足りず、10年くらいかかるでしょう。
その頃には30代半ば。管理職になるまで残り数年。
プレイヤーとして活躍できる期間がかなり少ないです。
マスターするのは結構難しく、途中で挫折する人も多い。
こんな環境で設計が生き残るのは至難の業です。
エンジ会社と技術のブラックボックス化
オーナーエンジが難しくなると、外部プラントエンジニアリング会社に委託することになります。
これは技術のブラックボックス化を促進させます。
基準のここのルール。なぜそう決まっているのですか?
良く分からないけど、ルールだからその通りにやってください
こんな感じの思考放棄でプロジェクトが進んでしまいます。
プラント建設時に設計思想を盛り込めなくても、普段の増改築で元の思想に戻そう!って思いたいもの。
でも、それも非現実的。
投資する金がないから、ちょっとくらい使いにくい設備でも使わざるを得ない、という展開になります。
こうなると、設計思想ってしっかり構築しても短期的にはほとんど意味がないものになります。
オーナーエンジとして設計者が生き残るには、相当の意味を見つけないといけないでしょう。
その可能性が低いがゆえに、2030年には怪しいと思っています。
保全
保全は2030年にも生き残ります。
生産技術としての保全・生産管理としての保全の位置づけは年々高くなります。
単に壊れたものを直すだけの保全なら、外部委託されるでしょう。
保全が実際の作業を行わずに、外部会社に委託するように手配だけの保全も同じ道をたどります。
保全作業を外部に委託すると、その会社を抱え込むための対応をオーナーは考えないといけません。工事のボリュームを整理する、SDMの時期を明確に決める、日常補修を分散化させる。こういう方法を試行錯誤していると、外部に委託せずに自部門として抱える方が良いという意見も出てきます。
保全はプラントライフサイクルのような長期的な保全計画を立てることが、ますます求められるでしょう。
メンテナンスを作業としてしか考えず学問として考えない風潮は、何十年も前からあります。
これをできるだけ早いタイミングで脱却して、「考える保全」に移るべきでしょう。
高学歴の保全が求められていきます。
でも、保全のイメージや仕事内容を変えないまま高学歴学生を呼んでも逆効果。
設計である程度経験を積んでから保全にシフトするという流れが無難でしょう。
考える保全に上手く移行できない場合は、生産技術としての保全は無くなっていって、製造管理としての保全となると考えます。
設計も保全もあわせて、生産技術というポジションから生産管理や製造管理の部門の一部門に吸収されると思います。
もしくは、子会社化するか・・。
工事
工事は2030年も当然残ります。
これを自動化していっても、人が無くなることはありません。
少なくとも2030年という7年後くらいには、まだまだ人手が必要です。
でも、環境は劇的に変わっていくでしょう。
- 3K作業に従事したい人は減っている
- 工事会社の体力が減少していっている
- オーナーの安全管理体制に対応できない
- オーナーの我がままに付き合いきれない
工事会社に就職しようとする人は、当然ですが減少していっています。
外国の方を工事現場に派遣する会社も増えています。
工事会社自体に体力がなく、投資をして変革をしようという流れも一般的には起きないでしょう。(大手の建設会社に限定されると思います)
オーナー側は「安全第一」のもと、安全管理体制をどんどん強化していきます。
緩和することは無いでしょう。
工事会社に体制強化を求めていき、オーナー側は「協力する」という名の下で話し合いやパトロールをするための窓口部門の人数を増やしていきます。
安全管理者が量産されます。これは機電系でなくても可能だから、人数を集めるのはかんたんです。
中間に立つ保全や工事の部門も割を食い、工事会社も負担だけが伸し掛かってきます。
工事会社や職人は、化学プラントの特性である24時間365日の操業や、土日祝日の工事トラブルでの呼び出しなどを覚悟します。
それでも働き方改革などで、今まで通りの突発対応はできなくなっていくでしょう。
こういう工事会社の環境の変化に対応するように、オーナーの保全や工事の担当も変わっていかないといけません。
オーナー側で保全を担当していた人が工事会社に出向して、オーナーと工事会社の橋渡し的なポジションで仕事をする人も増えてくるでしょう。
調達
2030年には調達はもっと人数が少なくなっていくでしょう。
これは願望も入っています。
- システムで発注・管理をする
- ネゴ・交渉のような機会が減る
- 営業との人間的なコミュニケーションが減る
- 原料や設備のことを知らない人が、調達をする
- 原料や設備に関する状況が年々変化する
調達業務は昔は人間味の溢れる仕事という雰囲気がありました。
結局は人と人のコミュニケーションで決まる世界ですから。
人が不足していて、専門性は少なく、自動化もしやすい。
原料や設備を安定的に供給するという意味で重要な職場なのですが、付加価値を創出しにくい職場であることがますます問題になるでしょう。
こういう環境にあるので、調達に関する人は減っていったり子会社化していくでしょう。
2010年ごろに想像した2020年
2010年ごろに2020年ごろの自職場を想像する機会がありました。
これはとても単純で、保全の入れ替わりでの技術低下です。
分かりやすく現実化しています。
経験年数が少ないから仕方ないでしょう。
早期レベルアップと称していくつか策を施しましたが、業務そのものを見直さずに人の考え方も変えないので、効果はほとんどありませんでした。
今思えば、この当時から「やった感」のアピールと自分がその職場を担当している期間だけ問題をおこさないような対策に、管理職は全力を費やしていたのでしょう。
設計は2010年ごろから目立っていませんでした。この当時から諦められていたかも知れません。
工事も2010年ごろにはあまり目立っておらず、2020年を危惧するような話はありませんでした。
ここは2010年から2020年の間にグッと変わった部分です。
参考
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さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
2030年ごろの自職場を勝手に想像してみました。
化学プラントのユーザー系エンジニアリングとしては設計がほぼ存在価値が無くなり、保全が生き残りをかけた勝負、工事はいかに場を繋ぎとめるかという世界になると思います。
この予想通りになるかどうか楽しみにしながら、日々の仕事をこなしていきましょう。
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