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日本製鉄のシアン流出事案を自分なりに考える

シアン流出 運転
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日本製鉄のシアン流出事案の報告書を見た感想です。

シアンという人体に非常に有害な物質が漏れたこの事案、個人的にかなりショックでした。

マゼンタ・イエローなどの色の名前でシアンという名を認識している人も居ますが、青酸カリなどのシアン化合物と結びついている人が意外と少ないかもしれません。

この事案で実際に起こったことを、私の経験と比べて感想を述べていきたいと思います。

「ずさん」と言わざるを得ないですが、このリスクはどこの会社でも徐々に高くなっている状況でしょう。

日本は危険な物を外部に出さない。心配ない。と言い切れなくなってきて、

どこで起こってもおかしくないという不安が強くなってきています。

一連の事案の原因として考えられるものを、順番に考えていきましょう。個別の事案に対する検討は省略します。

① 有害物質に関するずさんなリスク管理など、不十分な環境保全対策

脱硫液タンクのマンホール防食措置に係る不備

脱硫液タンク側面のマンホール蓋に関する対策です。

防食措置の不備として取り上げられていますが、ここには分かりやすい問題がいくつもあります。

  1. マンホールからにじみがあったが、カバーを付けただけ
  2. 防油堤の大きさが小さい?
  3. 防食措置が取られていなかった

1はとりあえず×です。

にじみがある瞬間にリスクは高くなるので、どこかで運転を止めて補修しないといけません。

タンクを増設する、仮設するなどの対応を取る時間は十分にありました。

10数基似たタンクがあるようなので、もしかしたらもともとバッファタンクはあったかもしれませんね。

なぜ使われなかったのか疑問ですが・・・。

これだけでも、言い訳ができないミスです。

2の防油堤の大きさが小さく、漏れが起きたら防油堤からオーバーフローするのも、本来は×です。

危険物でなく漏れても影響のない液なら防油堤の大きさは小さくても問題ないですが、脱硫液の性質は分からないもののおそらくNGでしょう。

防油堤をしっかりした大きさに保つことは大事です。」

3の防食措置は対策として思いつきますし、取った方が良いでしょう。×です。

マンホール以外に問題がなかったということは、設計の問題である可能性が高いです。

それを防食措置でカバーしているように見えます。

それ以上に大事なことは、適切なメンテナンスです

防食措置を取っていても居なくても、外観検査を定期的に行って傾向監視をして、寿命が来る前に修理や交換を計画しないといけません。

これこそ保全エンジニアの出番。

少なくともマンホールに異常がある瞬間に、定期的な状態監視が必要な状態だったのに、カバーをしていたということは、メンテを放棄していたということです。きっと。

事実を正確に把握せず推論のみに基づく漫然とした対応

マンホールの防食措置は不要、交換は不要、排水経路は問題ない、脱硫液にはシアンはない。という推論(希望的観測)で対応しているとの内容があります。

これは非常に根深い問題として×です。

設備のマンホールだけに関してなら、その会社が保全を軽視していたという言い訳も辛うじて可能です。

プラントエンジニアとしては存在を否定されるような表現で、個人的には嫌ですが・・・。

それ以上に、排水経路や内容物に対する理解を、分析してファクトベースで対応しなかった点は、組織文化としてかなり問題です。

この件に限らず、日常運転での工程分析やちょっとした異常時の分析も、ずさんだったのでは?と勘ぐってしまいます。

ここは、どこの会社でも近年起こりえることだと思っています。

製造の体制が大きく変わってケアする範囲が広く、問題が起きたときにちゃんとした対応が取れない状況になっていても不思議ではありません

根深い問題です。

長期にわたるシアンの排水基準の超過

オーバーフローしていることや、シアンの排水基準をたびたび超過していたことは、極めて大きな問題です。

一回でも問題が起きれば、本質的な対策を取ろうとするのが普通。

シアン出なくても排水基準を逸脱した瞬間に、徹底した対策が必要です。

良い会社なら、その基準よりも厳しめの自主基準を持っておき、そこに到達する前に危険信号を発信することで、対応をしようとします。

この会社の対応を見ていると、そういう仕組みがなかったか、あっても形骸化していたということでしょう。

シアンに対してそういう理解をしていることは、とても残念です。

② コンプライアンス意識の欠如、法律などの認識不足

法の届出内容と異なる別系統への送水を無届で長年継続

別系統の排水に流すこと自体が、化学プラントでは超重要問題になります。

一発で操業停止になり、厳重な処罰がされます。

届出の有り無し関係ありません。

届出をする状態なら、しっかりした分析ができて、排水系統の変更をしても問題ないという見当がされているはずです。

そういう意識があれば、常時モニタリングをしたり異常時に運転を止めたり対策を取ろうとするはずです。

仮に1回はそういうことが起こったとしても、すぐに対策を取ります。

シアンが入っているとなれば、もっと厳しい対策を取ります。

排水に関する意識が不足しているといわれても、仕方ないでしょう。

長期にわたる水質測定結果の不適切な取扱い

シアン排出基準と同じ話で×です。

1日に複数回の測定をして低い数値だけを報告していた、という点は非常に根深いです。

問題はとっくにわかっていたけど、報告もできずに現状維持しているうちに、担当がどんどん移動していき、誰がくじを引くかという問題に。

よくあることと言えばその通りですが、シアンでこの対応をしてしまっていることは、非常に残念です。

どこの会社でも、最近のプラントの劣化を見ていると、大なり小なり同じ発想をしているでしょう。

だからこそ、不安になっていきます。

③ 組織内外の連携不足と環境マネジメントシステムの機能不全

上司・他部門・役員等とのリスク共有の不備

問題が起きたときに必ず言われる組織の問題です。

  • リスクを適切に説明できない担当
  • リスクを聞きたくない上司や役員
  • 設備や保全に投資しない体制

リスクを説明することすらNGという会社は、どこも同じような問題に合うでしょう。

仮にリスクを説明しても、対応を取れるかどうかは限らず、問題が起きたときに責任を取らないといけない経営層は非常につらいです。

給料に見合った辛さではないですね。

とはいえ、リスクを社内でオープンにするかことは、組織として大事なことです。

水質測定に係る組織業務体制の問題

異常時の測定結果が適切な部署に共有されていなかったという問題です。

これは、組織の文化と同じレベルの課題です。

書類のフォーマットを見直してどうにかなるかと言われると疑問です。

結局は、紙の送付を忘れたら終わりですので。

オンラインシステムなどの人が介在しないで、連絡が行く仕組みを作らないと安心感はでません。

マニュアルと教育では不十分でしょう。

参考

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最後に

日本製鉄のシアン流出事案を自分なりに考えました。

マンホールの話など、化学プラントの設備管理にも当てはまる問題もあります。

それ以上に、組織の文化的な根深い問題の方が多いですが、この問題は他人ごとではありません。

今後ますます増えていく方向にしかならないと思っています。

メンテナンスは超重要です。

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