化学プラントで使われる撹拌機は、運転条件を誤ると「危険速度」に達し、振動や共振によって軸が折損するリスクがあります。危険速度の知識はメーカー任せにしがちですが、ユーザー側が概要を理解していないと、安全運転やトラブル防止が難しくなります。
本記事では、危険速度の基本原理から計算方法、減液運転での注意点まで、現場で役立つポイントをわかりやすく解説します。撹拌翼の強度計算とセットで危険速度の計算を行うと良いでしょう。
撹拌機の構造
撹拌機の危険速度の計算を考えるにあたって、以下のモデルを想定します。

一般的な竪型の撹拌槽の形です。
危険速度を求める理由
撹拌翼で危険速度を求める理由を解説します。危険速度は一般には共振という単語で知られています。
かかる力自体は小さくても、周期的な動きが加われば、気が付いたときには物体が折れている。こういう例は一般によくあります。
振動の問題は機械や建築物で特に大事になります。撹拌翼も同じで、撹拌槽の運転時に液体の力による振動を受けます。撹拌機が折れずに運転をするためには、撹拌機の強度計算を行うことになり、そこで危険速度について触れることになります。
危険速度の計算
撹拌翼の危険速度を求めます。軸の危険速度は軸のたわみを使って以下のように表現ができます。
$$ N_c=\frac{60}{2π}\sqrt{\frac{g}{σ}} $$
を採用します。
たわみ
軸のたわみは以下の式で計算します。
$$ σ=\frac{(W_1+0.236W_2)a^3}{3EI} $$
この式は、片持ち梁のたわみの式を基本にしています。
$$ σ=\frac{Wa^3}{3EI} $$
等価重量
軸のたわみの式は、片持ち梁のたわみの基礎式と分子の部分が違います。これは撹拌翼と撹拌軸で形状が全然異なるから。この部分を1つにまとめた等価重量として考えます。
W1を撹拌翼、W2を撹拌軸の重量とします。計算はごく単純で、密度×体積で求めます。ユーザーレベルでの検討では、撹拌軸は図面からある程度読み取ることが可能ですが、撹拌翼はかなり仮定が加わります。等価重量がW1の影響の方が強いので、仮定が大きくなるのは避けれません。
判定式
危険速度を判定するには余裕率をある程度入れます。一般には20%の余裕を含めます。
$$ N=0.8N_c $$
危険速度は低く見積もる方が安全です。というのも、物体の振動は運転回転数よりも一般に高く、高次モードの振動数ほど高くなります。最も低い次数の振動モードよりも低い回転数で運転すれば、運転時に撹拌翼が共振を起こさないと言えます。
軸のたわみも判定をしておいた方がこのましいです。これは軸の長さの1/100で見ます。
$$ σ=\frac{1}{100}a $$
たわみの判定条件よりも、危険速度の判定条件の方が厳しいので、たわみはあまり気にしないでしょう。
減液運転
上記の計算式は、大きな仮定を置いています。
空運転の状態
空運転で共振を起こすようであれば、撹拌機としては失格と言って良いでしょう。
通常の化学プラントの撹拌機では回転数は100rpmオーダーであり、撹拌機の危険速度は100rpmよりも十分に高く設計されます。撹拌機で空運転可能かどうかを気にするのは、危険速度よりも軸封の摩耗の方が重要です。空運転の条件ではない、液がある状態では判定はどのように変わるでしょうか。変わるのは、等価重量です。
空運転 W1+0.236W2
満液運転 W1+0.236W2
中間運転 (W1+0.236W2)よりもW1が大きい
空運転の時の等価重量は先に上げた通りです。満液運転でも等価重量は基本的に変わりません。満液運転が空運転と変わるのはたわみ側。
液の抵抗によりたわみは小さくなる側です。たわみが小さいと、危険速度は大きくなる側で安全側。中間運転では、W1の撹拌翼重量に影響が出ます。

この図のように、撹拌翼に液が掛かるか掛からないかの液面が最も危険です。この場合には、撹拌翼にだけ重り成分が加わりならが、撹拌軸側には軸ブレを抑えるための液体が存在しません。等価重量のW1の部分が大きくなり、たわみが増えて、危険速度が落ちていきます。
例えば、満液状態で撹拌をしている状態で、タンク底から液体を払い出す状態を考えましょう。この時、タンク液面は時々刻々変わります。撹拌機を動かし続けていれば、上の図の条件にいずれは到達します。
ここで、危険速度が運転速度以下となって共振を起こす可能性があります。こういう運転を減液運転と呼びます。対策としてはインバータなどを付けて、回転数を落とすことが一般的です。逆にインバータがない場合には減液運転ができないので、撹拌機を止めながら液体を排出することになります。
参考
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最後に
撹拌機の危険速度は、
- 軸のたわみと等価重量で計算できる
- 運転速度は危険速度の 80% 以下に抑える
- 減液運転で特にリスクが高まるため、回転数制御や停止が必要
という点がポイントです。現場では「共振を避ける運転条件」を常に意識することが、安全運転と設備寿命の延長につながります。
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