槽型反応器内での伝熱計算(heat transfer)を解説します。
硫酸希釈を例に紹介します。割と一般的な工程で、システムとして販売されていたりします。
条件さえ与えればメーカーでも計算可能ですが、ユーザーならではの設計余裕を付けようとすると、やはり自分で考える必要があります。
この記事を見ると、メーカーに依頼してブラックボックスになっている見積でも、条件をユーザー目線で最適化できるようになるでしょう。
以下の硫酸を得る工程を考えましょう。
硫酸濃度 | 5% | |
硫酸液量 | 5m3 | |
温度 | 30℃ |
使用する原料、冷媒は以下の通りです。
硫酸 | 98% | 30℃ | |
水 | – | 30℃ | |
冷水 | – | 10℃ |
この条件で、伝熱計算をしてみましょう!
マスバランス
まずは物量的なバランスを見ていきましょう。
98%の硫酸から5m3の5%硫酸を得るわけですから、以下のように98%硫酸と水が必要です。
98%硫酸 | 水 | 5%硫酸 | ||
液量 | 0.143m3 | 4.903m3 | 5m3 | |
密度 | 1826kg/m3 | 995kg/m3 | 1028kg/m3 | |
硫酸質量 | 257kg | 0kg | 257kg | |
水質量 | 5kg | 4878kg | 4883kg |
計算方法は以下の通りですが、読み飛ばしても大丈夫です。
5%の硫酸密度が1028kg/m3なので、5m3の5%硫酸中の硫酸質量は5*1028*0.05=257kg。
5m3の5%硫酸中の水の質量は5*1028*0.95=4883kg。
希釈前後で硫酸の質量は変わらないので、98%の硫酸中の硫酸質量は257kg
98%の硫酸密度が1826kg/m3なので、98wt%の硫酸の液量は257/0.98/1826=0.143m3
98%硫酸中の水の質量は0.143*1826*0.02=5kg
希釈に必要な水の質量は4883-5=4878kg
30℃の水の密度が995kg/m3なので、希釈に必要な水の液量は4878/995=4.903m3
98%硫酸中の水の質量は無視したり、30℃の水の比重は1000kg/m3と置いても大勢に影響はありません。
希釈熱
硫酸の希釈熱を計算します。
ハンドブック等から読み取る形ですが・・・。
98%の硫酸を5%の硫酸に希釈したときに発生する熱量は830 kJ/kg H2SO4として計算します。
硫酸質量が257㎏なので、希釈熱は257*830=213,310 kJとなります。
5%硫酸の比熱を4kJ/(kg・K)とすると、希釈熱による温度上昇は
213,310/(4・5140)=10.3℃
となり、冷却が全くない断熱温度上昇をする場合は40.3℃まで上昇する単純計算となります。
使用先の工程にもよりますが、一般には冷却をするでしょう。
ジャケット冷却
反応器で冷却するという場合、ジャケット冷却が一般的です。
物によっては、容器の外側や内側にコイルを付けて冷却することもありますが、メンテンナンス的には好ましくなく、そういう設備は最小限にする方が良いでしょう。
ここではジャケット冷却を考えます。
ジャケットでの伝熱計算は以下のアプローチで行いましょう。
①伝熱面積Aの計算
②温度差ΔTの計算
③総括伝熱係数Uの計算
④伝熱量Qの計算
5m3という決まった液量に対して装置の大きさを設定して、そこから運転条件を決めていくというアプローチです。
現場的にはこのアプローチを逆転させる応用的な方法もありますが、そこは省略します。
伝熱面積A
伝熱面積Aは装置の大きさで決まってきます。
5m3の液量を貯めることができるタンクとして6m3のタンクを考えましょう。
径を1.6m、直胴高さを2.2mとして伝熱面積Aは
3.14/4*1.6*1.6*2.2=4.4m2
と計算します。
下鏡にもジャケットが付いている場合は、下鏡の伝熱部も面積に計算する場合がありますが、含めない場合もあります。ここでは計算に含めない場合を想定しています。
温度差ΔT
温度差ΔTは硫酸の温度と、冷水の温度の差として計算します。
冷水側の温度上昇をいくらに設定するかという話になりますが、ここでは10℃としましょう。
すなわち、冷水の入口温度が10℃・出口温度が20℃という設定です。
そうすると温度差ΔTは
30-(10+20)/2=30-15=15℃
となります。
これは熱量計算で紹介した方法と同じです。
総括伝熱係数U
総括伝熱係数Uの計算は面倒です。
実績値から拾うほうが良いでしょう。
ここでは500kJ/(m2・hr・K)とします。
伝熱量Q
さて、いよいよ伝熱量Qの計算です。
A、ΔT、Uを使えば一瞬で計算できます。
Q=UAΔT=500*4.4*15=33,000 kJ/hr
となります。
滴下時間・滴下口径
以上の計算から、滴下時間を計算することができます。
希釈熱が213,310kJであり、冷却速度は伝熱量から33,000kJ/hrであるので、
213,310/33,000=6.5 hrとなります。
これだけの時間を掛けてゆっくりと滴下しないと、発熱量が高くて希釈後の硫酸が30℃以上の温度になってしまいます。
0.143m3の98%硫酸を6.5hrで滴下するということは、
0.143/6,.5*1000=22 L/hrという非常にゆっくりした滴下となります。
配管口径は25Aもあれば十分すぎます。滴下速度をコントロールするにはもっと低い口径の方が良いでしょう。
冷却水量
冷却水側の水量を決定しましょう。
これは伝熱量33,000kJ/hrと入口出口の温度差10℃から計算可能です。
Q=mcΔtですので、mを求めるためには
m=Q(c・Δt)=33,000/(4.18・10)=789 L/hr
という計算結果になります。
配管口径は40A程度になるでしょう。
設計結果
以上の結果をまとめます。
こうやって配管口径を選定していくことが、基本的な設計として大事になってきます。
参考
関連記事
伝熱計算についてさらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
槽型反応器の伝熱計算の例を紹介しました。
濃硫酸を希硫酸に希釈する場合を例に挙げていますが、この考え方が化学反応でも使えます。
総括伝熱係数の計算は行っていません。
こういう計算をして配管口径を適切に選んでいくことで、安定的な生産ができるようになるでしょう。
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