水蒸気蒸留の計算のイメージを説明します。
設計能力チェックの段階や運転時の能力検証の段階では手計算で確認する程度で、十分な結果が得られます。
化学工学的な知識は必要になりますが、機械エンジニアでも十分計算可能です。
少し知っているだけでも、いざ計算しようとしたときに困らずに済むでしょう。
水蒸気蒸留の圧力
水蒸気蒸留の圧力の考え方を説明します。
運転圧力は、蒸留出口の条件に依存します。
常圧蒸留と同じで、蒸留出口が大気に開放しているパターンが普通ですので、蒸留圧力は大気圧として考えます。
蒸留圧力 = 大気圧 + 圧力損失
の関係で、蒸留をまさに行っている部分の圧力は決まります。
圧力損失はほぼ無視できる程度に、配管口径などの設計をするので、蒸留圧力=大気圧として考えていれば良いでしょう。
厳密に言えば、塔内での圧力損失があって、塔底=塔頂+塔内圧力損失の関係もありますが、これも無視しておきます。
蒸留圧力 = 大気圧
この状態で水蒸気蒸留をすると、分圧を考えることになります。
蒸留圧力 = プロセス分圧 + 水蒸気分圧
この関係で、プロセスと水蒸気それぞれの圧力が決まります。
共沸する場合は、共沸組成からそれぞれの圧力が決まります。
共沸しない場合は、プロセス蒸気圧から水蒸気分圧が決まります(水蒸気分圧=蒸留圧力=プロセス蒸気圧)。
水蒸気を蒸留装置内に投入するまでは、水蒸気圧力を持っていても、装置内では膨張して圧力は下がるという点を意識しておきましょう。
水蒸気蒸留の流量
水蒸気蒸留の流量を考えましょう。
顕熱と潜熱
左側の間接加熱による一般的な蒸発を先に考えましょう。
液体を蒸発させるためには、熱量が必要です。
これを水蒸気を使って装置の外部から隔壁を介して熱を伝える方法が、化学プラントでは一般的。
手段はともかく、プロセス液に熱が伝わると温度が上がっていきます。
水の例でよく見かける、顕熱と潜熱の話です。
液体を温めると温度が上昇し、沸点に到達すると液体から気体に変わろうとします。
このどちらにも熱量が必要で、Q1とQ2と区別しておきましょう。
熱源としての水蒸気の流量が知りたいので、水蒸気の蒸発潜熱で割ることで計算します。
水蒸気が凝縮してドレンになると、熱として取り出すことはほできません。
同伴
水蒸気蒸留では、プロセス蒸気とともに水蒸気が流れます。
同伴という表現を良く使います。
プロセス蒸気と水蒸気の分圧の話として、分圧比から流すべき水蒸気の流量が決まります。
水蒸気蒸留は蒸留圧力が大気圧であったとしても、プロセス液の蒸気圧力は大気圧より低いです。
プロセス液だけに着目すると、真空ポンプを使った減圧系での運転と同じ感覚です。
圧力を下げるために、水蒸気蒸留では水蒸気を使い真空ポンプでは電気を使う、という点が違います。
装置内圧力 | プロセス圧力 | 駆動エネルギー | 減圧原理 | |
水蒸気蒸留 | 大気圧 | 減圧 | 水蒸気 | 流体の流れ |
真空ポンプ蒸留 | 減圧 | 減圧 | 電気 | 機械的な運動 |
水蒸気の方が電気よりもコストが高いという一般的な特徴から、水蒸気蒸留の方が不利な感じがしますよね。
減圧状態を作るためには、その内部の気体を外に押し出す必要がありますが、気体の力で押し出すのか機械(固体)の力で押し出すのか、どちらが効率的かをイメージしても分かりやすいと思います。
参考
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最後に
水蒸気蒸留と真空ポンプ蒸留の比較として、水蒸気蒸留の計算イメージを紹介しました。
分圧・潜熱・顕熱などの化学工学的な知識を使います。
現場での能力チェックなど手計算で確認する時に、考え方を整理するときに役に立つでしょう。
厳密な計算をしようとしたら、計算条件を細かく分割していくことになります。
詳細設計など時間がある場合には詳細計算をすることはありますが、現場レベルではほとんどしません。
パラメータと計算結果の関係がどんどん分かりにくくなるので、原理を先に理解しておきましょう。
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