仕事を抱え込む(hold on to work)エンジニアについて思うことを述べます。
オーナーエンジニアは仕事を抱え込みがちだと思っています。
残業が常態化しているのは、化学会社に限った話ではないでしょう。
残業することは仕方のないことだ、なんて諦めている人も多いでしょう。
個人レベル・担当者レベルではこういう思想になりがちですが、組織全体で見るとデメリットの方がお良いです。
担当者が抱え込んでしまうことについて考えてみます。
仕事を抱え込む(hold on to work)背景
化学プラントの機電系エンジニアが「抱え込む」背景について解説します。
化学プラントの機電系エンジニアは、技術系の職場の中でもでも特に「抱え込む」傾向が強いと思っています。
機電系エンジニアや設備保全は一匹狼だから自分の好きなようにしたい、という風潮は一昔前では常識でした。
今でも色濃く残っている職場はあるでしょう。
それで生産性が上がっているわけではありませんが・・・。
会社としていろいろなコストを増やす方向になします。
会社からは残業をするエンジニアは、残業代を当てにして生活設計をしていると言われても仕方がありませんね。
そういう腹黒さの側面もあるのですが、もっと純粋な想いで「抱え込む」エンジニアもいます。
相談する環境が少ない
化学プラントの機械エンジニアは自分で抱え込む癖が強いです。
本人は責任感があると思い込んでいるのでしょう。
自分の仕事だから自分で解決する、という類です。
これが、仕事に対して無責任な対応をしていることに、本人はなかなか気が付きません。
特に機械エンジニアが自分で仕事を抱え込むのは、相談する環境が少ないから。
(周りの人に聞きにくい・・・)
組織構成が少数のライン構成になっていて、周りに相談しにくい環境にあります。
議論をする環境が少なく、議論を聞く環境もない。
行き当たりばったりで、手探り状態で仕事をしていくことが多いです。
一方、製造部の新人を見ていると、成長速度は非常に速いです。
これは日常的に議論をしたり議論を聞いたりする機会が多いからという面はあるでしょう。
面倒見がいい人がいっぱいいるかどうか、これは仕事の環境が成長速度に直結しますね。
組織に長いこといる立場から見ると、新人の積極性という見方をします。
一方で、新人の立場からすると、受け入れてもらえるかということが大事になっているようです。雑談レベルでも日々声をかけてもらえる、進捗も上司から確認してもらえる・・・という受け身思考の人が増えている以上、受入環境の構築をして職場に慣れてもらう時間が1年や2年というオーダーで必要になっています。そこから自立性の構築というプロセスに移ります。そうしている間に、製造部などでは自律性が身についていくので、成長速度に差が出るのは当然でしょう。
じっくり考えたい
機電系エンジニアは「じっくり考えたい」という特徴があります。
理系の人なら多かれ少なかれ当てはまるでしょう。
しっかりお勉強をした人ほどこの傾向が強いです。
完成系を提出したい
大学や大学院でじっくり考えて取り組んだ癖が、社会人になってすぐには抜けません。
これが「抱え込む」エンジニアを生む要因になります。
特定の社員はじっくり考えて質の高い答えを出すのが自分の強みと思ってしまいます。
エンジニアリングでは複雑な計算を行って最適な解を見出すものだ、っていう誤解があるのかも知れませんね。
手計算で検討できる世界と計算ソフトを使う世界との境目がどこにあるのか、入社するまでは考えないかも知れません。
業界に依存する部分がありますからね。
P&IDを元にプロセス解析をソフトで行うのか、部分的に手計算で行って良しとするのか。
バッチと連続でも大きな違いがあります。
ソフトを使うにしろ手計算を行うにしろ物理的な解釈を理解していないといけないので、ここをじっくり考えて理解したいとエンジニアは思ってしまいます。
ところが化学工学の場合、力学などに比べて物理的解釈に重きを置きません。
物理的な解釈をしなくていいなら、じっくり考える要素は少ないはずです。
そこに気が付かずに、じっくり考えてしまうのが初学者であって・・・。
私も含めて機電系若手にありがちです。
個人的には、教育の問題につながる根深い問題だと思っています。
何から手を付けて良いか分からない
機電系エンジニアが行う機器設計は、何から手を付けて良いか分からない状態に陥いります。
これは機械工学を学んだエンジニアが、化学工学という未知の分野に飛び込んでいることが理由として挙げられがちです。
- 機器設計って何からやればいいのだろう?
- この機器の原理が良く分からない
- 考え方がとにかく分からない
半ば混乱状態に陥ります。
だから「後回し」にしてしまいます。抱え込みですね。
この思いは分かりますが、かなり自己中心的な発想だと個人的には思います。
畑違いの業界に飛び込んだのだから、分からないことが多いのは当然。化学プラントでは分からないことを良しとする風潮はなく、とにかく聞きまわるのが新人の仕事。
これを放棄していることになりますからね。
頭では理解していても行動できないかもしれません。
しかし、行動していないと常態化してますます行動できなくなります。
○年も経ったのに、こんなことも知らないの?って言われることは間違いないですからね。
人から指摘されたくない
機電系エンジニアは、人から指摘されることを避ける傾向にあります。
大なり小なり誰にも当てはまりますが・・・。
畑違いの会社に就き、分からないことだらけのはずなのに、自分の考えだけで物事を動かしたいっていうワガママは出てきてしまいます。
メーカーとメールでやり取りしているのに、CCに上司を入れずに、不利な決定がいつの間にか進んでいた、なんていう例は機電系エンジニアにありがちな展開。
会社に実害を及ぼしています。
これを起こす機電系エンジニアに原因を聞いてみると、「忘れていました」というような無責任な回答しか返ってきません。
指摘してすぐの時は上司をCCに入れますが、一時するとまた忘れていきます。
自分の仕事を変えたくないのでしょうか。無意識でしょうか。
それもありますが、「指摘されたくない」という想いの方が強いと思います。
- 化学プラントという分からないことだらけの職場で、人から色々教わったのだから、自分の考えで仕事を勧めたい。
- 指摘されるのがそもそも怖い。
自分中心のロジックを働かせてしまいます。
これって本当に会社にとっては有害。
コスト的なデメリットがあるだけならまだしも、工場で災害を起こすリスクを高めるかもしれませんからね。
製造部で作業する人が被害を受けたり、工事会社がしんどい作業をしなければいけなかったり
自分の仕事の成果が周囲にどういう影響を与えるかを想像できていない若手のころは、とにかく自己中心に陥りがちです。
仕事を抱え込む(hold on to work)ことのデメリット
化学プラントの製造現場では、「分からないことはとにかく相談!」と言われます。
これは本来はいろんなビジネスに適用すること。
特に化学プラントの製造現場では、相談しないことの弊害が大きいから、こんなことを言われます。
製造現場の計器室には「分からないことは相談!」というような掲示がされている場合もあります。
結構、徹底しています。
一方で、エンジニアにはそんな危機感はありませんね。
だからこそ、自分で抱え込んでしまうエンジニアが大量発生しています。
その結果、起こるデメリットを紹介します。
間違えると大災害
化学プラントの製造現場で間違えると大災害に繋がります。
バルブ一つ開けるか占めるか、どこのバルブを開けるか、だけでも大きな問題になります。
だからこそ指示があいまいであってはいけません。
受け取った指示をあいまいに理解していてはいけません。
プロジェクトの議論段階では製造部の人間も、政治的な表現であったり定性的な表現であったりしがちですが、
いざ現場になるとそうはいきません。
極めて具体的な表現を使います。
ポンプ111のヘッダーの自動弁1234を開けるという感じですね。
これは実は、製造現場に限らず有用な方法です。
エンジニアリングでも論理を構成するためには、シンプルな表現で骨子を練って枝葉をくみ上げていきます。
エンジニアリングの失敗はそのまま運転の失敗に繋がり、大災害に至ります。
こういう思想が身に付けば、自ずと相談しそうなもの。
相談しないということは災害に対する感度が低い証拠。
独断で行動する
化学プラントの機械エンジニアは独断で行動しがちです。
この傾向は、一般的に若手に多いです。
- 製造部・保全・協力会社は機械エンジニアを専門家として見ている
- 図面屋は機械エンジニアの言うことにほぼ従う
こんな環境にいると、「素人の機械エンジニア」であっても、その発言が絶対的に正しいという共通認識を取られがちです。
自分の判断が間違っていたり、遠回りだったりすることすら気が付かずに。
担当者と打ち合わせをして決めました!といって報告内容や図面を見てみると、めちゃくちゃ。
やり直しをするために時間が掛かり、残業。
個人差がありますが、独断で進める人ほど残業していますね。
これは「劣等感」から来ていると思います。
化学という分野で機械屋が知らないことの方が多いのが普通なのですが、
ここに劣等感を持っているのか、分からないことを聞こうとしません。調べる手段が少ないです。
社内イントラを検索して見つからなかったら終わり。こんな感じの若手エンジニアが急増しています。
インターネットもそうですが、社内イントラが完全に整備されていると思い込んでいます。
ここに関してだけは、ネットでパソコンで何でもあるという環境で育ったために、甘えていると解釈しています。
情報の検索方法がネットだけなのか?という問題ですね。
- カタログを調べる
- 過去の記録書を調べる
- 紙の基準を調べる
- 周りの知ってそうな人に聞く
パット想いつくこれらの手段を取ろうとしません。かなり不思議なことです。
特に「周りに聞く」ということをためらう人が多いです。
その結果、無駄に時間を掛けてしまっていることに気が付かずに・・。
時間とコストの無駄
化学プラントの製造現場で間違えると「時間とコスト」を無駄にします。
時間は作業を開始するまでの時間だけでなく、失敗をした後のリカバリーに掛かる時間も含みます。
1つ失敗したらその影響が2週間後に出てくるかもしれませんからね
1つ失敗したら工程を止めて、製造設備全体を洗浄しないといけない場合もあります。
この場合、時間以外にコストも掛かります。
生産機会の損失のコストだけでなく、余分な洗浄費用や廃棄費用なども含みます
これが「分からないことを放置して作業した結果」であるケースが多いのが、化学プラントの製造現場。
バルブ作業1つで失敗しますからね・・・。
プロジェクトの質が下がる
化学プラントのエンジニアリングにおいて「抱え込む」ことはプロジェクトの質を低下させることに直結します。
プロジェクトの成果として以下のような要素がありますが、その質が下がっていきます。
- 資器材の納期が遅れ工事時期が遅れる
- 工事資料の質が低下し「やり直し工事」の増加
- 資器材や工事費用がアップしてプロジェクト予算超過
- 生産時にトラブル続出
プロジェクトという狭い視点で見ると、建設完了やメカコンにおいて評価をすれば良いでしょう。
一方でプラントのライフサイクルを俯瞰した製品導入や合理化という側面を考えた場合、建設以降も改造工事を繰り返すために「製品に対する正味の投資」はかなり判断がしにくいです。
建設段階では予算の都合があって我慢して使うけどもやっぱり改造が必要だとなった場合は、この改造は本来は必要だったコストのはずです。
建設段階でのエンジニアリングの質が下がるということは、後々まで影響がでる可能性があるということ。
だからこそエンジニアはプロジェクトでできる限りのことをしないといけないのですが、このバランス感覚は結構微妙なもの。
プロジェクトのどこかのタイミングで諦めて建設を完了させ、次回のSDMで合理化改造をすると割り切らないと現実的には対応できません。
エンジニアの気概として、プロジェクトで一気に100%のものを仕上げて試運転で不具合がでないようにしたいですけどね…。
成長の機会が削がれる
分からないことを相談しないと、成長の機会を削がれます。
分からないことを理解しなくても物事が何となく進んでしまったのですからね。
分からなくてもいいやわざわざ聞かなくてもいいや、っていう意欲の低さに繋がっていきます。
「分からないことを相談する」というとき、何が分からないか自分の頭で考えて、思考を整理しないと相談できませんね。
相談するという段階で、積極的な姿勢を伺え成長も期待できます。
逆に相談しない人は、消極的な姿勢と言えますね。
仕事を抱え込む(hold on to work)ことを防ぐには?
「抱え込む」ことの背景は、大きく分けて「環境」と「個人」の問題になります。
「個人」 を変えるのは相当難しく、新入社員のころにどういう指導をするかという部分が大きくなります。
そこを考える場合、担当者ではなくて指導者側の問題を考えることになり、結局は「環境」の要素の方が変えやすく効果的。
「環境」といっても所詮は人と人の問題。
「環境」を構成する人の背景を考察して、反面教師的な取り組みをするのが現実的な取り組みでしょう。
指導者側の発想
一昔前の指導者側の発想はこんな感じです。
- 部下は上司に戦いを仕掛けるものだ
- 上司に言い負かされたら、再度チャレンジして欲しい
こういうことを真剣に考えて、徹底的に部下を潰す人が何人もいます。
バブル前後の社員にこの傾向は強い。
部下はというと言い負かされていくと、惨めな気持ちになっていきます。
そこをフォローできる人がどうかだけが、この世代で評判を分ける差だと思っています。
彼らは、会社の存続や安全を真剣に考えているからです。
その分だけ若手へのケアが疎かに。
大企業病ともいえるでしょうが、日本全体がこんな感じですよね。
若手の発想
若手は自身の成長・やりがい・働きやすさなどを重視します。
機電系エンジニアの場合、化学プラントの技術的な知識を伝えると若手は結構喜びます。
これは成長を実感できるから。
ところが、プロジェクトを進める上での注意点や仕事の仕方を指導すると、落ち込みます。
プレッシャーを感じやすい内容で、やりがいよりも責任感を感じやすいから。
働きやすさは確かに大事です。
対立要素としての働きやすさ
働きやすさが、指導者と若手の対立要素だと私は思っています。
- 働きにくい環境には若手が応募してこずに、近い将来に会社が潰れる。
- 働きやすい環境にするために会社が変われば、技術力が低下して競争力が無くなる。
こんな発想が指導者と若手の間にあります。
どちらが正しいか答えはすぐには出てきません。
若手が来ないと会社が潰れるというのは目に見えていますが、それがどれくらいの期間掛かるかということが不明。
会社が変わった結果、プラスに作用するものが何なのか不明。
会社を潰して新たに立ち上げた方が良いというのは暴論ですが、新人が辞めたら中途入社を募集すれば言うのも暴論。
ソフトランディングするべきでしょう。
現在は指導者側がだいぶ歩む寄っている感があるのが現状でしょう。
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最後に
化学プラントの機電系エンジニアが「抱え込む」ことについて解説しました。
相談する環境のなさ・思考の癖・思考範囲の広さ・指摘を恐れるという高学歴・異分野と関連付いた要素から「抱え込み」が起きやすくなります。
その結果、災害が起きたり時間やコストを浪費したり成長機会を削いだりします。
指導者・若手のどちらもが働きやすさを考えて歩み寄るべきでしょう。
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