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保全

40年経過した老朽プラントを長持ちさせるために

40年プラント 保全
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40年経って老朽化した化学プラント(aging plant)を、さらに長持ちさせるためにできることを考えています。

この問題はプラントのエンジニアなら、誰もが関係する超重要な課題です。

しかし、初心者エンジニアがこの課題を意識することは、まずありえません。

小規模改造工事で設計と保全を経験し、製造部とコミュニケーションを良く取ってニーズをつかみ、建設プロジェクトを経験して広い視野を持ち、自社プラント設計の課題を把握して、ようやく見えてくる課題です。

10年~15年くらい経験を積んだエンジニアが考えたい課題です。

まだ誰も知らない分野の話。

唯一の正解というものはおそらくありません。

令和4年の技術士の試験でも同じような問題が出たようですね。

40年

タイトルにもある40年。1つのキーワードです。

この意味から少し考えましょう。

原子力発電

40年というキーワードは、原子力発電所の運転期間のルールである「40年ルール」から派生したものと考えられます。

原発の運転期間は使用前検査に合格した日から起算して40年とされ、一回に限り、20年を越えない限り期間延長することができるというルールです。

40年経った段階で健全であれば60年までチャレンジしようという感じですね。

40年でも大丈夫?という心配がありそうなのに、そこからさらに20年となるともっと心配になりそうです。

まだ見ぬ世界

原子力発電所では多くの検討で40年ルールを定めていますが、化学プラントの場合はそこまでしっかりしたルールつくりはされていないはずです。

それぞれのプラントで独自に検討している状況でしょう。

その地域に工場を建てて40年経ったものもあるでしょうが、工場そのものは60年~70年ともっと昔からあって、プラントのスクラップアンドビルドを繰り返した結果、40年以上経ったプラントが残り続けている。

こういうプラントをどうするか?ということが近年話題になっています。

化学プラントとしてはまだ見ぬ世界です。

40年経った化学プラントの課題を考えていきます。

人・製品・方法・設備という4Mの視点で見ていきます。

人についての課題は非常に多いです。

人数が少ない

人の課題でも最重要なのは、人数の少なさだと思います。

  • 募集しても応募数が少ない
  • 工場に適応できる人が少ない
  • やりがいが無くて辞める

この辺りが一般的に背景としてあがります。

人数の少ないという課題に対して、いろいろな部署で対応をしています。

プラントの運転 自動化・DXによる省力化

合理化・解析  運転データをAIや統計的なソフトを使って1次解析

設計      標準化による仕様統一

保全      予備・共通化によるバックアップ体制、定型業務の自動化

間接部門    外部委託

今まで行っていた業務を少ない人数で処理するために、業務内容そのものは変えずに手段を省力化するという取り組みが多いです。

これでも、人が必要であることは変わりありません。

特に外部委託をしている場合、委託先の人数低下などは課題として残り続けます。

10年くらいの短期的な視点では、我慢で何とかなるかも知れませんが、その先は真っ暗になるでしょう。

成長が遅い

人の課題で、成長の遅さは近年の話題です。

  • 頑張っても評価されない
  • 積極的にコミュニケーションを取らない
  • 学ぶべきことが多くて、吸収できない
  • 残業ができない
  • 大学までで学習の仕方を学んでいない
  • 危機感がない

いろいろな背景が考えられますが、昔よりも成長に時間が掛かっているという結論は変わりありません。

その間にも定年退職は継続していき、人が入れ替わっていきます。

早期の戦力化を目的として、いろいろな対策を取っているでしょう。

業務標準書等のマニュアル書類作成

動画などの教育資料の作成

ローテーションによるキャリア形成

社内での教育に対する雰囲気つくり

教育係の不在や、質問したくても怖くて聞けないという雰囲気を解消するために、教育資料などを拡充させる取り組みがDXと合わせて行われているでしょう。

しかし、情報が多く検索も難しく調べようとしない人が多いのが実態です。驚くほど自分で調べようとしないし、その範囲も狭いです。

ChatGPTなどで簡単に必要な情報がゲットできれば、状況は少し変わるかもしれません。

ローテーションで視野を広げる取り組みもしていますが、順調に育つケースよりは専門性が身に付かないことに不満を持つ人の方が多い印象です。

残業時間の規制が厳しくなっている以上、社内での受動的な教育としての経験や、能動的な教育としての自主学習や相談の機会が減っています。

これを家庭など社外での自主学習に頼らないと、成長速度が遅くなるのは当然。

新卒者ほど厳しい環境になっていっています。

同じスタートラインに立っていて、やる気のある人とない人の差ができるというならまだ良いのですが、頑張っても頑張らなくても評価が変わらないために、やる気のない人だけが量産されていく状況です。

そのフォローをするのは、管理者や中途採用者になり、しわ寄せと不公平感はますます高まっていくでしょう。

結局は、誰かが我慢してその間に運良く成長する人が出てきてくれることを期待するしかない、という状態は今後も継続されていきます。

運が悪ければ、そこでおしまい。

製品

製品についてはプラントの大きな課題です。

単一製品の合理化

化学プラントは多くの場合、連続プラントで単一製品を作っています。

連続プラントは多量に作ることに適した方式です。

生産量が多くなれば負荷を上げようとしたり、装置を大型化するプロジェクトが発生するでしょう。

こういう場合は、生産量のボトルネックになってる装置や工程を合理化しようと投資をしたり、特に作業負荷の高い作業に投資をして自動化を行うなどの方法を考えます。

いつその製品が売れなくなるか分からない製品であれば、投資はかなり限定的になるでしょう。

複数製品の導入

1つの製品を40年の長い間、同じプラントで作ることはかなり少ないです。

この場合は新製品を導入します。

バッチ系化学プラントなら特にこの傾向が強く、新製品をどんどん導入して切替生産を行います。

新製品を導入するたびに、製法や設備も新しくなっていきます。

古いプラントを長持ちさせようとするなら、新たな製品を導入するということは1つの手です。

その製品を導入することこそが難しいわけですが。

プラント合併

1工場内ではプラントの合併は1つの方法になります。

Aプラント製品Zの中間体40年
Bプラント製品Z30年

Aプラント廃止廃止
Bプラント製品Z(中間体込み)30年

ある製品ZをAプラントで中間体まで作り、Bプラントで完成品を作るという場合は多いです。

Aプラントは40年、Bプラントは30年というような年数が違う場合で、AプラントもしくはBプラントに集約合併できる場合は、プラントを長持ちさせるチャンスが訪れます。

外部委託

製品の一部を外部委託させるということも1つの方法です。

Aプラント製品Zの中間体40年
Aプラント製品Z40年

外部委託製品Zの中間体
Aプラント製品Z40年

例えば中間体だけを外部委託をして、完成品の部分だけをAプラントで行うという方法です。

特定の工程や設備が老朽化して使えないという場合には、この方法が有効です。

合併の立場を変えたバージョンとも言えます。

ただし、委託先が見つからないといけません。

また、委託をした場合にも管理のコストは残ります。不具合が起きたときの解消など対応は残ります。

いったんは委託したものの、委託の対応ができなくなった時には、その製品そのものを作れなくなってしまうリスクがあります。

方法

方法については製品と似たような視点になりますが、現実的にはかなり難しいです。

合理的方法を見つけられない

方法という場合、製法などの合理化が考えられます。

  • 不要なプロセスをカットする
  • 収率が増える製法が見つかる
  • より短時間で処理できるプロセスが見つかる

こういう方法が見つかれば良いのですが、できるのであればとっくに行っているのが現状です。

現段階でより合理化をするとなると、例えば品質を変えるなど何かとトレードオフになります。

結果的に、現状維持となりやすいです。

設備

設備はプラントの長持ちさせるために、とても重要な側面です。

設備の老朽更新

プラントが古くなっていくのだから、設備を老朽更新すればいい。

当たり前の思想です。

現在のオーナーエンジニアリングの大半の仕事は、この老朽更新。

時間手間があれば、解決してしまいます。達成感はありますが、人はあまり育ちません。

必要な設備投資額の見極めのために、設備の状態監視将来予測が必要です。

30年以上たった古いプラントでは、それまでよりも点検頻度を上げるなどメンテコストを上げていかないといけません。

全数チェックが難しくても、交換頻度が高い箇所や劣化が進んでいる箇所など、選別作業を行います。

この辺りは、生産技術のエンジニアにとって、とても大きな課題です。

地道な作業と、それなりの精度の見積と、将来予測という複数の目線を持たないといけません。

10年くらいなら、いったん全数チェックして優先度を決めつつ、予測できない不具合に対するリスク許容をすれば何とかなるかも知れませんが、それ以上の安定的な運用となるともっと長期的な計画を立てないといけませんね。

プラントの更新が難しい

設備の老朽更新を定期的に行ったとしても、限界が来ます。

それがプラントという建物そのものの限界。

設備は取り換えができても、建物は簡単にはできません。

柱や大梁は交換するとなったら、プラントの建て替えと同じレベルです。

プラントという建屋の劣化診断が適切にできる技術者はほとんどおらず、いつ来るか分からない建屋の寿命に対して見て見ぬふりをして運転を続け設備更新だけをする。

それがよくあるプラントの実態でしょう。

他には、例えば新たなプラントを設置する場所がない・規制が厳しくて許可されない、という場合もあります。

仕様の統一

プラントを長持ちさせるには、設備の仕様統一は必須です。

複数のプラントで同じようなポンプ設備を使っているのに、微妙に使用が違っているというケースは多いです。

その結果、設計は個別にしないといけないし、予備品は設備の数だけ持たないといけません。

これはエンジニアの負担という意味でも大事ですが、設備やプラントを長持ちさせるという意味でも大事です。

今あるプラントを長持ちさせるという意味では、並行して予定されている新プラントがある場合に、その使用を今のプラントと同仕様にするということは1つの手です。

その代わり、プラント建設段階で新たな技術を導入したり思考したりしないので、エンジニアが育つ環境を奪ってしまいます。

参考

関連記事

さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

最後に

40年経った化学プラントをさらに長持ちさせるためにできることを考えました。

人・製品・方法はできることが少ないですが、設備は投資さえできれば可能性はあります。

設備の老朽更新・メンテナンスの充実化・他プラントの仕様統一など、今からでもできることを考えると、道は少し開けるかもしれません。

とはいえ、20年持たせようとするともっと長期的なプランが必要となります。

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