化学プラントの設備について、SV(supervisor)の要請をすることがあるでしょう。
SVはプラントの保全に欠かせない存在です。
オーナーの設備保全エンジニアはいろいろと苦労をします。
上手く活用することでプラントの保全レベルは劇的にアップするでしょう。
ユーザー目線でのSVに関する話をまとめてみました。
SVの背景
SVのニーズの前に背景的な部分をちょっと解説します。
お医者さん
化学プラントの設備向けのSVはお医者さんという貴重な対応をします。
敬語とか応対とかいうレベルでは感じないかも知れませんが、社内調整上は完全にお医者さんです。
○○機械のオーバーホールは今年のSDMで行うから、SVの手配を依頼しておきましょう。
という話題は社内ではごく普通に起こります。
構内にメンテナンス会社を抱えていたとしても、冷凍機などのような特殊機械はメーカーの専門家に依頼しないといけません。
工場の規模や場所によってどの機械までSVを依頼するかは変わってきます。
今回は典型例として冷凍機をターゲットにします。
メーカーの中では・・・
設備メーカーでSVという職種があるように錯覚するエンジニアは多いです。
結論から言うとそんな職はありません。製造現場の人がそのままSVとなります。
これは設備メーカーを冷静に見たことが無いから。
メーカーはちゃんとしていて何でもしてくれるだろいうという神格化すらしています。
学校に対するクレーマーと似た発想です。
設備メーカーが中小企業で、50人も居ないという現実に気が付きません。
人数が少ない設備メーカーは、手に職を持てる技術者の数も少ないです。
SVという専門家を持つ余裕がなく、
- SV要請がない時は全員が自社ラインで作業
- SV要請があると出張ベースで派遣
という対応をしています。
運が悪いと各地を転々としてSVをして、自分の家に1か月以上戻れなかったなんて例も普通にあります。
これが良いこととは決して思えませんが、宿命ですよね。
事業所の数が多いかどうかも1つのポイント。
東京と大阪の近辺には技術者を常駐させているけど、東北・中部・中国・九州あたりには事業所が無いというケースは結構あります。
何となく大阪だけに工場があるという会社が多いイメージ。
ということはSVは大阪から日本各地もしくは世界各地に移動することになります。
これだけで移動コストと時間がかかるということは認識しておきましょう。
コストは言い値
SV派遣のコストは言い値で決まります。
調達部がどれだけ努力しても効果は低いです。
高いのが嫌なら工場を止めたらどうですか?
とメーカーから言われるのが落ちですから。
SVの費用としては高くても我慢せざるを得ません。
だからといって、メーカーが言い値を吊り上げすぎても問題です。
そのうち別の設備に交換されてSVの仕事自体が無くなるでしょう。
近年コストが急激に上がっていますが、計画修繕費を上げることは会社が許さないかも知れません。
この場合、点検や修理項目を徹底して絞ることになります。
メンテナンスしていない部分が運転中に急に壊れたというリスクを抱えることになります。
このリスク評価を適正にするのは保全の仕事と言えますが、実際には難しいでしょうね。
応急補修
冷凍機が急に壊れたのでSVを派遣してもらうということはごく日常的にあります。
いや、ごく日常的に冷凍機が故障してもらったら非常に困りますが・・・。
SVがいつ派遣可能かだけで生産再開が決まってしまうリスクを抱えます。
先の大阪から日本各地という例だけでも、時間がかかることは予想できます。
自社の作業ラインを止めてまでSVを派遣できるか(協力してくれるか)どうかという点もポイント。
ユーザーの作業安全基準が高すぎて経験のあるSVでないと対応できない状態なら、応急補修のSVが遅れる可能性は容易に想像できます。
オーバーホール
オーバーホールも応急補修に次いでSVは信頼されています。
定期修理で設備の健全性を確認できる唯一の機械ですから。
応急処置に比べると相当計画的に業務ができます。
というより計画的にしなければいけません。
中長期的なプランニングをする保全の仕事そのものですからね。
メーカー側の都合で、実作業より数か月以上前から計画しないと対応できません。
ここだけ見ると重役クラスの予約と大差ないレベル。
長年対応してもらっている会社なら、SVの経験年数やスキルも話題になりがちです。
Aさんなら安心!Bさんは不安。Cさん・・・新人かな?
こういう目で見ながら、長期的にお付き合いをすることを考えて新人教育の場としても活用してもらおうと考えます。
試運転
新規設備導入時の試運転にSVを養成することがあります。
実液運転ではなく空運転なので、単体試運転なんて言い方もします。
ここではSVにはほとんど期待できません。
納入前の検査時と変わりない性能かどうかを確認するだけの目的です。
工事段階で大きなトラブルがなかったかどうか。
その担保を取るためだけ。
試運転のSVに必要な技能としてはとても低いです。
初心者で独り立ちするくらいの人が派遣されることもあります
説明書を見ながら作業をする事務系職員が派遣されることも。
質問しても頓珍漢な内容ばかり。
ただ立っているだけで、問題なし!ヨシ!とだけ言ってくれるだけで十分でしょう。
それが実態です。
検査
運転時に気になるからちょっと見に来て欲しいという検査依頼をするケースがあります。
この場合、費用が発生するだけで何も成果が得られなかったというケースがありがちです。
- 運転中であって分解できないから断定できない
- メーカーの基準値としては問題ない
- あと何か月持つか保証できない
こういう曖昧な答えが返ってくるだけです。
それはまた当然でしょう。
運転時検査で断定しようとすることは、非破壊検査の類で外からちょっと見ただけで全てを分かる超能力者的な能力を期待することになります。
お医者さんでもそんなことはできますか?と。
漫画やドラマの世界を現実に持ち込んではいけませんよ。
「運転が止まったらどうするのだ!保全はちゃんとしろ!」と責任を押し付けても無駄ですよ。
そこまで日常管理や情報をチェックしてこなかったのは製造部でしょ。
歯磨きをサボっていて虫歯になったからすぐに直してほしいというのと大差ない発想ですよ。
なお、こんな言い方をしたら「何を見たらいいのか分からない!教育しろ!何なら保全がパトロールしろ!」なんて言い出しかねません。
特に最後のは「私の歯磨きをあなたがやってくださいね」という狂った発想。
初めて扱う機械なら教育は大事ですが、過去何十年と使っている冷凍機でそれを言われても・・・。
勉強していないだけでしょと。
技術を見て盗む
さて設備保全エンジニアはSVに任せたときに現場でどういう対応をしているでしょう?
ぼーっと眺めているだけでは何の意味もありませんね。
壊れていたり重要な部分は少なくとも理解しましょう。
それだけで十分ですか?
機械の構造・作業方法・作業の考え方・・・
いろいろなことを直接SVに聞けるチャンスです。
機械技術者として設計者よりも遥かに勉強ができる現場がそこにはあります。
SV派遣時には他の作業は後回しにして、最優先で現場に行きましょう。
担当範囲が多くなると、そのうち現場に行く機会は少なくなってきますので。。。
参考
関連記事
関連する情報として保全の仕事を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントの設備向けのSVについて紹介しました。
応急補修・オーバーホール・検査
応急補修は人間の緊急手術・オーバーホールは定期健康診断・SVは窓口の雑談
SVに見てもらったから安心、というのは病院に行ったから安心と同レベルの内容です。
妄信しすぎないようにしましょうね。
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