プロセス制御の一例として、真空ポンプ(Vacuum pump)の例を紹介します。
真空ポンプは化学プラントの運転では不可欠で、年々需要が高まっていきます。
大気圧下での運転で蒸留しようとしても、熱安定性が悪くて不可能という物質が増えています。
減圧下で処理せざるを得ないため、真空ポンプの出番というわけですね。
真空ポンプに限らずブロアーなどでも適用できる、ガス系プロセスの基本的な制御方法について解説します。
適切な運転方法を知ることで、適切な設計ができて、適切な運転や保全が可能となるでしょう。
調整弁で直接コントロール
最初の方法は真空ラインを、調整弁で調整する方法です。
プロセスを負圧に保つために、真空ポンプと繋がるガスラインがあります。
このガスラインに直接調整弁を付ける方法です。
プロセスの圧力計の指示値を拾って、調整弁の開度を調整することで、圧力調整を行います。
圧力指示値が設定値よりも低い → 調整弁を開けて吸引ガス量を増やし到達圧を下げる
という制御になります。
この方式のメリットは以下の通りです。
プロセス以外の流体が系内に入らない
これだけだと良く分からないと思います。
簡単に言うとあまりメリットがないということになります。
デメリットは以下の通りです。
負荷が減少したときなど調整弁の開度調整範囲を越えると制御が難しい
調整弁が大型になる
中でも調整弁が大型になるという問題は致命的です。
真空度が高いほど、吸い込みガスの体積は増えるので、配管口径は大きくしないといけないのに、調整弁は大きなサイズだとコストが跳ね上がります。
かつ圧力調整範囲を決めるにあたって、配管圧損とのバランスをちゃんととる必要があり、制御は難しい側になります。
シンプルな制御法に見えますが、実際には難しいという化学プラントの典型例のようなパターンです。
空気を取り入れる
2つ目の方法は空気を取り入れる方法です。
ガスラインを二股に分岐させて、大気である空気を真空ポンプに取り入れます。
この空気の取入れ量を変えることで圧力調整をします。
圧力指示値が設定値よりも低い → 調整弁を開けて吸引ガス量を増やし到達圧を下げる
という制御になります。
制御方法自体は1つ目の方法と変わりありません。
この方法のメリットは以下が挙げられます。
調整弁が小型で済む
デメリットは以下の通りです。
異物が混入する可能性がある。
爆発性雰囲気を形成する恐れがある。
取り込む空気は大気圧であるため、取り入れる空気体積は吸引ガス体積よりも遥かに小さくなり、取り込みラインの配管口径は小さくすることが可能です。
自動的に調整弁を小さくすることが可能です。
一方で、空気そのものを取り入れるので異物が侵入してきて真空ポンプを詰まらせたり、可燃性ガスと混合することで爆発性雰囲気を系内で形成する可能性があります。
空気を取り入れずに、窒素でカバーする方法もあります。
窒素の消費量が上がってくるので、窒素と空気を上手いことバランスさせたり、全部を空気で賄えないか検討が必要になります。
バイパスする
最後の方法はバイパスです。
高真空向けです。
この方法は高真空向けにブースターポンプやスチームエゼクタを、真空ポンプの前段に付ける場合に考えます。
高真空で使う生産品目と低真空で使う生産品目を、同じラインで使う場合によく使います。
低真空の場合はブースターポンプを使わない方がむしろ良いので、バイパスに自動弁を付けて自動弁を開けた状態で真空ポンプを動かします。
こうするとブースターポンプ側は圧損が高くなるので、ガスがほとんど流れずにバイパス側だけに流れていくことになります。
この例だとプロセスの圧力計の指示値でバイパスのon-offをさせる制御となります。
高真空で使うプロセスで、起動直後(停止直前)はバイパスさせて、運転圧力に近づいたときバイパスを閉めてブースターポンプを動かすというシーケンスも可能です。
2の空気取り入れと組み合わせることもあります。
スチームエゼクタの場合はスチームの入り切りにも自動弁が必要になるので、注意しましょう。
ブースターポンプだと通常は1段だけですが、スチームエゼクタだと複数段を直列に並べることも珍しくありません。
スチームエゼクタが複数個ある場合は、自動弁も複数個となります。
高真空向け
参考
プロセス制御と言えばPIDと言われるくらい、PIDは基本的な知識です。
以下のような本で基本は最初に学んでおいた方が良いです。
制御の知識がないけども、運転でどういうことをするか?ということを知る場合には、本記事のようなアプローチの方が分かりやすいと思います。
関連記事
真空ポンプについてさらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
真空ポンプ系の運転調整方法を簡単に解説しました。
ガスラインに直接調整弁を付ける方法、空気を取り入れる方法、バイパスさせる方法です。
調整弁が大きくなることを避けるために空気を取り入れる方法がよく使われます。
高真空になるとバイパスも一般的に使います。
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