化学プラントで電動機(motor)は非常に多く見かけます。
動機器・静機器という分類をしたときの動機器は、基本的にすべてモーターを使います。
ポンプや攪拌機を化学プラントでは良く使うでしょう。
機械屋としても知っておきたいところですね。
化学プラントの機械エンジニアに限定して、モーターの一般的な知識を集めました。
三相かご型誘導電動機(motor)
バッチ系化学プラントでは三相かご型誘導電動機が非常に多いです。
理由までは知りません。
他にどんな種類があるのかすら、機械系エンジニアは興味を持っていないと思います。
単相と三相
単相と三相は、交流電流の数が1セットか3セットかを示しています。
ファラデーの電磁誘導の法則より、電動機を回すためには磁界を変化させる必要があります。
磁界が変わる → 導体であるシャフトに電流が流れる → 磁界中に流れ電流によって力が生じる
という流れです。
ここで、磁界を変えるためには、コイルに交流電流を流せばいいわけです。
下図は三相の例です。
a,b,cという3セットあるため三相です。
かご型と巻き線型
かご型と巻き線型という2種類があります。
かご型と巻き線型の2種類あって、かご型が多く使われるという理解だけで十分です。
固定子
固定子は電動機のいわゆる外側の部分です。
固定子というくらいなので、当然ながら銅線が入っています。
銅線に電流を流せば磁界が発生するので、この銅線が肝です。
銅線を枠にセットするために、鉄心があります。
この電動機がモーターベースにセットされて、コンクリート基礎上に設置されます。
回転子
回転子には、かご型と巻き線型という上記の種類があります。
回転子には当然ながら導体部分があります。
固定子から発生した磁界を、回転子が受ける部分です。
回転子が受けた磁界によって、回転子に電流が流れ、回転子に力が加わります。
軸受
回転子は回転する割に、固定子は動きません。
この回転子を動かすためには、そう軸受が必要です。
軸受という単語があった瞬間に、急にメカニカルになりますね。
モーター(motor)の外形仕様
モーターのカタログを見ることは、機械エンジニアはまずありません。
私もほとんどありません。
ここには必ず機械的な外形寸法が記載されています。
これはモーターに限りません。
例えば、東芝のサイトではカタログを閲覧可能です。
そこには、こういう表記があります。
- わく番
- 出力kW
- モーター寸法
- 端子箱寸法
- フランジ寸法
- 軸端寸法
- ベアリング番号
- 概略重量
わく番ごとに出力を変えてラインナップを作っています。
それぞれ外形寸法を記載すればいいだけのように見えますが、ここにもベアリングの情報があります。
モーターとベアリングの結びつきは強いです!
ベアリングの情報を読み解く
東芝の低圧三相かご型誘導電動機「プレミアムゴールドモートル」の屋内・全閉外扇形脚取付の枠番80Mを見てみましょう。
4Pモーターで出力は0.75kW
ベアリングは6204C3
と書いています。この意味を解説します。
ベアリングの型式
ベアリングの型式は5桁もしくは4桁あります。
ラジアル玉軸受では4桁が普通です。
ベアリング記号で4桁の数字が書いているパターンが多いと思います。
ということは目にする機会のあるベアリングのほとんどはラジアル玉軸受と予想することができます。
それでは、ベアリングの6204C3の意味を見ていきましょう。
1桁目が型式番号。「6」は深溝玉軸受を示します。これが一般的。
2桁目は直径系列。ベアリングの外径と内径の差、ベアリングの同心円面積を表す記号です。
3~4桁目は内径番号です。この番号の5倍が内径寸法mmです。
「04」であれば、04*5=20mmがベアリング内径です。
「6」という1桁目の数字が型式を示し、
「2」という2桁目の数字と「04」という3~4桁目の数字がベアリングの大きさを示します。
枠番80Mの軸端直径は19㎜という記載があります。
該当するベアリングは3~4桁目が「04」なので20㎜です。
19㎜の軸と20㎜のベアリングでは、隙間ができるのでは?
という疑問が出ると思います。
ベアリング型式を真面目に見ている保全ってあまりいないですよ
モーター(motor)は外側が固定、内側が回転
ベアリングをセットするときに、すきまばめ・しまりばめという考えがあります。
モーターでは外側が固定、内側が回転する機械であり、その中間にベアリングをセットします。
この場合、ベアリングは内側であるシャフトとしまりばめ、外側であるケーシングとすきまばめになるようにセットします。
しまりばめはガッチリ固定するイメージであり、直接動くシャフトとベアリングはガッチリ固定したいと思うのが普通です。
できれば固定側のケーシングとベアリングもしまりばめで固定したいと思うかもしれませんが、それはできません。
適切なしめしろにするためには、外側も内側もしまりばめとすることはできません。
- すきまが広すぎると、ベアリングとして適切に固定されずに振動が大きくなり、
- すきまが狭すぎると、ベアリングに過剰な負荷か掛かり、故障する恐れがなります。
軸端とベアリングを受ける部分のシャフトは径が違う
軸端は19㎜なのに、ベアリングが20mmということは、軸端よりもベアリングを受ける部分のシャフトの径が大きいということになります。
図面には載っていませんので、実際に分解したときに測定するしかないでしょう。
補助記号
6204C3の例では「C3」が補助記号です。
内部すきまが[ふつうの隙間より大きい」ということを示しています。
これは専門的なので、説明は省略します。
人体の保護
電動機は基本的に回転機に該当します。
電気のエネルギーを物理的な機械のエネルギーに変換するときに、回転による力に変換するのが最も効率がいいからです。
回転する機械に関して、挟まれ巻き込まれの事故が後を絶ちません。
挟まれ巻き込まれというと、いろいろな機械や道具について適用される労働災害の基本事項の1つです。
労働災害と言わず現代の日常生活どこにでも保有しうるリスクと言えます。
電動機(motor)の挟まれ巻き込まれ指標
さて、この挟まれ巻き込まれ。
電動機についても当然適用されます。
大多数の人は、ここでストップしていると思います。
- どうやって対策をしているのか?
- どういう指標があるのか?
電動機を購入したときに標準的に組付けられているため、認識していない人が多いです。
プラントエンジニアとしては基本知識として保有しておかなければいけません。
人体の回転部に対する7つの分類
電動機の回転部分に対して、人体が巻き込まれないようにするために、電動機には7つの分類がされています。
- 0 保護なし
- 1 手を保護
- 2 指を保護
- 3 工具を保護
- 4 ワイヤーなどを保護
- 5 粉塵を保護
- 6 すべてを保護
先頭の数字は、記号です。この記号で分類しています。
これは水の侵入に対する対策の別記事で記載します。
保護なし
何も対策をしていません。
人が手を触れれば一瞬でアウトですね。
手を保護
直径50mmを越える異物が侵入しない構造。
これも人が手を出そうとすれば、容易に巻き込まれる構造です。
腕とか足とか頭などが容易に巻き込まれます。
指を保護
直径12mmを越える異物が侵入しない構造。
これはかなり対策が取れているように見えます。
手の指などが巻き込まれない程度の保護がされています。
工具を保護
直径2.5mmを越える異物が侵入しない構造。
工具を使って作業している時に巻き込まれて、工具を離さないで人が巻き込まれるというケースも後を絶たないので、指を保護するだけでは不十分と考えて区分しています。
ワイヤーを保護 全閉型
1mmより大きなものが侵入しない構造
化学プラントでは普通はこれを使用します。
人体に対する挟まれ巻き込まれは当然として、周辺のごみや塵も入ってこないようにするという思想です。
この全閉型があまりにも一般的なので、電動機に対する挟まれ巻き込まれを意識することが少ない原因となっています。
なお、冷却ファンや排水穴については、保護型と同じ12㎜以下でいいようです。
人の指が入らない構造ですね。
モーターをよく観察すると、冷却ファンの部分がそれなりに開度があるように見えるので、全閉型の1mmを満足していないように思えますね。
要注意です。
1㎜以下の異物が電動機内に入ってこないようにして、
- ベアリングのグリース劣化を防いだり、
- シャフトの劣化を防いだり
という効果が期待できます。
粉塵を保護
いかなる物体も回転部分に触れないようにした構造。
これは近年増えてきています。
すべてを保護
このクラスの電動機は化学プラントではほとんど使いません。
というより、私は厚かったことがありません。
水侵入に対する保護
人体に対する7つの保護と同様に、水侵入に対しても9つの分類をしています。
- 0 保護なし
- 1 垂直落下の水滴に保護
- 2 左右15度の降雨に保護
- 3 左右60度の降雨に保護
- 4 360度水の飛沫に保護
- 5 360度水の噴流に保護
- 6 360度水の強い噴流に保護
- 7 規定の圧力・時間水に没することに保護
- 8 水面下での使用に保護
保護なし
何も対策をしていません。
水と接触すれば、すぐに侵入します。
垂直落下の水滴に保護
200mmの高さから3~5mm/分の水滴を10分間落下させて侵入しなければOKのようです。
屋内で雨や水が降ってこないのであれば使えますが、化学プラントでは一般に使いません。
左右15度の降雨に保護
角度が付いたことで、雨を想定しています。
雨が降る時には風が吹くことが一般的だからです。
これも日本ではゲリラ豪雨が増えていることから、この使用を想定することはほぼないでしょう。
左右60度の降雨に保護
角度がさらに強くなりました。
風がさらに強くなることを想定しているのでしょう。
これも使用機会はほぼありません。
360度水の飛沫に保護 防まつ
角度が360度オールレンジになりました。
これは化学プラントでもよく使っています。
360度水の噴流に保護 防噴流
水の勢いが強くても耐えられるというクラスです。
3mの距離から全方向12.5L/minで30kPaの噴流を3分間掛けても耐えられる構造です。
360度水の強い噴流に保護
上記のクラスをさらにレベルアップしたものです。
3mの距離から全方向100L/minで100kPaの噴流を3分間掛けても耐えられる構造です。
規定の圧力・時間水に没することに保護
水面下15㎝~1mで30分間使用しても問題がないという構造です。
水面下での使用に保護
水中ポンプなどを想定しています。
IP44かIP55
化学プラントではIP44がIP55が一般的です。
昔はIP44でしたが、最近はIP55になる傾向です。
IP44とは人体に対して4、水侵入に対して4という意味です。
- 人体に対する4はワイヤーに対する保護
- 水侵入に対する4は防まつに対する保護
という解釈です。
同じようにIP55は
- 人体に対する5は粉塵を保護
- 水侵入に対する5は防噴流に対する保護
という解釈です。
今になって電気の事だけを考えればIP55が欲しいと思うのは当然でしょう。
- 人に対する安全を確保するのは最低限
- 微粒子や花粉や有機ガスなどの周囲環境にも、ある程度耐性がある
- ゲリラ豪雨が増えてきた
という時代の変化に伴って要求が変化しているからです。
外被
外被とは開放型と全閉型という区分のことです。
外気が機内に流通する構造が開放型、流通しない構造が全閉型です。
開放型は屋内で使用する前提であり、開放屋内という言い方もします。
逆に全閉型は屋外での使用を前提としており、全閉屋外という言い方もします。
化学プラントでは全閉屋外が基本です。
というのも、屋内でも屋外でも電動機を使用することがあり、故障時などに取り換えができるようにするためです。
通風
通風とは、モーターの冷却を空気で行う場合の空気を通す区分の事を指します
自己と他力の2種類があります。
自己通風とは、電動機自身にファンを付けたものです。
電気の力でモーターの軸を回転させると、ファンも一緒に回転し
風が供給されて冷却する
という方法です。シンプルです。
他力通風は、ファン用に専用のモーターを付けたものです。
特に容量の大きい電動機では、自己通風による電力ロスが大きく
大量の風で冷却しないといけないために、別のファンを付けることがあります。
構造が複雑になり、配線数が増えるデメリットがあります。
冷却
冷却の方法はいくつか考えられます。
- 空気
- ガス
- 水
- 油
この中で大多数が空気です。
電動機にファンがついているのは、空気による冷却を狙っています。
空気以外の方法では、冷却媒体を電動機に供給しないといけません。
空気では単にファンを回せば終わり。
冷却方法の決め方は、特に周囲温度と負荷。
バッチ系化学プラントでは大気に接した状態なので、大気で冷却が可能なタイプが候補になります。
負荷も高くはないので、一般的な仕様で問題ありません。
これが例えば高温環境や低温環境で運転する場合は、ベアリングや銅線での発熱などが許容値を超える場合があり、
負荷が高いと、電動機の発熱や負荷も高くなる方向なので、空気よりも積極的に冷却させる場合があります。
参考
最後に
機械エンジニアも関係がある配線ケーブルの知識を解説しました。
三相かご型誘導電流機を対象に、固定子回転子軸受という構造に分割しました。
構造的には人体・水・冷却などの要求仕様によっていくつもの種類があります。
汎用的に使用するモーターなので、化学プラントに限定して理解しようとしても体系は理解しておいた方がいいですよ。
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